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第一章 閑話「ただの裏話」

 時間は遡り、その時はぴったりメビウスがレイン村の襲撃を受けてそこに向かったタイミング。フィルモアは転移魔法の魔法陣が消えたのを確認すると、


「……で、フィルモアちゃんはどうするんだイ?」


 いつのまにか後ろにいたアンカウンタブルに話しかけられて、驚いた様子もないまま振り返った。


「もちろん(わたくし)のやることは決まっております。それで……アンカウンタブル様はお探しになられていたあの三人は見つけられましたか?」


「うーん、フィルモアちゃんが驚く反応は魔王城の魔族の中でもダントツで一番好きだったのにナァ……もう見られないなんて残念」


 レイン村まで行った後に別のところに行ってとある人物を探していたアンカウンタブルは、口がどこにあるかは知らないがため息の音を出すと、


「今度からいつも同じ驚かせ方を変えた方が良いのかナ……? まあ良いや。あとあの三人は見つかっタ……しかもきっと最高で最悪の結果と一緒にネ!」


「最高で、最悪ですか?」


 いまいちよくわからない表現にフィルモアが頑張って理解しようと難しいするのを、アンカウンタブルは心の中で満足げに笑って、


「まあ、今はこのことは重要じゃないから気にしない気にしなイ。で、そうだな……フィルモアちゃん、フィルモアちゃんはこの魔王様が魔王城から離れていた間、魔王様のことをどう思っタ?」


「どう……とは?」


「そのままの意味で言えば、いつもと変わったところはなかっタ?」


 アンカウンタブルの唐突な質問に、フィルモアは驚いた顔をしてアンカウンタブルを見た。


 言っておくが、基本全ての魔族は魔王に対して無条件で信頼している。そのため魔王のことは疑おうと思わないし、一見無茶な命令だとしてもどんなリスクを負ってでも魔族達は魔王の役に立とうとする。魔族にとって、魔王の役に立つとは他の何にもかなわない名誉なのだ。


 それは魔王城に住む者、特に魔王と会ったり話したりする機会が多い四天王までいくとその忠誠心はもの凄いものとなる。


 そんな四天王の一人であるアンカウンタブルが、魔王に疑いの目を向けるのは有り得ないはずだった。


 しかし、それが現実になってしまった事実にフィルモアは驚いていたのだ。


「そう言われれば、何か少しだけ違うものを感じた気がします。なんというか……まるで魔王様をとてもよく知る誰かと一緒にいるような……」


「ねえ、フィルモアちゃン?」


 フィルモアはいつもふざけてばかりのアンカウンタブルが静かに話すということが、どういうことを意味するのかが何も言われなくてもわかっていた。


「たった一度だけ、たった一度だけでも良いから思ったことはなイ? 誰か、信頼していた誰かが実は何か悪いことを企んでいるんじゃないかっテ。」


「……思ったことなんてございません。思うより先に、悪いことを考えた人が(わたくし)は……」


 それ以上のことをフィルモアは言おうとしないし、アンカウンタブルも追及しようとしない。


 ただ、アンカウンタブルは気づいている。フィルモアの瞳の中に僅かに含まれていた暗い感情の存在に。


「ふむふむ、ありがとう……でも、それでもフィルモアちゃんはフィルモアちゃんの信念を変える気はないよネ? 例えそんなことがあっても魔王様を……」


(わたくし)は、魔族のために戦ってくださる魔王様を、お守りします」


 そして、アンカウンタブルは気づいている。フィルモアの瞳の中にあったその感情が、こう断言した時にはもう消えてしまっていることに。


 だから、アンカウンタブルは顔がないため誰にも気づかれないまま意味深に笑って、


「……フィルモアちゃんはそうじゃなキャ! 魔王様ラブじゃないのフィルモアちゃんは絶対に偽物だかラ!」


「魔王様、ラブ?」


 フィルモアにはその単語の意味が伝わらなかったようなので、アンカウンタブルは「あら残念」と呟いた。


 そして、アンカウンタブルは自分のいるところに影を作った張本人を見る。


「やぁ、ウロボロスちゃん。元気にしてた?」


「グルゥゥゥゥゥゥ」


「ウロボロス、どうしてアンカウンタブル様はそんなに嫌いなんですか?」


 唸り声をあげながら、アンカウンタブルを睨む愛龍のウロボロスを撫でて落ち着かせて、落ち着いたところでその背中に乗る。


 主人の乗車を認識したウロボロスは、アンカウンタブルは威嚇するのをやめて空へ羽ばたく。


 そして、


「お願いします、ウロボロス!」


「―――――――――――――――――!」


 魔王のところへ向かっていった、ただの裏話。

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