ブレイブフォン 第5話
保健室ではテレビで会場の様子を見ていたライナとリリィがこちらも呆然と立ち尽くしていた。ライナはブブを連れに来たことを心底後悔していた。
ライナ「………はやく治療の用意しとかないとまずいんじゃないか……、あれはもう今までの比じゃないぞ」
リリィ「………多分もう私の治癒術じゃあ助けることはできないわ……」
ライナ「そうか……」
リリィ「ええ……」
そして自宅にて発表会の様子を見ていたアランとレイアは、あまりの衝撃の出来事に放心状態になっていた。自分の息子がテレビの前であんな失礼な発言をした上女の子にボコボコにされてしまったのだ…。これからのことを考えると無理もないことだった。
レイア「あなた……」
アラン「ん?
レイア「本当にゴメンなさい……、うぅ…」
アラン「いや、私の方こそ謝らせてくれ…、すまん…」
アランとレイアは互いに謝りあった。おそらく自分達の息子のあまりの不出来さに、お互い謝ることしかできなかったのだろう。ただ一方の責任せず、互いに反省し合うあたりこの夫婦はやはり立派である。こんないい両親を持っていながらあのようなことをしてしまうブブは、まさに親不孝と言っていいだろう。これからこの家族はいったいどうなるのだろうか…。
ブレイブフォンの発表会が終わったブレイブ高校では、生徒達が各クラスの教室でブレイブナンバーの説明を受けていた。そいて今日はあのようなトラブルがあったため、説明が終わり次第午前中で授業が終わることとなった。おそらく教員達は事後処理で忙しかったのだろう。
そんな中ブブのクラスである3年B組の教室ではルーシーがブレイブナンバーの説明を皆にしていた。だがその教室の中にブブとミルの姿はなかった。
ルーシー「皆いいですかー、ブレイブナンバーを持つ人っていうのは実はこの世界の総人口に対して2割ほどの人が所有しています。まだ高校生であるあなた達のなかにはまだ持っている人は少ないでしょうが、多くの人がこれからブレイブナンバーの取得を目指すことになるでしょう。ではこれからブレイブナンバーを取得するにはどうすればいいか説明していきますが、その前に何か質問はありませんか」
レド「はい、先生」
ルーシー「はい、レド君」
レド「ブブの奴はブレイブフォンの説明を受けに行ってるとして、ミルの奴はいったいどうしたんですか」
ルーシー「あー、それねー……。ミルさんも色々大変なのよね……」
レド「…?」
皆がブレイブナンバーの説明を受けている間ブブは視聴覚室でライナからブレイブフォンの説明を受けていた。だが姿は見るも無残なものだった。顔のあちこちが腫れあがり、目の周りは殴られた後がクマのようになっていた。頭には大きいコブがいくつかと、小さめのコブがいくつもできていた。そしてなぜかその後ろにはミルの姿があった。
ライナ「ミル、あんなことがあったとはいえお前がブブをこんなにしてしまったんだからな。ちゃんと責任もって面倒みてやるんだぞ」
ミル「……は〜い」
どうやらミルはブブに乱暴してしまった罰として、再び世話をさせられていたらしい。当然ミルは不服だったが、他に任せられる者もいなかったため仕方なくブブのそばについていた。
ライナ「ブブ、お前はブレイブフォンについての私の説明をしっかり聞いておくんだぞ」
ブブ「は〜い」
ライナ「では始めるぞ。まずブレイブフォンというのは……」
ライナはブレイブフォンについて説明をはじめた。ブレイブフォンとは先程から何回か説明しているが、ブレイブ協会によって作られ、未知の技術が数多く使われている謎の携帯電話である。普通の携帯電話の機能はもちろんのこと、ネットワーク接続に接続することによって、ありとあらゆるアプリをインストールし、機能を追加することができる。そして当然ブレイブフォンにしか内蔵されいない機能や、ブレイブフォンにのみインストールできるアプリなどもある。その中で最も特徴的なのが、ブレイブフォンと番号交換した者を瞬時に呼び寄せる“ブレイブトランスポートシステム”だ。ブレイブフォンと番号交換ができるのはブレイブナンバーというブレイブ協会が試験に合格した者にだけ配布している番号のみである。そしてその番号が登録された携帯に“ブレイブトランスポート”というアプリがインストールされることによって、転送が可能になる。
ライナ「……以上がブレイブフォンについての説明だ。あとは自分で説明書を読ん……っておい」
ブブ「すぅー…、すぅー…、うーんむにゃむにゃ…、このサンドイッチ最高…むにゃむにゃ…」
ブレイブフォンについての説明が終わり、ライナは次にブレイブナンバーとの番号交換について説明しようとしていたが、肝心のブブがすっかり眠ってしまっていたのだ。ライナはそれを見て叩き起してやろうと思ったが、曲りなりにもこの町のブレイブフォンに選ばれた人物である、それに今日の出来事を考えると無理はないだろうとそのまま寝かしてやることにした。
ライナ「…仕方ない、ミル。お前こいつの代わりに説明聞いといてやれ。後で教えてやるんだぞ」
ミル「えーーーっ!なんで私がぁ!」
ライナ「いくらこいつが悪いとはいえ、ここまでボコボコにしてしまったのはお前に責任だろうが。今朝も言っただろ。少しは手加減する癖を覚えろって」
ミル「うぅ…、分かりました…」
ブブが眠ってしまっているのでライナは仕方なくミルに説明を聞かせることにした。当然ミルは不服だったが、自分が乱暴してしまった手前断ることができなかった。それにブレイブフォンに選ばれたものはブブは明日から過酷な旅に出なければいけないのだ。そう思うとミルは急に少し寂しくなり、今日くらい優しくしてやろうと思い、説明を聞くことにした。
ライナ「まぁ、お前はもうブレイブナンバーを持っているから説明は手短でいいだろう。じゃあ説明していくぞ」
ミルはすでにブレイブナンバーを持っていたため、ライナは基本的な部分を大分省いて説明していった。といっても流石にまだ誰かとブレイブナンバーを交換したことはないため、そこについては重点的に説明しておこうとライナは考えていた。
こちらも先程からいくつか話題にでているが、ブレイブナンバーとはブレイブフォンと唯一番号交換ができる番号のことだ。
この番号と“ブレイブトランスポート”というアプリがなければ、どんなに高性能な携帯でも交換することはできない。複数のブレイブフォンと交換する子はできず、一度誰かと交換してしまうと交換を取り消すまで他の者と交換することはできない。ブレイブナンバーを交換する際には、ブレイブフォンから半径2メートル以内に接近し、両者の携帯とも必ず暗証番号の入力と、声紋・指紋チェックが必要となる。全ての確認を30秒以内に行うことができなければ、再び暗証番号の確認からとなる。ブレイブフォンとブレイブナンバーを交換した者はブレイブメンバーと呼ばれる。かなり厳重なセキュリティとなっているので、不正にブレイブナンバーが交換されることはほとんどない。特にブレイブナンバーの交換は、ブレイブウェーブという謎の電波を介して行われるため、外部ツールなどによって操作させれてしまうことはまずない。ただそれはブレイブナンバーを交換するさいのみの話なので、普通の携帯の機能を使う場合は意味がない。ブレイブフォンにはこれもまた未知の技術作られたセキュリティが搭載されており、外部からの影響を受けることはない。となると不正に交換されるとすれば直接手動で行われる場合のみだが、仮に騙されて意図しない相手と交換してしまったとしても、ブレイブナンバーを登録された携帯の着信拒否設定をすれば、呼び出されてしまうことはない。そしてその間にブレイブ協会に被害の申告をすれば、調査をした上で番号交換の取り消しを行うことができる。通常番号の取り消しはブレイブフォンの所有者の了承のもと、ブレイブ協会の施設まで同伴してもらい、手続きを行う必要があるが、不正な交換であると確認さえた場合には所有者の了承なしに取り消すことができる。
以上のことからブレイブナンバーを持つ者が強制的に所有者のために働かされることはほとんどない。ただ過去に数件のみではあるが、ブレイブナンバーの所持者を脅迫することによって無理やりブレイブメンバーにさせられていたことがある。人質を取られたり、力で抑えつけられたりとかなり悪質であるが、そのような人物がブレイブフォンに選ばれることはほとんどない。
ライナ「…まぁ注意すべきこと言ったらこんなものかな。特に今年は何やら問題のある所有者がいるらしいからお前はさっさとそいつと交換……」
ミル「う〜ん、むにゃむにゃむにゃ……、もう、ブブの馬鹿野郎…、どうして私を怒らてばっかり…むにゃむにゃ」
ブレイブナンバーの説明をしていてたライナだったが、気が付くとミルもぐっすり眠ってしまっていた。考えてみればミルにとっても今日はブブ以上に激しい一日だった。説明を聞くという急に動きのない作業に入ったためつい眠くなってしまったのだろう。
ライナ「はぁ…、もういい。お前達なら説明なんて聞かなくてもなんとかするだろう。ほら、分かったらさっさと起きて教室に戻らんか」
ブブ・ミル「……ほえぇっ!」
ライナは二人に説明することを諦めた。二人の性格を考えると起きて聞いていたとしてもほとんど耳に入らないと考えたのだろう。マニュアルだけ渡しておけば自ら経験していくことで理解していくだろうと判断したのだ。
ブブ「…あれ、なんか全然説明聞いてないような…、本当に帰っていいんですか?」
ライナ「いいからさっさと出てけ!」
結局何も説明を聞かずにブブとミルは追い出されてしまった。仕方なく二人は眠そうな顔をしながら教室へと戻っていった。
ブブ達が仕方なく教室に戻ろうとしていた時、各クラスの教室ではブレイブナンバーの説明が終わり、生徒達が帰宅しようとしていた。一応午後1時までは学校に居ていいらしく、部活動に向かう生徒や教室で雑談している生徒もいた。
ブブ達のクラスの3年B組の教室ではレドがブブ達の帰りを待ちわびていた。おそらくブレイブフォンのことを聞きたかったのだろう。あとはミルとのトランプフォンのフレンド交換の約束も覚えていたのだろう。
レド「遅いな〜、あいつら。折角ブレイブフォンをじっくり見せてもらおうと思ってたのに。もう帰ろうかな〜」
男生徒「おい、レド。ブブ達が戻ってきたぞ。今こっちに向かってきてる。…なんだかえらく眠そうだな」
レド「本当か、よし!。早速ブレイブフォンを見せて貰おうっと。あとトランプフォンの交換も…」
レドはそう言うとブブ達のもとに走っていった。
その頃ブブ達は自分達の教室に向かう廊下を歩いていた。さっきまで眠っていたため、更には今日一日の疲れも相まって非常に重い足取りで教室に向かっていた。
ブブ「あーあぁ、結局ブレイブフォンについて何も聞けなかったなぁ、明日からどうしよう…」
ミル「あんたが寝ちゃったのが悪いんでしょ。まぁ、私も人のこと言えないけど…」
ブブ「はぁ、取り敢えずブレイブナンバー交換してくれる人を探さないとな〜、とても僕一人じゃ旅なんて出れないよ…」
ミル「…言っとくけど、私あんたとブレイブナンバー交換しないからね…」
ブブ「えぇ〜っ!なんでだよ!」
ミル「…あんた、私に体育館で何て言ったか忘れたの。ちゃんと謝るまで絶対に交換しないからね」
ミルは体育館のこと根に持っていたのかブブにブレイブナンバーを交換しないと言い出した。体育館でのブブの言動を考えれば当然ではあるが、まさかミルに断られるとは思ってもみなかったのか、ブブはかなりショックだったようだ。
ブブ「…ふん、じゃあ別にいいよ。ミルなんかよりよっぽど優しくて可愛い子に交換してもらうから」
ミル「どうかしらね〜、私はあんたと交換してくれる子なんていないと思うけど。まっ、頑張って探してきなさいよ」
ブブ「言われなくてもそうするよ。そうだ、さっそくアーシアさんに交換してもらって来ようっと」
素直に謝れば良かったのだが、ブブはつい強がってしまい他にブレイブナンバー持ってる人を探しに行った。だがブブはこの学校で誰がブレイブナンバーを持っているのか知らなかった。アーシアについても実際持ってはいたのだが、ブブはそのことを知らずに交換しに行こうとしていたのだ。
レド「お〜い、レドー、ミルー。今までどこにいたんだ。ずっと待ってたんだぞ」
そんな時教室の方からレドが駆け寄ってきた。ブブにとってはちょうどいいタイミングだった。なぜならレドは校内の生徒の情報に詳しく、特に女子生徒関しては人一倍詳しかったため、ブブはブレイブナンバーを持っている生徒情報を聞こうと思ったのだ。
ミル「あ、レドだ。そう言えば昼飯ご馳走してもらうはずだったんだっけ。今日はもう食堂もしまってるだろうからファミレスでも行くか」
ブブ「ちょ、ちょうど良かった、レド!。悪いけどこの学校でブレイブナンバー持ってる女子の情報教えてくれない。ほら、このメモ用紙に一通り書いて!」
レド「えっ、ああ…、別にいいけど…。もしかして交換してもらいに行く気か!。ブレイブナンバーなんてよっぽど仲良くないと交換してくれないと思うぞ。それにミルはどうしたんだ」
ブブ「いいから早くしてくれ、…………おっ、サンキョー。それじゃあ早速交換して回ってこよっと」
ブブはそう言うとせっせと走っていった。レドは少し不安だったが心配しても仕方ないので取り敢えずミルに話を聞くことにした。
レド「なぁ、ミル。あいつどうしたんだ。もしかしてお前ブレイブナンバー交換してやらなかったのか。お前以外に誰があいつと番号交換なんてしてくれるんだよ」
ミル「分かってるわよ…。だからちゃんと謝ってきたら…、その時は交換してあげるつもりよ」
レド「ふーん…、あっ、それよりトランプフォンのフレンド交換してくれよ。ちゃんと昼飯奢るからさ」
ミル「ああ…、そうだったわね。取り敢えず今友達にメールしたら今からこっちに来るっていうから、それまで教室で待ってましょ。あっ、それと場所はファミレスに変更ね」
レド「へーい」
ミルとレドはブブのことが気がかりではあったが、取り敢えず教室に向かうことにした。二人はおそらくブブとブレイブナンバーを交換してくれる人はいないだろうと思っていた。
教室に戻ったミルとレドはトランプフォンのフレンド交換をしながらミルの友達が来るのを待っていた。
レド「おおぉ!やったぁ、これがブレイブブル・ミレイアスのカードかぁ。かっこいい」
ミル「…私の方には何にも送られてないわ。やっぱりブブの言う通りだったわね。今度からは気を付けないと」
レド「ま、まあまあ…、ちゃんと一週間昼飯奢るからさぁ。機嫌悪くなんないでよ。ところでお前の友達まだ来ないのか。もう10分ぐらい経ってると思うけど」
ミル「うーん、なんかちょっとバスケ部に練習に出てるみたいで今日は体育館使えないから近くの活性化センターで練習してたみたい。今日は練習も自主参加だから抜け出してくるみたいよ」
レド「じゃあもうちょっと掛かりそうだな…。それまでトランプフォンで対戦でもしてみるか」
ミル「おっ、いいわね。私対戦するの初めてだけどあんただったら勝てそうな気がするわ」
レド「…なんだよ、それ」
ミルはレドと“ジャッジメント・オブ・カレッジ”のカードゲームで勝負することにした。初めてのカードゲームの対戦をミルは楽しみにしていた。だが初心者が勝てる程このゲームは甘くなかった。
ミル「………」
レド「イエーイ、俺の勝ちぃ!」
いくら限定のトランプフォンを持っているといっても、始めたばかりでろくなカードを持っておらず、ルールも理解できてないミルはゲームを楽しむ暇もなく負けてしまった。カードゲームはある程度カードが集まってデッキを自分で自由に組めるようになってから面白くなってくる。大抵の人はそうなる前にやめてしまうのである。ミルもその一人になろうとしていた。
ミル「…なによ、これっ!、全っ然面白くないわ。もう辞めようっと」
レド「な、なに言ってんだよ。もっとカードが増えてくれば面白くなってくるって。課金すればすぐにカードは買えるし、ゲーム内のポイントでもパックは手に入るからさ〜」
ミル「そうなの!じゃあ早速買ってみようかな〜。パックを開ける瞬間ってすっごくドキドキして楽しみなのよね」
レド「まぁ、課金はほどほどにね…」
もうゲームを辞めてしまうかと思われたミルだったが、どうやらこのゲームにのめり込んでしまいそうな雰囲気だった。カードのプレイは下手でも、パックを開けるのが楽しくてついゲームに夢中になってしまう人が多いのは、この“ジャッジメント・オブ・カレッジ”だけでなく、全てのトレーディングカードゲームにある問題だった。
ミル「なんだかんだでカードってプレイすることより集めることに夢中になっちゃうのよね。あ〜早くレアカードいっぱい欲しいわ〜」
レド「…レアカードのためについ大金はたいてしまう人もいるみたいだから気をつけろよ。……ってあれ、ブブの奴もう帰ってきたぞ」
ミルとレドがトランプフォンで遊んでいると教室の扉からブブが入ってきた。なにやら落ち込んでいるようで、顔を俯けてボソボソと独り言を言っていた。
ブブ「…どうしよう。結局誰からも番号交換してもらえなかった…。このままじゃあ本当に一人で旅立つことに…」
ブブの様子を見てミルとレドは誰とも番号交換できなかったことを悟った。だが成績もほぼ最下位で学校をサボりまくっている上にあの髪型である。交換できないであろうことは予測済みだったので二人はまったく驚かなかった。
レド「あの様子だとやっぱり交換してもらえなかったみたいだな…。俺はブレイブナンバーなんて持ってないし…。あいつ一人で旅立つことになるのかな」
ミル「自業自得よ。普段から無神経なことばっかり言ってるからいざってとき誰も助けてくれないのよ。あいつは周囲に対する配慮が全く足りてないわ」
ブレイブナンバーを交換できなかったブブはレドの席の前の自分席に座ってへたりこんでしまった。誰とも交換できかったことがよっぽどショックだったのだろう。
ミル「あら、ブブ。やっぱり交換してもらえなかったのね。これで分かったでしょ。ブレイブナンバーを交換するってことはってのはその人にとって物凄く重いことなの。なんせ命を預けるようなものなんだからね」
レド「おい、ブブ。もうちゃんとミルに謝って番号交換してもらえよ…。お前と交換してくれる奴なんてこの町には他にいねぇよ」
ブブ「………ヤダ」
ブブはまだ意地を張っていた。頭の中ではもうミルに頼むしかないと分かっていたが、自分に全く魅力がなかったことを認めたくなかったため、なんとかミル以外から番号交換をしたかったのだ。しかしミルの言う通りブレイブナンバーを交換するということはブレイブフォンの所有者に命を預けるに等しいことである。実際ブブにそれだけの魅力があったとしてもそう簡単には教えてもらえなかっただろう。過去にブレイブフォンに選ばれた者達も最初は自分と親しい者からしか交換してもらえないのがほとんどだった。
ミル「…何意地張ってんだか。そんなんじゃブレイブピックに出るなんて無理ね」
ブブ「…別にブレイブピックには出られないのはいいんだけど自分にそんなに魅力ないなんて納得できない。僕の実力だったら向こうから交換してくれって言ってきてもおかしくないのに」
ミル「その根拠ない自信はどこから来るんだか…、うんっ…!」
マイ「おーすっ、ゴメン。結構待たせちゃったみたいね」
ブブが教室に入ってきてすぐにミルの友達であるマイリー・フィールス、通称マイが入ってきた。ブブ達とは中学時代から一緒で、ミルとは親友といっていい程仲がいい。短めのショートヘアーで、水色を更に薄くした様な髪の色をしている。明るい性格で、ミルと同じく女の子にしては活発なほうである。
ミル「マイぃ!、こっちこそ急に呼び出してごめんね。せっかくだからマイも一緒の方がいいと思って」
マイ「はははっ、悪いねレド。私の分まで奢ることになっちゃって」
レド「…っていうか友達ってお前のことだったのか。まぁ別にいいよ。ちゃんと見返りはあったから」
マイ「…?」
マイはミルだけでなくレドやブブとも仲が良かった。マイのみ中学生からの付き合いだったが、そんなことを感じさせないくらいブブ達と打ち解けていた。バスケットボールがかなり上手で、バスケ部の大会に出た時には必ずブブ達が応援に駆けつけていた。
マイ「へぇー、ミルの奴がそんなレアな携帯手に入れたなんてね〜。昔から運のよさは凄がったもんね。確か宝くじでも30万ほど当ててたわよね。でもミルがトランプフォンなんて…、やっぱりブブと遊びたかったからかな」
ミル「な、なに言ってるのよ!私はただ今時トランプフォンを持ってないなんて遅れてるって思っただけよ。やっぱりこれからはゲームの一つくらい出来るようになっとかないとね〜」
マイ「…何言ってんの。うん…、そう言えばそこで机に俯せてるのってブブじゃない?」
マイが来たにもかかわらず、ブブは机に俯せたまま話しかけず俯せていた。不思議に思ったマイはブブの背中を?ポンッ?と叩き、自分が来たことを分からせようとした。
マイ「よっ、ブブ。なに机に俯せてんのよ。折角ブレイブフォンの所有者に選ばれたってのに。もっと喜んでなさいよ」
ブブ「………」
マイに声を掛けられたブブだったが、不貞腐ていたのか何の反応もしなかった。
マイ「…どうしたの、こいつ。何かあったの?」
レド「実は…」
レドはブブが誰ともブレイブナンバーを交換してもらえず、しかも頼みのミルからも体育館の一件のせいで番号交換はしないと宣言されていることを説明した。
マイ「ぷっ、ぷははははは、そりゃ何ともブブらしいわね。でもおかしいなぁ〜、私は結構ブブって魅力的だと思ってたんだけどな〜。なんなら私のブレイブナンバー交換してあげようか」
ブブ「本当!。マイってブレイブナンバー持ってたんだ。この際だ、もうマイでもいい。ぜひ交換してください」
ミル「ちょ、ちょっとマイ、本気で言ってんの…」
マイの当然の言葉にブブは急に起き上がって反応した。どうやら何がなんでもミル以外とブレイブナンバーを交換して自分に魅力があると証明したかったらしい。反対にミルはマイの言葉に動揺したようだ。ミルもなんだかんだで自分以外の人がブブとブレイブナンバーを交換するのは嫌だったらしい。
マイ「な〜んて、冗談よ、冗談。本当はできたら交換してあげたいんだけど…、実は中学から他の町に引っ越した友達がブレイブフォンに選ばれたみたいなの。それで近日中にこの辺りに交換しに来てくれることになってるの。一度交換してしまえばいつでも会えるわけだしね。という訳でゴメンね、ブブ」
ブブ「そんな〜…。僕よりその他の町の友達の方が大事なんてあんまりだ〜」
ミル「…ふん、残念だったわね。そりゃ学校サボってばっかのあんたより、きっとその友達の方がよっぽどブレイブフォンの所有者らしいわよ。もしかして4年間ずっと独りで旅することになるんじゃないの」
どうやらマイは他にブレイブナンバーを交換する人物がすでにいたようで、結局ブブと交換することはできなかった。期待を膨らませていたブブはまた塞ぎ込んでしまったが、ミルは冗談だったと知ってホッとしたようだった。そしてここぞとばかりにブブに対して罵りの言葉を言い放った。
ブブ「…くっそ〜、皆して僕のこと馬鹿にしやがって〜。見てろー、こうなったらこの学校の生徒じゃなくて町の人達にも声を掛けてきてやる〜。そしたらきっと一人ぐらいは交換してくれるはずだ」
ブブはそうゆうと急いで教室を飛び出していき、ミル達が気が付くと窓外であっという間に校門を駆け抜けていくブブ姿が見えた。しかし学校の生徒でも交換してくれる人がいないのに見ず知らずの町の人が交換などしてくれるわけがなかった。しかもこの町の人々は皆家庭を持っていて、仕事や家事で忙しかったためブレイブピックなど目指している余裕はなかった。ブレイブナンバーを持っているからといって、積極的に交換してくれるブレイブフォンの所有者を探している人物は実は少ないということだ。ほとんどの者は自分に交換相手を渋ってる間に自身のピークが過ぎていまい、そのまま家庭を持ったり、仕事に熱中したりしていまい、ブレイブピックに出るということが夢のまま終わってしまっている。ブレイブナンバーの所持者はブレイブフォンの所有者以上に決断力が要求される。自分を他人に預けるということは並大抵の覚悟ではできないということだ。
レド「あいつまさか本当にこの町の人全員に声かける気か!。相変わらず無茶苦茶な奴だぜ」
マイ「でもブブらしくていいんじゃない。私あいつが所有者に選ばれて良かったと思ってるの。この調子でもっととんでもないことしでかして欲しいわ」
ミル「もう…、あんな奴のことほっといて早くファミレスに行きましょう。私今日は物凄くお腹がすいてるの」
レド「はははっ、まぁお前もブブ以上に大変だったからな。よしじゃあ行くか。あんまり高い物頼むなよ」
マイ「でもいいの、ミル。ブブの奴放っておいて」
ミル「いいの。どうせあいつと交換する奴なんていないわよ。それにあいつ負けず嫌いだけどプライドはないからすぐに泣きつてくるわよ」
ブブが町の人達にブレイブナンバーを交換してもらいに行ってしまい、ミル達は昼飯を食べにファミレスに行くことにした。
果たしてブブはブレイブナンバーを交換してもらえるのだろうか…。三人は少し気にしながら教室を後にした。