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つぎはぎ兎は夜を跳ぶ  作者: こーてい
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平凡な日常 1


 古来より、植物は神聖なものとされ、人ではないもの、霊体や神の依り代という側面を持ち合わせていた。

 例えば、樹齢二千年を超える大木を御神体とする話。

 身近なところで言えば、子供の無病息災を願う記念樹や、墓地の植え木などもそういった側面が強い。

 その延長線上で植物から紙を精製することから、霊的なものを封じ込める、いわゆるお札などもこういった考えから作られたとされる。

 このように植物を加工し霊的存在とコンタクトを取ろうとした結果、紙で作られたお札より耐久性に優れた布を用いるようになったのは、最近の話。

 そういった布が実用化され、それらは「妖服(ようふく)」と呼ぶ。


「―――――と、ここまではいいか?」


 季節は夏。

 この季節になると学校プールからる塩素のにおいがこの屋上にまで流れてくる。

 プール側から聞こえてくる女子生徒の黄色い声と、炎天下のグラウンドから聞こえる男子生徒の文句のいり混じった呪詛のような声はまるで天国と地獄のはざまにいるようだった。

 まあ、屋上でサボる俺には関係のない話なのだが。

 そんな炎天下の中、一緒に屋上で授業をサボり、長々と陰陽アイテムの今昔について語ってくれた少女の瞳をまっすぐ捉え、こう返す。


「ごめん六花さん。さっぱりわからん。」


 少女はサボりの場に似つかわしくないほどぴしりとした学生服姿で、人形のような整った顔立ちと透き通った瞳を据えて俺を睨む。


「すまない。人間の言葉は難しかったか?」

「急に毒を吐くね・・・。」


 表情にはあまり出さないが、林原六花(はやしばらりっか)さん、俺のただの同級生、だと思っていた人物は相当ご立腹のようだった。


「そもそも、六花さんはそんなトンデモ話を一般男子高校生に話して何がしたいのさ?俺、もしかしてこのまま六花さんと厨二病チックな一夏の冒険とかするの?」

「そう思うか?」

「・・・いや、思わないけど。」


 これ以上適当なことを言ったら本当に殴ってきそうだから黙っとこう。


「まあ、なんだ。貴様には借りもあるしな。何も知らない哀れな子猫のためにこの世界の常識程度は教えてやろうと思っただけだ。」

「・・・そりゃどうも。」


 俺からしてみたら六花さんの言う「借り」は成り行きのようなものだったのだが、彼女にとっては多少思うところもあったのだろう。

 そのうち話を蒸し返すこともあるかもしれないが、俺がこのトンデモ話に首を突っ込むようになった始まりの話は、そのうちどこかですることになるかもしれない。

 まあ、そのおかげでこうして美少女の六花さんと交友を持ち、学校の屋上で一緒にサボっているのだから、人生そんなに捨てたものでもないな、とは思う。


「・・・大丈夫か?気持ち悪いぞ?」

「心配してくれるのはうれしいけど、男子はその言葉で深く傷つくから勘弁してほしいかな。」


 何かを感じ取ったのか、地の文が読めるのかわからないけど毒を吐かれた。

 キモイは男子学生の傷つく言葉トップ3だ。

 六花さんとの会話はいつもこうだし、なんだったら常に1メートル以上の距離を置かれている。

 ・・・交友を持っても、女の子と楽しいイベントなんてないし、人生はやっぱりろくでもないな。


「それと、もう一つ。借りのついでに教えとく。」

「いいよ・・・。どうせ陰陽グッズだの妖怪だのの話はよくわかんないし、もっとよくわからない組織勧誘も受ける気ないしね。もっと言うと、妙な事件に首を突っ込む気まないよ。」

「それならそれで構わんが・・・。最近巷で話題の失踪事件。アレは妖怪絡みだ。場所も近い、せいぜいお前の好きな平凡な日常に生きるために気を付けるといい。それと―――――。」


 一呼吸間を開け、彼女は鋭い目で俺を見据える。


「貴様がどう思おうと、貴様の体に虎を飼っている限り、誰も見逃してはくれまいな。」


 ため息を吐く俺に、六花さんはそう言って屋上を後にした。

 俺、如月真白(きさらぎましろ)は、そんな長い長髪を揺らし屋上を去る六花さんの後姿を見送り、もう一度大きめのため息を吐いた。


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