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つぎはぎ兎は夜を跳ぶ  作者: こーてい
3/6

平凡な日常 2

 

「・・・で?授業サボって学園のアイドルである林原さんとナニをしてたって?」

「ナニもなんもしてねえよ・・・っていうか梅、お前はモテる癖に非モテの俺がちょっと女の子と喋ったからって、なんでお前に責められなきゃならねえんだ。」


 昼休み。学食でうどんをすする俺は、友人の松風梅から質問攻めを受けていた。


「そりゃ、そこら辺の女子ならともかく、相手はみんなの憧れのお姉さまの林原さんで、わざわざ人目のつかない授業中に屋上で密会だぜ?普通なら刺されてもおかしくないぞ。」


 それは背筋が寒くなる情報だな。


「さっきも言ったけど、マジで何もしてないよ。むしろ怪しげな政府団体に誘われたり、意味不明のオカルトグッズの紹介されたくらいだ。あの女はもっと警戒したほうがいい。」

「嘘が下手すぎて適当にごまかせてすらねえな。」


 梅は呆れたようにやれやれと首を振る。

 ・・・・・おかしいな。嘘は一つも言ってないんだが。


「そんなことより、授業をサボるなら代返してくれるんじゃなかったのかよ。さっき体育のゴリ松にめちゃめちゃ怒鳴られたんだぞ?」

「体育で代返した程度でバレないわけないだろアホめ。真白なら、授業と林原さんとの密会という選ぶ必要性のない簡単な二択で授業選びそうだから後押ししてやっただけ。」


 口をとがらせる俺に梅は飄々と返す。

 そんないらん気を使ってくれるくらいなら質問攻めなんかすんなよと思うところだが、梅からしてみたらこうやって俺をおちょくって楽しむことを込みで誘導したのだろう。


「相変わらずの面白さ至上主義だな。」

「当然だ。なんたって人生は一度だからな。」


 俺の憎まれ口に、梅はへんっと鼻で笑う。


「俺はお前が平凡な日常が欲しいー、なんてぬかしやがるからほんのちょっぴりのスパイスの魅力と、桃色の幸せでも教えてやろうとしているだけなのサ。」

「・・・そりゃありがたくって涙が出るな。」


 梅が笑って差し出す七味唐辛子を俺はうどんに一振りした。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 妖怪やその手の類が起こす事件というのは今や簡単にネットで情報が拡散され、目撃者や被害者から噂が流れ、実際に存在する都市伝説や怪談話のように扱われるようになった。

 政府はこれに対処するため「相談窓口」を設置・・・六花さんもそこの局員だが、実際のところは妖憑(あやかしつ)きや陰陽師崩れを集めた以前からある組織を表立たせただけ・・・らしい。

 もちろん人間、そんな超常現象の話をすぐに受け入れるはずもなく、皆どこか他人事のような感覚でマジメに相談窓口に通報したりしないのが一般的だ。


「で、なんで真白は政府の局員?に参加しねーの?」


 放課後の帰宅道。結局屋上で何を話していたのかとうるさい梅にざっくり説明した。

 梅もこの手の話をある程度知ってしまっている側の人間だから、こういうとこの交友関係で隠さないで平気なのは正直ありがたい。


「俺は平凡な日常が欲しいから、って何回も言ってるだろ。」

「でも真白も妖憑きなんだろ?その憑いてる妖をそこで引っぺがしてもらえたりしねーの?」

「シールとかじゃねーんだぞ。・・・実際問題、普通の妖怪ならわからんけど俺のはちょっと無理なとこに憑いてんだよ。」

「ほーん、それでもその局員になれば林原さんの同僚だろ?いい話だと思うがなー。」

「そんな理由で学生が、危険な職場に入りたいと思うか・・・?」

「いいじゃん、美人の同級生の裏の顔!危険な任務と一夏の冒険!なんかのアニメ作品でも昨今はそんなベタベタなやつはそうないぜ。」


 俺と同じようなボケをするな。あとそんなベタベタなアニメも結構面白いだろ。


「真面目な話、真白はそんな正義のヒーロー系は結構ありだと思うけどな。お前、困ってる人とか見捨てらんないタイプじゃん?」

「んなわけないだろ。俺はそんな聖人君子じゃない。」


 それじゃあな、と分かれ道で梅に背を向ける。

 俺の家は丁度分かれ道、梅の自宅とは反対方向の左側だ。

 梅はなにやら面白くないだのなんだの言っていたが、相手にされないとわかると早々と切り上げ帰って行った。

 太陽は容赦なくアスファルトを焦がし、かげろうがゆらゆら揺れる。

 世間では様々な事件で騒がれているが、俺はこうやって友達と馬鹿な話をしながら普通に暮らす。

 六花さんだって普通に接していればただの美人な同級生だ。

 俺に憑いているこいつだって表に出てきさえしなければ―――――。

 そんなことを考えながら、坂道に差し掛かる。

 坂の上を見上げた時、その異常さに目を奪われた。

 この真夏に、白のロングコートにフードまでかぶった、小柄の少女。

 ポケットにはやけにでかい、兎のぬいぐるみの頭が飛び出していた。


「お兄さん、こっち側の人だよね?」


 少女はそう言うとこちらの答えを待たず、どこから取り出したのか、身の丈ほどもあるステッキ取り出し俺に向けて振りかぶった。



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