19. そうして俺は家を出た
「……あー分かった分かった」
果たしてルリさんが本当にダイヤを置いて行くかどうかは分からねえが、もし本当なら俺はこれから毎日決闘ハラスメントの餌食だ。
勿論、そんなのやってられねえ。
「俺の交渉負けっす」
「という事は?」
「……雇われますよ。ルリさん所に」
「有難うございます! レトラさん!」
……ハァ、とことん言葉を引き出されちまった。
流石は【天賦の渉才】、口で勝つのは無理そうだ。
「スカウト成功だ! これからよろしく頼むぞレトラ!」
「はいはいよろしく」
「…………ハァ。しっかし貴様と決闘できなくなってしまったのは想定外だ。残念でならない」
歓迎してくれるのは嬉しいんだが、二言目でいきなり溜め息つかないでくれるかな。
仲間に加わる方も悲しくなるんですけど。
「……まあ良い。そんな禁止令、皆すぐに忘れるだろう。ほとぼりも時期に冷める」
「絶ッ対忘れねえから」
他人の記憶力を甘く見過ぎだろうが。
つーか、最初に禁止令の事忘れるのお前だろ。
「ギクッ!? ……そ、そんな事がある訳なかろう!」
「さて、如何でしょう。何歩歩いたらダイヤは忘れますかね?」
「何歩歩いても私は忘れない!」
……成程。やっぱりダイヤは鳥頭で確定か。
「ルリさん。『決闘禁止令』、ちゃんと頼みますよ」
「勿論です。交渉内容は必ず履行する、それが私の鉄則ですから」
「何ならしっかりと罰則付きで」
「承知しました。善処しましょう」
「ヒィィ!」
そんな訳で、俺はルリさん率いる隊商に加わることとなった。
1日あたり銅貨10枚。もはや生活費とイコールの最低賃金レベルだが、別に俺は構わないのでそのまま書面を取り交わして契約。
隊商は明日の昼過ぎにもこの町を出発するとの事で、そこから俺は家に戻って一晩で荷造りを済ませた。
……とは言っても、必要な物は殆どない。普段から持ち歩いているロープにコンパス、水筒、財布。以上。
着替えの衣類は隊商の売れ残ったストックで賄ってくれるらしいし、その他も必要になれば隊商の商品を買えばいいか。
ちなみに、俺の家には金目の物も無いので盗人の心配は無い。
誰かが勝手に住まう可能性はあるが……そもそも町から遠過ぎて不便だろう。万一そうなったとしても、荒らさず綺麗に住んでりゃ俺は別に気にしない。帰ってきた時に追い出すだけだ。
そうして、翌朝。
「忘れ物なし。【ステータス・オープン】……体温36.2℃、体調も良好」
いつものルーティンを済ませ、俺は家を出た。