孤独の許されない時間
「私は夢宮雨音です!よろしくです!」
「はいはいよろしく…」
雄がめんどくささを隠す気もなく気だるげに返すと夢宮は喜びながら走っていった。
「へぶっ!」
あ、転んだ。
教室を出る前に盛大に転けたが、さも気にする様子もなく走りさっていった。
「台風みたいなやつだな。」
雄はため息混じりに呟いた。
近くにいればうるさいし、いなければいないで静かだと思ってしまう。
まれな人種だ。
それから暫く窓の外の景色を楽しんでいると教室の外からドタドタといった荒い足音が聞こえてきた。
なんとなく嫌な予感がする。
そんな雄の勘はすぐに的中することになる。
「関根さーん!」
そう言い教室に駆け込んで来たのはもちろん夢宮。
片手に菓子パンを持ち、もう片方で誰かの手を握っている。
「ちょっと雨音!危ないっ…う、うあぁ!」
夢宮に手を引かれて教室に入ってきた金髪で巨乳の子が仲良く転けた。
「へぶっ!」
「あーあ…」
二人まとめて盛大に転けたのだ、それなりに周りの視線を集めるだろう。
無論夢宮たちは注目の的になっていた。
「おいおいまたかよ…」
「夢ちゃんまた転けてるよ…しかも巻き込んでるし。」
「さすが[歩く厄災]だな。」
どうやら夢宮は頻繁にドジをかましているらしい。
それにしてもなんだ歩く厄災って無駄に格好いいな。
「あたた…だいじょぶですか?」
「う、うん…もう、あわてちゃ駄目だって言ったのに。」
互いに手を取り合い起き上がる二人。
そして雄に近づいてくる。
やめろ来るな!
厄災を押し付けないでくれ!
そう願うが声に出せるはずがなく、雄の席にたどり着く。
「関根さん!パン買ってきました!ゆーじょーの証です!」
「…」
そう言い机に菓子パンを置く夢宮。
「君が関根くん?」
夢宮の隣の金髪巨乳少女が雄の顔を除き混むようにしてくる。
「あ、はい。」
「雨音がお世話になります。」
そう言いペコリと頭を下げてくる。
「は、はあ…」
なんだこの人は?夢宮の身元保証人か?
「関根さん!この人は私の友達でりおっちです!」
「どうも、三神里緒菜です。よろしく。」
「…よろしく…」
なんか勝手に友達紹介された…
雄がそんなことを考えているとじっと雄の顔を見つめる三神と目が合った。
「えと…なんか付いてるか…?」
「え?あ、いや違うの。整った顔だなーって。」
「お世辞は止めてくれ。好きじゃないんだ。」
「そんなんじゃないよ、ただ純粋に思ったの。…ねぇ、彼女いるの?」
三神が興味津々といった様子で目を輝かせている。
近い近い、顔が近い。
助けを求める意味で夢宮に視線を向けると夢宮はすぐにそれに気づいたが…
夢宮はニコニコしながら雄に向かって手を振っている。
意図に気づくことは出来なかったらしい。
「いない。」
「えぇ?ほんとぉ?いるんじゃないの?うりうり。」
三神は悪戯っぽい笑みを浮かべ、脇腹をツンツンしてくる。
雄は無言で席を立ち上がった。
「ん?どっか行くの?」
「…どこでもいいだろ。」
雄はそれだけ告げて教室を出ていった。
「ありゃ…怒らせちゃったかな…」
三神が頬をポリポリかきながら言う。
「でも、そうか…彼女いないのか…」
隣にいる雨音に聞こえないように呟いた。
放課後。
雄は男子寮の『203号室』と記されている戸の前に訪れていた。
「ここか。」
ここは雄がこれから高校生活をしてくにあたって拠点となる場所だ。
雄が手に持った鍵を鍵穴に差し回すとガチャと音をたててロックが解除された。
中に入り、見渡す。
部屋の大きさは一般のアパートと変わらないくらいだろう。
それにトイレやキッチンなど必要な設備は全て揃っている。
「やっぱ新しい部屋は違いますね!綺麗です!」
「だねー。お、このベッドふかふかー!」
「…」
「あ!これ!お菓子置いてありますよ!」
「おーいいねー!食べよーぜ。」
「なんでお前らがいる。」
雄がそう言うと二人は首を傾げ頭上にクエスチョンマークを浮かべた。
「なんでって関根くんの部屋を見に来たんじゃない。」
「そうですよ!やー、綺麗ですねー!」
「はぁ…帰れよ…」
雄がそう呟くが二人の耳には届かず散策をつづけられる。
やがて、散策に飽きた二人はテーブルを囲みトランプをやり始めた。
「んー…これだ!」
「あ!」
「へっへー!なめるでないぞ小娘。はい次関根くんの番。」
「…」
「ほれほれ早くひきなよー。」
「ああぁ!お前ら出てけよ!」
雄はそう叫び二人を強引に引きずり玄関へ連れてった。
「やん、関根くんったら、ご・う・い・ん。」
「わー!ジェットコースター!」
割かし本気で引きずったが、緊張感のない二人の態度で戦意が削がれた。
「はぁ…お前らなぁ…なんで男子寮にいるんだよ。」
「別に男子寮に入っちゃ駄目なんて規則はないよ?」
「だとしても普通は来ないだろ…」
「関根さんのことなら話は別ですよ!」
「そうそう。」
「はぁ…」
今日は一日のため息の最高回数を上回りそうだな…
そんなことを考えながらも「勝手にしろ」と認めてしまう雄だった。