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第二章 十二話目「仮面幼女と虚構少女」

 メビウスとアニー、そして急遽メンバーに加わることになったインフェルノ。


 メビウスたちは今冒険者ギルドで依頼を受ける手続きを終わらせて、今回の依頼を受ける場所、王都の隣に隣接している魔族の生き残りたちが密かに暮らしている土地へと向かっていた。


「メビウスさん、メビウスさん」


 三人で歩いていると、突然アニーがメビウスに話しかけてきた。


 しかし、隣にいるアニーの顔を見るとアニーは先に前を進んでいるインフェルノを見ていて、メビウスがアニーの方を見たことにすら気がついていない。


「ねえアニー、ついさっき――」


「ストップ! 少し待ってくださいメビウスさん! 詳しい原理を説明すると長くなるのでカットしますけど、今ボクはメビウスさんだけに声が聞こえるように話してます。インフェルノちゃんがいる中で話す方法がこれしか思いつかなくて……これならボクの声をメビウスさんには伝えられるけど、メビウスの声をボクだけに伝えるのは無理で」


 そこで一旦アニーの声が止み、相変わらずアニーはインフェルノを見たまま、


「次からはいつものアンカウンタブルの声で話しますから、アンカウンタブルの声が聞こえたらそれはメビウスさんにしか聞こえていないと思ってください。それでは一旦会話を終えます」


 宣言通り話はここで終わり、何事もなかったかのようにメビウスたちは移動を続ける。


 そして、少し長い移動を終えてメビウスたちは王都と魔族の地の境界線に到着した。


 境界線を守る強固な壁が見えた時点で見えていた警備員たちは、近づいてくるメビウスたちを最初は警戒して武器を構えていたが、途中で武器をなおして姿勢を正してメビウスたちを待つように立っている。


 メビウスたちはその警官の手前で止まり、


「お久しぶりでございますアニー様、インフェルノ様、それと……」


「はじめまして、メビウスと言います」


 この時点で、メビウスは警官の態度が移動の途中で変わったのかを理解する。


 おそらく、初めは誰が境界線に近づいているのかわからなくて警戒していたが、アニーかインフェルノのどちらかがわかった時にメビウスたちが依頼を受けに来たとわかって態度を改めたのだろう。


 アニーもインフェルノも、きっと人間の間でかなりの実力者として認識されているだろうから、二人が魔族の脅威を追い払うことでより王都は安全になる。


 そんな二人が境界線にくる理由なんて、やはり魔族関連の依頼を受けるぐらいしかないのだろう。


 どうやらメビウスのこの予想は的中していたみたいで、


「それでは、依頼の紙を見せていただきたいのですが」


「はい、これがその紙よ」


 先頭にいたインフェルノが警備員に紙を渡し、警備員はしっかりと依頼の内容を読んでインフェルノに紙を返した。


「グラシャラボラス・ブレイバーですか……確かに本当に生きているというのならいち早く倒して欲しいですが、本当に生きているのでしょうか?」


「そんなの知らないわよ。ただ、もし本当に生きているのなら倒せばいいし、それに……」


 警備員たちの目線がインフェルノの右後ろにいたアニーの方へと集まり、警備員たちの表情に納得の色が浮かんだ。


 きっと警備員たちも、メビウスたちがグラシャラボラスの依頼を受ける理由が、アニーの父親代わりの魔族を探すためだと理解したのだろう。


 警備員たちは門の取っ手を押して、とても重そうな門をゆっくり開いた。


 そして警備員たちはメビウスたち三人に、


「「それでは、また無事で会えることを神様にお祈りします!」」


「そんな毎回毎回一生懸命祈らなくても、わたしはちゃんと帰ってくるわよ? まあ、アニーは別としてそこの黒髪の無事だけは祈った方がいいかもしれないけど」


「メビウスさん、なんか凄いややこしい言い方してるけど、フェルは警備員さんたちが無事を祈ってくれていることをありがたいと思っているし、遠回しにメビウスさんの心配もしてるからね」


 アニーの言葉にはインフェルノは何も言わずに、スタスタ歩いて行ってしまう。


 そんなインフェルノにアニーは「やっぱり可愛いなぁ」なんて言いながら追いかけて、そんなアニーをメビウスは追いかける。


 再び三人が合流して、少し先に見える森を目指して歩いて行く。


「あの、インフェルノさん」


「ん、王都に帰りたくなったの? 帰るなら一人で帰ってよね」


「いや、それはしませんけど……その、アニーとインフェルノさんはどういったかんけいなんですか? アニーはインフェルノさんのこと自称ライバルとか言ってましたけど」


 メビウスがそう言うと、インフェルノは一度メビウスを睨んでから、


「ただの似たような実力だから協力することが多いだけ、それ以外に何もないわ。それと」


 インフェルノはため息をつくと、


「フェルで良いわ、インフェルノっていちいち呼んでいたら面倒くさいでしょ?」


「自分の名前を言うのが面倒くさいとか言って大丈夫なんですか?」


「だって、インフェルノってそれ本名じゃないもんね」


「えぇ!? そうなの!?」


 メビウスの心配は思わぬ形で無用となり、でもメビウスはその言葉をそのまま信じることができなくて、


「ええ、本当よ。わたしの行っている魔術学校は本来在学中に冒険者になるのが禁止なの。だから、仕方なく」


「それ、大丈夫なんですか?」


 メビウスの心配が無用だったことは飲み込めたけど、それとは別に心配することが出てきてしまう。


「それに関しては大丈夫よ。冒険者になったのは学園長から声をかけられたからだし、偽名を使っているのは同じ学園の生徒に色々言われないようにするためだから」


 インフェルノはものすごい才能を持っているんだろうなあ、と思いながらこの会話を終わらせた。


 こうやって話している間にもう森の中に入っていて、足場の悪い場所や草木を掻き分けながら奥へ奥へと進んでいく。


「そういえば、インフェ――フェルはどうやってグラシャラボラスを探すの?」


「どうせいつもフェルは何も考えてないでしょ」


「え?」


「はぁ……つまらない嘘をつくんじゃないわよ。こういう捜索には探し方ってものがあるのよ」


 冗談を言ってメビウスをからかおうとしたアニーに、インフェルノは白い目を送ってから何も知らないメビウスに説明を始めた。


「まず、もしあなたがこの地域に住む魔族だったらどこに住みたい?」


「……なるべく王都から離れたところかな?」


「でしょ? だからまずはある程度奥まで行くわ。そして、探す魔族の種族ごとに適した環境がある場所を探すんだけど、今回は――アニー!」


「どうしたの?」


「あなたの探している魔族はどんな場所が好みだったの?」


「うーん、どこだろう? ずっとあの場所にいたから……あっ、でも、引越しをするなら山の中が良いって言ってたかも。その時はボクがあの家じゃないと嫌だ! って拗ねたんだっけ?」


「あなたのそんな過去の話には興味がないわ。なら、今回は山をメインで探しましょう。確か、魔族を見かけたのはあっちの一番高い山の近くって依頼主が言ってたわね、だからまずはあの山にしましょう」


 そう言うと、インフェルノは少しスピードを上げて進んでいく。


 確か、グラシャラボラスはメビウスたちと戦う前にあの一番高い山の中の遺跡で過ごしていたとも言っていたので、おそらくインフェルノの予想は正解だ。


 ただ、全てを知っているアニーによる誘導による部分が大きいのだが。


 話はまた一旦ここで終わり、メビウスの耳には草木を掻き分ける音や地面に落ちていた枝を踏んで折ってしまった音しか入ってこなくなった。


 それが凄く寂しい気がして、


「そういえば、アニーがフェルを紹介する時に自称ライバルって言ったけど、どうしてそう紹介したの?」


「あ、あれのこと? 別に冗談のつもりで適当に言っただけなんだけど……」


 話を止めないするようにメビウスは一度忘れられた話題を挙げて、どうやらアニーは困ってしまったようでそんなときにするような表情をしている。


 まさかメビウスがこの冗談に深く質問をしてくるとは思わなかったのだろう。


 この話題が失敗に終わったことを残念に思いながらメビウスは、


「じゃあさ、アニーはフェルの事を本当はどう思っているの?」


「フェルの事? うーんそうだなぁ……出会うべくして出会った運命の人、かな?」


「気持ち悪いわアニー、あなた同性趣味だったの? ごめんだけどその変な趣味にわたしを引き込もうとしないでくれる?」


「いやいやいやいや、そういう意味じゃないんだよフェル。そう意味じゃなくてね……」


 アニーは少しの間何かを考えると右の頬を指で掻いて、


「なんて言うんだろう、もし神様がぼくたちの事を見ていたのならわざと出会わせるように仕向けているみたいな……ここで出会っていた方が出会わない方よりも数倍変わるみたいな……」


「何を言ってるかまったくわからないわよ、もう少しわかりやすいように話しなさいよ」


 前で進んでいるフェルの冷静なツッコミに、アニーは何故か少し苦笑いしながら「ははは……」と声を漏らす。


「運命の人って言っても様々な種類があるでしょ? この言葉は将来結婚をして一生を共にする人に良く使われるけど、他にも人生の師匠とか、親友とか、いっぱいあるでしょう?」


「ふーん、じゃああなたはわたしの事をどう思っているのかしら」


「そうだね、腐れ縁かな?」


「それ、運命の人って言うの?」


「普通言わないだろうけど、きっとボクとフェルならそう言うんじゃない?」


「それできちんと説明できたと思っているのなら言わせてもらうけど、あなたの言ったこと全然わからないわよ?」


「まぁまぁ、要はボクはフェルちゃんの事を愛してるってことだよ!」


「やっぱりそういう趣味じゃない! こら! わたしに近づくなぁ!」


「……あれ? なんかぼくの事忘れられてない? ちょっと待ってよ二人とも!」


 足場の悪い森の中を走ってゆく女の子二人、そしてそれに追いつこうと走る男の子一人。


 ここが魔族の住む地域だということも忘れて追いかけっこをする少年少女三人は、


「追いかけるのお疲れ様、止まってくれない」


「グヘェ!?」


 最後尾を走っていたメビウスの腹にフェルの強烈な蹴りが入り、メビウスは思わず叫びながらその場で倒れこむ。


 そんなメビウスにアニーは「ふん、弱い男ね」ととんでもないことを言いながら見下し、


「予定変更よ。本当は山を登る方法を捜す予定だったけど、見た感じそんな道はなさそうだし何故かこんなところに遺跡があってここから山の中に入れそうだから、いまからここを調査するわ。だからさっさと立ちなさい、黒髪」


「いきなりフェルみたいな女の子に蹴られて、こんな痛みがするかよ……」


「あら? わたしはもう十四歳なんですけど」


「それでも、この威力は、おかしいだろ!」


 メビウスは気合で何とか立ち上がり、少し先に進んでいったフェルとアニーの後について行った。


 床や壁や天井は全て石でできていて、それらは明らかに自然のものではない。


 メビウスたちはそんな場所をフェルが魔術で生み出した火を明かりにして進んで行って、


「あら、これは……」


「どうやら、侵入者を防ぐための謎解きみたいだね。どうしようか?」


 グラシャラボラスを探す旅、その旅の初めの試練がメビウスたちに立ちはだかった。

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