表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

第5話 今のって……先輩の声なんじゃ?

 月日はめぐり、バレンタインの季節になっていた。無論、俺には縁のない行事だ。

 2月の中旬、その放課後だ。

 俺がこっちにきたのが、7月のことなので、あれから、半年以上が経過したことになる。

 クラスはまだ変わっていない。

 こっちの学園も、始業式は4月にあるからだ。


(……だが、あともう少し)


 3月になれば、すぐに春休みがはじまるので、それがおわるともう新学期だ。だから、地獄の日々も、残すところ20日を切った。

 ようやくだ。

 俺はこの生き地獄を、がんばって耐え抜いたのだ。

 現実は何も変わっていないし、俺は、弱くてダメな人間のままだったが、それでも今は……今だけは、自分自身を褒めてやりたい、そんな気分だった。




「な~に、たそがれてんの?」




 そう言って、頭を優しくはたいたのは、一つ上の先輩。

 爽夜(さわや)先輩だ。

 だれにでも、分け隔てなく接してくれる先輩は、たまにこうして、俺の話し相手にもなってくれた。もちろん、俺に気を遣って、いじめっ子たちがいないときを、見計らってのことだ。




「い……え。なんでも……ないです」




 それが、俺にはたまらなくうれしかった。

 たぶん、俺が復活前の自分みたいに、屋上から身投げせずに済んだのは、実際のところ、先輩の存在が、とても大きかったのだと思う。

 さすがに、期限つきとはいえ、孤独に地獄を耐え抜けるほど、俺も強くはないからだ。




「もうすぐクラス替えじゃん、よかったね」

「……」




 理由はあえて言わない。先輩なりの優しさなのだろう。

 俺も何も言わず、自然とこぼれそうになる、複雑な涙をこらえながら、幾度も首を縦に振った。何度も同じことをしたって、進級のときが、近づいてきてくれるわけでもないのに、俺はバカみたいにくり返し、うなずいた。

 しばし、無言の時が、俺たちの間を優しく流れていく。




「そろそろ、帰ろっかな。じゃあね!」




 言って、先輩は俺に手を振りながら、校門のほうへと駆けていく。

 あの性格だ。

 きっと、大勢の人から、好かれていることだろう。

 俺はそれを、花壇の横で、地面に座りながら、目に焼きつけるように、ただじっと眺めていた。


(そういえば、元の世界にも一人だけ、たまにあいさつしてくれた子がいたっけ……)


 名前はなんだったか。いまひとつ思いだせない。

 でも、すごくいい人だったことだけは、ちゃんと覚えている。

 世の中にいるだれかが、どうせ幸せになるのであれば、それは、こういう人たちであってほしい。爽夜(さわや)先輩のような人たちこそが、幸せにならないといけないんだ。


(さて……変なのにからまれる前に、俺も帰るか)


 そう思い、にわかに立ちあがったところで、悲鳴を聞いた。




「やめて、やめてってば! 離して……ねえ、だれか!」




 ぽかんとした。

 何が起きているのか、しばらくはわからなかった。頭が、理解するのを拒んでいたのだ。

 それは聞き間違いなぞでは、決してない。


(今のって……先輩の声なんじゃ?)


 自分のカバンなぞ投げ捨て、俺は夢中で、校門に向かって駆けだしていた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ