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早朝訓練

翌日。

雄は朝5時に起き、夢宮を連れてランニングをしていた。

「はぁ…し、ししょー…まだ…はしる…んです、か…?」

ジャージ姿の夢宮が息を切らせた様子で後ろをついてくる。

「疲れたか、じゃあ止めるか。」

雄はそう言い立ち止まった。

夢宮は膝に手をつき、呼吸を整えている。

「はぁ…はぁ…てっきり、ダメだあと5周、みたいな感じになると…思てたんですけど…はぁ…」

「それで怪我された方がめんどくさい。」

学校の周りを2周したのだ、運動の出来なさそうな夢宮にしたら頑張った方だろう。

そもそも最初から期待などしていない。

雄は近くのベンチに腰掛け、手に持ったスポーツドリンクを喉へ流し込んだ。

途端に乾いた喉に潤いが満たされ、生き返った気分になった。

隣を見ると夢宮もスポーツドリンクを飲んでいる。

「んぐ、んぐ…っぷはぁ!生き返りますー!」

同じことを考えていたようだ。

雄は腕時計を見て時間を確認した。

『6時11分』と示された腕時計を眺め、しばらくすると雄は立ち上がった。

「まだ時間あるし、試しに何発か射ってみるか。」

「え!射てるんですか!」

夢宮が火が灯ったように表情を明るくし、食いついてきた。

「ノリノリか…」

「はい!カッコいいじゃないですか!こう…バン!バン!って!」

「小学生かよ。」

雄は小さくため息をつき、男子寮の裏庭に向かってあるきだした。

後ろを夢宮がぴょこぴょこついてくる。

同年代なのだが、身長だったり、言動だったり、行動で、まるで年下の妹と接しているような感覚に陥ってしまう。

まあ、妹はいないが。

「最初はエアガンで少し射ってみろ。そのうちちゃんとしたのを持たせてやれると思うから。」

「はい!わかりました!」

そうこうしている間に裏庭へ到着する。

朝日は男子寮という壁で遮られているので、薄暗くてじめっとした場所だ。

「なんか…お化けとかでそうですね…」

「んなもんいねーよ。」

夢宮の発言に無愛想に返し、発泡スチロールを壁に立て掛けた。

中心から赤、青、黄、と色のついた輪がある。

夢宮にエアガンを手渡す。

「取り合えず射ってみろ。」

「はい!…赤い丸を狙えばいいんですか?」

「そうゆうこと。」

「了解しました!ししょー!」

そう言って夢宮がエアガンを構える。

10mは距離を取っているので素人が当てるのは難しいだろう。

現にエアガンだと雄も当てられるかわからない。

「えい!」

パンっ!

小さな発砲音と共に小さなBB弾が発射される。

発射されたBB弾は1秒とたたず、発泡スチロールの端へ到達した。

「ありゃ、真ん中狙ったんですけどねぇ…」

「まあ、そう簡単には行かないさ。どんどん射っていいぞ。」

「はい!」

夢宮が再びエアガンを構える。

パンっ!

第2射が発砲される。

BB弾は風を切り、刹那の間に赤い輪の中を的確に貫通した。

「ししょー!当たりました!やった!」

「凄いな。」

2射で当てるのは珍しいが、恐らくまぐれだろう。

さほど驚くことでもない。

夢宮が再び構える。

パンっ!

第3射、発砲。

赤い輪の中心に命中。

「また当たりましたー!」

「お、おう…」

2回連続で命中、もしかしたらセンスがあるのかもしれない。

けれどたった2回は誤差として切り捨てられる。

パンっ!

発砲、赤い輪の中心に命中。

パンっ!

もう一発、同じく。

パンっ!

さらにもう一発、同じく赤い輪の中心に命中。

「…」

「ししょー!すごい当たります!」

「そうだな…」

流石に5回連続となると誤差で切り捨てられない。

こいつ才能あるのでは…?

「上手いと思う。取り合えず時間だし、一端寮に戻ろう。」

「あ、はい!」

発泡スチロールを回収し、裏庭から去る。

それにしても上手いな…

夢宮を見ていると自分の努力が滑稽に思えてくる。

やっぱり才能には勝てないのか…


朝の特訓から時間は流れ、学校では朝のホームルームが始まった。

「はーい、皆さん聞いてくださーい!」

担任教師が喋り始めると喋っていた者も静かになり、担任教師に視線をむけた。

「関根くんに引き続き、編入生を紹介しまーす!」

教室が騒がしくなる。

それも無理は無いだろう、こんな短期間で二人も編入生が来るのは多分珍しいことだ。

「入ってきてくださーい!」

担任教師がそう言うと教室の扉が開いた。

そして入ってきたのは、黒髪を左右で括った中くらいの背丈の女の子だ。

…わざわざこんな表現をしなくても、もう顔見知りだ。

もちろん霧雨だ。

教室中に「おぉー!」と男子たちの歓喜の声が響き渡る。

「霧島雨依です、よろしくお願いいたします。」

そう言って礼儀正しく頭を下げる。

「はい!霧島さんです!みなさん仲良くしましょうね!」

それ俺の時言わなかったよな?

「好きな席にどうぞ!」

担任教師がそう言うと隣のいない男子は手を合わせて祈願するようなポーズをとっていた。

隣に来てくれ、と言う感じだろうか。

一方雄も手を合わせていた。

だが他の男子たちとは意味合いが違う。

来るな来るな来るな…

全力で来てほしくない様子だ。

霧雨が足を動かす。

その行き先は…

霧雨は鞄を机にかけ、椅子に座った。

終わったぁぁ…

雄の隣だ。

「はぁ!?」

「なんであそこ!?」

「くそ!なんだよあいつ!?」

男子たちの声が響く。

「あの…霧島さん?…そこで、いいんですか…?」

前にも言ったがこの席は周りに生徒がいないので完全に孤立している。

「はい。彼とは少し面識がありまして。」

「ああ、なるほど。」

担任教師が納得したように手を打つ。

「なんの嫌がらせだ…」

雄が周りに聞こえないような、小さな声で話しかける。

「あら、初めての環境に緊張して知り合いを求めてしまうのは当然のことじゃない?」

「お前そう言うタイプじゃないだろが。」

「まあ、でも決めちゃったしね。我慢しなさいな。」

「はぁ…」

雄は大きくため息をついた。

大切なとこをはぐらかされた気もするが今は追求する気力がない。

雄の学生生活はどんどん蝕まれていくのであった。

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