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第一章 十九話目「勇者が見たフィルモア」

「フィルモア? どうしてここに……」


「申し訳ございません魔王様! 少し不安になってしまいご命令もないのに駆けつけてしまいました……その、どうしても戦闘した魔族のお話が引っかかってしまいまして……」


 魔法が上手く使えなかった、体が動いていなかった。


 魔族たちのこの報告が今なら魔法結界によって生み出されたものだとわかるが、「勇者の力」で未来を知っていたメビウスでさえ存在すら知らなかった魔法結界なんて、魔族の誰がその存在の可能性を考えられただろうか? 


 そんな中、フィルモアがどれだけあの報告について考えてきたのかはメビウスにはわからないが、


「その嫌な予感は当たったってところだな。来てくれてありがとよ、フィルモア」


「魔王様、(わたくし)はそのお言葉を頂くほどのことなどしておりません。そのお言葉は(わたくし)をここまで運んでくださったこの子に」


 フィルモアが乗っている龍の頭を撫でてやると、龍は幸せそうな声を出して甘えたいのか顔を近づけて「もっと撫でて」と言いたげな態度をとる。


 そんな龍をフィルモアは少しだけ甘やかしてやると、


「さて……魔王様とお話ししている間にようやく見つかりました。プロヴィデンス!」


 フィルモアが手を上げて空に向かって叫ぶと、空の一部に複数個の歪みが生まれて、何かがこの世界に現れた。


 目の中のどこまでも黒く暗い空洞の中には赤い血のような目が浮かんでいて、牙は相手を砕かんと意思を秘めているようである。


 それはフィルモアの乗っている龍の顔の形をした、かつてメビウスが勇者としてフィルモアと戦った時にも見た、フィルモアが魔法を使用する際に使うことのある道具でもあるプロヴィデンスであった。


「な、なんだよあれ……」


 その姿にバハロンが驚いてしまうのは仕方がない。メビウスも勇者だった時に初めてフィルモアと戦ってそれを見た時は本当に恐ろしいと思ったものだった。


 メビウスが過去の記憶に懐かしさと恐怖を同時に思い出しているとフィルモアは上げた手を下におろし、


「放て!」


 プロヴィデンスと呼んだそれに命じると、プロヴィデンスたちは口を開いて鼓膜を破りそうなほどの音で白い光線を発射して、数秒経って音が鳴り止むとメビウスは体を(むしば)む激痛が消えたことに気づいた。


「ありがと、フィルモア! おかげでもう辛くなくなった!」


「は……まさかあの魔法結界の発動する結晶をついさっきの光線で壊したと言うのですか……? 嘘だ! 出来るはずがない! そもそもあの結晶には魔法を打ち消す力が……」


「確かにそうでしたね」


 叫ぶバハロンを睨みつけるフィルモアは乗っていた龍から勢いよく飛び降りて無事にけがもなく着地し、改めてバハロンを氷の目で睨みつけて、


「ただ……あの程度で魔族の魔法を防げるとは思うな。あんな程度なら誰でも魔法であれを壊せます……まあ、プロヴィデンスたちがあれを別の空間に送るのに(わたくし)の魔素も使ったのは事実ですが」


 本当は、四天王であるフィルモアが武器であるプロヴィデンスと協力してようやく壊せた魔法結界を、一般市民の魔族が壊せるわけがないのだが、フィルモアは自身の能力を低く見ているのでそんな発言をした。


 しかし、


「お前ぇ!!」


 フィルモアの態度についにバハロンは怒りを抑えられなくなって、メビウスと戦うために鞘から出した剣をフィルモアに向けて走り出す。


 それだけではない。バハロンは剣を振るうと同時に人間の使う魔法の亜種、魔術を使う際に必ず出現する魔法陣を複数展開している。


 かなりの人がすることのできない魔術だけでなく、魔術と剣の両方を使う戦い方。


 それこそがバハロンにしかできない戦い方であり、人間の最強の一角たらしめる理由であり、今回レイン村の襲撃でリーダーを任された理由であろうものである。


「死ねぇぇぇぇ!」


 叫びながらフィルモアを殺そうとするバハロンはフィルモアの近くまで来ると、剣を振り下ろすと同時に後ろで展開していた魔法陣から魔術を――万物を焼き尽くす炎と切り刻む風の刃と穿つ土の槍を発射する。


 それらの全てが無防備なフィルモアに襲いかかり、


「放て」


 フィルモアの目の前の空間が歪んで現れたプロヴィデンスが全ての攻撃を防ぎ、再び口を開いて光線を発射した。


「ちぃ!」


 しかし、たとえ今のところフィルモアに全く歯が立っていなくてもバハロンはレイン村にいる人間の軍隊の総責任者である。さすがの反応速度でプロヴィデンスを認識すると急いで左に回避した。


 だが、フィルモアは当時の人間の最強の一角であったバハロンに一切の抵抗を許さない四天王の一人である。そのフィルモアの魔法をバハロンは完全に避けきれず、右腕の手首あたりに光線が直撃して、


 光線が当たったところだけぽっかり穴が開いて右手がぽとりと落ち、断面から血が流れる光景を直視することになった。


「ああああああああああああああああああああああ!!」


 きっと彼に襲ったであろう激痛にバハロンは床に崩れ落ち、顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫び続ける。


 そして、そんな見ていられない状況のバハロンをフィルモアは意識の片隅にもおかずに、


「魔王様! ご無事ですか!? あぁ、お顔が汚れています……早く拭かないと……」


 慌ててメビウスのところに駆けつけて、ポケットから手拭いを取り出してメビウスの胃液で汚れた顔の汚れを丁寧に拭き取った。


「これで今日言うのは三回目だけど、フィルモア、本当にありがとう。お前が来てくれなかったら正直やばかったかもしれない」


 メビウスが改めて心の底からの嘘偽りない感謝を伝えると、フィルモアは首を横に振って、


「ですから、(わたくし)はそのお言葉を頂くことなどしておりません。それよりも……」


「――――――!!」


 フィルモアが乗って来た龍はどこか勝ち誇ったように咆哮をすると、龍とプロヴィデンスたちの全てがフィルモアのところに集まり、


「この子たちが魔王様に撫でていただきたいと言っています。どうか、撫でてやってはいただけないでしょうか?」


「クルルルルル……」


 見た目では想像できない可愛い声で鳴くと、龍はその頭をメビウスの前に差し出した。


「お、おう。わかった」


 この状況でフィルモアの願いを断ることなどできずに、手を優しく首に当てて龍がどのように撫でられたら喜ぶか考えながら撫でてやる。それでも上手くやれている自信がなかったので龍を見ると、


「クルルルルル♪」


 なんだか気持ち良さげに鳴いてくれたので、まあ大丈夫だっただろうと思い撫でていた手を離した。すると龍は満足げにフィルモアの後ろに下がり、


「え、お前も?」


 今度はプロヴィデンスの内の一つがメビウスのところにやってきて撫でて撫でてと空中に浮いていた。


「……わかったわかった」


 仕方なくプロヴィデンスを撫でてやると、鳴いただけだった龍とは逆にプロヴィデンスは喜びのあまり勢いよく動き回りつい驚いて言葉を失ってしまった。


 そのまま天高くまで飛んでいったプロヴィデンスは気にせず、今度は他のプロヴィデンスがやって来て撫でてくれと無言で抗議。


 それも撫でてやると、それぞれのプロヴィデンスが個性豊かな反応を見せては別のプロヴィデンスが、撫でてとやって来るのを撫でては戻って、また撫でてを繰り返してようやくメビウスは全員を撫で終わった。


「それで……とりあえず人間は――」


「ああああああああああああああああああああああ!」


「……プロヴィデンスたちが喜びで飛んで行ったついでに他の兵士も潰してくれたので――」


「あれ、本当に喜びだったのね」


「ああああああああああああああああああああああ!」


「今ここで囚われている魔族を解放して――」


「ああああああああああああああああああああああ!」


「うるさい! プロヴィデンス! はな――」


「いや、ちょっと待てフィルモア!」


 後ろでずっと叫んでいたのでフィルモアの怒りを買ったバハロンが、プロヴィデンスで存在全部が消されそうになったけれども、メビウスの制止でなんとか九死に一生を得る。


 そしてメビウスはフィルモアを見て、


「バハロンだけど、こいつは殺さずに生かしておきたい」


「……殺さなくて良いのですか? この屑は他の魔族を酷い目に遭わせただけでなく魔王様まで……!」


「ありがとなフィルモア。何度も何度も心配してくれて」


 メビウスは一度目をつぶると、目を開けてメビウスを心配してくれているフィルモアに真剣な眼差しを送り、


「でも……今はこいつを殺してはいけねぇ。こいつは言ってたんだ、この村にいる魔族以外にも攫われている魔族がいるって……そいつらのためにもこいつは捕まえてどこに他の魔族たちがいるか聞き出さないといけない。手伝ってくれるか?」


「はい、もちろんでございます。放て」


 フィルモアはメビウスの意見に即刻賛同してからプロヴィデンスに命じて光線を放って、それはほんの少しのズレもなくバハロンの左肩を穿ち、バハロンの左肩から手まで全てが消滅した。


「ああああああああああああああああああああああ――!」


 そして、右手だけでなく左肩から手までも文字通り綺麗さっぱり消されてとんでもない勢いで出血するバハロンは、今までの叫びの音量を更に一段階上げた後、糸の切れた操り人形のように気を失って倒れる。


 そしてフィルモアは転移の時とは別の魔法陣を作り出すと、


「あの……メグミ様? 聞こえていらっしゃいますか?」


「はいはーい! 聞こえてるワンよフィルモア様! どうかしたワン?」


 その魔法陣にメビウスの見覚えのある顔が浮かび、メビウスが今この世界で一番苦手な魔族であるメグミが片目をつぶって笑顔を見せた。


 そしてフィルモアは転がっているバハロンの首を片手で、悪臭がして本当は心の底から拾いたくないゴミを拾い上げるように摘み上げると、


「その、実はあの村に向かった魔王様の意思で、この屑を泣いて謝ってこの世界に生まれ落ち魔族を殺して魔王様まで殺そうとしたことを後悔してもしきれないほど拷問して、屑たちが捕らえているらしい魔族たちのことを聞き出したいのですが……この屑を死なない程度に生かしておくことって可能でしょうか……?」


「……フィルモア様、そんなに可愛い顔でそういうこと言うのはちょっと怖いワンよ?」


 メビウスはメグミと同じ感情を抱いたのだが、それを今言葉に出しても何も良いことがないので黙っていると、メビウスのことは気にせず会話が進んでいった。


「まあ……それはもちろん出来るワンけど……オッケー、で、その人間をこっちに送るワンか?」


「はい。本当のことを言うとこの屑に(わたくし)の魔法陣なんか使いたくないのですが……でも、それをせずにあの子に屑を乗せるくらいなら嫌な思いをするのは(わたくし)だけで良いですから」


 それだけをフィルモアはメグミに伝えると、フィルモアは転移魔法の魔法陣を展開してバハロンを転移させた。


「ほーい! 届いた届いたワン! ふむふむ

、この傷はフィルモアちゃんこの人間にあれの光線をぶちかましたワンね……まあ、出来るけど全力を尽くすワン! じゃあまた魔王城でワンか?」


「はい、それではまた魔王城で」


「バーイバ……いや、ちょっと待って。そこに魔王様いるよね?」


「は、はい。おっしゃる通りですが……」


 ギク!!


 声には出さなかったものの、突然メグミの話がメビウスの話題になったことに魔法結界を使われた時よりも危険なものを感じる。するとメグミは、


「じゃあ、魔王様をここに呼んでくれないワン? い、ま、す、ぐ、に」


「と、メグミ様が呼んでいらっしゃいますが魔王様……」


「はい、行きます……」


 あのメグミの治癒室での出来事のせいでメグミには逆らえないので、しぶしぶメビウスはフィルモアの魔法陣の前に立つ。すると意味ありげにメグミは笑顔を作り、


「久しぶりワンねぇ魔王様? で、何か謝ることは?」


 早速(つら)い話に入った。


「その……えーっと、何を謝ればよろしいでしょうか……?」


「なんでも良いワン。魔王様が謝らなければならないと思っていることがあるなら先に言っておくワン」


 メビウスに問いかけるメグミに一切の容赦や優しさは無く、やはりメビウスはメグミが苦手だと思う。


 だがこの質問にメビウスはきちんと答えないといけなくて、


「でも……すみません。わからないです。一体何を謝ればいいのか……」


「……それは本当ワン?」


 メビウスは何も良い答えや自分の本心が見つからず、きっとメグミにこっぴどく言われるのかと思ったが、言い方に辛いところはあるものの思ったよりは厳しくなかった。


 それには驚いたがメビウスはすぐに思考能力を取り戻して、


「ああ、それが俺の本心だ。なんか――」


「じゃあ今はそれで良いワン」


 メビウスが言おうとした言葉を遮って、メグミはメビウスにため息をついた。


「ただ、この後魔王様が魔王城に戻った後あたしに会ったら話すワン。それまで、ちゃんと考えるワン」


 メビウスはメグミの意図がわからずこれ以上会話を続けられなかった。そんななか真剣な表情から切り替えたメグミが


「じゃあ、今度こそバーイバーイ!」


 と、謎の挨拶で通話は終わり手を振っていたメグミの顔が消えた。そして後ろでメビウスとメグミの会話を聞いていたフィルモアが口を開いて、


「「「「「「魔王様!!!!」」」」」」


 玄関の扉が開いて、プロヴィデンスたちに誘導された魔族たちがメビウスのところにやって来て、


「魔王様ぁぁぁぁ! 死ぬかと思いましたぁぁぁぁ!」


「魔王様ぁぁぁぁ! 何も出来なくて、俺、魔法がいきなり使えなくなってぇぇぇぇ!」


「魔王様ぁぁぁぁ! 魔王様ぁぁぁぁ!!」


「魔王様ぁぁぁぁ! みゃおうしゃまぁぁぁぁ!!」


「魔王様ぁぁぁぁ! 俺、正規軍の戦士なのに何も出来なくて……申し訳ございませんぁぁぁぁ!!」


 囚われていたであろう魔族たちが号泣していた。


「まあ、待て待て待て待て、ちょっと落ち着け。聞いていいか、お前たち?」


「はぁい、もちろんです……グスッ!」


 魔族の一人が涙で汚れた顔を手で拭い、メビウスに真剣な顔を作ろうとしていたが多分本人はそれが失敗していることに気づいていない。メビウスはそれをなるべく気にしないようにしながら、


「囚われていた魔族はこれが全員か?」


「はい、これが全員で……それ以外は、その、それ以外は……!」


「わかった、それ以上言うな。お前も、他のみんなもよく頑張った。よく生きてくれた。それがなによりも嬉しい。だから、共に故郷に帰ろう」


「はいぃ、魔王様あぁ……!」


 魔族たちがどれだけ大切な思いをしたかなんて、何も知らないメビウスに言う権利はない。だから今はただ泣き続ける魔族たちを慰めて、


「フィルモア、魔王城に頼む」


「はい、魔王様。それでは魔王城で」


 フィルモアに転移魔法で魔王城に送るように指示して、メビウスたちの足元に転移魔法の魔法陣が浮かんだ。それはすぐにメビウスたちの視界を真っ白に染めて、


「おかえリ、魔王様」


 戻ってきた魔王城の人間が取り返したレイン村をどうするか話し合った場所で、アンカウンタブルが魔王様に何事もなかったように軽い態度を取ると、


「魔王様が、魔王様が取り戻してきたぞぉぉ!!」


「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」


 メビウスの近くにいた魔族たちを見て全てを理解したアシュラの宣言に、魔王城で待っていた魔族全員が歓喜の声を上げた。

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