1話 始まりは夏休みから
これはまだ神様と出会う前の話である。
大学一年の夏、僕はありあまる時間と十万以上の札を握りしめていた。何でもできる気がした。実家暮らしだが、母は帰省で中国に行き、父は数年前に失踪して家には誰もいない状態だった。つまり一人。真の自由を手に入れたと思っていた。
まず何をしようか考える。この大量にあまった時間を自分の夢につぎ込もう、漫画が存分に描こう!そう考えていた。だが、手元には十万以上の金もある。バイトもかなり頑張ったし、そのご褒美として何か使おう、そうも考えていた。
皆はどのように夏休みを送っているのか、少し周りを見てみた。
「旅行楽しすぎ」「持ち帰り成功!今日の女ちょろすぎw」「彼女とお泊り温泉(^^)」
……。
僕は一人で何やっているのだろう。漫画とバイトばかりしてきたせいで大学での友達もいない。こんなはずではなかった。彼女だって作りたい。一体どうすれば……。
ふと視線を下ろすと、そこには十万のお金。
…このお金を使えば、簡単に女と会える。というかヤれる…!
結局この夏休み、僕は出会い系アプリとデリヘルだけで終わった。
とてつもない喪失感。
初めてということもあり、自分の望んだような行為もできない。理想を求めていくうちにお金も時間もすべて失った。なんという虚無感。何も残らない。ただただ、虚しい。ただ酒と女に明け暮れる目標もない凡人と自分は違う、そう思って漫画も頑張ってきたが、結局一つの漫画も描けずに夏休みが終わった。こんな人間像、一番嫌いだったはずなのに。
そして突然のできごと。
パスポートをとるために戸籍謄本を取りに行ったその日、数年前に失踪した父の情報があった。
死去 ××年〇〇月△△日
………え?
まさかの記述だった。いくら失踪したとしても生きてはいるだろうと思っていたからだ。そのうち連絡してくるだろうと。
だがそれ以上に驚いたことがあった。
自分の父が死んだのに何も感じない自分がいる。
どういうことか全くわからなかった。いくら親が嫌いで家族がうまくいかなかったとしても、親が死んだらさすがに悲しい感情が出てくるはずだろう?なのになぜ…
もう本当に訳が分からなかった。極的な虚無感に突然の父の訃報。しかも知った一年前には死んでいるという事実。自分は人間として正常ではないことをこの時はじめて知った。もう僕の精神は崩壊寸前だった。
逃げるように次にしたことは、自分を救う漫画を描くこと。今の心内をありのままに描き、自分を救う存在として天使を描いた。これでなんとか外に出れるようにもなり、大学にも行けるようになった。
そして翌日、ぼくは運命的な出会いをする。