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つぎはぎ兎は夜を跳ぶ  作者: こーてい
6/6

白うさぎと虎 3


「・・・・・で、怪異をかくまっていると」


いつもの屋上。いつもと違うのは六花さんがこめかみに青筋を立てていることくらいだろうか


「そう。だからしばらく見逃して」

「わかった。まず歯を食いしばれ」

「待って!まずは固く握ったその拳を広げよう!?」


当然こうなる

衣兎には悪いが、俺が協力する以上どうせ六花さんにはバレるし、実際問題、「相談窓口」の職員から逃げながら「相談窓口」も追っている犯人を追うなんてとてもじゃないが現実的じゃない。

まあ、俺が殴られるだけで六花さんが協力してくれるなら一番いいんだけど・・・。


「握った手を開く・・・?ああ、発勁(はっけい)のほうがいいのか。だが顔面にグーなら前歯が折れる程度で済むが、中国武術なら肋骨が折れるくらいは覚悟するんだぞ」


だめだ。俺殴られたら病院行くわ。


「だぞ、じゃないよ!?平和的解決をしよう?」

「なぜだ。貴様の要求に対し私が対価を提示する。これが公平な取引だろう」

「対価重くね!?俺の肋骨そんなので折られるの?」

「貴様の肋骨にそんな価値があるわけないだろ。出血大サービスというやつだ。まあ出血するのは貴様のほうなわけだが」

「なにちょっとうまいこと言ったみたいな顔してるの?面白くねえからな!?」


六花さんはクククッと笑う・・・笑いのツボが全く分からない


「だが真面目な話、おそらく貴様の遭遇したのは「殺戮兎の都市伝説」だろう?」

「一応本人は「キルト」って名乗ってたけど」

「ふむ、何点か相違点と不可思議なことはあるが、特徴は酷似しているしあながち嘘でもないんだろう。「相談窓口」がその兎を嗅ぎまわっていたのは本当だ」

「それは・・・いわゆる前科持ちってやつなのが原因で?」

「ほう、そこまで聞いてかくまっていたのか貴様」


六花さんはあからさまにこめかみにしわを寄せる

俺が兎にそそのかされたとか、騙されていたとかいう可能性を考慮してくれていたのかもしれないが結局、俺は全部説明を受けたうえで協力の約束をしているのだ

職員からしてみたらこんな状況、ただの共犯の犯人が見逃せと催促してきたようなものなのだからこの反応も当然というものだ


「あー、いや、隠していたわけじゃないんだけど、それも六花さんに聞こうとは思ってたんだ。前科って一口に言っても色々あるだろ?あの兎はいったい何をしたんだ?」


俺の問い掛けに対し、あからさまに嫌そうな顔をしつつ吐き捨てるように答えた


「殺しだ」


ああ、まあそうなんだろうな。そう思った。

俺が逃げたのは、そういう世界だから。


「あの兎は貴様の思うよりずっと、多くのものを殺したよ。小学生の女児4名、ホームレスの浮浪者2名、大学生と思われる男女、被害者が帰宅途中のサラリーマンだった時の現場には、娘と思われる少女の名前が入った誕生日ケーキが散乱していたらしい・・・断定はしないが、おそらく貴様がかばっている怪異はそういったものだ」


想像はしていた。覚悟も多少はあった。

正直、俺の正しい行動はこのまま六花さんに任せて手を引くことなんだろうとは思う

けど


(「ご主人は」法に触れるようなマネはしていない、か)


キルトの言葉が脳裏をよぎる

前科持ちの怪異の言葉を信じるなんて、我ながらどうかしているとも思う


「けど、事件は起こらなくなった。だから「相談窓口」も兎のしっぽをつかめていない・・・とか」


あの兎は前科があると自白した。だが、前科のある兎と共に行動する衣兎が法に触れるようなことをしていないというあの言葉を信じるならつまり、あの二人がともに行動するようになってからは兎もおとなしくしているということだ。


「しっぽなら今掴んだ。貴様がかくまっている」

「うん。だから見逃がしてほしい」


先ほども言ったが、どの道、政府の目をかいくぐり続けるなんて無理だ。

最低でも六花さんに見逃してもらわなければ話にならない。

六花さんは逡巡する。

当然、見逃すメリットなんてない。だから、メリットはこちら側で提示する――――


「見逃してくれれば、必ず俺が「連続失踪事件」の犯人を捕まえる。そんで解決し次第、兎には罪を償わせる。それでどう?」


復讐、という目的に対して捕獲というのは少々、もしかしたら約束と違うかもしれない。

もっと言えば、兎と衣兎のことを相談窓口への告げ口もルール違反だし。

が、これは必要なことだ。


「駄目だ。それは殺人犯を野放しにする理由にはならんよ。そんな当たり前のことがわからん奴でもあるまい?」


まあ、当然か。なら、交渉カードを増やすしかない。


「じゃあ、兎しょっ引くとき、俺の身柄も相談窓口にやるよ。「鵺」の(ぬえ)の一部、欲しがってたでしょ?」


「鵺」。猿の頭、狸の胴体、虎の手足に蛇の尾を持つ平安の大妖怪。

その一部、虎の手足が俺には「縫い付けられている」。


「殺人犯を野放し、って話なら、コレも昔は相当人を食ったんじゃない?」


俺は単に、制御されているものとして見逃されているだけ。

危険因子が天下の往来を歩いているという点では、衣兎と俺は何も変わらないのだ。

代わりにはならないかもしれないが、兎を売るような真似をする以上、俺も、自分を差し出すくらいのことはする。

この妖に憑かれた体は政府も欲しがっているのだから、交渉カードには十分なはずだ。


「・・・なぜそこまでする?貴様は平凡な日常が欲しいんだろ?」


確かに、なぜと言われれば答えに詰まる。

出会ってまもない少女の復讐に対し、俺が犠牲になり協力する理由。


「それは――――――――」




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