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野良猫

雄は先程買ってきたものが入っている袋をあさり、おにぎりを2つ取り出した。

「え!?ご飯それだけ?」

三神が驚いたように目を丸くさせて雄のおにぎりを見つめる。

「なんだよ…」

「いや、男の子なのに少なすぎない?」

「そーですよー!もっと食べないと大きくなれませんよ?」

「俺はあんま食わないタイプなの。ってか夢宮はもっと食いまくって育て。」

皮肉をこめてそう言うと夢宮は自分の頭に手を乗せて悔しそうに「あー!」と叫んでいる。

「おにぎりじゃ栄養とかつかないでしょ。ご飯作ったげよっか!」

「いらん。俺はこれで満足だ。」

「もぉ、照れんなよぉ、お姉さんに任せなさい!」

三神が胸をぽんと叩き自慢するように立つ。

なんでこんなに世話を焼きたがるんだろうか。

「照れてないし任せない。自分のことは自分でやるから。」

「おー!かっこいーですねー!」

歩く厄災こと夢宮が目をキラキラさせる。

「ほら、お前らもう帰れ。8時だ。」

雄がそう言うと二人は時計に視線を向けた。

「お姉さん止まっちゃおうかなー?」

「ぶち殺すぞ。」

「やん、こわーい。」

緊張感のない声でそう言うと「あはは!」と笑い玄関に向かって歩きだした。

「それでは!また明日!」

「またねー。」

そう言って出ていく二人。

玄関の外に人の気配を感じなくなると雄は大きくため息をついた。

「二度とくんな…」


翌日の放課後。

今日はあの大迷惑二人組が雄の前に現れることはなく、とても静かで過ごしやすい時をすごせた。

このまま二度と関わらないでくれるとありがたいがこちらの都合的にそうは行かなさそうだ。

そんなことを考えながらも雄は自分の部屋の解錠をしてドアノブを捻った。

ガチャと言う音と共に扉を開き中に入る。

「にゃー」

「は…?」

玄関で靴を脱いでいると後方でそんな音が聞こえてきた。

雄は恐る恐る振り替える。

するとそこには一匹の真っ白い猫がいた。

「何処から来た…?」

窓は閉めていったはずだし、扉も鍵がかかっていた。

何処から入ったかまるで検討がつかないが、雄は目の前の猫の妙な点に気づいた。

「びちょびちょ…」

その猫は身体中に水分をまとっていて、まるで風呂でも入ったかのような濡れ具合だった。

「ん…?」

雄はそこでさらに眉を潜めた。

よく耳を済ましてみると、「ジャー」と言う音が響き渡っている。

猫のことも考えると…

「シャワー?」

雄がそう言った途端、部屋の奥からどたばたと慌てた足音が聞こえてきた。

「猫ちゃーん!どーこですかー!」

この声は間違いなく、歩く厄災だ。

やがて雄の視界にも夢宮が移る。

なんでここにいる?どうやって中に入った?この猫はお前か?などと聞きたいことは山ほどあるのだがまず指摘する点は…

「…なんで裸なんだよ…」

「あ!関根さん!お帰りなさい!」

目の前に居た歩く厄災は全裸だった。

体にいくつもの水滴が見受けられ裸とシャワーの音からして風呂に入っていたのだろう。

「猫ちゃんもいました!」

「あのな…服着ろ。」

「へ?」

夢宮は首をかしげたのち、自分の体を見下ろした。

「ああ!服がない!」

「だから着ろって言ってんだ。」

夢宮は裸を見られて特に恥じらう様子もなく猫を抱えて風呂へ戻っていった。

「床が…はぁ…」

雄はその後濡れた箇所の掃除をすることになった。


掃除も一通り終わり、テーブルには雄とそれに向かい合うように座った夢宮が居た。

あと夢宮の膝に座った猫も。

「まず一つずつ聞いてこう。なんでここにいる。いや、どうやって入った。」

「鍵を開けて入りました!」

「どうやって鍵を開けた。」

「鍵を使いました?」

「その鍵はどうやって手に入れた。」

「がくえんちょーせんせーさんにもらいました!」

「学園長?」

「はい!校庭で散歩してたら泥まみれになったこの猫を見つけたですよ!そして可愛そうだったから…」


夢宮は猫を抱えて学園長室へ飛び込んだ。

「がくえんちょー!せんせー!」

「どうしたかね、夢宮くん。」

返事をしたのは気難しそうな顔をした老人だ。

「この猫が!校庭にいたんですよ!」

「ほう、それで?」

「寮で飼っていいですか?」

「いいだろう。」

まさかの即答。

「ただし、女子寮で飼うとキャーキャーうるさくなりそうだな…よし、男子寮の関根くんの部屋を使うといい。」

「ありがとござます!」


「と言うわけでして。」

「学園長…俺の平和を乱して何が楽しい…」

この場にはいない学園長に憎悪を覚えながら雄は会話を続けた。

「その流れで鍵もらったんですよー!」

そう言って鍵を見せてくる。

「はぁ…」

雄がため息をつくとピンポーンとインターホンが鳴り響いた。

雄は玄関に行き、玄関の扉を開いた。

「こんちわー。夕食おばさんでーす。」

そう言って顔を出したのはレジ袋をぶら下げた三神。

「はっ!」

「甘い!」

雄は電光石火の早業で扉を閉めようとしたが、読まれていたのだろうか、三神は足を滑り込ませて扉の間に挟めた。

「ふふーん、甘いよ関根くーん?私、そう言うの予想出来ちゃうん…だ、よ…ねぇ?痛いよ?あはは…痛いってば、ねぇ?痛い!ちょっと!本気で痛い!」

雄は三神の話の最中で扉を引く手に力を込めた。

ミシミシと言う音と共に三神の靴が潰れていく。

「ね!ごめんてば!痛い痛い!許してぇ!」

「…はぁ。」

雄はため息をつき扉を引く手を離した。

「足がぁぁ、ぁ…」

三神は涙を浮かべながら足を擦る。

この後知ったのだが三神の足にあざができていたらしい。


「ふーん猫ねー…可愛いー!」

三神が猫に頬擦りする。

「てことで、この猫の名前決めましょー!」

夢宮が拳を突き上げ「おー!」と叫ぶ。

正直乗り気ではないがこれを決めれば去ってくれるとのことなのでやむなくやることにした。

「そうね…ミルク、なんてどう?」

「いいですねー!じゃあ私はシロなんてどうでしょう!」

「ねぇ関根くんどっちがいいと思う?」

三神が訪ねてくる。

ミルクとシロ、正直どちらでもいい。

そんなことより早く一人になりたい。

「どっちでもいいだろ。」

「なによぉ、気に入らないの?じゃ、関根くんも考えてよ。」

「そうですよ!」

あーめんどくさい。

とかいっても適当な名前を提案しても終わらないだろう。

白い猫…白…光…?

「ひかりなんてどうだ?」

「おー!」

「いいわね。しっくり来る。」

「じゃー、君は今日からひかりちゃんですよー!」

夢宮がひかりを撫でながら嬉しそうに言う。

実際は人名なのだ。

昔の知り合いに白髪でひかりという名前の人間がいたのでそこからとったんだが思いの他好評だったようだ。

でも雄の部屋で飼わなければいけない関係上雄が世話をすることになるのだろう。

嫌、というわけではないが一人と一匹になってしまうのが少し残念だった。

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