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第二章 六話目「アニー・ガリッヂロス事件」

「……いや、どうしてこうなった」


 メビウスは合計三十戦にも及ぶ戦いを終え、汗の浮かんだ額を拭く。


 さて、おそらく「黒目黒髪で(多分)強い人」とみんなに思われたメビウスと、そのメビウスに対するアニーの態度からアニーの惚れている相手がメビウスだとみんなが思った結果、なぜか突然始まってしまったメビウスとギルドにいた人たちとの対決。


 その結果が果たしてどうなったのか、その結果を過程とともに振り返っていきたいと思う。



――――――――――――――――――――


 第一戦目


「僕の名前は********! (名前は忘れた)アニー様を奪おうとする者はこのわたしが許さない!」


 その男が意気揚々と名乗るのを見て、メビウスは本当に面倒くさいことになったと思った。


 この人がアニーに向ける思い、愛はきっと本物だ。なぜなら、彼のメビウスを見る目が完全に恋敵を見る時のそれだからだ。


 彼の実力は分からないが、決して油断することは許されない。


 相手の実力がわからないのに、自分の先入観で勝手に相手の実力を判断したまま相手と戦った時に相手が自分の予想よりも強かった場合、それによって発生してしまう驚愕が戦闘中の判断を遅らせたり間違いに導く可能性がある。


 だからメビウスは腰に下げている剣に手を伸ばして、


「……」


「どうした貴様、わたしに怖気ついたのか?」


「いや、そうじゃなくて……おい、アニー!」


 一人ベンチに座りながら、何も言っていないのに戦っていない他の人たちから飲み物やら食べ物やら日傘やらその他もろもろを用意してもらって贅沢をしながら観戦しているアニーの名前をメビウスが呼ぶと、


「どうしたのメビウスさーん!」


 笑顔で嬉しそうに返事をするアニーを見ながら、演技が上手いなぁといった感想をメビウスは思いつつ、


「いきなりこっちに来たから武器を用意してくるの忘れたんだけど!」


「あっ、あちゃーやっちゃったね!」


 少し遠くにいるアニーに聞こえるように大声で話していたため、他の人にも聞こえていたメビウスとアニーの会話を聞いてみんなが笑い出した。


 その後それぞれがメビウスについて言いだした内容は人によって異なっていたが、だいたいは武器を忘れるなんてダサいな、ということだった。


 それに関してはメビウスも同感だ。メビウスは先程いきなりここに来た、つまり転移してきたといったが、それでもアニーがフィルモアに王都の具体的な場所を教えている時間で武器の事に気づけただろう。


 だから、みんなが笑っているのは仕方のないことなのだが……


「うーん、じゃあもう武器なんて使わなくていいんじゃない?」


「「「「「えっ!?」」」」」


「それで少し手加減するくらいがいいハンデになると思うよ?」


「「「「「「ええっ!?」」」」」


 アニーの発言で、みんなの気持ちが一斉に驚愕に変わった。


「……ねえ、それでいいのアニー?」


「いいんじゃない? ぼくはみんなの実力をわかっているつもりだよ!」


 自分たちの実力を理解していてなお、メビウスは武器を使わずに手加減しても大丈夫と断言するアニー。


 そんな笑顔のアニーを見て、なぜか相手の殺意が強まった気がしたのは気のせいではなかったのだと今は思う。


 そして、もうどうしようもないので武器がないまま戦闘態勢に入って、


「……貴様、本当に武器を使わずにわたしと戦うつもりなのか?」


「えっと……アニーから剣とか借りた方がいいかな」


「ふざけるな! 貴様ごときがアニー様の神聖な剣を触れるだけでなくそれで戦うなど許されるわけがないだろう!」


 どうやらそういうことらしいのでメビウスは仕方なく武器がないままの戦闘態勢を続け、相手も剣を構えてもういつでも戦闘を開始できるようになる。


 そして、戦闘の開始は公平に行うためにアニーの声によって開始することになっている。


「じゃあ、開始!」


 その声と、相手が地面を蹴るのは同時だった。


「ハアアアアアアアア!!」


 力のこもった叫びとともに相手は剣を大きく振り上げてメビウスに向かって切り付けようとする。


 この勝負を見ているみんなの半分はメビウスを心配そうに見ていて、残りは面白いものを見る目でこちらを見ていた。


 異なる二つの感情だが、その感情を感じた理由は両方とも同じだ。


 それは、この勝負で武器を持たないメビウスは確実に負けると思っているということだ。


 もちろん、鞘から抜かれた剣はしっかりと人や物を着る為にしっかりととがれた刃が鞘の外から晒されていて、後はメビウスの体にそれが触れてしまえばメビウスの体に傷がつく。


 深く食いこめば大量に出血して、さらに深く食いこめば致命傷になって、もっと食いこめばメビウスの体は二つに分断される。


 メビウスはそれが嫌だったので、剣がメビウスの体に届く前に相手のがら空きの体を蹴って態勢を崩して、剣の軌道をずらして回避しようとした。


 ――一つ、先に言わせて欲しい。


 あくまでも、メビウスが相手を蹴ったのは相手の態勢を崩すためである。


 だから、メビウスは蹴る力もそれに合わせて少し弱めにしたのだ。


 しかし、本当に驚きなのだがメビウスが相手を蹴ると、


「グハァ!!」


「――え、なんで?」


 相手はまるでボールを蹴った時みたいに飛んで行って、そのまま壁に激突して気絶した。


「「「「「「…………」」」」」」


 この沈黙に参加しているのは見守っていた観客たちだけではない。蹴った本人であるメビウスもその一人だった。


 そして誰も彼もが黙り込む中、


「一戦目メビウスさんの勝ち! はい次の人!」


 一人だけ冷静さを失っていなかったアニーが審判としての役割を果たしてメビウスに軍配が上がる。


 本来ならここでなぜかメビウスに親しげな態度をとるアニーの判断がメビウスに有利な者になっているのかどうか、他の人たちが判断するタイミングなのだが、どうやら対戦相手を気絶にまでしてしまっているので誰がどう見てもメビウスの勝ちにしかならないようだ。


 そして、メビウスさえいまいち状況が掴めていない中ようやくアニー以外で冷静さを取り戻した者が出てきて、


「なら次は俺の番だそこの黒い奴! 弱い********(二度目ですがこの方の名前はもう忘れています)は負けてしまったが、この俺@@@@@@@@(こちらの方も名前を忘れました)がアニー様を呪いから救ってみせる!」


「あっ! 次は俺が行こうとしてたのに! ずるいぞ!」


「こういうのは早い者勝ちだ黒い奴にビビッていたお前が悪いのだ! 俺の活躍を見ていて下さいアニー様!」


「……うん? あっ、ちゃんと見てるよ――メビウスさん!」


「「いや、そっちかい(かよ)!」」


 いつの間にやら登場していたけども、メビウスがそちらを見たときにはさっきの試合の結果のせいで驚愕のあまり止まっていた手を止めていた大きなうちわを持っている人たちが、アニーをゆっくりうちわを仰ぎ始めたなか、メビウスと対戦相手がアニーに同じツッコミをした後で戦闘態勢に入る。


 そして、両者の準備が整ったとアニーが判断したその時にもう一度試合が再開した。


 第二戦目


「よーい、はじめ!」


「絶対やっつけてやる! 黒いの!」


 その対戦相手は、試合が始まっても一歩も動こうとはしなかった。しかし、観客の人たちはみな驚きながらその男を見ている。


 その理由はただ一つ、


「……魔術か」


「そういういことだ! そして今武器を持っていないお前に魔術を防ぐことは不可能! 武器を使わずに俺の挑戦を受けたことを後悔するがいい! 行け! アースバレット!」


 対戦相手は自分の勝ちを確信して、とがった岩を発射するというかつての戦いでドレイクも使っていた魔術をメビウスに向かって発射した。


 今回の魔術といい、先程の剣といい、メビウスを殺す気満々なのでは?


 そんなことをメビウスは思いながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「「「「「……へぇ?」」」」」


 またみんながメビウスの驚き、ただしメビウスは今回は驚くことなく「え? 何か変な事でもした?」と思いながら試合は続行する。


「あぁ――! こんなのまぐれだまぐれ! ただの偶然! 一度だけなら偶然避けられることもあるかもしれないが、二回もそんなことができるわけがねえ! 今度こそ終わりだ! アースバレット!」


「――す、すげえ、あいつ二回も魔術をほとんど動かずに避けやがった!!」


「くそ! なんでだよ、なんで二回もそんなことができるんだよ! でも、三度目の正直だ! アースバレット!」


「う、嘘だろ……あの魔術を三回もほとんど動かずに避けやがった――!」


「くそ! アースバレット! アースバレット!」


「……すげぇ、あれだけ魔術を連続で使われても顔色一つ変えずにほんのちょっと動くだけで回避してやがる!」


 ――――しばらく対戦相手がずっとアースバレットを使い続けて、メビウスがずっと避けるという展開が続くのでここから先はかなり割愛します。


――――、


――――、


――――、


――――、


――――、


――――、


「……アース……バレット……!」


「……もうあいつ疲れすぎて魔術を使う体力がなくなってるぞ」


 ゼエハァ、ゼエハァ、ゼエハァ、と呼吸が乱れて汗が滝のように流れている対戦相手は、疲労のあまり地面に倒れこんだ。


 この試合を見ている誰もかもがこの戦闘の勝者がどうなるのか息を呑みながら見守っていて、


「この勝負、戦闘続行で@@@@@@@@(一瞬だけ名前を思い出した気がするが、すぐにまた忘れてしまいました)の負け。次の人用意してね」


 それは、この戦いと呼んでいいのかもわからないものをただ静かに見ていたアニーの声だった。


 アニーが下したこの判断に今回は、


「――! そんな、俺はまだ戦えます!」


 即座に反論したのはその対戦相手だった。


 その人はぼろぼろの体を持ち上げてもう一度立ち上がる。


 その姿は、まるで何度折れようとも大切なものを守る立ち上がるとても立派な戦士みたいで、


「ねえ、」


 しかし、そんな対戦相手の立派な姿も次にアニーのとった行動のせいでずっと道に迷っていたところに助けてくれる人を見つけた迷子の様な顔に変わった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「君がとても頑張っていたの、ぼくはずっと見てたよ」


「アニー……様……」


 自分の事を心からねぎらっているアニーを見て、対戦相手は動揺しているのを隠すことを隠すことができなかった。


 そしてはアニーは最後にその人の頭を優しくなでると、


「だから、これ以上君が無理をして傷つくところを見たくないんだ。だから……今日はもう休んでほしいな……」


「アニー様がそこまで俺のことを思って下さるなんて……俺……俺……マジでうれしいっす!」


「そっか、本当に頑張ったんだね……じゃあ、君の負けでいいかな?」


「……はい、それでいいっす……! アニー様が俺のことを思って下さるのなら――」


「よーし、じゃあ終了。次の人だね、もうそろそろ時間危ないから準備してね」


 アニーは先程この対戦相手に先を越された人を見て言うと、メビウスとその人は次の試合の準備を始めた。




 ……さて、ここまで一戦目と二戦目を紹介したが、ここからは少し急ぎ気味にメビウスの試合を振り返っていきたい。




 第十一戦目(ちなみに三戦目の人は特に目立った活躍をしませんでした)


「こいつ、連続で十人も倒すなんて……だが、ここで俺、打撃野郎(さすがに名前を何人も忘れているのは失礼と思ったので、この人はメビウスの考えたあだ名で紹介しています。もちろん名前はわすれま――)がその連勝記録を止めてやる……!」


「よーい、はじめ!」


「いくぞ! てや! せい! やあ! ……(本当はもうちょっとだけ攻撃が続きました)……駄目だ、こいつに俺の打撃攻撃が効かない!」



 第十六戦目(ちなみに戦闘を飛ばした場合飛ばした戦闘は全てメビウスの勝ちです)


「行きます! ????????(さっきまではあだ名をきちんと考えていましたが、やっぱり面倒くさかったのでやめました)があなたを倒してみせます!」


「よーい、はじめ!」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「メビウスさんの勝ち!」


(彼女に何があったのかは、皆さんのご想像にお任せします)



 第二十戦目(そろそろここで書くこともなくなってきました)


「くっくっく、あなたは十九人も連続で戦っているのです。ここで弱っているあなたを倒せばわたしのアニーは本当にわたしのもの……、このわたし、########(いや、この人の名前なんて覚えたくないでしょ)があなたを――」


「この勝負、メビウスさんの勝ち!」


「ちょっと待ってくださいアニー殿! そもそもわたしはあの男と戦っていないではないではございませんか!? 皆様もそう思うでございましょう!」


「いや、お前は今すぐどっか行け!」


「そうだそうだ、帰りやがれ!」


「アニー様の言うことに従え!」


「なぁ……! し、しかし……アニー殿がこんな男に奪われてもいいのか皆の衆! 我々はアニー殿をあの男から守り抜くと誓った仲ではないですか! 目を覚ますのです!」


「うっさいねん、帰れやぁ」


(その後も彼を退場させようとする声は途切れることなく……)


「……くっ、これは仕方のない戦略的撤退、アニー殿はまた必ず救いに来るのです。それでは――」


「うっさいねん、帰れやぁ」


「何も最後までわたしを目の敵にする必要――」


「うっさいねん、帰れ――」


「ちょっと、いい加減にしてもらっても!?」



第二十九戦目(……何かあると思った?)


「……すみません、負けました」


「あの……まだ試合始まってませんよ?」



第三十戦目(これが最後です)


「時間もないし、お前は普通に戦っても満足しない。だが後ろにはたくさんの人がいる……そこで、特別なルールを考えた」


「……素直に勝てないって思ったって言ってくれません?」


「というわけで、いまからお前と残りの全員でお前を倒す! 行くぞてめえら!」


「「「「「おお!!」」」」」


「えっ、ちょっと待って! いきなりそんなこと言われても――」


「いくらお前でも連戦で疲れている中これだけの人数(約三十人)を相手にして勝てるわけがない。諦めろーー!」



(ここからはかなりの乱戦になってメビウスがどう戦ったのか覚えていないので割愛)





 …………、


 ………………、


 ……………………、


 …………………………、そして、物語はようやく冒頭に戻る。



「……いや、どうしてこうなった」


 メビウスは合計三十戦にも及ぶ戦いを終え、汗の浮かんだ額を拭く。


 さて、おそらく「黒目黒髪で(多分)強い人」とみんなに思われたメビウスと、そのメビウスに対するアニーの態度からアニーの惚れている相手がメビウスだとみんなが思った結果、なぜか突然始まってしまったメビウスとギルドにいた人たちとの対決。


 その結果は、メビウスの完全勝利に終わった。


「……だって、メビウスさんはヴァ二タス様と戦っている間に負けて最近体を交換させられたんでしょ。じゃあ、それまでに戦ってきた魔族なんて四天王ぐらいの実力の持ち主ばっかでしょ? そのせいで、手加減をすることを知らないままなんだよ」


 勝負の終わったメビウスに、アニーは真剣な顔で魔族として耳の近くで小さな声でそう注意をした。


 その注意はアンカウンタブルの言うとおりだなと素直に反省していると、アニーはそんな真剣な顔をいきなり満面の笑みに変えて、


「さすがメビウスさん! ぼくの惚れた人だけあるよ!」


「うわ! やめろアニー!」


 いきなり抱きついてきたアニーに思わず少しだけ反応してしまった後、メビウスと戦った全員(ただし一名だけ降参したため戦えていない)を見渡すと、彼らにはもう戦う意思は残っておらずただ無力さに溺れる姿だけが取り残されていた。


「……」


「……」


「……笑えよ、確かメビウスと言ったか? これが敗者の姿だよ……」


「……(!!!!!!!!さん)」


 こんな状況でも一度は名乗ったはずの相手の名前が思い出せず、せめて心の中だけでもその人の名前を呼んだことにする。


 そして、自嘲の笑みを浮かべる彼は夜空に浮かぶ星や月を見上げながら、


「……あのさ、俺らにとってアニー様は流れ星みたいなお方なんだよ」


「流れ星……」


「そうさ。流れ星さ……ははっ……」


 いまいち何を言いたかったのかわからなかったが、なんとなくわかってますよ感を出してごまかすメビウス。


 その作戦はうまくいき、男は一人でアニーについて話し始める。


「流れ星って、めったに見れないだろ? アニー様もめったに見かけることのできないお方なんだ。そして出逢えた時には必ず俺たちに笑顔をくれる……そんなお方なんだよ」


「……はぁ」


「でも、あのお方があれだけ誰かに心を開いてはなかった。その有名な例が、アニー様は他の人に触れるのを嫌っているっていうことだ……でも、お前は違った。お前と一緒にいる時のアニー様の顔は今まで俺が見てきた顔の中で一番輝いていた……」


 そして、その男の人は死がすぐそこまで迫っている人のように振る舞いながら最後に笑顔を作って、


「だからよぉ……アニー様の事、頼んだぜメビウスさん……俺たちができなかった分まで、アニー様を幸せにしてくれ……!」


 それは、その男の心からの笑顔だった。


 先程までずっとメビウスに向けていた殺意も敵意も憎しみも何もない、ただただ純粋な善意だけで作られた最高の笑顔だった。


 そしてメビウスもその男の託した思いを受け取って、


「あの……ちょっと言わせてください。僕とアニーさんは――」


「さすがメビウスさん! メビウスさんならこんな人たち余裕だって信じていたよ! ねえ、今日は疲れっちゃったでしょ? だから……そのぉ……一緒のベッドで寝よ……?」


「――ムガムガムガムガ(付き合ってなんかいません)!」


 男の思いを即座に返品して、この雰囲気を軽い気持ちでぶち壊そうとするメビウスを必死で止めるアニー。


 そして、アニーがメビウスを止めながら言った言葉は、


「……そっか、もうすぐ子どもも生まれるんだな……もし、男の子が生まれたら俺の名前、付けてくれ……!」


 そんな男の遺言で、「アニー・ガリッヂロス事件」は歴史に名を刻むのであった。






ちなみに、その男は翌日「もし女の子が生まれた時の名前を考えようか?」といって元気そうにメビウスとアニーに話しかけましたとさ。

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