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第二章 一話目「ようやく進む世界」

本来、この小説は昨日に投稿しているはずだったのですが、何も連絡をしないまま一日以上投稿できずに本当に申し訳ございませんでした。


これからもリアルの関係で投稿が遅れるかもしれませんが、この小説を応援していただけるとありがたいです。


それでは、第二章『超える絆』編をお楽しみください!


*「勇者の知らない世界~魔王になった勇者は何を得るのか~」は魔王の勇者編で終了です。ここから先の「超える絆」編は、こんな未来があったかもといった気持ちで読んでいただけると幸いです。


*「超える絆」編はかなり途中で終わっています。それでも良い方はお楽しみください!

 今日は、最高の読書日和なのだろうと思う。


 窓からは人々に元気を与える日光が、ずっと当たっていても暑いと思わない程度の温かさを持ちながら、自分が持っている書物が読めるようになる光を運んでくる。


 それだけではなく、勢いで本をめくってしまわないくらいの強さの風が、読んでいる人を優しく撫でながら涼しさを運んできているのだ。


 こんな読書日和の日にもちろん、メビウスは魔王の部屋で一人静かに本のページを一枚一枚ゆっくりめくって読書に励んでいた。


 魔王の部屋はベッドと机などの個人の部屋として必要なもの以外はない。


 なぜこれだけ揃っているのかがわからないくらい研究に関する本の種類が豊富で、本棚の中に置かれている本は本棚の中をびっしりと隙間なく埋めているだけでなく、本棚の上と天井との間の隙間も埋めていて、もうどこにも本を追加して保管する場所がない。


 それらはヴァニタスの趣味かなにかは知らないが研究に関する以外に何もないのだが、今メビウスが読んでいる本はその魔王の部屋に置かれていた、メビウスにとって読めるはずの文字が理解不能な暗号として並べられている状態に近い、何かしらの研究に関する本ではない。


 フィルモアにそのような本が魔王城に無いかと聞いたところ、レイン村を魔族が取り返した時の記念の品として送られていたと言って貸してくれた、魔族の三百年の歴史の全てが書かれていた本。


 そう、三百年もの長い時間をかけて今もなお続く人族と魔族との戦争の歴史が書かれた本である。


 メビウスは人族領の農家出身でなおかつ他の人たちよりもたくさんの土地を持ち、収穫期にはメビウスたちも作物の収穫を手伝わされるほどの農家だったのだが、メビウスは地元にあった学校にはきちんと通い教育を怠ることはなかった。


 しかもレイン村を初めてのやり直し以降に村長の手助けで無事に離れてからも、メビウスたちを受け入れてくれた村長のいとこの家でも学校には通わせてくれたので、メビウスはかなり水準の高い教育を受けて身につけているのである。


 ちなみに、本当にどうでもいいがメビウスは一度だけ学年一位を取ったことがある。


 そんなメビウスがこの人族と魔族との戦争をどう教わっているかというと、それはもちろんあの三百年前の日に今でも名前が語り継がれる人族の有名な英雄の一人、「始皇帝」のお妃様が殺されたその直後に人族が魔族に宣戦布告をしたのが始まりで、そこから書かれていた戦争の経緯は魔族が書いたものと全く変わらなかった。


 しかし、メビウスはかつて魔王としてレイン村を取り返したと、それぞれの村の魔族たちに報告した時に言われたことを覚えている。


『ビィアサント博士殺害事件から三百年という長い長い時を経てようやく進んだこの一歩を――』


 そう、魔族にとってこの戦争の始まりは始皇帝のお妃様の死亡ではない。そして、あの魔族が言っていた「ビィアサント博士殺害事件」とは何なのか。


 これはメビウスたち魔族には伝わっていなかった魔族の話だが、三百年前の戦争が始まる前の時。


 ビィアサントという、今でも魔族の間で知らない魔族はいないとも言われている魔族の博士がいたらしい。


 ビィアサント博士はとても仲の良い二人の研究仲間と共にさまざまな便利な物を開発していて、このビィアサント博士という魔族も始皇帝のお妃様のように全ての魔族に愛されていたらしい。


 しかし、そんなある日に事件は起こる。それは、ビィアサント博士とその研究仲間たちが、他の魔族の目を隠れて研究していた場所に突然正体不明の誰かが襲ってきた、魔族の間では「ビィアサント博士殺害事件」と呼ばれている事件だ。


 なぜ「ビィアサント博士殺害事件」と呼ばれているかというと、それは、その事件の後に他の二人の研究仲間は見つからなかったがビィアサント博士だけは見つかったもの、ビィアサント博士の遺体だけが事件の後で見つかったからだとその本には書かれていた。


 死亡が確認されたのはビィアサント博士だけだったが、他の二人の博士もその事件以降に音信不通になり、その事件の時にもう死んでしまったと言われているし、メビウスも正直なところ、その二人は死んでしまったと思う。


 たった一瞬で魔族にさまざまな形で貢献してくれた大切な三人を失った、まるで人族に起きたお妃様が殺害される事件くらい、魔族にとって悲しみにくれることとなったビィアサント博士殺害事件。


 なぜその事件が魔族にとってあの戦争が始まる原因になっているのかというと、これももちろんこの本に載っていて、


 それはビィアサント博士たちが襲われた研究所に設置されていた、見ている光景を映像としてその中に記録する道具に残っていた映像に映っていた、ビィアサント博士たちを殺したと思われる人物がどこからどう見ても人間だったことだった。


 魔族にとって大切な者たちが人間によって奪われたビィアサント博士殺害事件。しかし、本当にあの戦争の始まる決定打となってしまったのはそれではない。


 ビィアサント博士殺害事件があり、たくさんの魔族が死んだビィアサント博士を弔うためにお葬式に来ている中、とんでもない情報が飛び込んできた。


 それは、人間の王である始皇帝が魔族に対して宣戦布告をしたことだ。


 この本によると、ビィアサント博士殺害事件があった直後はまだ魔族は、人間に憎しみを持つようなことはなかったらしい。


 でも、ビィアサント博士たちを殺した直後に宣戦布告なんてされたから魔族も人間に激怒して、三百年も戦争を続けているのだ。と、魔族の人間に対する怒りを綴った文章とともにこの本の戦争が始まる前の章は終わっている。


 かつてメビウスは、勇者としての世界の少なくとも半分はやり直しによる魔族たちとの戦いに費やしていた。


 だから、メビウスは脳の記憶をする部分のほとんどを戦った魔族の攻撃方法や癖などを覚えるのに使っていたので、もう人間たちの記念日にもなっていたあの日が具体的に何月の何日かは覚えていない。


 ただ、この本に書かれているビィアサント博士殺害事件が起こった日、十二月三十一日は確かお妃様が亡くなった日に近かった気がする。


 つまり、ビィアサント博士殺害事件とお妃様が亡くなった日、どちらが先に起こったかどうかでこの戦争の発端となったのが人間なのか魔族なのかどうかわかるわけだ。


 しかし、今のメビウスにとって大切なのはどちらかが先かどうかではない。


 始まりがどうであれ、メビウスは終わりが人間と魔族が手を取り合う平和な世界であってほしいと思うし、きっとそうあるべきだと思っている。


 だから、メビウスは自室で一人叫んだ。


「魔王の勇者って何も特別なことしてない!」


 そう、そうなのである。あのメビウスとドレイクとの戦い以降メビウスは、もうすでに一ヶ月経ったというのにずっと魔王としての仕事、例えばどこかの村が橋を建てるので魔王様に許可をしてほしいといった内容のものなどの、メビウスは政治のことはあまり知らないがそれくらいその村で決めろ! と言ってなりたくなる内容ばかりなのである。


「……あれ、クロロホルムさんってどうやって政治してたんだったけ?」


 今メビウスの口から出てきたクロロホルムという人物は、メビウスが昔勇者だった時にお世話になった人間で一番の政治家で、とある一件があった後お世話になった人物で、


「……あの日、僕たちを勇者に任命してくれた人だったよね」


 メランコリーとドレイクとティナの三人で、たくさんの人たちに拍手と共に見守られながら歩いた王城の廊下。


 いつまでたっても離れなかった人生で一番輝かしかった日の思い出、いつかヴァニタスを倒した後に四人で集まった時にでも、思い出話として笑い合うんだろうなと思ったあの日の出来事だった。


 そんな最高だった日を用意してくれたクロロホルムさんは、いつでも魔族に勝つためにたくさんのことを考えていたのがメビウスにとって印象的で、どう考えてもクロロホルムさんにメビウスが「人間と魔族で共存して生きていきましょう」と言っても聞いてくれなさそうだった。


「……でも、やらなきゃいけないんだよなぁ」


 戦闘に関してはメビウスでけっこう補える部分があると思うが、交渉といった政治面をメビウスがした経験は一切なく、今のメビウスがしても上手くいく自信がない。


 もし、メビウスにまだ「勇者の力」が残っていれば、交渉で間違ったことをしてしまっても時間を巻き戻して何事もなかったことにできたのに……、


「勇者の力……か」


 勇者の力の今の所持者は言うまでもなく元魔王のヴァニタスである。


 元魔王が持つ勇者の力という、力の名前と所持者に大変な誤差がある今の状況で、今はアンカウンタブルにメビウスという名前の人間が、目立った行動をしていないか情報を集めておいてとは頼んでいるのだが、今のところ目立った情報は入っていない。


 今もこうやってメビウスが魔族の歴史を学んでいる間にも、ヴァニタスは世界を支配するという目的のために動いているし、もしかするともう何度も時間を巻き戻しているかもしれない。


 そうやってさまざまなことを考えていくと、メビウスの脳が考えすぎて破裂しそうになって、


「……もう今日は読書終わり!」


 ちょうどキリの良いところまで読み終えたし、ずっとこれを読んでいるわけにもいかない。


 それに、こんな時にはメビウスは気分転換にようやく慣れてきた魔王城を歩き回ったり、まだあまり話せていない魔族たちとも話してみたかった。


 メビウスは読んでいたページにしおりを挟んで机に置いてから、扉を開けて魔王城の廊下を歩きだす。


 ヴァニタスとの最終決戦に負けるたびとある羽目になったので、ここだけ唯一歩き慣れている長い廊下を歩いていく。


 しばらくすると、かつてメビウスがヴァニタスを倒すために魔王城に侵入した際には通らなかった通路までやってきて、いつまでも見ていて飽きない魔族の誰かを面白おかしく書いた絵を見ながら、ゆっくり歩いていった。


 すると、さっそくメビウスが積極的に話したかった魔族と廊下で出会い、


「お、イヴ。お前はその絵を見てたのか?」


「……! ま、ま、ま、ま……まおっ……さま!」


 メビウスが声をかけると、四天王の一人であるイヴはいきなり慌てだして、いつも一緒にいる蛇の大きな背中の後ろに隠れてしまった。


 今まで何度かメビウスはイヴに声をかけてみたのだが、いつもこんなメビウスの知っているイヴらしくない反応をされる。


 メビウスの知っているかつて死闘を繰り広げたイヴは、おしゃべり……というよりも、一言多くて、うるさくて、煽り上手で、決してこんな誰かの背中に隠れているような姿を見せるような魔族ではなかった。


「イヴ、そういえば聞きたいことがあるんだが――」


「……! は、はい……ど、どう……!!」


 むしろ、どうされましたかという言葉すら言えないイヴに、メビウスは魔王城で無事やっていけているのか不安を感じているところすらあるかもしれない。


 こんな感じでいつも会話が成立しないことを残念に思っていると、


「魔王様……魔王様に聞きたいことがございましたら、(わたくし)の知識の及ぶ範囲までなら代わりにお答えいたします」


「お、フィルモア!」


 魔王専属メイドでイヴと同じ四天王であるフィルモアが偶然通りかかって、メビウスに話しかけてくれた。


 フィルモアは魔王専属メイドという役職があるので、メビウスが魔族の中で一番話しているのがフィルモアだ。


 メビウスたちと戦った時には、ずっとメビウスたちを憎悪を込めて見ていたためわからなかった、彼女の魔族が大好きな面を話すたびに知ることができて嬉しい。


 そんなフィルモアとも交流を深めるために、メビウスはイヴにしようとした質問をフィルモアにすることにして、


「そういえば……イヴとその蛇はいつから一緒にいるんだ?」


 そう、それこそメビウスが知っているイヴと、今魔王城で四天王を務めるイヴの最大の違いの一つであり、メビウスがイヴと戦った時にはあの蛇はイヴのとなりにいなかった。


 しかし、イヴはメビウスが見かける時にはいつもあの蛇を連れて行動している。なら、メビウスとの戦いの時にも隣にいておかしくないのだが……、


「イヴ様とシャドウ様は、イヴ様が魔王城にお住まいになられ始めた日からずっとご一緒におられていますが……」


「そうか……そういえばそうだった気がするな。答えてくれてありがとうな、フィルモア」


(わたくし)にその言葉をいただく資格はございませんので」


 いつかフィルモアのこの態度はやめてほしいのだが、かなり重要な情報を聞けた。


 魔王様に来てからずっと一緒にいるであろうイヴと、名前は初めて知った蛇のシャドウ。


 深い絆で結ばれているはずの二人がメビウスと戦った時には離れ離れだったということはつまり、未来でシャドウが死んでしまうなんてことが起きてしまうのかもしれない。


 メビウス的には、人間と魔族が手を取り合う世界の過程での死亡者はゼロにしたい。だから、もしシャドウが意図的に殺されるのであれば、いつかシャドウを助けないといけない日が来る可能性が高いということだ。


 メビウスがその時には必ずシャドウを助けると心に誓っていると、


「魔王様」


「どうした、フィルモア?」


 フィルモアはメビウスに声をかけると、


「今日はルーフクス様の誕生日でございますので、魔王様にも今年も祝っていただきたいのですが……」

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