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第一話 異世界転生譚

今日も退屈な1日だった。俺は仕事もなにもないどこにでもいる普通のニートだ。友達も少なく、生まれてこの方24年間彼女もいたこともない。バイトは何度かしたことがあるけど、どれも上手くいかず、すぐに辞めてばかり。


「はぁー、俺の人生ってなんなんだろうなぁ」


大きなため息が出る。子供の頃はこんな人生になるなんて思いもしなかった。大きくなったら自然に彼女が出来て、自然に結婚して、自然に子供が出来て、自然に老後を迎えて家族に見守られながら息をひきとる。それが"普通"だと思っていたから。でも"現実"は違った。


「くそー、もう一度人生やり直しさせてくれたら絶対に同じ人生は歩まない自信があるんだけどなぁ、なぁ神様がいるなら1回だけ人生やり直しさせてくれよ!」


部屋の中の虚空に無駄に木霊する自分の声が嫌になる。そんな願いが簡単に叶うなら誰も苦労しないって話で。


『パンパカパーン!!その願い叶えましょう!』


当然の大きな声に身体が大きく反応し怯えながら部屋の中を見渡す。しかし誰もいない。この部屋には俺しかいない。


「はぁついに幻聴まで聞こえるようになったのか……」


『幻聴じゃないですよ。貴方は見事に選ばれたのです』


「だ、だれだ!?やっぱり誰かいるのか?」


『探したって無駄ですよ。部屋の中にいるわけじゃなくてあなたの心の中に直接話しかけてますから!』


「心の中に?」


『そうです!私は神様ですからそんなことは朝飯前なのです!』


もうとっくに夜だが……というツッコミは辞めておこう。


「神様?ははっそんなのいるわけ……」


『信じる信じないは関係ありません。それよりもあなたは見事に選ばれたので、あなたの願いは叶えられます!』


「選ばれた?願い?」


『そう!あなたはもう一度人生をやり直したいと願った10億番目の人間なのです!おめでとうございます!』


そんなに明るく言われても反応に困るのだが……。けど人生をやり直せる。ほんとにそんなことが可能なのか、それなら是非とも人生をやり直したい。そしたらこんな退屈な人生ともおさらば出来る。


「ほ、ほんとにやり直せるなら是非やり直してみたい」


『決まりましたね。まぁどのみち拒否なんて出来ませんが!じゃあさっそく人生をやり直して頂きましょう!』


神様と言う奴のその言葉が終わった瞬間、俺の心臓が激しく脈打ち出したのが分かった。心臓が、身体が焼けるように熱い。これは一体何なんだ。なにが起こっているんだ。


『あ!ごめんなさい!1つ言い忘れてたけど人生をやり直す為には一度死んで貰わないといけないから心臓止めるねー!』


そういうことは最初に言えよ……。そしてそんな明るく言われても反応に困るというかもう反応する気力もないけど。もう駄目だ。……し、死ぬ。





身体が嫌に冷たく感じる。俺は死んだのか。いやでも人生をやり直せるって言ってたし、一度死んで生まれ変わるということか、記憶も意識もあるしこれってあれか強くてニューゲームってやつか。やったぜ。この状態で産まれたら赤ちゃんの頃から無双できるな。


そうこう考えてるうちに視界が明るくなって来た。ついに産まれるのか。よし次の人生こそあんな退屈な日々は過ごさないぞ。俺はこの新しい人生で精一杯生きる!!




俺の目に飛び込んできたのは、笑顔で俺を迎え入れる親の姿などではなく、ましてや病院の天井ですらない。え?なにここ?


そこは遥か先まで見通せるほどの天空。多くの山脈が織り成し、空からは優しい太陽の光が降り注ぐ。その光景はまるでこの世のものとは思えないほどに美しい。


いや、マジでなにここ?あれ?なんか凄く風が強い場所にいるよな。いや別に寒くないし、特に体調に問題があるわけじゃないんだけど。なんか身体はまったく動かせないし。まったく理解が追いつかない。目が覚めたらまったく知らない場所にいて、身体も動かせない。というかなんか手足の感覚もないんだけど。


「やっほー」


声は出てるな。目も見えてるし。聞こえる。それに風が強いのも分かるってことは少なくとも五感は生きてるってことだよな。


「はぁはぁ」


ん?なんか息遣いが聞こえるぞ。誰かが来る。


「見つけた!」


人間だ。性別は男。見た目的には青年。俺と同い年くらいか?いや俺は転生したんだから俺より年上か。


「ついに見つけたぞ。伝説の剣!レヴァルト」


……?ん?あれ?俺の存在に気がついてないのか?剣なんてあったか?……。俺は意識が戻ってからのことをよーくもう一度考えて見た。俺の身体は動かず。手足の感覚もなくて。目の前に現れた青年はこっちを見て伝説の剣見つけた!って。


……。え。もしかして、まさか。伝説の剣って俺のこと?


『えーーーーー!!!』

「えーーーーー!!!」


そんなまさか。まさか本当に?


「け、剣が喋った。これが伝説の剣レヴァルトなのか?伝説の剣って喋るんだ。驚いた」


『驚いたのはこっちだよ!おいアンタ。俺はほんとに剣なのか?』


「え?何を言ってるんだ?どこからどうみても剣だけど」


『あの神様野郎!これは一体どういうことだー!!』


まさか人間ですらないだと?他の動物とかそんなのならまだ分かる。いやそれでも納得できないけど。100歩譲ってそれはいいとして、けどよりによって剣だぞ。有機物ですらないじゃん!物じゃん!しかも伝説の剣って!ん?伝説の……剣?


『おいアンタ!』


「え、あ、はい?」


『俺は伝説の剣なのか?ただの剣じゃなくて?』


「そうですよ。あなたは伝説の剣レヴァルト。かつて古の魔王を討ち滅ぼしたと言われる神の作りし伝説の秘剣レヴァルト。かつての勇者が世界に平和をもたらした後、この霊峰に突き刺したという伝説が残っています。魔王が復活した今、僕はその伝説の剣を探し求めてこの霊峰に登ってきたんです。そしてついに見つけた!」


『なるほど。魔王を倒した伝説の剣か。……。えーとちょっと聞くが。この世界には魔王がいるのか?』


「最近復活しました」


『もしかして魔法とかもある?』


「え?あるに決まってます」


そうか。いろいろ理解できた。あの神様野郎。一体なにをどうやればこんな間違いを起こすんだよ。確かに退屈な世界ではなさそうだが。


どうやら俺は人生をやり直すはずが、魔法もありのファンタジーな異世界に転生した。しかも人間ですらない。まさかの伝説の剣。おまけに魔王は最近復活し、この青年は魔王を倒す為に伝説の剣を求めて現れた。


『フフフ……』


「で、伝説の剣さん?どうしたんですか?不敵な笑い」


『いいよ。やってやるよ。俺が魔王を倒し世界を救ってやる』


異世界に転生したら伝説の剣だったので世界を救っちゃいます。それがこの世界で俺が最初に掲げた目標だった。


けどすぐに知ることになる。この剣の本当の恐ろしさと、俺の目標がいかに困難なことであるのかを。

実に4年ぶりの新作。感想等頂けたら嬉しいです。

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