第二章 二話目「前代四天王」
しばらく隔日更新が続くと思いますが、よろしくお願いします!
ルーフクス・フェニクシア。その名前はメビウスも何度か耳にしたことがあった有名な魔族で、とある戦争を最後に死んでしまったと言われている魔族だ。
それは、今から約十七年前の出来事。三百年続く魔族と人間の戦争で最大の戦闘だと呼ばれている、「剣聖戦争」という戦闘での話だ。
当時、人間の中で最強の戦力として期待されていた無名の剣士、その剣士は一度も名前を名乗ったことがないらしく、人間たちがそれではどう呼べばいいのかわからないと思い、その剣士を「剣聖」と呼ぶことにしたらしい。
その剣聖は誰にも到達のできない領域まで剣の腕を磨き上げて、そして当時の全ての四天王、
グラシャラボラス・ブレイバー
バリアール・デイドリーム
ホロゥ
ルーフクス・フェニクシア
の四人の魔族全員を倒したと言われている。
そして、その前代四天王の一人であるルーフクスはその魔族たちのの中でもっとも強く、とても不思議なところがある魔族である。
それは、ルーフクスが戦争の始まる前から剣聖戦争までずっと四天王を務めていたということだ。
メビウスはそのことをずっと不思議に思っていたのだが、
「それが、こんな風に魔王になってわかるなんて夢にも見なかったなぁ……」
「何か、おっしゃいましたか魔王様?」
「いや、どうでもいい独り言だフィルモア。気にしないでくれ」
メビウスは今のこの状況を笑って、剣聖に倒されたはずのルーフクスの誕生日を祝うために集まった魔族たちを見る。
「不死鳥ルーフクス・フェニクシア。もし戦うことになってたらやばかっただろうな……」
不死鳥と例えられる彼は鳥族の魔族で、そして鳥族とは思えない力を持つ魔族だと、メビウスはフィルモアやアシュラに教えてもらった。
ルーフクスの持つ力は、死ぬとよみがえるという単純明快で強力無比なものだった。
しかし、その力はメビウスのように時間を巻き戻すことで行われるものではない。
ルーフクスの復活能力は、死んだ時に遺体が急速に若返りして、その体に再びルーフクスの命が宿って行われると聞いた。
それが一体どのような原理で行われているのかは知らないが、不死のメビウスと不死のルーフクスが戦ったらどのように決着がつくかメビウスには想像できない。
そして、今日魔王城の魔族が集まっているのは、魔族たちのルーフクスが不死身だから、きっと剣聖との戦いの後で復活してまだ生きていると願っているからだった。
「確かに、何度も戦場で死んで何度もよみがえって何度もまた戦場に戻っていったルーフクスなら、剣聖との戦いでも同じようになっているはずなんだよなぁ……」
しかし、ルーフクスは剣聖戦争のあと戻ってきていない、もし生きているなら絶対にもう魔王城に戻ってきているはずなのに。
(なら、ルーフクスが剣聖との戦いでもう復活できない体になってしまったって可能性も……)
メビウスはそう考えたが、決して声に出すことはなかった。
魔族のみんながルーフクスの無事を祈っているのに、今は魔族の王であるメビウスがどうしてそんなことを口にできようか。
「でも……」
十七年も経ってしまえば、もうルーフクスが死んでしまったと諦めている魔族もいるだろう。
先程からルーフクスの誕生日を祝うために準備している魔族の顔は、どこか暗いものが多い。
もちろん笑顔で準備している魔族もいるが、その魔族たちも場の雰囲気を良くするために、自分の気持ちに反して笑顔を作っているかもしれない。
ルーフクス・フェニクシア。彼は今どこで何をしているのだろうか?
「魔王様」
「……どうしたフィルモア?」
フィルモアはメビウスから目をそらしながら、
「実は、アシュラ様の発案で今日はこの誕生日をお祝いした後で、ルーフクス様にお世話になっていた魔族の皆様で思い出話をしませんかと……」
「ああ、そうか……」
でも、メビウスは前代四天王が死んだ剣聖戦争の後に生まれているので、ルーフクスのことは一切知らないから前代四天王の話はできない――、
「……すまない、ルーフクスには悪いがそれは遠慮させてもらう。それにみんなで集まって思い出話なんて、なんか誰かが死んだ時にするものみたいでどうかと思うぞ?」
「確かに、そうですね。アシュラ様にそのことをお伝えいたします」
フィルモアが一度礼をしてその場を去り、一人残されたメビウスは、
「前代四天王ね……」
どう聞いても何かあるとしか思えないことを誰にも聞かれないように呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ルーフクスの誕生日を祝うこの日は、やはりどこか暗い雰囲気になっていた。
祝う、という目的ならレイン村関係でバイキングをした時の方がまだみんなの顔が明るくてましだ。
やはり、メビウスの予想通り十七年も戻って来ていないルーフクスは、もう本当に死んでしまったと思っている人が多いのだろう。
メビウスはそのことを、今日という日が終わりもう寝る時間の魔王の部屋で、わざとらしく少し大きめの声で言い続けた後に部屋に飾ってあるシオンの花を見て、
「そんな状況でみんなで集まって思い出話なんてしたら、もっと雰囲気が悪くなるだけだよね、アンカウンタブル?」
きっと今もシオンの花に変身してメビウスを監視しているだろう、その魔族の名前を呼んで返事を待つ。
「……」
「……」
「……ねえ、アンカウンタブル?」
「……」
「……もしかして、これ本物のシオンの花?」
「そうだヨー! 魔王様!」
「うわっ! びっくりした……」
いつまでたっても変化しないシオンの花を見て、自分は客観的に見るとここにはいない魔族と話す頭がおかしくなってしまった人になっていたという事実に、とても穴があったら入りたくなっていたところで、隣に置いてあった本が変化してアンカウンタブルになったので、驚きのあまり数歩だけ後ろに下がってしまった。
「先入観に囚われていると本当の事実に気づけなくなってしまウ。だから、思い込みって結構良くないヨ?」
「はい、申し訳ありません……じゃなくて!」
完全に主導権を握られたのをどうにか取り返して、メビウスは会話を進める。
「ちょっと聞きたいことがあって、それを聞きたいんだけど――」
「ン? それってルーフクス様のこト?」
「いや、それじゃなくて……」
横に傾けたフードを宙に浮く手袋で支えながら、メビウスの思惑を推察するアンカウンタブルに、
「単刀直入に言うけど、人間領の王都って行こうと思ったら行ける?」
「王都?」
「そう、人間領の王都。行ける?」
アンカウンタブルは「うーン」と言いながらしばらく考えて、
「行けないこともないけど……突然どうしたんですカ?」
「ちょっと、行きたいところが出来てさ。ほら、王都から奥に魔族たちが住んでいる地域があるのは知ってるよね?」
「もちろン。それは魔王軍偵察部隊の常識、どころか世界中の人間も魔族も全員知ってますヨ?」
手袋を腰に当てるアンカウンタブルにメビウスはハハ、と笑って、
「この質問は失礼だった?」
「いエ、別に気にしないけド……そこがどうしたんですカ?」
「うん。実は……」
メビウスは笑顔を引っ込めて真剣な表情になると、
「そこで生き延びている魔族と、その魔族たちの面倒を見ている前代四天王のグラシャラボラスを助けたい」




