第二章 十一話目「仮面幼女の取引」
前回までのあらすじ!
(ネタバレ豊富、要注意)
「魔王の勇者」として人間と魔族が平和に共存する世界を作ると決めたメビウスは、その一環として四天王のアンカウンタブル(アニー)と共に人間領王都の近くにある魔族の住む場所で、静かに暮らし逆襲の時を待ち続ける元四天王のグラシャラボラスを探すことに。
途中ハプニングもありながら、アンカウンタブルの手助けもあって「魔族掲示板」という魔族に関係する依頼が全て集まっているものを見ることができ、アンカウンタブルの思いつきでアニー・ガリッヂという少女の過去を聞いていると、突如謎の少女がやってきた!
突如現れた謎の少女。
いや、その女の子は少女と呼ぶにはまだ若すぎていて、女の子の体は普通の男の子が八歳になった時までの大きさまでにしか成長していない。
男の子と女の子で成長する速度が違うことも考えたら、だいたい十歳くらいだろうか?
おそらく「幼女」という言葉がぴったり当てはまる。
その幼女は赤色の髪を肩にかからないくらいまで伸ばし、動きやすそうな冒険者向きの女の子用の服に身を包みながら、幼女の身長より長い杖を持ってメビウスたちを見ていた。
ここまで話せば、イヴの髪を赤色にしたみたいなイメージがするかもしれないし、メビウスも少しそう思うところがあった。
ただ、イヴとは決定的に違うところが一つあって、
「あら、アニーじゃない。最近見かけないと思っていたらその隣にいる男とイチャイチャしていたのかしら? 彼氏ができたのならさっさと危険な冒険者なんてやめたらどう?」
イヴとその幼女の違い、それはイヴが人と話すよりも前に人を見かけただけでびくびく震えてしまうのに対し、その幼女は何故かつけている仮面の隙間から見える目で、メビウス達を見下すようにしているというところだった。
そんな、イヴと見た感じは似ていても中身は正反対なその幼女。
その幼女の態度にアニーは腹が立ったのか、憤怒の表情を浮かべて幼女に近づき、目の前に移動して、
「フェル! いやー、ボクも君に会いたかったんだよ、でも冒険者と別にやっている仕事が忙しくてね……ほら、久しぶりにスキンシップでも」
「それはスキンシップをし始める前に言え! こら! 髪を触るなほっぺたをいじるな!」
「あ〜、やっぱりフェルちゃんはかわいいなぁ〜」
「だ、か、ら、触るな!!」
偽物の怒りの表情を止めて笑顔になりながら、フェルと呼ばれた幼女の背中に回り込んでスキンシップをするアニーに、フェルは持っていた杖を使って魔方陣をアニーの顔の真正面に作り出す。
おそらくそれを「これ以上スキンシップをするなら本気で抵抗するぞ」などのような脅しと受け取ったアニーは、ようやくフェルから離れた。
ゼェ、ハァ、と荒い息をするフェル。
メビウスは隣に戻ってきたアニーを見ながら、
「えっと……この人は?」
「あ、紹介するね。この子はインフェルノちゃん。ボクの唯一の女の子で冒険者をやっている仲間で、自称ボクのライバル兼ボクの知っている中で一番の火魔術の使い手だよ」
「えぇ! この歳で!」
「嘘はついてないよ」
メビウスは驚きのあまり本名をインフェルノという、少し物騒な雰囲気のする名前の幼女をマジマジと見てしまう。
アニーの知っている火魔術の使い手がインフェルノしかいないから、という理由で一番だ。
なんて冗談もアニーなら言ってきそうだが、アニーの正体は魔王軍偵察部隊隊長アンカウンタブル。
彼の仕事には日頃からの情報収集も含まれており、当然人間側の強力な魔術使いを何十人と知っているはずで、その中で一番だとアニーは断言したのだ。
もしかしたら、インフェルノの実力は魔王軍四天王クラスの実力者に匹敵する可能性だってある。
事実として、かつて勇者だった頃のメビウスの仲間で最強の魔術使いだったメランコリーは、メビウスたちと協力していたとはいえ、実質一人でアンカウンタブルを倒すことができた実力があった。
「ねぇ、そこのわたしのことをじろじろ見ている変態ロリコン黒髪」
「――! ごめん! 人をじろじろ見るなんて失礼だよね」
「それもあるけど、わたしが本当に言いたいのはあんたがわたしのことを「この歳で」って言ったけど、わたしのこと何歳だと思っているのよ」
インフェルノがメビウスの発言に対して、絶対零度も凌駕しそうなほど冷たい目でメビウスに質問をしたことに、メビウスはやってしまったと自分の発言を後悔した。
一度経験したことがあるから分かるのだ。これは実年齢より容姿が幼いため、他の人に何度も実年齢より幼く見られてしまっている人だ。
ついでに、絶対にインフェルノは怒らせると手がつけられなくなると思われる。
理由は、アニーが一番だと断言する程の実力の持ち主で、なおかつさっきアニーに遠慮なく魔術を放とうとしたこと。
そして、メビウス自身の経験則だ。
なので、ここではメビウスが思った十歳くらいという想像をそのまま口にすれば、何が起こってもおかしくはない。
メビウスはそんなことになるのを避けるために、真剣かつ速やかに言うべき答えを考え、口にした。
「……十、四歳くらい?」
「誤魔化そうとしているのがバレバレだけどまあ良いわ、わたしの言いたいことに気がついたのだから許してあげる」
どうやら上手いこといったらしく、メビウスは心の中でホッと安堵の息をついた。
すると、隣にいたアニーが、
「メビウスさん、凄くわかりにくいけどあれでもフェルは本当の年齢を言ってもらえて喜んでるだよ」
「どうしてそんなことを言えるのか、いつも不思議に思うんだけど。それと……その黒髪はメビウスという名前なの?」
「そうですけど……どうかしました?」
あれだけアニーやメビウスに色々言っていたインフェルノが急に黙り込んでしまい、メビウスは驚きながらインフェルノが考え終わるのを待っていた。
そして、インフェルノはその疑問に対する答えが得られたのか、
「それで、あなたたちは何の用でここに来たの? まぁ、今さら聞く必要はない気がするけども」
「そう、ボクは今日もあの人を探してここに来たよ。で、メビウスさんは予定がなかったみたいだからボクが連れてきた」
メビウスはアニーの言う「あの人」が誰だかわからなかったが、少ししてそれがアニーの過去に出てくる、偽のアンカウンタブルのことだと気がついた。
無駄にきっちり細かいところまで決められたアニー・ガリッヂという虚構の少女の設定の中で、アンカウンタブルはアニー・ガリッヂのの英雄であり父親代わりである。
だからアニーは今生死不明という設定のアンカウンタブルを見つけるために必死になって魔族関係の依頼を受けている。みたいな設定なのだろうか?
メビウスがそんなことを考えながら話を聞いていると、インフェルノは突然不敵な笑みを浮かべた。
本当にいきなりだったので、メビウスたちは驚きを隠せずに頭の上に疑問符を浮かべていると、インフェルノは両手を腰に当てて、
「実は、あなたが探している魔族に関する依頼と思われる依頼を一昨日見つけたの。その依頼を、他のわけのわからない奴に取られないようにわたしの方で預かっていたけど、今日ここに来たらあなたがここにいるってわかって届けに来たのよ」
「えぇ!? 本当に!?」
インフェルノの思わぬ吉報に驚く演技をするアニー。
アニーの驚きが演技なのは仕方がない。何度も言う通りアニー・ガリッヂの過去は偽物であり、アニー・ガリッヂが探している設定の魔族の正体は、アニー・ガリッヂを演じている魔族なのだから、その魔族の居場所は今アニーがいる場所でありそれ以外は全て間違いである。
だからおそらくアニーは上手いこと誤魔化さないといけないな、など思いながら話を聞いていて、
その直後、その思考が全て無駄になった。
「これ、内容は最近あの魔族が生き残っている地域に行った人で十七年前の剣聖戦争を実際に経験した人が、山であの元魔王軍四天王のグラシャラボラス・ブレイバーを見たって大騒ぎしてね」
「でも、剣聖戦争で剣聖に負けて死んだあいつが生きているわけがないでしょう? でも、その人は本当に一度剣聖戦争でグラシャラボラスと戦った人だから見間違いだって切り捨てるわけにもいかず、で、とうとうグラシャラボラス捜索の依頼が出たわけ」
「でね、大事なのはここからよ。死んだはずの魔族が今あの山で発見された。しかも見間違えなんかじゃない。なら、それは変身という力を持ち生まれるスライムである、あなたが探している魔族が変身したのを依頼主は見たんじゃないか。そう思ったのよ」
「「あっ……」」
メビウスとアニーが小さく言葉を漏らしたのに気がつかないまま、インフェルノはドヤ顔をしながらポケットから取り出した依頼の紙を見せつけて、メビウスたちを見上げていた。
そんなインフェルノに、アニーは微妙に隠しきれていない動揺をチラつかせながら、
「イ、インフェルノ? 見つけてとっておいてくれたことには凄く感謝してる。本当にありがとう。じゃあ、さっそくその紙を渡し」
「わたしが何の利益もないようなことをすると思う?」
アニーがインフェルノから取ろうとした紙はアニーが取ることなく、インフェルノの紙を持った手がアニーの手から逃れるように離れていった。
そしてインフェルノは紙を持っている手と逆のての中にあった杖を突きつけて、
「取引よ、わたしはあなたにこの依頼を受ける権利を譲ってあげる。その代わり、わたしもこの依頼に同行させなさい!」
そう言われると同時に、メビウスとアニーは隣にいた互いの目を見る。
思っていることはきっと同じだろう。
……これ、どうしよう?
インフェルノが一体どんな人かは知らないが、同行することで色んな問題が発生することははっきりと目に見えている。
例えば、インフェルノを同行させると、メビウスたちはグラシャラボラスの前で実は僕たち魔族です。と言えないのでメビウスたちが人間の集団と思われて攻撃される可能性。
他にも、もしインフェルノの目や耳を盗んでメビウスたちが魔族だとグラシャラボラスに伝えることができても、インフェルノだけは人間なので彼女が危険な目にあう可能性があるとか、考えれば考えるほど尽きることなく問題点が浮かび上がってくる。
「ねぇあなたたち。何でそんなに悩んでいるのかは知らないけど、わたしは別にその魔族と戦いたいとかいうわけじゃないわ。一つその魔族に聞きたいことがあってそれを聞きたいだけ。わたし一人でその魔族に会ったら殺されるかもしれないじゃない」
「あの……質問さえ教えてくれたら聞いておくけど……」
「はぁ!? 残念だけどわたしはあなたがその魔族と再会できたところできちんと質問して後でその答えを教えてくれると信じられるほど信用してないから。それに、わたしは『果報は寝て待て』ってやつが大嫌いなの。わかってるでしょ?」
アニーの抵抗も虚しく、インフェルノは何があっても同行するという意思を曲げないらしい。
果たして、この膠着状態をどうすれば良いものか……。
「諦めましょう、こうなったフェルちゃんを止めるのは無理です」
「え、諦めるの?」
ここからどうやってインフェルノを説得させるのかを考える少し盛り上がる場面なのに、アニーのまさかの発言で台無しになってしまう。
「だって、どう頑張ってもインフェルノちゃんに言うその人ことを聞かせるのは無理だもん」
「無理だもんって言われても……」
正直、納得がいかない部分が結構あるがアニーの言葉をメビウスは素直に受け入れることにする。
それは、先程の「無理だもん」は「長い付き合いがある自分でも無理なのだから、今インフェルノを止めるのは誰だって無理だもん」という意味が含まれている気がしたからだ。
「じゃあ決まりね、この依頼を黒髪が受けるのは想定外だったけど、せいぜいわたしの足を引っ張らないことね」
かくして、何の前触れもなく謎の仮面幼女、インフェルノがメビウスたちと行動を共にすることとなった。




