9. 誰にも言ってなかったけど
「うん、素直で助かるよ。レトラ」
「おお! さあ出せ! 貴様のその剣を、早く!」
調子に乗った女騎士にわざわざ見せるのは癪だが……これも今後のコミュニティとのお付き合いのためだ。
お披露目しよう。
「……【ステータス・オープン】」
嫌々ながらも呪文を唱える。
スッと手元に現れる、ステータスプレート。
相変わらずのポップ体で俺のステータスがずらずらと映し出されている。
「何だそれは。貴様のステータスプレートではないか!」
「さっきも見たよ、アンタのステータスなら。それがどうしたのかい?」
「ああ」
それは俺も分かってる。
とりあえず見といてくれ。
「ご婦人の所望は貴様の剣だ! 貴様のステータスなど求めちゃいない!」
「……分かってるよ」
いいから待ってろ。
「さっさと剣を出せ! そして私と決闘しろ!」
……うるせえなこの女騎士。
「さあ早く――――
「黙って見とけ。焦らんでもすぐ出すわ」
「なっ……」
「あと決闘はしないからな。この決闘バカが」
「何だと!? 貴様ッ…………!!」
安い煽りにもあっさりと乗っかる女騎士。
顔を赤くして怒鳴り返す。
「殺すッ! 貴様一歩でも町から出てみろ! 私の剣が貴様の命を――――
「静かにおし! 問題が解決するまではアンタも取引停止なんだからね。良いかい!」
「ぐぬっ……」
「返事は!」
「…………はいっ」
途端に黙り込む女騎士。仔犬のようにシュンと縮こまる。
この女騎士を一瞬で手なずけてしまうとは……一体何者なんだ、おばちゃん。
「お待たせしたね。それじゃあ頼むよ、レトラ」
「はいはい」
やっと場が収まると、俺は……いつもの魔法を唱え。
武器を取り出した。
「Font Change:明朝体」
そう言うや否や、能天気なポップ体の文字がぐにゃりと歪む。
と同時に、矩形のステータスプレートもスライムのように輪郭を変える。
「おお、凄い」
「なっ……何が起きているのだ!?」
ポップ体の太く丸っこい文字が、次第に真面目さを帯びる。
縦線は太いまま残りつつも、横線は極端に細くなり……その端に現れる特徴的な形。
文字は角張り、比較的丸みの残る平仮名ですら、止め・はね・払いのはっきりした姿に生まれ変わる。
そして、そんな明朝体の文字を載せたステータスプレートは――――剣の形になった。
「おばちゃんにも、門番さんにも、町の誰にも……今までずっと黙ってたけど」
俺の手元に浮かぶ、薄っぺらい剣を握って言った。
「俺の武器は……ステータスプレート、それ自身だ」