18. これが【天賦の渉才】の力かよ
「そうですね……」
頭を悩ませるルリさん。
……まあ、それもその筈だ。
俺自身でもこの質問、結構意地が悪いと思っている。『幾らで雇うか?』と直球で尋ねられた方が余程簡単だろう。
――――だが、しかし。
「……分かりました」
これこそが【天賦の渉才】と云う物なのだろうか。
俺は、ルリさんの力を魅せつけられることとなった。
「それでは、もしもレトラさんが僕達の隊商に加わった暁には……ダイヤに『レトラさんとの決闘禁止』を課すことでプラスを保証しましょう」
「「……は?」」
予想外の答え。
思わず決闘バカと2人揃って首を傾げる。
「どういう意味だ?」
「字のままの意味ですよ。ダイヤとの護衛契約を変更し、『レトラさんへの決闘の申込禁止』を追加します。……ただ、それでは僕からの一方的な契約内容の変更となってしまいますので、その代わりにダイヤの護衛費を少し増額しましょう」
「おお! それは良いな!」
……成程。
つまり、俺は雇われた後も決闘ハラスメントを受けずに済む。
ダイヤは禁止令さえ守っていれば雇い賃が増える。
ルリさんは、多少の出費を覚悟するだけで護衛を増強できる。
誰も損せず三方よし、か。
「流石だなルリ! よく考えられている!」
「有難うございます」
まあ、俺も悪くはないと思う。僅かな時間でよく閃いたな。
……が、その案には一つ穴がある。
「だがルリさん、それだけじゃ不十分すよ。それは単に仲間になった時のマイナスを削っただけで、プラスの保証になってない。そんな物はスカウトを蹴れば同じだ」
「……はい。それは分かっています」
「なら――――
「しかし! 実は昨晩……宿でダイヤが、盛大に駄々を捏ねたのですよ。『レトラが一緒に来ないと嫌だ! さもなくば私は隊商を抜けて此処に留まる!』と」
「「……は?」」
再び2人揃って首を傾げる。
「お前まだそんな事言ってたのか!?」
「い、いや! 私はそんな事――――
「言いましたよね?」
「私はもうきっぱり諦め――――
「言いましたよね?」
満面の笑みで問い質すルリさん。
……あっ、此奴まさか!?
「言いましたよね?」
「……」
「言いましたよね、ダイヤ?」
「……ハイ、言イマシタ。レトラガ仲間ニナラナイナラ私ハ町ニ留マル」
「との事なんですよー。これが中々聞き入れて貰えなくて……勿論、もしダイヤが護衛から外れれば、私に止める権利はありません。困りましたねー」
「……くぅっ」
一瞬で詰められた。
……これが【天賦の渉才】の力かよ。