2話 運命の出会い
運命的な出会い、それは同じ大学の先輩とある女性の社会人だった。
僕は学生ホールで一人でいた。学生ホールは、学生たちが暇をつぶしたり勉強をしたりしている場所で、だいたい100人くらい人がいる。そこのテーブルの隅に座ってアニメを見ながら漫画を描いていた。
そこに三人くらいの人が声をかけてきた。同じ大学の院生と社会人二人だった。打ち合わせをしたいから近くにいいカフェはないかと聞いてきた。すると、
「あれ、君何描いてるの?」
女性の社会人がそう聞いてきた。僕は漫画家をめざして描いていると答えた。
「漫画家!?すごいね!どんな漫画かくの?」
彼女は続けて聞いてきた。こんな風に声かける人っているんだなぁ、そう思って僕たちは会話を続けた。
しかし話しているうちに「この人、なんかすごいな。。」と思うようになった。なぜなら言葉の節々に力があるし、説得力があったからだ。「漫画は作者の思想そのものだ」とか「面白い作品は作者の思想に軸があるから」など、芯をつく発言をする。そして、日本と外国の作品の違いから善悪の話に流れ込んだ。
「君は善悪をどう考える?」
実は哲学科である僕はこういう話が大好物なのだ。しかし、話してみるとあることに気づく。
僕は善悪に対するいろんな意見を提示するが、彼女は善悪の見分け方を話している。つまり、彼女は本気で善悪を見分ける方法について話していたのだ。自分はただ哲学科というプライドであれこれ哲学者の考えを並べていたが、そんなことは次の一言で一蹴された。
「君は知識はいっぱいあるけど軸がないね。」
何も言えなかった。あまりにもその通りだったから。今の自分には軸がない、だから漫画の内容も要素がありすぎて何を伝えたいのか分からない、そういう作品になっている。そういうものは売れない。
そして、なにより、生きる軸がない。その指針となるものがなければ、漫画を描く目的も生きる目的も見失ってただ人生の迷子になるだけ。人生、人間の生。人間として異常だと認識し、虚無感の中にいた僕にはあまりにきつい一言だった。そのことを突き付けられたこの日。
「…じゃあ、どうすれば、いいんですか…?」
「大丈夫、これから軸をつくっていけばいいよ。あ、そういえばAくんそういう考えの軸を形成する学生団体やってるよね?そこ紹介してもらったら?」
「…!!」
その団体は、週一で学生が集まって読んできた本を朝にアウトプットするというものだった。そこにいた院生の先輩はその創設者で、この活動を通して社会人とも出会い、今も学ばせてもらっているという。
本当にすごい人たちだ。この人についていけば自分も…
本当に運命的な出会いをした、心の底からそう思った。ここでついていかなければ自分は一生変わることはない、この異常な人生を変えることはできない。この運命的な出会いを絶対に逃すまいと、僕は決心してついていくことになった。
これがまさに神様に出会う第一歩だったのだ。