3.
大丈夫。そういって微笑んだ峻の顔を、奈亜は笑顔でのぞき込んでいた。
先ほどはどこか遠い目をしていた峻だったが、今は奈亜に向かって笑いかけてきてくれているのが、奈亜にとっては嬉しかった。
奈亜は峻のことが大好きだった。
幼馴染であることが誇らしかったし、こうやってゲームをしながらじゃれあうように笑い合える時間は幸せだと断言できた。
奈亜にとっての想い人はいつだって峻であり、それ以外は考えられなかった。小学校でも中学校でも、もちろん今も。
しかし、そんな奈亜には悩みができ始めている。
それは、今まで自分だけが知っていると思っていた峻の魅力に、周りの女子陣が気づき始めたということだ。ここ一年ほどでまた一つぐっと男らしくなった気がするのはおそらく気のせいではないだろう。奈亜にとっては嬉しい限りなのだが、そのおかげでライバルができ始めている。
学校生活をしていても、峻のことをいいな、という評価を下している同級生や先輩の言葉を何度か耳にしたことがあった。
峻は勉強も上位で、優しくて人当りもいい。そしてなによりかっこいい!
――まぁ、容姿の面に関してはある程度奈亜の補正がかかっている可能性があるにはある。ただそんなに間違ってはいないと奈亜は強く主張したい。
さらには母親を亡くすということを経験した峻は、どこか影があるような雰囲気を出す時がある。それが女子陣の人気のひとつになっているようだ。奈亜としては峻の気持ちを考えると、それは人気の要素にしないでよ、と憤りを感じる時もあるが……。
結局なにがいいたいのかというと、危険だ、ということだ。
いつ抜け駆けが発生し、峻を奪われてしまうとも限らない。それを避けるためには――。
ゴクリと唾を飲み込む。
今、自分の横には問題の峻が寝転んでいて、この部屋には邪魔する人はいない。つまりは二人きり。
いける――!
そう思った奈亜は峻の顔の横にドンッと手をついた。
壁ドンならぬ床ドン……いやベッドドンか。
「峻!」
「なんだよいきなり……」
つかれた手の勢いにびっくりした表情を峻が浮かべている。
「す――!」
「す?」
「…………」
「――?」
「え、えーっと……」
「なんだよ?」
好き。その二文字が出てこない。半分はいえているのに、言葉に意味を持たす一文字が奈亜の口から発せられない。
顔の温度が上昇していくのを知覚してしまって、なんだかこの状況がとても恥ずかしくなる。
よく考えれば、今の状況は自分が峻を押し倒したように見えるのでは? そんな余計なことまで頭に浮かんでくる始末だ。
峻は奈亜の下で首をかしげている。
言わなくちゃ! そう強く自分にいい聞かせて、奈亜が再度口を開く――、
ピンポーン!
が、その口から言葉が出てくるより早く部屋のインターホンが鳴った。
「あ、たぶんおばさんだぞ」
峻が立ち上がると、はーい、と返事をしながら玄関の扉に歩いていく。
残された奈亜は口をパクパクと動かし、真っ赤な顔で震えていた。
いえなかった……。
がっくりと落ち込む奈亜。
ゴールは目の前、キーパーと1対1、ゲームでは決められたのに。人生の勝負のひとつである告白というシュートは、どうやらポスト直撃らしい。
高校で女子サッカーのフォワードを任されている奈亜の頭には、こんな例えが浮かんできた。
――私は、ゴールポストに愛されている、と。




