20. 護衛生活の始まりだ
いつも通り、街に着いたのは正午頃。
門番さんに「寂しくなるな」と言われつつも顔パスで町に入れば、直ぐ其処に並んで停めてある3台の荷馬車。
ルリさんと決闘バカ、そして彼らのお仲間らしき男共が水汲みやら積荷の点検やら出発準備をしている。
「おお! 来たなレトラ!」
「げっ」
幌付きの荷台からわざわざ降りてやって来る決闘バカ。
「そんな開口一番で嫌な顔をするな!」
「……すまん、ちょっと条件反射で」
「どういう事だ!?」
お前の日頃の行いの結果だよ。
「こんにちは、レトラさん。お待ちしてました」
「ああ。どうもルリさん」
馬に餌を与えていたルリさんが手を止めてやって来る。
互いに笑顔で会釈を交わす。
「何だこの私とルリとの対応の差は!」
「ん、嫉妬してんの?」
「いや、そうではないが……不平等だ! どうして貴様、私には冷遇するというのに!」
「当然だろうが。ルリさんは俺の雇い主だ」
「……ああ、それもそうか」
分かってくれて何よりだよ決闘バーカ。
そんな訳で、ルリさん所の隊商と合流した俺も出発準備に参加する。
「どうもこの地方では黒や紺系が不人気なようでして……商人の眼に於いては僕もまだまだ未熟ですね。ご自由にどうぞ」
「そんじゃお言葉に甘えて」
着替えを数着ほどゲット。
ただ、今着てる服も含め全部黒系になっちまうが……その辺は問題無し。
要は着れれば良いのだ。
俺の私物は、荷台の隅に空けて貰ったスペースに収納。
貰った服も纏めてブチ込めば、これで俺の引越しは完了した。
「間もなく準備が整いますので、もう少々お待ちくださいね」
「うす」
あとは出発の時刻を待つのみ。
「レトラ、居るかい?」
「ん? ……ああ、おばちゃん」
わざわざ見送りに来てくれたのか。
「本当に行っちゃうんだね、レトラ」
「まあな」
「突然の事でビックリだよ。……まあ、これから寂しくなるね」
「まあまあ」
なんだかんだ、おばちゃんには19年間毎日ずっと世話になった。
人間関係が嫌いな俺の中でも、数少ない知り合い。……いや、親族の居ない俺からすりゃ伯母も同然か。
おばちゃんもきっと同じ風に感じてんだろう。
「たまには立ち寄った町のコミュニティから手紙送りますんで」
「ああ。楽しみにしてるよ」
別れの挨拶も交わしたところで、どうやら隊商の準備が整った様子。
「レトラさん! 出発です!」
「行くぞレトラ!」
「はーい」
おばちゃんに軽く手を振り、馬車に駆け乗った。
隊商の護衛生活の始まりだ。