8. 背に腹は代えられねえか
「うぅっ……」
ゆっくりと目を開く。
目覚めは良くない。
身体を起こして見回せば、見た事のない部屋。
扉と窓に、家具は机と椅子のみ。殺風景な一部屋。
ただ、この建物の雰囲気……コミュニティのそれと似ている。
「……カウンター裏か」
恐らく、おばちゃんは気を失った俺達をコミュニティの裏側の部屋にブチ込んだんだろう。
その証拠に、俺の隣には例の女騎士が倒れている。
「…………」
意識は無いが呼吸はしている。
死んではいない。
「……はっ」
あっ、目覚めた。
「こっ、此処は…………っ! 貴様! 思い出したぞ!」
ぐるぐると部屋を見回し、やがて俺に気付く女騎士。
思い出されてしまった。
「さあ立て! 決闘だ!」
「再起動速いなおい」
「つべこべ言うな! 立て!」
「んな元気無えよ」
「黙れ! 黙って私と戦え――――
ガチャッ
「はいはい。起きたね2人とも」
「「なっ……」」
ここで扉からおばちゃんが乱入。
「意識が戻っていきなりで申し訳ないけど、何が起きたか話を聞かせて貰うよ。報告書が完成するまで、アンタ達は此処に居てもらうからね」
「「なっ……」」
事情聴取か、仕方ない。
今日は帰りが遅くなりそうだ。
「さて、始めるよ。……普段から随分おとなしい筈のレトラが口論沙汰になるなんて、普通じゃないね。何があったんだい?」
「あぁ、それは――――
「聞いてくれご婦人! この男、町の中で私に向かって剣を抜いたのだぞ!」
先を越された。
「あらっ、それは良くないね。詳しく聞かせて」
「ああ。……それは昼食を終えた私が此処に入ろうとした時の事だ。丁度この男と同じタイミングで入れ違いにこの扉を潜ろうとすると――――この男がふと扉の前で立ち止まり、あろう事か突如私に剣を差し向けたのだ! どう思う、ご婦人?!」
「それは駄目だね。レトラ、今の話に間違いは無いのかい?」
「……無えっす」
こればかりは事実だ。
認めざるを得ない。
「更にだ、ご婦人! この男、魔法か何かで剣を隠している! 証拠隠滅だ!」
「そうなのかい。それは証拠物品として見せて貰わなきゃいけないね。……丁度良い機会だ、レトラ。アンタの剣を見せて頂戴――――いや、見せなさい」
……命令形か。
「もし拒否すれば?」
「この件が解決しない限り、要注意人物としてコミュニティとの取引停止。アンタとは長い付き合いのアタシでも、これには逆らえないよ」
それは困る。
コミュニティは俺の唯一の収入源だし……背に腹は代えられねえ。
「分かったよ」