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第二章 九話目「アニー・ガリッチ設定、あれ、こっちも幼少期では? 編」

 突然アニーの前に現れたフードを被った男の人。


アニーはあの悪夢を作った元凶であるあの人を知らないのと同じようにその人を知らなくて、なぜここに来たのかもわからなくて――、


「あれ? あれれ?  あれれれれぇ? なんで、君が、魔族が、ここにいて、その力を使って、俺の邪魔を、アニーちゃんを助けようとするのかなぁ? なぜ? どうして? 理由は? 原因は? 不思議、不可思議、摩訶不思議、意味不明、理解不能。説明してくれないと納得いかないなぁ?」


 アニーは、男の発言に違和感を感じてついさっき男に掴まれたはずの手を見てみると、


「あれ……? 手が離れている……」


 それに気づいた直後、アニーは男がアニーから離れていて今はアニーを男から庇うようにフードを被った男がアニーと男の間に立っているのを見た。


 それだけではない。


「魔族……」


 悪夢を作った方がフードを付けた男に言ったその言葉。


 アニーがフードの男を見ると、確かにフードの男は人間とは言えない姿をしていた。


 フードの男は背中しか見えないが、少なくとも両腕の先に両手がない代わりになぜか手袋だけが両腕から離れた位置に浮いており、何の種族なのかはわからないがそんな本来ありえないはずのその容姿がフードの男がそのあり得ないを現実にする魔族であると証明している。


 しかし、悪夢を作った男が言うように魔族がここ――人間領にいるのはおかしかった。


 人間と魔族は三百年くらいずっと戦争を続けていて、人間と魔族が会うことができるのはその戦争の戦場となった場所だけで人間領王都は今の戦争の戦線から一番離れた場所に位置しているのでそんなことはあり得ない。


 もし、それとは別の可能性があるのだとしたら、王都のすぐ近くにある魔族が住んでいると言われている山岳地帯から魔族がやってきた可能性が挙げられるのだが、王都と山岳地帯の境界線はかなり強い兵士たちがいつも見回りをしているのでまずそんなことはあり得ない。


 なら、なぜフードの魔族は人間領にいて、何のためにこのガリッヂ家にいるのか。


「……君と同じ理由。と言えば通じるんじゃないかナ?」


「へぇー、そうなんだ! で、納得すると思う? 俺は生きていくためのお金を稼ぐための仕事をしているだよ? しかも依頼主はかなりの金額を払ってくれるんだぁ……そのお金があればしばらくは遊んで暮らせるくらい! 冗談抜きでね。『だから、ささっと帰ってくれないかなぁ?』」


 今度はフードの魔族にかけられた言葉なのに、関係ないアニーでさえ悪夢を作った男のそれだけで人を殺せてしまいそうな殺意を込めた言葉に恐怖がこみ上げてきた。


「……」


 それなのに、フードの魔族は動揺した素振りさえ見せずに宙に好き勝手に動いていた手袋を構えると、


「どうやら、言葉で話しても無意味っぽいしもう力づくで奪い合いでもする? 僕は別にそれで良いけド」


「ふーん。じゃあ、『殺す』」


 戦闘の開始は、本当に突然だった。


 悪夢を作った男の方の殺害宣言がなされた瞬間に、男は持っていた包丁を構えながらフードの魔族に目にも留まらない速さで突進してきた。


 あんな速度の攻撃に対応できるはずがない、あのフードの魔族は勝てない。


 アニーはその攻撃を見た瞬間そう思って、でも悪夢を作った男の速度が速過ぎて「逃げて!」と叫ぶこともできなくて、


 だから――、


「――ぇ?」


「――は?」


 男の攻撃が魔族に直撃したと思った直後に魔族の体がゼリー状に変形して男を呑みこんだとき、奇しくもアニーと男が抱いた感情は驚愕で一致していた。


「――! ――! ――! ――――! ――――――! グバァ!」


 しかし、アニーがただ驚いているだけだったが男にとっては生死にかかわる一大事で、必死にこのゼリーの中から脱出しようと試みていた。


 でも、何度どのように脱出を試みても男が脱出する事はできなくて、とうとう男はゼリーの中で呼吸ができなくなり、悲鳴を超えた何かをあげてもがき苦しんでいた。


 アニーは魔族がおそらく返信のできるスライムなのだろうと正解に気付きながら、今度は魔族の方に恐怖をしていた。


 それには、三つ理由があった。


 まず、アニーが先程まで最強とすら思っていた男を一瞬で無傷で破ることができる実力をその魔族が持っていること。


 次に、その実力の持ち主が魔族の最弱種であると言われているスライムだったこと。


 最弱種であるスライムでさえこの実力なのなら、他の強力な力を持つ種族の魔族ならどれほどの力を持っているのだろうか?


 それこそ、たった一人ですべての人間を倒せる実力の持ち主がいてもおかしくはないのでは……


 そして最後に、その魔族はここに来た理由をあの男と同じ理由と断言したことだ。


 すでにあの男がここに来た理由はあの男本人が言っていた、アニーを誘拐するためだと。


 なら、これからあの魔族はアニーを誘拐するつもりで、そうなれば今度こそ本当にアニーの誘拐を止められる者はいない。


 アニーは誘拐されるとどんな目に遭うか、父親や兄からこう聞かされていた。


「誘拐されるとな、その場所で誘拐した奴から持っている者を全て奪われて、寒い牢屋の中で一人さみしい思いをしながら何度も何度も数えきれないほど辛い思いをして、いつその生活から抜け出せるかもわからない永遠の様な時間を過ごすことになる」


 そんな生活をアニーが耐えられるとは思えなかった。


「……思ったより弱かったナ」


 突然、魔族は男に想像できないような苦痛を与えていたゼリーの姿から最初にアニーが見たフードの姿に戻ってこの戦いとも言えないくらい一方的な試合を終わらせると、後ろで何も言えないままただただ立ち尽くしていただけのアニーの方を振り返った。


 後ろ姿だけでは手と腕が繋がっていない事しかわからなかったが、正面から見ると魔族は顔も無くてフードを被っているおかげでだいたいこの位置に顔があるんじゃないかと言うことは分かる。


 一歩だけ魔族は進んだ。


 ただ、足が地面に着く音はせずに代わりに魔族の服が引きずられて地面とこすれる音がする。


 アニーには、それがアニーに対する死刑宣告へのカウントダウンの音のように聞こえた。


 一歩、また一歩と魔族はアニーに近づいた。


 アニーと魔族との距離は残り三歩。


「……わたしを誘拐して、どうするつもりなの……?」


 アニーがアニーに残された勇気を振り絞って言った言葉。


 それはただの虚勢で、体は恐怖で震えていて今にも気を失ってしまいそうで、声も少し震えていた気がする。


 一歩、魔族はアニーの質問には答えずに一歩だけアニーに近づいた。


 距離は残り二歩。やはり魔族はアニーの質問に答えない。顔がないから表情で魔族の感情を推測することも一切できない。


 一歩、魔族はまたアニーの質問を無視して一歩距離を詰めた。


 残りの距離はたった一歩だけ、たった一歩魔族が進んでアニーを捕えるだけでアニーの辛い生活は確定する。


 そして、アニーにこの魔族から逃げ切る方法はない。だから、死刑宣告を受け入れる以外の方法はない。


 ついに、その時はやってくる。魔族は無言でアニーとの最後の距離である一歩を詰めた。


「……へっ?」


「……ごめんネ、君の家族を守れなくテ……!」


 確かに、魔族はアニーと魔族の間にあった最後の距離を詰めてアニーを捕えた。


 しかし、アニーを捕える寸前に魔族はアニーの目の前でしゃがむとそのままアニーを抱きしめて先程の言葉を口にしたのだ。


 アニーはこの状況を理解することが出来なくて、心の中が竜巻が起きた時の天気のように荒れまくる。


 でも、アニーはこの訳のわからない混乱状態で両方の目から雫が流れ落ちたのをしっかりと感じた。


 それはゆっくりと、しかし段々と流れる雫の量が増えて行ってしまいには滝のように涙がすごい勢いで流れ落ちて行った。


 その理由を、アニーは遅れて理解する。


 アニーを抱きしめた魔族と触れたところから感じる、冬場の暖炉のように温かいぬくもり。


 それは、いきなりこの家にやってきて両親を殺し兄をアニーの目の前で殺し、アニーを誘拐しようとしたあの男のせいで恐怖に怯えて氷のように冷たくなっていたアニーの心を溶かして温めて、


「よしよシ、怖かったよネ? ごめんネ、ごめんネ――」


「――!」


 そして最後に魔族がとても優しくアニーの背中を撫でてくれて、アニーの心を守っていた感情の波の反乱を抑える堤防は崩れて、アニーはしばらく優しくなでてくれる魔族の体を抱きしめながら子どものように泣き続けた。




――――――――――――――――――――



「……」


「……」


「……」


「……どこに行くの?」


「ぼくの住んでるとこロ、結構いい場所だヨ。君が住んでいたところみたいに豪華じゃないんだけど、その代わりに自然がいっぱいあってだけどなんでか狭く感じない不思議で居てて心地の良い場所なんダ」


「そうなんだ……そこには、その……他にもあなたみたいな魔族がいるの?」


「なんだ、それを心配してたんダ。確かに他の魔族は人間を親の仇のように嫌っているけど、安心して、ぼくの住んでいるところはぼく以外に魔族も、もちろん人間もいないかラ」


「……、……、ずっと一人だったの?」


「……痛いところつくネ、正解。ぼくはずっと一人でそこで過ごしてるんダ! 良く分かったね……人間の子はやっぱりみんな賢いのかナァ……?」


「……寂しくないの?」


「……それは一人ぼっちの人に聞いちゃいけない質問だヨ。まぁ、大丈夫かな? 大切な人との思い出がいっぱいあるかラ……」


「大切な、人?」


「そう、大切な人。ぼくの、今でもふと思い出せば寂しい時でも乗り越えさせてくれるような人」


「へぇ……」


「聞いといて、その反応はないよネ?」


 アニーは、その魔族が不満そうにしているのを無視して魔族の進む道について行く。


 まだ歩いて数分しかたっていないが、ここが本当に人間領の中で一番の都会である王都の近くなのかと疑いたくなるほど草木が生い茂っている。





 ――こんな近くに魔族が人間の監視の目をかいくぐって過ごしていられるのなら、王都が魔族に奪われる日も近いのではないだろうか?


 アニーがそう思ったのは、隣を歩く魔族がアニーに、


「はイ、ここがぼくの家!」


 と、アニーが魔族との会話を終わらせてすぐにそう告げたからだった。


 洞窟の中に埋め込んだように建っている木の家で、床には長い蔓を持つ植物たちが壁にひっついている。


「え、本当にここなの?」


「うン。そうなんだけど……何かダメかナ?」


「え、そうじゃないけど……」


 どうしてこんな場所に住んでいるのか、とても優秀な人たちの監視をくぐり抜けてここで無事に住めているのか、なんでこんな洞窟の中に建物が建っているのか。


 アニーが疑問に思った事は沢山あったけど、


「……あっ、そういえば名前言ってなかったっケ? ぼくはアンカウンタブル、よろしくねアニーちゃン!」


 なんでアニーの名前を知っているのかと、思い出せば当然のことにようやく気がついてアニーのアンカウンタブルへの印象はそんなに良くなかった。



――――――――――――――――――――



 さて、実はここからアニーとアンカウンタブルはこの家で長い間過ごすことになるのだが、アニーの命の恩人となったアンカウンタブルへのアニーの気持ちは、アンカウンタブルと過ごす時間が経てば経つほどどんどん増えていって、その過程については長い長い時間が作り上げた産物なので、今回は語らないことにする。


 ただ――、


「ボクの名前はアニー! アンカウンタブルなんて、めちゃくちゃかっこよくて正直そんな名前でも良かったかもしれない名前じゃない!」


 実は、メビウスをかなり困惑させたこのセリフは実はアニー・ガリッヂの設定に基づいていたのだと誰が予想しただろうか。


 



 ――そして、ついにアニー・ガリッヂの過去(設定)は現実とクロスする!









まさかの、アニー・ガリッヂの過去編は中編へ突入しました。


次回、ついにアニー・ガリッヂがなぜあんなに人気になったのか判明!

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