4.
次の日、バイトが終わった峻は足早に帰路に着いていた。
時刻は午後五時前、三月末の夕刻はいまだに風が冷たい。昼間の陽光には春を感じるものの、夜はいまだ寒さが続いている。
バイト先から歩くこと十五分ほどのところに峻と奈亜の家がある。
外観のメインは白色で、ところどころに効果的に黒色が配色されている。高さは三階建てだ。
建物の入り口にはクリアガラスの扉があり、常に扉は閉ざされている。扉はオートロック式になっており、専用のキーを回して開けるか、ボタンで暗証番号の打ち込みを行うかで、解錠される仕組みだ。
この建物が賃貸だったころの名残で、父親がほぼ不在の藤沢家では、防犯も兼ねてそのまま残してある。リフォームの際に、アップグレードはした、と義明はいっていたが、具体的にどう変わったのかは峻も知らなかった。
峻はズボンのポケットからキーケースを取り出し、ロックを解除する。
扉を押して開けて中に入ると、そこはエントランスになっている。そこまで広くないが、綺麗に清掃されていて、大理石調の壁や床がシックな雰囲気を醸し出している。
一階のエントランス部分には部屋がなく、入って正面にはエレベーターが一基ついている。その横には階段もあり、こちらからも昇り降りは可能だ。
峻はエレベーターを呼び出すと、それを待っている間にその横にある掲示板へと視線を向ける。
掲示板には峻、奈亜、そして、奈亜の両親の名前が横並びで書いてあり、縦欄には『外出』と『在宅』、『本宅』、『出張(海外)』、『旅行(日本)』などの項目が並んでいる。
今は峻が外出、奈亜と母親の美希が在宅、義明は出張(海外)のところにそれぞれ丸いマグネットがくっついていて、誰がどこにいるかが分かるようになっている。
これはこの家に住むことになった際に、取り決めた藤沢家の約束のひとつだ。
なぜこんなことをしているかというと、賃貸だった家を改装する際に、二階を共同生活空間および両親の部屋に改装し、三階はもともとあった三つの部屋はそのまま残し、301号室を奈亜の部屋、302号室を峻の部屋、303号室を物置に使うこととした。
そのため、そのまま自身の部屋に帰ってしまうと、誰とも顔を合わすことなく生活することができてしまう。部屋にいるかを電話でたしかめることはもちろんできるが、煩わしいので、ここは古典的かつ効果的な方法を取ろうということになったのだ。
チーン、という音とともに到着したエレベーターに峻は乗りこんだ。




