第二章 三話目「突然の提案」
「えっと魔王様……頭がおかしくなりましタ?」
「一番最初の返事がそれだと、さすがに傷つくよ?」
会話はそこで一時停止して、本当に傷ついたメビウスは右の頬を爪で軽く引っ掻き、
「アンカウンタブルは、実は僕が未来からやって来ましたって言っても信じてるんだよね?」
「うんもちろン。逆に認めなかったら認めさせるまで拷問するヨ?」
「ねえ、アンカウンタブルってそんな魔族だったっけ?」
イメージとは違うアンカウンタブルの発言に、メビウスは身の危険を感じて警戒して、
「ハハ! もちろん冗談ですヨ! で、確認ですけどグラシャラボラスって、前代四天王のグラシャラボラス・ブレイバー様で合ってますよネ?」
「ああ、その魔族で合っている」
アンカウンタブルは楽しげに笑ったものの、なんだ冗談かと笑える心の余裕がなかったため、メビウスはまだ少し警戒心が残ったまま会話は続いていく。
「で、なんでいきなり剣聖戦争で死んだと伝わっているグラシャラボラス様を探そうなんて、訳の分からないことをしようとお考えになったのですカ?」
「……それ、理由がわかっていて言っているよね?」
「いやー、勘違いだったら恥ずかしいと思ったのデ」
「はいはい、そうですか……まあ、別にいいけど……」
どうせアンカウンタブルが考えている、メビウスの死んだはずのグラシャラボラスを探そうなんて言い出した理由は正解だろうが、メビウスは仕方なくその理由を告げることにした。
「……昔の話と言ったらいいのか未来の話と言ったらいいのかわからないけど、僕が人間側で勇者の称号をもらった日のことで――」
あの日、メビウスは他の三人の仲間たちと共に、人間の王が住む王城で勇者の称号をもらうために訪れていた。
ついにきたその日にメビウスたちはとても心を弾ませて、それと同じくらい緊張していて、メビウスが緊張しているのをドレイクがしたのを、メビウスがお前もだろと言い返した時にドレイクがとても焦りながら返事をしたのをドレイクを含めた全員で笑って、
メビウスが「勇者の力」でやり直しをするたびに消えていく思い出の中で、何度やり直しても忘れることのなかった数少ない日の内の一つだ。
その理由はもちろん、その勇者の任命式での笑い話やたくさんの人たちの拍手などだけではない。
それは、メビウスがみんなの代表として王様の前に歩いていこうとした途中。
その時に、王城の屋根がいきなり壊されて死んだと思われていたグラシャラボラスが式に乱入してきて、式の予定に突如グラシャラボラスとの戦いが入った。
いつもなら、何十回、何百回とやり直してようやく倒す強力な魔族たち。
しかし、勇者となるその日で力のみなぎったメビウスは仲間たちと力を合わせて、一回もやり直すことなくグラシャラボラスを倒し、田舎出身であるメビウスが勇者になることに反対していた人たちを納得させて、改めて式を再開しメビウスはめでたく勇者となった。
「――と、そんな少しかわいそうだと思われないこともないほどの一瞬だけの出番だった魔族、グラシャラボラスのその王城を襲う計画を止めたいと、ルーフクスについての話を聞いて思ったのが理由」
「わオ。僕が思っていた理由と違っタ」
アンカウンタブルがメビウスの解答にとても驚いたのをみて、メビウスもとても驚いてしまった。
「え、本当に? アンカウンタブルはどんな理由だと思ったの?」
「いやー、間違っていたこと言っても何もないでしょ魔王様」
「でも、凄く気になるから言ってほしいんだけど……」
メビウスがアンカウンタブルに尋ねると、アンカウンタブルは恥ずかしそうに手袋でフードを擦って、
「……本当に聞きたイ? 魔王様」
「本当に聞きたい」
「本当ニ? 本当の本当ニ?」
「本当の本当に」
「本当? 後悔しない?」
「後悔、しないと思うけど……」
「そこで断言できないならきっと魔王様は後悔しちゃウ。だから駄目」
「いや、後悔しない! だから聞かせて!」
メビウスの心の僅かなところをついてアンカウンタブルは自分の予想を話そうとはしない。
だが、メビウスも負けておらず即座に決意を固めてアンカウンタブルにその意思を示す。
「うーン。仕方がないナァ……本当に、後悔しても知らないヨ?」
アンカウンタブルはそう言って手袋を下ろし、表情がないから分からないが多分真剣な顔をすると、
「実は、魔王様がまだ勇者だった時にグラシャラボラス様と戦ったことがあって、それでその考えをなさったのかと――」
「いや、それ正解じゃん!!」
メビウスの心の底からの叫びをアンカウンタブルは楽しそうに笑い、全てアンカウンタブルの思う壺だったと遅まきながら気づく。
「後、なんで後悔するって言ったの……あの答え、後悔という感情に一切関係なかったよね?」
「いやー、なんとなくですかナ? なんか、あの流れなら次に言うべき言葉は後悔しない、な気がしたかラ」
アンカウンタブルの不思議な答えにどう反応したらいいのか分からず、メビウスはため息をついて、
「で、魔王様はなんでグラシャラボラス様を助けたいと思って人間領の王都に行きたいと思ったんですカ?」
「……そういえばアンカウンタブルのせいで本題忘れてた。それは、グラシャラボラスが僕と戦った時に、ずっと王都の奥にある山で機会を狙っていたって言っていたから」
「ふむふム」
アンカウンタブルがメビウスの説明に納得して、フードの顎の部分の上に手袋を乗っけながら、
「でも、それならその山に行きたいって言えば良くなイ? どうして王都ニ?」
アンカウンタブルの当然浮かぶ疑問に、メビウスは少しあの人のことを思い出して苦笑いをした。
「それは、あいつの雇い主をついでに探そうと思ってさ」
「あー! フィルモアちゃんが連れてきたあの人間! あの人間なかなか吐かないから困っているんだよネ……」
「あー、うん。バハロンがなかなか言わないのは仕方がないんじゃないかな?」
そう、一度メビウスがレイン村に人間たちが取り戻したと聞いて向かった時に、途中でメビウスを助けに来てくれたフィルモアに殺されそうになったのを、ギリギリ止めて拷問して情報を聞き出すために生かした(その後すぐにフィルモアに致命傷になりかねない攻撃をくらっている)バハロンは、実はあの後にきちんと四天王たちが拷問してくれているのだが、
「まあ、フィルモアがずっと拷問していると言えば、多分やり直す前のみんなはわかる」
メビウスとしては拷問はするけど、多分拘束されているバハロンのところに一日に一回くらいカツ丼を持って訪ねて、「いい加減正直に言いなよ。君の家族が君の帰りを待っているだろう?」的なことを言うつもりだったのだが、なかなか魔王として時間が取れないのと、
「正規軍の皆を泣かして殺した人だし、別にちょっとぐらいいいかと思っちゃったんだよね……」
止めようとは思ったけど、フィルモアの拷問を見ていたら怖くなってしまいつい止められなくて、気が付いたら彼はもう……、
そんなわけで、たとえばドレイクが拷問されているのなら拷問を止めるがバハロンは残念ながらフィルモアの拷問の餌食になってもらっている。
ヴァニタスが魔王だった時には、具体的にはどんな風になったかはわからないがレイン村を取り返すのに失敗してこの世からいなくなり、
メビウスが魔王だった時には本人は記憶にない過去の失敗で、魔王に見放されて拷問を受けることになる。
意外と、こう見ればバハロンは同情しても良いのではないかとメビウスはふと思った。
そして、フィルモアに全て任せた結果、バハロンはメビウスが知りたくなかったくらいに酷い拷問内容に耐えきれなくなり、今は意識を失ってメグミの治療のお世話になっている。
ただし、起きたらすぐにまた拷問が再開するのでバハロンとしては、もう一生意識を失っていたいというのが本音かもしれない。
「まあ、なかなか口を割らないくせに意識を失ってしまってバハロンは拷問もできないから、それなら積極的に自分たちから探しに行こうっていう考えなんだけど」
「まあ、いいんじゃないですカ?」
「え、決めるのはや!」
「エ? 別に悪くないどころか凄く良いことじゃないですカ。反対する理由がないから反対しなかったけド……反対した方が良かっタ?」
「いや、むしろありがたいんだけど……その、アンカウンタブルって僕が魔王だってこと自体に反対してたし、これも反対かなぁ、と思って……」
メビウスはアンカウンタブルに思いを告げると、それを聞いたアンカウンタブルは、
「プッ、ププププ!」
「えっ、なにその笑い方。かなりイライラするんだけど……」
手袋でお腹を抱えて笑いだしたアンカウンタブルは、満足するまで笑うとメビウスを見て、
「僕は、魔王様が魔族のために動く限りずっと魔王様の手助けをしますかラ。だからいつでも頼ってくださイ」
「アンカウンタブル……」
いつもふざけてばっかりいるアンカウンタブルが、今はとても格好良く見える。
今までずっと敵だった魔族に、ようやく仲間ができた気がして少し感動して、
「まあ、もし魔王様が魔族に殺せと命じたら全力で殺しにかかるので、そこのところはよろしくお願いしまス」
「感動を返して欲しい!」
まあ、アンカウンタブルの言う通りなのだから仕方ないのかもしれないが……、
「で、確か魔王様は王都に行きたいんだよネ?」
「うん、グラシャラボラスを迎えに行くのと、バハロンのいろいろを調べるために」
「りょーかイ……でも魔王様」
ようやく本題に戻って、ついに王都に行く日が来たのだと思ったのだが、アンカウンタブルが何かありげに言うのでメビウスは頭の上に疑問符を浮かべて、
「本当に説得しないといけないのは、あっちの方じゃないかな?」
アンカウンタブルが扉の方を見たのでメビウスもそっちを見ると、フィルモアが慌てて頭を下げていた。




