殺し屋
「こんな目立つとこで殺人を犯そうとか、お前ら正気か?」
雄は煽りを込めた言葉を放った。
現に夢宮が銃を向けられているのに、表情は至って冷静だ。
「んなこたぁどうでいい。早く解放しろ!」
夢宮に銃を向けた男が叫ぶ。
「殺し屋、か…」
「っ!おまえ!なんでそれを…」
雄の呟いた言葉に男が反応示した所で…
「うぐぁ…!」
夢宮に銃を向けていた男が胸元から血を流しながら倒れる。
他の男たちは倒れた仲間を見て表情を驚愕に染めた。
「スナイパー…!」
その中の男が一人、妙な言葉を発し、辺りを警戒し始める。
流石は殺し屋、この状況で冷静な判断ができている。
だがもう遅い。
彼女の射程圏内に入った標的は決して逃れられない。
「うっ…!」
残りの男も胸元から血を流しながら倒れる。
「さあ、どうする…?お仲間が全滅だぜ?」
雄は男に銃を突きつけたまま不適な笑みを浮かべる。
「あぁぁ!」
男は焦れったくなったようにどたばたと暴れだす。
「お前に銃弾を消費すんのも、もったいねぇな。」
雄はそう言いブレザーを捲る。
そしてブレザーの下のベルトには少し小さく、細長い袋が取り付けられていて、その袋から飛び出している棒のような物を引っ張り出した。
雄の取り出したものが夕日の光を反射する。
ナイフだ。
それを男の胸に素早く突き立てた。
「うぐ、ぅぁあああ!」
ナイフを血が伝う。
男は痛みに必死で足掻くが、心臓を仕留めた雄のナイフが抜かれると同時にがくっとうなだれた。
「…」
やがて男は声を発すること、動くことすらしなくなった。
「はぁ…」
雄はため息に似た、安堵の息を漏らすと夢宮へ近づいていった。
「大丈夫か?」
「ぁ…」
夢宮はぽかんとした表情で雄に引っ張りあげられた。
「…怖くないのか?」
「え…?」
雄が言うと夢宮は間の抜けた声をあげた。
今しがた目の前で人を殺した男が目の前に立っているのだ。
泣き出してもおかしくない。
それなのに夢宮は何が起きたかわからないといった様子でぽかんとしているだけ。
その夢宮に抱かれたひかりは小刻みに震えている。
「俺、人を殺したんだが…」
「はい…見てましたけど…」
「怖くないのか?」
「わたしを守ってくれたんですよね?」
「ん、まぁ…そうだが…」
「じゃあ、ありがとうございます!」
そう言って夢宮はニコッと笑った。
雄はその様子を見て目を丸くした。
こいつは感情が無いんだろうか、などといった考えが脳裏を過る。
「物凄く精神が強いわね。」
突然、雄のでも夢宮のでもない声が聞こえてくる。
雄は声の聞こえた方を振り向いた。
そこには黒髪を左右で括り、背中にギターケースみたいな物を背負った少女がいた。
「霧雨か、助かった。」
「霧雨って言うな!」
雄の発言に対して少女が怒声をあげる。
そんな様子を見ていた夢宮がおずおずと手をあげた。
「あのー、どちらさまで?」
「ああ、こいつはきりさ…いだっ…!」
言葉の途中で少女に脳天をチョップされた。
「霧雨やめろって言ってんのよ。私は霧島雨依、そこのバカと同じく殺し屋よ。」
霧雨が雄に親指を向ける。
「ころ…しや…?」
夢宮はあまり聞かないであろう単語に首をかしげる。
「それ、まだ言ってなかったんだけど。」
「あら、ごめんなさい、でもどうせそのうち明かすんだから変わらないわよね。」
特に反省の色も見せずに言う。
「あー…殺し屋ってのは文字どうり人を殺す組織だ。」
「え!?そんなのあるんですかぁ!?」
夢宮が目を丸くし雄と霧雨を交互に見やる。
「その、霧島さんの背中のやつはなんですか?」
「ああ、これ?これは狙撃銃ね。」
「す、すないぱー?」
「にゃー?」
夢宮が首をかしげ、ひかりも疑問符を浮かべるような鳴き声をあげる。
いきなり狙撃銃と言われても「は?」となるのはあたりまえだろう。
「詳しいことは後、早くここから立ち去らないと。」
「そうだな。」
雄が肯定し歩き出すと同時に近くの死体と思われた男が拳銃を夢宮に向けた。
バンッ!
耳が痛くなるような大きな音がなる。
「あぶねぇな…」
雄は男が拳銃を向けているのに気付き手にした拳銃で男の胸元を撃ち抜いた。
途端、男は力が抜けるようにぐったりとし、動かなくなった。
「あんたちゃんと殺しておきなさいよ。」
「悪い、ずれてたみたいだ。」
「あぁぁ…!耳がぁぁ…!」
雄と霧雨が会話してるなか、夢宮は耳に手を当てぴょんぴょん飛び回っていた。
雄は男たちの死体を漁り始めた。
「な、何してるんですか…?」
ようやく耳の痛みが収まった夢宮が雄に引きぎみに訪ねてくる。
それも無理はないだろう。
何せ血塗れの死体のポケットに手を突っ込んでまさぐっているのだ。
「弾薬の回収だ。なんだかんだ言って金かかるからな。」
「殺し屋としては常識よ。」
「へー、大変そうですね。」
「よし、終わり、以外と持ってたな…」
雄は回収した弾薬をポケットに突っ込み、帰路に着いた。