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第1話 なんだよそれ……!? それって、つまり、何も変わってねえってことじゃん!

 ドカ、ボコッ。


(なんだこれ)


 体育座りの俺。


(なんだこれ、なんだこれ――なんだこれ!)


 手の位置は頭を守るように、膝よりも上にあるのだから、これは、尻もちをついていると言ったほうが、正確なのかもしれない。


(全身が痛い!)


 重たい何かが、上下左右を問わず、俺の体にぶつかってくる。

 ぎゅっとつぶっていた瞼を、おそるおそるに持ちあげてみれば、両手の隙間から、かろうじて人の足が見えた。


(あたってるのは……拳? 俺は今、だれかに殴られてるのか!?)


 どういう状況なのか、まるでわからなかった。

 気がついたと思ったら、こんなありさまだったのだ。俺じゃなくたって、意味がわからなくて、当たり前だと思う。




「マコトぉおおお。地蔵になってんじゃねえよ!」




 俺を殴っている人物の、声なのだろうか? 粘っこい声音が、俺の耳にまとわりついた。


(マコトって、俺の名前だったっけ……?)


 いまいち、呼ばれ慣れない名前だ。

 一瞬、そのことに意識を割かれれば、だれかの蹴りが俺に命中していた。つま先が、両手の隙間を縫うようにして、入ってきていたのだ。




「――げほっ、ごへぁ」




 胸にあたって、呼吸が止まる。途端に、肺の使い方を、忘れてしまったかのように、うまく息を吸いこめなくなった。口から無闇に吐きだす息は、泡を含んだヨダレまみれで、懸命に呼吸をしているというより、汚らしく、唾を撒きちらしているだけだった。


(なんなんだよ……。いったい、俺が何をしたって言うんだよ!)


 不満の声をあげたくなるが、もちろん実際には、そんなことはできない。それどころか、怖くて、相手の顔もまともに見られないのが、厳然たる現実だ。

 情けないが……それが俺だ。




『どうやら、気がついたみたいだね』




 急に声がした。この場にいる人間の声じゃない。

 響き方だとか、そういった小難しいことは、バカな俺にはわからない。だけど……そう、頭に直接響いてくるような声だった。

 それどころか、とても恐ろしいことだが、姿のイメージさえ、俺の頭には、まざまざと浮かんできていた。純白と漆黒。二つの翼を持った、天使みたいな何かだ。


(何者だ……)




『俺が何者かだなんて、そんなことはどうでもいいだろう?』

「ひっ!」




 心のつぶやきが、難なく聞こえたことに驚けば、そんな俺の反応が面白かったのか、人間の笑い声が聞こえた。たぶん、俺を殴っていたやつのものだろう。




「『ひっ!』だってよ。クソだせぇwww」




 お前に言ったわけじゃない。そう思いはするものの、俺は何もできない。

 当たり前だ。

 喧嘩なんかしたことがないし、わざわざしてみなくたって、自分が弱いことくらい、嫌というほどに知っている。運動はダメ、勉強もダメ、もちろん顔も問題外。生まれてこのかた、恋人なんていた試しがないし、だれかから明確な好意を、向けられたことさえない。おまけに、これだけは――という熱中できるものもなかった俺は、オタクにさえなれなかった。そういう人間が、俺だ。

 要するに、どうしようもないろくでなしだ。


(……そうだよ。俺は、そんなろくでもなしだったからこそ――)


 親ガチャに失敗した! なんて、いっちょ前にカッコいいことを言って、学校の階段をあがったんだ。そうして、屋上に出た。

 ……来世には、人並み以上には期待していた。でも、本当に死ぬ覚悟なんてなかった。

 だから、あのときも、屋上から下を覗いてみるだけで、それで満足して帰ろうと思っていた。そこから飛び降りようだなんて、これっぽっちも考えていなかったんだ。


(……なのに、俺はそこで足を滑らせたんだ)


 結果は、言わずもがな。ふいに、あの高さから落ちたのだから、たぶん死んだのだろう。


(……運までねえって、どんだけだよ。どうなってんだよ、俺の人生。恨むぜ、神様)


 それなのに……。そのはずだというのに、どうして、俺はまだ生きているんだ?




『これは……もう一度、言わなきゃダメそうだね。気がついたかい、マコト? 君の言う来世だよ。ようこそ。単刀直入に、説明をはじめてしまってもいいかな? まあ、ダメって言っても、問答無用で、はじめちゃうんだけどね』




(これが……来世?)




『そうそう、紛れもなく来世だよ。異世界転生ってやつさ、よかったね。スペックも環境も、世界の差こそあれど、ほぼ同じさ。君は昔もいじめられていたから、もちろん今もいじめられている。顔も汚かったので、今も汚い。肝心な頭の悪さまでも、律儀に引きついでおいてあげたよ。俺って優しいね。だから、もちろん君はバカ』




 なんの冗談だと、そう思った。悪い夢とさえ、信じた。

 だが、蹴られた胸の苦しみが、どうしようもないほどに、これが現実であることを、無情にも俺に伝えてくるのだ。


(なんだよそれ……!? それって、つまり、何も変わってねえってことじゃん!)


 俺は、憧れの異世界転生ってやつを、どうやらしたらしい。

 中々に笑えるだろう?

 どうしようもなかった俺が、同じようにろくでもない俺に、生まれ変わったっていう悲劇だ。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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