危険な散歩
「さぁ!関根くんのために腕を振るっちゃうよ!」
そう言ってキッチンにたった三神がレジ袋を漁る。
「はぁ…」
今夜の夕食は三神が作ることになった。
雄は必死に抵抗したのだが相手のごり押しにあっさり負けてしまい今に至ると言うわけだ。
「ひかりー!ほいっ!そいっ!やあぁ!」
夢宮は猫じゃらしでひかりと遊んでいる。
正直うるさい。
「おい夢宮、うるさい。」
「はっ!これは失礼でした!」
夢宮はそう言ってペコリとお辞儀をするとその場にひかりを抱えて座った。
黙っていればまだ可愛いものの、こうもうるさいのだから恋愛対象として見ることなど到底できなさそうだ。
誰とも関わるつもりはなかったのだが…
雄は立ち上がり鍵を手にして玄関へ向かった。
「どこいくですか?」
夢宮がひかりと一緒に駆け寄ってくる。
「…散歩。」
「私もいくです!」
「来んな。」
そう言って手のひらをつき出す。
こういう相手にはきっぱりと断ったほうがいいだろう。
どういう意図で雄に接触してきたかはわからないが、少なくともずる賢いことを考えるような悪女ではなさそう。
だとしたら単純に友達になりたかっただけ、となるが、よくわからない。
友達思いであればここは察して「わかりましたぁ!」となるだろう。
「行きます!」
夢宮はそう言って拳を突き上げた。
友達思いではないようだ。
雄はため息をついた。
「わかったよ…」
「うぁーい!」
夢宮は嬉しそうに飛び上がると、着地と同時に靴に足を入れた。
雄はケータイを取り出し、時刻を確認した。
散歩に出てからすでに10分ほどが経過した。
「ケータイもってたんですか!」
「まあな。」
「後で連絡先教えてください!」
「おう。」
「…?」
夢宮はひかりを抱きながら雄の回りを走り回っている。
ものすごい目障りだが、注意しても3歩歩いたら直ぐに忘れるだろう。
注意するだけ無駄だ。
雄はケータイを少し弄ってから画面がついたままポケットへ突っ込んだ。
「電源切ってませんよ?」
「最近のは勝手に切れるだろ。」
それからしばらく夕焼けを楽しみながら歩き、近場にある川原についた。
「おー!川好きなんですか?」
夢宮が雄の顔を除き混むようにして聞いてくる。
「嫌いじゃないな。」
「あ!うぇ!ひかり!?」
突然ひかりが夢宮の腕のなかで暴れだした。
必死に納めようと夢宮が抱き直すがひかりはそれを逃れて雄の肩へ飛び乗ってきた。
「いっつ…どしたよ…?」
ひかりの爪が雄の肩に食い込むが多少の痛みにはなれているぶんそこまで気にならない。
「ふー!」
ひかりが雄の前方目掛けて威嚇する。
体毛が逆立っていて、何かを警戒している様子だ。
「どうしたんでしょう…ひかりは人懐っこいはずなのに…」
ひかりは初対面の雄を警戒することなく受け入れてくれていた。
そんなひかりが警戒するものがあるのだろうか…?
などと疑問が過るが結論が出ずに終わってしまう。
「関根…さん…」
突然、夢宮が普段は発しない何かに恐れたような声を漏らしながら雄の袖を引っ張ってきた。
「なんだよ…あぁ、あれか…」
雄は夢宮の指差してる場所へ視線を向け、納得したようにうなずいた。
夢宮が恐怖で震えているのが服の袖越しに伝わってくる。
「夢宮、ひかり連れて俺の後ろにいろ。」
雄はそう言うと一歩前に出た。
夢宮は背伸びして雄の肩からひかりを抱き上げるとすぐさま雄の後ろについた。
そして二人と一匹の視線の先にいるのは、かなり体格の良い黒服の男三人だ。
異様な存在感を放ち、雄たちへ近づいてくる。
例えるならば天皇陛下のSPのような感じだ。
彼らの殺意を浴びせた視線が雄に突き刺さる。
やがて、黒服の男たちは雄の目の前で立ち止まった。
「おい、そこのぼっちゃん、退いてくれねぇか?」
「断ると言ったら?」
黒服の男が無言で拳銃を額に突きつけてくる。
「関根さん!」
「わかるよなぁ?」
「…ああ。」
雄は肯定し、男たちに道を譲った。
多分男たちの狙うものは夢宮だろう。
殺すか、拘束して連れていくか…その二択になるだろう。
雄はそれを理解したうえで道を譲った。
「頭が良くて助かったぜぇ。」
そう言って男たちは夢宮に近づく。
「い、いや…です…」
能天気な夢宮も殺意を明確に感じ取ったのか目尻に涙を浮かべている。
真ん中の男が夢宮に銃を向ける。
選択肢は殺す方だったようだ。
「へっ!じゃあな…嬢ちゃん。」
そう言って引き金に指をかけた刹那…
「うぐぁ…!」
男は悲鳴のような声を上げ、後方へ尻餅をついた。
「ぇ…?」
夢宮はぽかんとした様子で男を見る。
「さあ、こいつの命は俺が預かった。」
そう言って男の頭に拳銃を突きつけたのは、雄だ。
黒服の男たちの視線が完全に外れるのを待ってから拳銃を向けた男を後ろから襲ったのだ。
他の男たちが慌てて銃を夢宮に向ける。
「そいつの命を奪ったらこいつも死ぬぞ!」
「わかったらおとなしく解放しろ!」
そこで雄は不適な笑みを浮かべた。
丸で全てが作戦どうりに行っているかのように。