編入
ここは自然が豊かな田舎。
辺りは畑がほとんどで建物は少ない。
そんな田舎の中心には田舎の雰囲気に背いた一つの大きな建物があった。
敷地はかなり広く田舎によくある木造の建物ではなく耐震性も抜群の都会にありそうな建物だ。
この建物は高等学校。
これと言った名称は決まっていないそうで、地元ではそこにしか高等学校がないことから『田舎高校』などと呼ばれているらしい。
この学校には学生寮などの設備や暖房、クーラーなどの機械的な設備も施されている。
そんな学校だが、田舎にあるせいか生徒がかなり少ない。
全校生徒の数が56人らしい。
「皆さーん!今日は編入生が来ましたよー!」
教卓の前に立った教師が叫ぶ。
途端にガヤガヤした雰囲気が消え、席にいる生徒たちが教師の方へ視線を向けた。
「入ってきてくださーい!」
扉の前にいた少年は教師の合図を受け、『2年』と記されている教室の戸をあけた。
少年が中に入ると、生徒たちがガヤガヤし始めた。
教師に手招きされ少年が教師の隣に立つと教師が黒板に何かを書き始める。
「はい!自己紹介を!」
「はい…関根雄です、よろしく」
そう言い雄は頭を下げる。
「はい!よくできました!ええと、関根くん、席は好きなとこに座ってください!」
教師がそう言い視線を促す。
席じたいはたくさんあるのだが座っている生徒が少ない。
ざっと20人程度といった所だろうか。
雄は一番端の窓際の席に腰をかけた。
他の生徒と一席は空いていて目立たない場所、絶好のポジションだ。
「あの…?関根くん…?そこでいいんですか?」
教師が心配そうに訪ねてくるが雄はコクりと首肯した。
「そうですか…は、はい!では授業を始めましょう!」
午前の授業が終わり、昼休み兼昼食時間になった。
雄は周りが弁当などを食べている中、一人で窓の外を見つめていた。
「ねぇねぇ雄だっけ?一緒に飯食おうぜ!」
「え…」
雄に話しかけて来たのは髪の毛をワックスで逆立てた今時流行らないであろう髪型をした長身の男だった。
こう言う人間をムードメーカーと言うんだっけか、苦手だ…
「悪いな、弁当持ってきてないんだ。」
「お?じゃあ購買でなにかかっ」
「金も持ってきてない。」
話の途中でスパッと言い切った雄にムードメーカー(仮)が唖然とする。
「じゃあ俺の弁当分けてやるからよ!」
「…はぁ」
雄は大きくため息をつき、目付きの悪い目でムードメーカー(仮)を見やった。
「お前な…他に友達いないの?一人にして欲しいんだが…」
「いるし!友達いるし!」
「じゃあそっち行けよ。バイバイ。」
雄は軽く手を振り再び窓の外に視線を向けた。
友達を作るチャンスだとは思うが生憎雄には友達と言うものは必要ない。
ムードメーカー(仮)がしゅんとした表情で去っていく。
そしてしばらくして肩にノックがあった。
雄は苛立ちに耐え兼ね立ち上がった。
「あのな、一人にしてくれっ…て…」
雄は眉を潜めた。
肩を叩かれた方向からして右側にさっきのムードメーカー(仮)がいると思っていたがその姿は見つからなかった。
それどころか人を視認できなかった。
「いない…?…うおっ!」
「うぇぇ!?」
雄が椅子に腰かけようと腰を下ろした直後視界に人が写った。
突然のことに声をあげてしまい、そこにいた人も驚かせてしまった。
雄は目の前の人をまじまじと見つめ分析した。
女?茶髪にカチューシャ…童顔…貧乳…
「ちっさ!」
「ひ、ひどいです!」
「あ、悪い…」
雄は申し訳ないことをしたと反省し頭をさげた。
人間の身体を悪く言うのは良くないと姉に耳が腐るほど聞かされている。
それにしてもあまりの小ささにまだ驚いている。
何せ座った雄とその少女の目線の位置がほぼ同じなのだ。
正確に言えば少女のほうが少し高いのだが…
「関根くん!…ん?関根さん…?…はっ!関根くんさん!」
「足し算すんな。」
どうやらこの子、頭がちょっとアレな子のようだ。
「関根さん!私とお友達になりましょー!」
お調子者といった様子で元気に拳を突き上げる。
うん、苦手だ。
「やだ。」
「え!」
しまった、オブラートに包むの忘れてた。
断るときは相手を傷つけないように、これも姉さんの教えだ。
「だいじょーぶですよー!私そんなに迷惑かけるタイプじゃありませんし、きっと良き親友になれると思います!」
「現時点で大迷惑だ。早急にお引き取りください。」
「え!それって!お友達として関根さんを引き取って良いってことですかー!」
あーダメだ、こいつアレだ、正真正銘のバカだ。
「はぁ…もう勝手にしろ。」
「わーい!やたー!」
これからこいつと過ごすことを考えると背筋に悪寒が走った。