ブレイブフォン 第7話
ブブが部屋へと入っていったころ、レイアは一階の化粧部屋で入念に化粧を整えていた。普段はあまり化粧などしないのだが、その分行事等の時は自分の納得いく出来になるまで鏡と向かい合っていた。ちょうどファンデーションをしているところだった。
レイア「ふん、ふん、ふふん〜♪、右のほっぺをパタパタパタ、左のほっぺもパタパタパタ。お粉をまぶせばパタパタ焼きの完成よ。可愛いからって食べたらダメよ。なんちゃって♪」
レイアは適当に考えた鼻歌を歌いながらたまの化粧を楽しんでいた。別にパタパタ焼きというお菓子が本当にあるわけではない。
レイア「さ〜、次はどれ使おうかな〜」
レイアは頻度のわりにたくさん化粧品を持っていて、化粧水や乳液などの基礎化粧品はもちろん、ベースメイクからポイントメイクまで全ての道具を揃えており、ファンデーションやアイシャドウなどは色んなメーカーの物を集めて色の種類も物凄い豊富だった。その中でも特に口紅はたくさん集めていて、グロスと合わせると20本ぐらいあった。化粧品を収集することの方がレイアにとっては楽しみだったのかもしれない。
レイア「よし、最後にリップメイクをして完成ね。どれにしようかな〜」
目の周りのメイクが終わり、後はリップメイクだけとなった。レイアは先程の20種類もの口紅とグロスの中からなるべく控えめな色の物を探していた。
レイア「う〜ん、やっぱりあんまり派手な色は駄目よね〜。パーティに行くわけじゃないんだし…。本当は真っ赤な色がいいけど、出来るだけピンクっぽいのにしときましょうか」
本当は真っ赤な口紅を使いたかったレイアだったが、流石にブレイブフォンに選ばれた息子の挨拶に行くのにそんな派手な色を使っては不快に思われるのは目に見えていたので、出来るだけピンクに近い口紅を使うことにした。グロスを使おうとも思ったのだが、あまりテカテカするのはまずいので口紅を使ったのだった。
レイア「よしっと。やっぱり女は謙虚さも大切のよね〜。目立つばかりがお化粧じゃないわ」
レイアは化粧が上手く出来たのでご機嫌だった。しっかりと化粧した割には控えめな感じにできたので、これなら挨拶に行った先の人も不快にはならないだろう。むしろ謙虚さが伝わりブブがブレイブフォンに選ばれたことへの印象も良くなるだろう。発表会での様子があれだっただけにレイアは必死だった。
レイア「さぁ、お父さんはもう準備出来たかしら。あなたー、準備が出来たら出掛けるわよー」
化粧が終わったレイアはそろそろ出掛けようとアランを呼びに行った。
レイアが化粧している間ブブは自分の部屋でレイアのカバンから盗んできた携帯をいじっていた。どうやら何かアプリを起動させようとしているようだ。
ブブ「えーっと、ブレイブナンバー交換するにはこのアプリを起動すればいいのかな?。あっ、まずはブレイブフォンの確認をしておかないと」
結局誰ともブレイブナンバーを交換できなかったブブは、なんとレイアにばれないように勝手にブレイブナンバーを交換しようとしていたようだ。だがまだ操作に慣れていないブブはブレイブフォンのその説明書をまず確認することにしたようだ。
ブブ「うわ〜、ブレイブフォンってやっぱりすごい携帯だなぁ〜。ブレイブピックってのは面倒くさいけど、この携帯が手に入ったことだけは感謝だな。よし、取り敢えず開いてみようっと」
ブブは取り敢えずブレイブフォンを開いてみた。ブレイブフォンの画面は左右に二つあるのだが、どちらも今まで見たことないほど高い解像度で、更に非常に透き通ったクリアな画面をしており、その中の映像は初期状態のままのアプリの起動ボタンがいくつかあるだけだったが、ブブはその美しさに見とれてしまっていた。
ブブ「…な、なんだこの透き通った画面は!しかも今までにないくらい高い解像度だ。これは待受画面変えたらどうなるんだろう。早く僕が好きな海の映像にしたいな〜」
どうやらブレイブフォンの画面も特殊な素材で出来ており、エアクリアルという天然ガラスでありながら不純物のまったく入っていない物が使われているようだ。その美しい画面をみたブブは、自分がいつも使っている海の中を無数の魚が泳いでいる待受画面に設定したと時のことを思い浮かべ、まるで自分が本当に海の中にいるような様子を想像していた。
ブブ「…はっ!。こうしちゃいられない。早く母さんの携帯との番号交換を終わらせないと。えー、説明書によるとー…」
ブレイブフォンの画面見とれていたブブだったが、本来の目的を思い出しライナから貰った説明書を開いた。そんなにページ数はなく、どうやらブレイブフォン自体にもっと詳細な説明書が内蔵されており、初期状態ではあらゆる操作においてヘルプ画面が出るようになっているようだ。
ブブ「なになに。まずは互いの“ブレイブトランスポート”というアプリを起動します…。そしたら番号交換というボタンを押せば自動的に交換が開始されます。この時ブレイブナンバーの登録された携帯を、ブレイブフォンから2メートル以上離さないようにしてください…。ってなんだ、ほとんど普通の携帯と一緒じゃん。じゃあアプリ起動っと」
ブブは説明書を読むとブレイブナンバー交換するためのアプリを起動した。説明書見る限り普通の携帯の番号交換とあまり変わらなさそうだったので、簡単に済むだろうとブブは思っていた。
“ピー、暗証番号を入力してください”
アプリを起動しようとしたブブだったが、レイアの携帯から暗証番号の入力を指示されてしまった。だがブブは自分の母親であるレイアが設定しそうである番号は予測できていたため、すぐにその番号を入力しはじめた。別に分かりやすい番号という訳ではなかったが、レイアがいつも家でパソコンで暗証番号を入力する時、ブブはレイアのキーボードを打つ手を覗き込んで確認していたのだ。そしてレイアが他の番号設定もその番号使っていることも確認出来ていたため、このアプリの暗証番号をそれだと確信していた。そして案の定その番号で正しかった。
ブブ「“ピッ、ピッ、ピ”っと。よーし、これで交換できるぞー」
ブブはこれで交換出来ると思っていたようだが、その考えは流石に甘かった。“ブレイブトランスポート”のアプリを起動するためには他に声紋チェックと指紋チェックが必要だった。しかもそれはを全て30秒以内に完了させなければならない。
ブブ「な、なんだぁ!、声紋と指紋も必要なのか。そういえば校長もそんなことしてたような…。ええい、もうどうすればいいんだ!」
ブブは追い詰められていた。流石にばれないように声紋と指紋を入力させるなんてそう簡単にはできない。早くしなければレイアに携帯がないことを気付かれてしまう。ブブは部屋をグルグル回りながらどうすればいいか考えていた。
ブブ「う〜ん、どうしよう…、どうしよう…。早くしないとばれる…っていうか今から出掛けるんだっけか。クソッ。そしたらもう声紋も指紋も確認出来なくなっちゃう」
レイア「あなたー、そろそろ出掛けるわよー。ねぇ、あなたー」
アラン「おーい、今行くよ〜」
ブブ「げっ!、もう出掛けちゃうの。もっと化粧してればいいのに」
部屋で慌てているブブをよそにレイアとアランは今にも出掛けようとしていた。追い詰められたブブは最後の手段を考え出した。すると部屋から何やら薄くて小さめのテレビのような物を服の中に隠し、机からアイマスクと耳栓を取り出して玄関へと向かって行った。
レイア「あら、あなた。その服似合ってますよ。若い頃みたい」
アラン「お前だって随分上手に化粧したな〜。まぁ、化粧なんてしなくても十分綺麗だけどな〜」
レイア「ふふ、本当にお世辞がお上手ね」
ブブが玄関へと向かうとそこにはレイアとアランが今にも出掛けようのとする所だった。ブブは慌てて二人を引き止めた。
ブブ「父さーん、母さーん、ちょっと待ってーー!」
レイア「あら、ブブ。どうしたの、そんなに慌てて」
アラン「本当だ。一体どうしたんだ」
かなり慌てた様子で階段から下りてきたブブに、アランとレイアは何事かと少し戸惑った。二人を呼び止めたブブはよく考えると父親であるアランはいない方がいいと気付き、どうにかレイアだけ引き止めようとした。
ブブ「あ、実はゴメン。実は母さんにだけ用があるんだ。渡したい物があるんだけど、その…、できれば父さんは外に出てて貰ったほうが…」
アラン「なんだ、プレゼントなのに父さんにはなしか」
ブブ「い、いや父さんには明日出掛けるまでに必ず渡すよ。それでびっくりさせたいからこのアイマスクと耳栓を母さんにつけて貰いたくて…。そうすると父さんがいると意味がなくなっちゃうでしょ」
アラン「そりゃそうだが…」
レイア「あなた、いいじゃない。折角プレゼントしてくれるみたいなんだから。きっとなんだかんだで明日から旅立つのが寂しいのよ。ほら、分かったら早く外に出て」
アラン「あ、ああ。そうだな」
ブブ「クソッ。なんとか上手く父さんだけ追い出せたけどもう一つプレゼントすることになってしまった…」
ブブはまんまとアランだけを外に追い出すことに成功した。しかしレイアだけでなくアランにまでプレゼントをしなければならいことになってしまった。予定外の出費に頭を悩ませるブブだったが、今は目の前の目的を優先し、なんとかレイアの声紋と指紋を手に入れることに集中することにした。
レイア「さて、ブブ。プレゼントを受け取る前に何をすればいいんだっけ」
ブブ「あ、ああ。えーっとまずは取り敢えずこれで目隠ししてくれる」
ブブはレイアにアイマスクを渡しまずは目隠しをしてもらった。ブブの作戦はアイマスクと耳栓で視覚と聴覚を奪っている間にレイアの声紋チェックと指紋チェックを済ませてしまうというものだった。聴覚も奪う必要があったのはアプリを起動したさいどうしても携帯から音声が流れてしまうからである。これはミュートにしても流れてしまうと説明書に書いてあったため、ブブは耳栓を用意したのだ。
レイア「分かったわ。…よし、OKよ」
ブブ「うん…」
ブブは目隠しをしてもらったはいいが耳栓をどのタイミングでしてもらうか考えていた。耳栓をされると携帯の音声は聞こえなくなるが同時に自分の声も聞こえなくなってしまうため、レイアに指示が出せなくなってしまう。そこでブブはあらかじめレイアに指示を出しておき、その後で耳栓をしてもらうことにした。
レイア「で、次はどうすればいいの」
ブブ「…次に耳栓をしてもらいたいんだけど、そしたら僕の声も聞こえなくなっちゃうから、先にどうしてほしいか言っとくね」
レイア「OK。でもわざわざ耳栓までさせることないんじゃなーい。目だけじゃくなて耳まで聞こえなくなっちゃうなんて少し怖いわ」
レイアは耳栓まですることに少し抵抗があったようだ。視覚だけでなく聴覚まで奪われてしまうのだから当然といえば当然であった。ブブはなんとか言い訳を考えた。
ブブ「あー、いや…。これはその…音でちょっとバレちゃう可能性もあるから…。操作音とかで」
レイア「操作音?もしかして新しい携帯でもくれるのかな。あんたの大好きなトランプフォンとか」
“ギィクッ!”レイアの口から携帯という言葉が出てきてブブは一瞬ヒヤッとした。だがまだバレたわけではないと自分を落ち着かせ、レイアの番号を交換することに集中した。
ブブ「い、いやぁー、これはまずったな〜、き、機械関係ってことはバレちゃったかな〜」
レイア「うふふ、まぁいいわ。あんた機械だけは詳しいから楽しみにしておくわ。さぁ、耳栓もちゃんとしてあげるから、どうすればいいか指示ちょうだい」
レイアは耳栓をすることに抵抗はあったがブブを信用してたようで、特に疑問を持たずに耳栓をすることを受け入れブブに次の指示を仰いだ。
ブブ「あ、ああ。じゃあ耳栓をしたらまずヒントとして人差し指に渡す物を触れさせるから、そしたら自分の名前と性別と生年月日を出来るだけはっきりした声で言って」
レイア「ん?なんで名前と性別と生年月日なんて言わなきゃいけないの」
ブブ「い、いや。ちょっと登録が必要なんだけど母さんのプロフィールが必要なんだ。それで一応確認しておこうと思って。それに生年月日も覚えてないし…」
レイア「そう言えばあんたに誕生祝ってもらったこと今まで一度もなかったわね…。もう!、母の誕生日くらいはちゃんと覚えとくのよ。それに名前と性別なんて確認する必要なんてないでしょ。まぁ、別にいいから答えてあげるけど…。さぁ、どうすればいいか分かったから耳栓貸してちょうだい」
ブブ「う、うん。はい…」
レイアは流石にブブの言っていることに疑問を持ったが、特に気にすることはせず指示に従うことにしブブから耳栓を受け取った。ブブは少しレイアに押され気味で耳栓を渡した。レイアの方から自分の策に乗ってきてくれることに少し違和感を持っていた。
レイア「はい。じゃあ耳栓するわね。……よいしょっと。はいOKよ。もう自分の声以外聞こえないからね」
ブブ「ふぅ〜、よし!。こっからだ」
レイアが耳栓をするとブブは気合いを入れ直すために自分の両頬を“パシッ、パシッ”と叩いた。そしてブレイブフォンとレイアの携帯を取り出し、まずは暗証番号の入力を始めた。すると次に声紋チェックと指紋チェックの画面に移った。これは先にどちらから確認してもいいため、ブブはまず指紋チェックからすることにした。
レイア「ね〜、まだなの〜、ブブ。やっぱりこの状態かなり怖いんだけど…。あと一分も持ちそうもないわ…」
ブブ「…!」
ブブはレイアの言葉を聞いて慌ててレイアの手をとり、人差し指に携帯の画面をあてた。
“ピーッ、指紋の確認が完了しました。次に声紋の確認をしてください”
するとレイアの携帯から指紋確認完了と声紋の確認を促す音声が流れた。指紋確認が終わったブブはレイアが自分の名前などを発声するのを待った。声紋確認は設定された言葉でないといけなかったが、説明書には初期状態だと自分の名前に設定されていると書いていたため、ブブはレイアのことだから特に変更していないだろうと思い、自分のプロフィールの喋らせることにしたのだった。
レイア「…!。これは何かの液晶画面ね。やっぱり携帯で決まりかな。……あっ、この後自分のプロフィール言わないといけないのよね。じゃあ言うわよ…」
ブブに携帯の画面に触れさされたレイアだったが何か携帯のような物だと予測できたがまさか自分の携帯だとは思わず気付けなかった。そして続けて声紋確認のためのプロフィールを言い始めた。
レイア「えー、私の名前はレイア・レイブン。性別は女性。世界統一歴314年8月27日生まれ、38才です」
“ピーッ、すべての確認が終了しました。アプリを起動します”
レイアがプロフィールを言うと“ブレイブトランスポート”のアプリが起動した。そいていよいよ番号交換する時がやってきた。ブブは少し緊張し、“ゴクンッ”っと息を呑み込んだ後深呼吸をした。
ブブ「…ふーっ。よし、いよいよ後は番号交換のボタンを押すだけだ。30秒以内にしないといけないから急がないと」
レイア「ねぇ、今ので良かったんでしょ。もうなんだか変な感じになってきちゃったから耳栓外すわよ」
ブブ「いっ!」
レイアは視覚と聴覚を奪われた状態に耐え切れなくなったのか耳栓を外すと言い出した。急いでいたブブは“駄目だ”と言おうとしたが耳栓をしているので意味がなくレイアは耳栓を外してしまった。
レイア「ふーっ、やっぱり聴覚って大切ね。これだけで大分スッキリしたわ。もう目隠しも外していいでしょ」
ブブ「だ、ダメだよ。まだ作業が終わってないから早くもう一回耳栓してよ!」
レイア「なによ…、そんなに強く言わなくてもいいでしょ。ちゃんと分かったわよ。じゃあまた耳栓するから早くしてよ」
急に耳栓を外されて慌てたブブはつい強い口調でレイアに怒鳴ってしまった。ブブの少し威圧的な態度に押されたレイアはまたすぐ耳栓をつけてしまった。
ブブ「…少し強く言い過ぎてしまった。でも早く交換を終わらせないと」
ブブは少し自分の発言を気に病んだが時間がなかったので早く作業を終わらせることにした。そしてブレイブフォンとブレイブナンバーの入ったレイアの携帯の交換ボタンを押すのだった…。
ブブ「よし、後はこのボタンを押せば交換が完了するはず。頼む上手くいってくれ」
ブブは上手くいくことを祈りながら交換ボタンを押した。すると二つの携帯の周りが小さく輝きだし、携帯の画面は通信中の表示になっていた。交換するだけでこんなことが起こることにブブは驚きたじろいでいた。
ブブ「な、なんだ。ただ交換するだけでこんなことが起こるのか!。しかもなかなか通信画面から進まない。早くしてくれ」
ブレイブナンバーの交換は普通の携帯の番号交換より掛かる時間が長かった。恐らく赤外線ではなくブレイブウェーブを通して行うためだろう。携帯が輝く現象もブレイブウェーブの影響なのかもしれない。
レイア「ねぇー、まだなのー。早くしてくれないと本当に気が狂いそうなんだけど」
ブブ「うぅ…、まずい。交換が終わるまでにもう一つの作業も終わらせとかないと…。よいしょっと」
交換完了するのに時間が掛りそうと判断したブブは、先程服の中に隠した液晶パネルのような物を取り出した。どうやらズボンに挟んでいたようだ。ノートパソコン程の大きさだったが、折り畳みはなかった。
ブブ「えーっと、一回設定をリセットして…、さっきの母さんのプロフィールをこれにも登録してっと…。よし、もうこれでいいや。見られてまずいデータなんて元から入っていないし…」
こちらの作業はかなり省いたようだったが、ブブはこれでも大丈夫だと判断したのかあっという間に完了した。後は番号の完了を待つだけだったが、それももう終わろうとしていた。
“ピーッ、交換が完了しました。データを確認してください”
ブブのもう一つ作業が完了してすぐに、携帯の輝きがだんだん小さくなっていき、間もなくブレイブナンバーの交換は完了した。ブブはデーターの確認などはする暇もなくすぐにブレイブフォン確認完了のボタンを押し、レイアの携帯の使用履歴を削除しようとした。
レイア「もうー、我慢できない。耳栓も目隠しも外すわよ!」
ブブ「…!、急げーーー」
ブブは急いで履歴を削除し、レイアのカバンの中に携帯を入れた。完全に履歴を削除できたわけでなく、詳しく調べればバレてしまうが、恐らくすぐに気付かれることはないだろう。そもそもブレイブナンバーの交換履歴を完全に消すことはできない。
自分のブレイブフォンはズボンの後ろに挟んで隠し、そして手には部屋から持ち出してきた液晶パネルを持っていた。そしてレイアの前に手渡すようにして耳栓と目隠しが外されるのを待った。
レイア「よいしょっと…。あー、スッキリしたぁ。で、プレゼントっていったいなんな…!」
我慢できず目隠しを外したレイアにブブが目の前に差し出している液晶パネルが目に入ってきた。高価な品だったのかレイアはかなり驚いた様子だった。
レイア「…なに、これ。ただのパネルにしか見えない…うん、なになに、ブレイブック登録用パネル…!。嘘!、これってブレイブックの登録用パネルじゃないの!。なんであんたがそんなの持ってんの!」
ブレイブックとはこの世界の最先端技術で作られたパソコンのことで、今まではありえない電子化技術で使用されており、腕時計型のアクセサリーにパソコンの本体が全て集約されており、残りの機能を全てネットワークを通して起動するパソコンのことである。その腕時計をつけておけば、いつでもどこでも起動することができ、起動すると目の前に完全に電子化した画面が出現し、そのパネル使ってパソコンを操作することができるのである。当然電子状の画面であるため普通に触ろうとするとすり抜けてしまう。そのパネルに触れるにはブブがレイアに渡そうとしている登録用のパネルに指紋登録し、その登録した指のみが電子状の画面に触れることができ、パネルを操作することができる。かなり難しい技術が使われているため、まだ量産化ができておらず、ほとんど流通していないため、買おうとすると100万以上の値がすることもある。
ブブ「へへへ、実は“ジャッジメント・オブ・カレッジ”の世界大会でベスト16に入った時景品として貰ったんだ。こんなの見たらビックリすると思って今まで隠してたんだ」
レイア「そりゃ、ビックリするわよ。っていうかこれを私にくれるって言うんだからもっとビックリしてるわよ…」
ブブ「そんなに驚かなくていいよ。凄いっていっても出来ることは普通のパソコンと変わらないし、ただコンパクトになって持ち運びが更に便利なっただけって感じかな」
レイア「そう…、でもゴメンなさい。流石にこんな高価なもの受け取れないわ…。プレゼントなんていいから、これはあんたが使いなさい」
ブブ「え!」
ブブのプレゼントに驚かされたレイアだったが素直に喜ぶことができなかった。流石に高価な品すぎたのか受け取るのに気が引けてしまったようだ。しかもまだ高校生の自分の息子からの下手をすれば数百万をするかもしれないプレゼントなど受け取れるはずもなかった。
ブブ「そんな…。折角のプレゼントなんだから受け取ってよ。もう明日から会えなくなるんだからさ…」
レイア「ブブ…」
ブブ「それにこれは今まで育ててもらったお礼。まだ高校生っていってももうすぐ卒業だからね。これくらいの親孝行は当然さ。母さんには世界で屈指の素晴らしい母親だからね」
レイア「…ふふ、分かったわ。知らない間に立派に成長してたのね…。じゃああんたの成長を認めるためにもこのプレゼントはいただくわね。明日からの旅…気をつけるのよ」
“ギュッ”
ブブの成長に感動したレイアは思わずブブを抱きしめた。そのまましばらく抱き寄せたまま30秒ほど二人は無言で抱き合っていた。
レイア「…ごめんなさい。急に抱きついちゃって。気持ち悪かったでしょ」
ブブ「そ、そんなことないよ。それよりブレイブックのことで少し言っておかなきゃいけないことがあるんだ」
レイア「OK。なんなの」
折角貰ったプレゼントをちゃんと使うためにもレイアは気を持ち直し、しっかりブブの言葉を聞くことにした。
ブブ「実はさっき指紋と声紋を登録しようとしたんだけど…、実はうまくいってなかったみたいで、プロフィールの登録しか出来てないんだ。ブレイブックを操作できるのは指紋登録した指だけで、起動させるには特定言葉で登録した声紋が必要なんだ。さっきは母さんのプロフィールそのままにしようとしたけど、本当はなんでもいいから。みんなは“ブレイブック”ってそのままの言葉で登録してみたいだけど」
ブレイブックを起動させるにはまず登録用パネルで声紋を登録しなければならない。そしてその言葉が起動とシャットダウンのスイッチとなるのだ。ブレイブックを持つ物のほとんどがその名称をそのままとって、“ブレイブック”と言葉を指定していた。
レイア「なるほど。じゃあ私は“ブレイブブ”にしようかな。ふふふ、いいわよね?」
ブブ「あ、ああ。別にいいよ…。母さんの好きな言葉で…」
本当は気持ち悪くて嫌だったが自分がここまで乗せてしまった手前、ブブは断ることができなかった。それにそこまで母に思われていることがブブは少し嬉しかった。
レイア「よーし、これで登録完了っと♪、早く使ってみたいな」
ブブ「あっ、それと肝心な物を渡しておくよ。はい」
登録が完了したレイアにブブはブレイブックの本体である腕時計型のアクセサリーを渡した。腕時計型といっても本当に時計もついており、普段は腕時計として活用できる。
レイア「あら、ありがとう。これをつけてればいつでも起動できるってわけね。それに普段は腕時計として活用できるみたい。便利ね」
ブブ「あとその登録用パネルは持ち運ぶ必要ないから母さんの机の引き出しに入れておくよ。登録変更はそれでしかできないからなくしちゃダメだよ」
レイア「OK、お願いね。それじゃあこれ以上お父さん待たしても悪いし、母さん行ってくるわね。ちゃんと明日に備えて準備しとくのよ」
ブブ「分かってるよ。じゃあ、バイバイ、母さん」
レイア「ふふふ、バイバイ♪」
ブブからのプレゼントが余程嬉しかったのかレイアはご機嫌な様子で家を出ていった。一方ブブは無事交換が成功して安心し、ホッとしたあまりに床にへたりこんでしまった。
ブブ「ふわ〜、疲れた〜。でもなんとかうまくいったぞ。へへへ…」
ブブがレイアにプレゼントを渡しているころ外ではアランが空を見上げながらレイアが出てくるのを待っていた。
アラン「遅いな〜、母さん。プレゼントっていったい何なんだろう」
“ガチャ”
アランが待ちくたびれているとようやく玄関からレイアが出てきた。かなりご機嫌な様子だったので、アランはよっぽどいいプレゼントだったんだろうと思い、すぐにプレゼントのことを聞いた。
レイア「あなた〜、今終わったわ〜。ゴメンなさい、待たせちゃって〜」
アラン「いやいいんだよ。それよりプレゼントっていったい何だんったんだ」
レイア「ふふふ、それが凄い物だったのよ〜。歩きながら見せてあげるから、取り敢えず行きましょう」
少し時間を食ってしまったためレイア達はすぐに歩き出した。そしてレイアは歩きながら早速ブブに貰ったブレイブックを試すことにした。
レイア「見ててね、あなた。“ブレイブブ”!」
“ヴィーン”
アラン「うおっ!、いったいなんなんだ、それ!]
レイアが登録した言葉を言うといきなり目の前にブレイブックの操作パネルが現れた。それを見たアランはかなり驚いた様子でいったいそれは何なのか問いただした。どうやらアランはブレイブックの存在を知らなかったようだ。
レイア「あら、知らないの。これはブレイブックっていって、超最新型のパソコンなのよ。この腕時計型の本体さえあれば他に何も要らないのよ」
アラン「へぇ〜、最近のパソコンは凄いんだなぁ〜。ブブの奴母さんにはこんな凄いプレゼントして父さんには何くれるつもり何だろ…」
レイア「ふふふ、何だか急に旅立つことになって親のありがたみが分かってきたみたいだから期待しといていいと思うわよ」
アラン「そうかー、じゃあ期待しとくかな。ところでこっちが歩くとその画面も動くんだな〜、本当凄い機械だなぁ〜」
レイア「そうみたいね…。一体どんな技術が使われてるのかしら。それより早速どんな機能があるか見てみましょうか。そういえばブブの奴自分が使ってたときのデータ残してるみたいだけど、消しっちゃていいのかしら。ちょっよどんなの入ってるか見てみようっと」
レイアはブブがブレイブックに残しているデータを覗いてみた。恐らく消してしまっていいものだろうが、取り敢えず確認のためと少し興味があったので見てみることにしたのだ。
レイア「さー、あの子いったいどんなデータ保存してるのかしら。やっぱりゲーム関連ばっか……」
ブブのデータを見たレイアだったが急に言葉を失い静かになってしまった。どうやらゲームのデータばかりだと思っていたが母としてはショックなデータが入っていたようだ。
アラン「うん?、どうしたんだ。何か変な物でも入ってたのか」
レイア「うん…、ちょっとエッチな漫画とかが入ってた…」
アラン「…!、ま、まぁ、年頃の男の子なんてみんなそんなもんさ…。母さんが気にすることないよ」
どうやらアダルトな漫画や動画が入っていたようだ。アランも言っていたがブブはもう18歳だったので当然といえば当然だったが母としてはやはりショックだったようだ。
レイア「そ、そうかしら…。でも…、こんなものばっかりなのよ…。“囚われたくノ一〜淫乱拷問地獄〜”」
どうやらブブはくノ一のコスプレをしたアダルト動画が好きだったようで、タイトルに忍者やくノ一とつく動画が一杯入っていたようだ。そこまで驚くことではなかったが、あまりに同じ様なタイトルばかりあるのでレイアは少し心配になったようだ。
アラン「はははっ、まぁそれは人それぞれ好みがあるからな。別に変な好みってわけじゃないよ。むしろ健全に育ってる証拠だよ。だからもう少し自信を持って」
レイア「そ、そうよね。ブブももうそういう年頃だもんね…。母としてはちゃんと受け入れてあげないと…」
アラン「そうそう。それより大分時間が押してるからそろそろ行かないと」
レイア「あ、そうよね。これ以上気にしても仕方ないし、行きましょうか」
かなり落ち込み気味になっていたレイアだったがアランの励ましもあってすぐに元気を取り戻した。それにしてもブブの見れて困るデータはないとは何だったのか…。