16. 話だけなら
「で、ルリさん。スカウトの件って何すか」
「失礼、話が逸れました」
こっちも時間がないからさ。さっさと獲物を買取に出して帰らないと陽が暮れるし。
手早く頼むよ。
「では本題に入りましょう。結論から申しますと……私はレトラさんを、僕達の護衛として雇いたいと思っております」
「はいはい。雇われの身か」
「ああ、勘違いしないでください。雇いたいとは申しましたが、それは単なるシステム上の関係。実質的には……僕達と共に旅をする、仲間になってもらいたいと思っています」
「ふうん」
仲間か。面倒くさそうだな。
複雑な人間関係は御免なんだけど。
「とはいえ、飽くまでもこれは此方からのスカウト。レトラさんが嫌だと仰れば僕達は潔く引きます。ですが……もし僅かでもご興味が有るのなら、まずは話だけでもお聞きくださいませんか?」
「話ねぇー」
そう言われると困る。
俺は陽が暮れる前にさっさと帰りたいんだが……まあ。
「……簡潔に」
「勿論です」
話だけなら聞いてやるか。
立ち話も何なので、コミュニティの談話席に腰掛ける僕とルリさん、そして決闘バカ。
そしてルリさんの話が始まった。
「ではまず、改めて簡単に自己紹介から。……名前はルリ、15歳。隊商の長を務めております。商人歴はまだ半年です」
ほう、半年か。
「【天賦の渉才】を持って生まれた私は、幼い頃から両親の意向で商人への道へと進む熱心な教育を受けました。そして先日、無事に免許皆伝を頂き……半年前に故郷を離れて一人の商人として独り立ちした次第です」
「ふうん」
「旅立ちの際には私1人に馬車1台、護衛も無いという状態でしたが……故郷からこの町に来るまで幾つか町村を巡って資金を増やし、装備を増してきました。また道中では数名の商人も旅に加わって下さり、人数は私とダイヤを含め計5人、馬車も3台となりました」
「へぇー」
たった半年で凄い成長だな。
「そして今。駆け出しの名もない隊商ながらも、馬車が増えた分守る物も増えました。護衛もダイヤ1人では少々心許ない。……そこで最近は、護衛を増強すべく立ち寄った町々のハンターズコミュニティで共に旅する護衛を探している次第です」
「成程。……で、俺か」
「はい」
そういう事だったのか。
「まあ、ある程度ルリさん達の背景は分かった」
「ありがとうございます」
理解はした。
……が、まだ判断するには早い。
「じゃあ、今度はこっちから幾つか質問がある」
「勿論です。お受けしましょう」