ブレイブフォン 第4話
体育館ではもうほとんどの生徒が集まり、自分の席に着席していた。皆ブレイブフォンのことでガヤガヤと話していた。“やっぱりレイスが選ばれるのかな”とか“ブレイブナンバー手に入れてどっかの美人な勇者様でもナンパしてこようかな”など、色々な話題が話されていた。
そんな中ブブのクラスの座席の近くでは、なかなか来ないレドのこと心配している、ルーシの姿があった。
ルーシー「もう〜、レド君ったらどこほっつき歩いてるのかしら〜。もう式始まっちゃうわよ〜」
レド「先生ー、すみません。遅れましたー。俺の席どこですか?」
ルーシー「あ、ここよ、ここ。もうー、トイレにでも言ってたの。今度からは始まる十分前にには済ませておくのよ」
レド「はい、すみませんでした」
どうやらレドは間に合ったようだった。発表会が始まり、重苦しい雰囲気の中をコソコソと足音を立てずに入ってこなくてよくて安心していた。席についたレドは周りを見渡していた。すると生徒達の席の後ろ方にほとんど空席だらけの列を見つけた。
そこには昨年までこの学校に在籍していたレドの先輩達が何人かいるだけだった。
レド「先生、あの席はなんなの?去年卒業した先輩が何人かいるみたいだけど…」
ルーシー「ああ、あれは去年卒業した生徒達を呼んだ席よ。ほら、ブレイブピックって4年に一度しか行われないでしょ。この町は特殊で、毎回この学校からブレイブフォンの所有者が選ばれてるから、どうしてもチャンスが回ってこない学年の生徒達がいるわけよ。次でいうと今年の四月に入学してくる生徒ね。だからせめて式だけでもっていくつか席を用意してるのよ。まぁほとんど来ないんだけどね」
レド「え、でもそれって抗議したりしないの。自分達だけチャンスがないなんて不公平じゃない」
ルーシー「う〜ん、でも一つの学校から毎回選ばれるなんてこの町だけだし、どうしても選ばれたければ他の街に引越ししたり、一年浪人してこの学校に入ればいいわけでしょう。ほら、あなた達の学年にも高校から転校した人や、浪人して入って来た人、中にはわざと留年した人もいるのよ」
レド「あー、そう言えば中学の受験の時やたら違う町の高校うける奴多かったな〜、浪人や留年についてはこの学校物凄くレベル高いから何人いても不思議には思わなかったけど」
ルーシー「そういうことよ。あ、先生そろそろ教員席に行かなきゃ。もうすぐ始まると思うから、あんまり喋ってばかりいないで静かにしてるのよ」
そういうとルーシーは教員席の方へ走っていった。すると急に体育館の電気が消え、あらかじめカーテンを閉めていた体育館内は一気に真っ暗になった。流石にもう始まると察した生徒達も静かになった。発表会の様子は地元のテレビ局によって生中継されることになっていた。館内が暗くなり館内が静かになったことによってテレビ局の関係者がカメラを回し始めた…。
ブレイブ高校で発表会が始まろうとしていた時、ブブの家ではレイアとアランがテレビの前で中継が始まるのを待っていた。
まぁブブの家だけでなくこの町のほとんどの住人が今頃はテレビの前で所有者の発表を待ちわびていただろう。その中には所有者はレイスで決まりだろうと噂されていても、もしかしたら自分の息子や娘が選ばれるのではないかと期待している者もいるだろう。
レイア「もうすぐ始まりますね、あなた。あっ、そうだ、実は美味しいお茶菓子があるんです。せっかくだから食べながら見ましょうか。お茶入れますけど、暖かいのがいいですよね」
アラン「うん、ああ…、悪いね、頼むよ」
レイア「はい。ちょっと待っててくださいね」
レイアはブブに食べられないように隠してあった茶菓子を取りに行った。遠方の大きな街にある有名な和菓子屋で買ったもので、アランと二人でゆっくり食べられる機会を待っていたのだろう。
レイア「はい、どうぞ、あなた」
アラン「おっ、こりゃ美味そうな茶菓子だな。ではお一つ頂くとするかな……モグモグ……、うぉ!こりゃ美味い!」
レイア「ふふふっ、ちょっと遠出して噂で美味しいって聞いたお店に行ってきたんです。喜んで貰えて良かったですわ」
アラン「ズズーっ……、いやこの母さんが入れるお茶もまた美味しい。相変わず完璧な湯加減だ」
レイア「あらあら、お世辞ばっかり言わせてすみません。それはお茶の葉も値段の高い物使ってるからですよ。これは通販で取り寄せたんですけど。…あ、もう始まる見たいですよ、発表会」
レイアは楽しい夫婦のひと時を過ごせて満足げだった。だが今から見ようとしている発表会の結果によって慌てふためくことになろうとはこの時はなんの予想もしてなかった。
一方保健室ではレドがいなくなった後ブブ、ミル、リリィの三人もテレビを点けて発表会が始まるのを待っていた。今朝ブレイブフォンなんて興味ないっと言っていたブブだったが、なんだかんだで気になるようだ。
ブブ「う〜ん、早く始まらないかな〜。もう5分ぐらい画面真っ暗なままだよ〜」
ミル「なに?、もしかしてあんた、自分が選ばれるんじゃないかって期待してるの。あんなに学校サボっといてちょっとそれは虫が良すぎるんじゃな〜い」
ブブ「う、うるさいな〜、別に期待なんてしていないよ。僕はブレイブフォンがどんな携帯なのか気になるだけさ。一応凄い技術で作られてるらしいしね」
リリィ「ははっ、確かにブレイブフォンの技術は謎に包まれてるからな〜。気になるのも無理ないよ。先生もじか見たことあるけどなにがどうなってるか分からなかったもんな〜」
リリィはブレイブフォンの所有者とブレイブナンバーを交換したことがあったため、ブレイブフォンを直接手に触って見る機会があった。だがブレイブフォンの技術はとてつもなく高度で、数え切れない程の様々な機能があり、リリィどころかその所有者でさえブレイブフォンの全容を理解してなかった。
ミル「そう言えば先生は従者としてブレイブピックに出たことあるんですよね。ブレイブフォンに呼び出される時ってどんな感じなんですか?」
リリィ「う〜ん、まず呼び出されたらブレイブナンバーを登録した携帯が光り出すんだよ。そしたら急に目の前が白くなって気がついたら周りが虹色に包まれた変な空間にいるんだよ。そこは無重力空間みたいで、しかも壁も他の物体も何もなくて上に行っても前にいってもずぅーっと七色の景色だから、自分が移動できてるのかどうかも分からないんだ」
ブブ「…!、なんかアニメとかよく出てくる四次元空間とかワープ空間みたいってこと?」
リリィ「まぁ、そんな感じだな。で、その空間に入ったら頭の中に転移先の情報が勝手に入ってくるんだよ。どんな場所にどのような状況でどのような理由で呼び出さられるかなど…。そして入ってくる情報を完璧に理解できたとブレイブフォンが判断したら所有者の所に転移されるんだ」
ブレイブフォンは人物を自由に転移させられるのだが、そのリスクは尋常ではない程高い。何キロ何千キロと離れていようが一瞬で所有者の所に転移できるである。普通ならば転移先で思わぬ事故にあったり、転移したはいいが状況が分からず敵にやられてしまうかもしれない。そのことを回避するためにブレイブフォンには“モーメンタリー・アイソレイション・ワールド・システム(一時的な隔離世界機能)”通称ミウ(MIW)システムが搭載されている。一度この世界から隔離させた空間に転移させ、そこで事件や事故の起きないよう調整するシステムだ。どのようにしてそのような空間を造ることができているか不明だが、実は空間自体はこの世界のどこかにあって、おそらくは時空を分断することによってその空間に入れるのではないかと推測されている。
ミル「え?つまりは一度変な空間に連れて行かれて、そこでしっかり説明を受けて、現場に派遣されるってことですか?。でもそんなことしてる間に所有者の人がやられちゃうんじゃ……」
リリィ「派遣ってお前……、まぁいいか。それがブレイブフォンの凄いところで、変な空間での説明が非常に複雑で転移者が理解するのに何十分何時間と掛ろうと、ブレイブフォンの所有者が呼び出しをかけたジャスト0.2秒後に転移されてるんだよ…。しかも呼び出し先でもっとも適切な場所に転移しているんだ。もちろん転移可能な範囲制限はあるが。そして命の危険があると判断された場合には転移が中止されるんだよ」
ミル「うわ〜0.2秒後って凄いですね…。でもそれってちょっと不公平じゃないですか?理解するのにどんに時間が掛かっても転移される時間が同じなら理解力のある経験や知力の高い人は損じゃないですか」
ブレイブフォンのミウシステムは、転移者が状況を理解するのに時間が掛かろうと必ずジャスト0.2秒後には転移されるようになっている。その為状況を理解するのに10秒もかからない者も、何分何十分とかかってしまう者でも転移される時間は同じである。これは一見理解するのが速い者にとって不利に思われる。
リリィ「いや、確かに一見理解力のある者に不利に思えるが…、実はそうではない。どんなに状況を理解できようともその後どれだけベストな行動をとれるかは、転移者しだいだ。むしろ状況を寸分のくるいもなく完璧に理解にできるというのは、経験値の高いものや知略に優れたものにとってより有利に働くだろう。不測の事態が起きないため確実に相手の先手をとって行動できる。だが少しでも経験や知略で劣っていると、毎回後手に回ってしまい折角の自分の能力を生かせなくなってしまうだろう」
ブブ「ふ〜ん、奥が深いんだね、ブレイブフォンって」
ミル「ほんと。私改めて先生のこと尊敬し直しちゃった」
リリィ「はははっ、よしてくれよ〜。ブレイブピックに出たのなんてもう8年も前だぞ〜。もう腕も経験も腐っちまってるよ。あっ、それはそうと、もう始まるみたいだぞ。発表会」
3人が話している間に時間はもう9時10分になっていた。予定では9時から始まるはずだったが少し遅れたらしい。真っ暗な体育館のなかで正面の舞台の横の司会者台にスポットがあたり、発表会が始まった…。
発表会の予定が遅れ、10分以上真っ暗であった体育館では生徒達が少しざわついていた。しかし司会役を務めるライナにスポットライトがあたるとすぐに静かになった。
ライナ「えー、大変お待たせいたしました。只今から、第54回ブレイブピックのブレイブフォン所有者発表会を執り行わさせていただきます。本日、司会進行を務めさせていただく、ブレイブ高校教員のライナ・レスティーです。どうぞよろしくお願いいたします」
この町の過去のブレイブフォン所有者が、全てブレイブ高校の生徒から選ばれているため、発表会は高校の体育館で行われているが、当然生徒達のためだけの発表会だけではないため、テレビで中継されているだけでなく、一般の町の住人達も見に来ていた。人数制限があり、参加できる住人は限られていたが、生徒達は制限なく全員参加できていた。
ライナ「まず初めに、これまでのブレイブピックを振り返るためのVTRを用意しましたので、そちらをご覧下さい」
ライナが裏方の先生に合図を送り、舞台にスクリーンが映し出され、VTRが流れ始めた。ブレイブピックは全世界の人々にとって重要な行事だったため、ライナは真剣な態度で司会に臨んでいた。
男生徒「おっ、あれは第25回の優勝者のメグート・ライアンじゃないか!」
女生徒「きゃー、ホント!、この町唯一の優勝者にして初の女性優勝者よー!、素敵ー、女の鏡!」
住民「おっ、今度はライオネル・ボーンか!第41回の所有者にして70歳になる現在も現役ブレイブフォロワーとして活躍し続けている老人だ。凄腕の魔法剣士にして錬金術のエキスパートでもある。自分専用の錬金術の研究所を持っていることから?ラボじぃ?と親しまれている人だ」
ブレイブフォロワーとはブレイブピックが行われる度にブレイブフォンの所有者と番号交換をし、もはやそれが職業とまで言われている人々のことだ。通常ブレイブナンバーを持つ者は、一度ブレイブナンバーを交換するとほとんど次回からのブレイブピックにおいて、番号交換をしない。ブレイブピックを目指すための旅がかなり過酷であることと、初めに交換した者への愛着が深い者が多いためである。そんな中幾度なくブレイブピックへの旅をし、更にはブレイブピックに出場し上位に入ったことまであるブレイブフォロワーは、ブレイブフォンの所有者にとって、なんとしても番号交換したい相手でもある。おそらく所有者ナンバー1候補のレイスの母親が探している人物も、このブレイブフォロワーだろう。
女生徒「…!、あ、あれレイス先輩のお父さんじゃない!、きゃー、お父様〜、素敵ー」
レイス「……」
レイスの家は今までその父親から曽祖父まで3代に遡って皆ブレイブフォンの所有者に選ばれている。今回のVTRにもその映像は映っていた。このようにVTRには歴代のブレイブ所有者達が映し出され、生徒や参加している住民、そしてテレビで見ている視聴者も、次に選ばれてこの映像のように活躍するのは誰なんだと興奮し、ワクワクしていた。そんな中20分程度あったVTRはあっという間に終了し、次に校長の演説が始まった。スクリーンが閉じ、校長が立ってる演台にスポットライトがあたった。
校長「えー、皆さん。歴代のブレイブピックの映像はいかがだったでしょうか。私もこのブレイブ高校の校長に就任して14年、ブレイブピックの発表会にはもう3回も立ち会っておりますが、先程の映像を見て、過去にブレイブフォンに選ば れた我が校の生徒達との思い出が蘇り、懐かしさのあまり涙してしまいました。ブレイブフォンに選ばれて、緊張した様子でこの舞台の上に登って来た生徒達が、中には、ブレイブピックへの出場が叶わなかった者もいましたが、四年間のブレイブピックへの旅を通して、立派に成長した姿というのは、私にとってなんとも言い難い、まさに勇者の姿というべきものでした。………」
この高校の校長は演説が上手で、つい聞き入ってしまうと、皆から評判だった。大体演説と言うのは、聞いてる方は退屈で、眠気を堪えるのに必死になってしまうものだが、この会場の人達は、15分もの間校長の演説を無心になって聞いていた。そのおかげであっという間に時間が過ぎ、いよいよ校長の演説が終わり、ブレイブフォンの所有者の発表が始まるのだった。
校長「…という訳で、今回のブレイブピックも、参加者だけでなく、この町の住民、いや、世界中の人々で盛り上げて行きましょう。では、私の演説はこれで終わります。次はいよいよブレイブフォンの所有者の発表です。誰が選ばれたとしても、心地よく迎えてあげてください。以上です」
ライナ「立派な演説ありがとうございました、校長先生。誠に恐縮ですが、ブレイブフォンの発表が終わるまで、そのまま演 台にてお付き合いください。ではブレイブフォンを校長の所へお持ちしてください」
校長の演説が終わり、ブレイブフォンが会場の前に運ばれようとしていた。ライナの指示で担当の先生がブレイブフォンの入った展示箱を持って、舞台へと上がっていった。とても綺麗な展示箱で、ブレイブツリーというかなり貴重な木材で作られいて、箱の表面は水のように透き通っており、光を反射することで穏やかな輝きに包まれてる。内装も極上の絹で作られていて、その素材は太陽の光に照らされて光り輝くような羽を持つことから、大洋蝶と呼ばれる蝶の幼虫の作り出す繭で作られている。
そしていよいよブレイブフォンの入った展示箱が校長のもとに届けられ、皆の前にその姿が見せられようとしていた。ゆっくりと開けられていく箱の隙間から、閃光のように眩い光が溢れ出ていた。そのままどんどん光は強くなっていき、一瞬会場全てを照らしたのではないかと思う程光輝いた。気が付くと光は収束し、そこには穏やかな光に包まれる銀色のブレイブフォンがあった。
ライナ「会場の皆様、長らくお待たせ致しました。こちらが第54回ブレイブピックにおいて、このブレイブタウンから出場を目指す者に与えられる、銀色に輝くブレイブフォンでございます」
ブレイブフォンは電子手帳の様な構造をしている。扉は左開きになっていて、開くと左右のページに画面があり、右のページの画面の下には操作ボタンがる。タッチ操作も可能で、右ページの上部にタッチペンが内蔵されている。カラーは、毎回その地域によって様々で、今回ブレイブタウンに送られてきたブレイブフォンは銀色だった。色が違うからといって性能に違いはないが、ブレイブフォンのカラーが何色かというのも町の住民達にとって楽しみの一つだった。今年は今までで初めての銀色だったため、皆また町の歴史に新しい色が増えたと喜んでいた。
住民「うお〜、今年は銀色か〜、初めてだなぁ〜」
住民「うわ〜本当いつ見てもブレイブフォンって綺麗ね〜、一度でいいからあんな携帯使ってみたいわ〜」
住民達も驚いていたが生徒達はもっと驚いていた。ほとんどの生徒はブレイブピックにあまり興味がなく、ブレイブフォンを見るのが初めてだったのだ。
レド「あ、あれがブレイブフォンなのか!、想像していたよりもずっと凄い携帯じゃないか。俺のトランプフォンの存在が霞んじまうぜ」
女生徒「……なんの限定仕様もついてないあんたのトランプフォンなんてもともと存在が霞んでるわよ。でも本当にブレイブフォンって凄いわね〜。あんなに輝いてる携帯みたことないわ」
男生徒「うわ〜、こんなに凄い携帯ならもっと勉強していい成績の残しとくんだったよ〜。今の俺の成績じゃあ絶対選ばれないよ」
女生徒「何言ってんの!。別にあんたが勉強したところで今回はレイス君に決まりよ。なんたってレイス君はただの校内ナンバー1じゃなくて、世界でもトップ5に入ってる超ぶっちぎりのナンバー1なんだから。私達がちょっと熱心に勉強したぐらいで追いつけるもんじゃないわよ」
レド「それにしてもあのブレイブフォン…、、なんだか俺のことを読んでる気がするぜ…」
女生徒「はぁ、あんた成績ほとんど最下位に近くせにブレイブナンバーも持ってないじゃない。気のせいよ、気のせい」
レド「ブレイブナンバーか…」
レイス「…なんだろう、確かに僕も呼ばれている気がする…。でもこれは所有者というよりむしろ…」
生徒達はブレイブフォンの輝かしさを見て、自分ももっと勉強していれば良かったと後悔した。この町のブレイブフォンはこの高校の生徒の中からしか選ばれていなかったため、彼らが今回選ばれなければ次のブレイブピックまでに他の町や地域に引っ越すしかない。当然どこの地域にも選考の基準があるようだが、この町ほど限定的な所はそうないだろう。
校長「えー、皆様ブレイブフォンを見て興奮しておられるようですな。今年はなんとも輝かしい銀色のブレイブフォン。私もどの生徒が選ばれるか楽しみでありません。ではライナ先生、この後の発表の説明をお願いします」
ライナ「はい、現在9時53分40秒です。ブレイブフォンの所有者のデータは10時ジャストに自動でダウンロードされます。その時受信の合図として再びブレイブフォンが大きく輝き増すのでご注意ください。そのデーターを閲覧するには校長のみが知る暗証番号と、校長の指紋と声紋が必要になっております。ですのでダウンロードが終わりインストールが終了したあと、校長に確認してもらい、そのまま発表していただくことになります」
校長「その後発表された生徒はゆっくりと舞台の上まで登ってきてください。及ばずながら、私の方から手渡せていただきます。またその後少しブレイブピックにかける意気込みなどをお聞かせ願えると幸いです」
発表の際の説明が終わり、約5分程度会場の者は待つことになった。その間会場は沈黙包まれ、誰一人として言葉を発しようとしなかった。そんな中真っ暗に閉ざされた会場の中で、演台の上で所有者のデーターを待つブレイブフォンだけが光り輝いていた。まるで自分の運命の人を呼び寄せるために必死に輝いてるようだった…。
所有者の発表を息を飲んで見守っているのは会場の人々だけではなかった。自宅で発表会を見ていたアランとレイアも、テレビに写った神々しいまでに輝くブレイブフォンを見つめていた。
アラン「………」
レイア「………」
黙ってテレビを見つめていたレイアだったが、ふと心のなかに妙な感じがはしった…。
レイア「……なんなの、あのブレイブフォン…、私のことを呼んでる…?」
同じく保健室でもブレイブフォンを見守っている者達がいた。発表会が始まるまえは馬鹿みたいに騒々しかった保健室が嘘のように静まり返っていた。
ブブ「………」
ミル「………」
リリィ「………」
保健室でもブレイブフォンに妙な感覚を覚えているものが二人いた。しかし二人の感覚は全く精度が違うものだった。
ミル「……やっぱり…!、確かにさっきから呼ばれる感じがする…、いったいどういうことなの…」
もう一人なにか感じでいる者がいたが、その者はミルとちがってもっと具体的な内容を感じ取っていた…。
リリィ「なんだ…!頭の中になにか語りかけてくる…」
“あなたには今まで本当にお世話になりました…、何度何度も怪我してくる私の所有者を優しく治療しくれてありがとう、しかしそれも今日で終わりです…、あなたが愛した生徒は私とともに立派な勇者になるでしょう、本当にありがとう…”
リリィ「な、なんなんだ今のは!」
二人がブレイブフォンに対して何校長かを感じているなか、ブブは全く別のことを考えていた…。
ブブ「…あのブレイブフォンについてる6つの宝石は何を表してるんだろう…、なにか輪の様な物で繋がれてるけど意味があるのかな…」
ブレイブフォンの正面には6つ宝石が円を描くように散りばめられていた。6つはそれぞれ別の色をしていて、一番上から右に“赤・緑・紫・青・水・茶”それらは全て輪で結ばれていて、実はブレイブフォンにとって重大なことを示しているのであった。皆がブレイブフォンの輝きに見入ってしまっている中、冷静にブレイブフォンを観察していたブブは、実は只者ではなかったのかもしれない…。
そしていよいよ体育館では発表の時が近づいていた。時間は9時59分をまわり、しばらくしてライナが10時三十秒前を告げ、十秒前のカウントダウンを始めようとしていた。
ライナ「えー、会場の皆様。只今9時59分30秒を過ぎました。10時十秒前となりましたら、秒読みのほうを開始させていただきますので、どうぞブレイブフォンに注目ください」
ライナに言われるまでもなく皆がブレイブフォンに注目していた。ライナの宣告を聞き、あと少しでブレイブフォンにデータがダウンロードされると分かると、皆に改めて緊張が走った。中には汗を掻いてる者もいた。
ライナ「…では、秒読みの方を開始させていただきます。10、9、8、……」
秒読みが始まり、館内は少しどよめきはじめた。すこし緊張感が解けてしまったのだろうが、すぐにどよめきは静まり、皆は落ち着いて秒読みが終わるのをまった。すでに秒読みは5秒を切っていた。
ライナ「…、5、4、3、2、1、…!」
秒読みが終わると同時にブレイブフォンが輝きだし、データの受信を知らせるコール音が鳴り響いた。“ピー、只今、データを受信しました。ピー、データをダウンロードしています”っと、加工した女性のような声でブレイブフォンからアナウンスが聞こえだした。
ライナ「…ただいまダウンロードが始まりました。すぐにインストールされると思いますので少々お待ちください」
ライナの言うとおり1分もかからずにダウンロードは終わり、次にインストールを知らせるコール音が鳴り始めた。“ピー、ダウンロードが終了しました。インストールしています、インストールしています”インストールはすぐに完了し、アナウンスが鳴り始めた。“インストール完了、インストール完了、データを確認してくだい、データを確認してください、ピーッ”
ライナ「はい、データのインストールも完了したようです。では校長、データの確認、そして発表をお願いします」
校長「うん、ではまずデータの確認を致します」
校長はそういうと緊張した面持ちでブレイブフォンを手に取り、まず暗証番号を登録した。するとまたもやブレイブフォンから女性の声が聞こえてきた。“暗証番号を確認しました、次に声紋チェックを行います、ピーっという音が鳴りましたら、指定された人物はブレイブフォンに向かって与えられた地域の名称をはっきりした言葉で発してください、ピーッ”音がなったので校長がブレイブフォンに向かって話しかけた。
校長「えー、フィアレス大陸・カレッジ地域31番地区勇気の町ブレイブタウン・都市ナンバー79」
校長が都市の名称を多くハキハキした声で答えると、ブレイブフォンの声紋チェックが終了し、最後の指紋チェックにはいった。“声紋チェックが完了しました、最後に指紋チェックを行います、ブレイブフォンの右画面に右手の親指をあててください”ブレイブフォンからの指示とともに、校長は画面に親指をあてた。“ピー、全てのチェックが終了しました、ではデータを確認し、所有者の方にお渡ししてください、ピーッ”ブレイブフォンからチェック完了のアナウンスが流れ、所有者のデータが画面に映し出された。それを見た瞬間校長は驚きのあまり思わず大声で叫んでしまった…。
校長「……!、なっ、なんだってーーーー!」
当然の校長の大声に会場からどよめきが起き始めた。いったい誰が選ばれたのか皆が一斉に気にし始めた。もしかしたらレイスでなかったのかと、ならいったい誰なんだと、様々な憶測が飛び交った。
男生徒「な、なんだ、一体どうしたんだ、校長は。もしかしてレイスじゃなかったのか。じゃあ一体誰なんだ?」
女生徒「な、なに言ってるの!、レイス君以外が選ばれるわけないじゃない!、き、きっとブレイブフォンの画面が凄く綺麗で驚いてるのよ」
住民「校長のあの驚きよう…、もしかしてこの高校以外の人物が選ばれたんじゃあ…」
住民「そ、そんな馬鹿な!、今までの53回全てこの高校から選ばれてるんだぞ!、……いやまて、もしかしたら今までが異常だっただけなのか。普通だったらこの町の住民全てが対象のはず…、その可能性も十分あるか…」
どんどん憶測がエスカレートし、どよめきが大きくなってきてしまい、なんとか収拾しようとライナは必死に会場に向かって呼びかけた。
ライナ「皆様!落ち着いてください、ブレイブフォンの所有者に選ばれる可能性があるのはこの町の人全員です。誰が選ばれても不思議ではありません。すぐに校長の口から所有者が発表されますのでお静かにお願いします」
会場「………」
ライナの呼びかけで会場はすぐ静かになったが、心の中では皆誰が選ばれたのか気になって仕方なかった。おそらく早く校長の発表を聞くために静かになったのだろう。
校長「えー、皆様…、先程は取り乱してしまい申し訳ございませんでした。今ライナ先生の言葉からもありましたが、この町の住民全てが所有者に選ばれる可能性があります…。もし選ばれたものが誰であっても、決して取り乱さないようにお願いします。では、発表いたします…」
会場「………」
校長の言葉に会場の皆が今回の所有者はいつもと違うであろうことを予期していた。そして誰が選ばれたとしても、決して不信感を抱かず、心地よく迎えてあげなければならないことを、ほとんどの者が理解し、決して取り乱さぬよう心して校長の発表を待った。…そいていよいよ校長の口から所有者が発表される時が来た。
校長「…第54回ブレイブピック。晴れあるこの舞台に我がブレイブタウンから選ばれたのは…、ブルー・レイブンです!」
会場「えーーーーーーーーーーっ!」
校長の発表を聞いて会場は大声を上げて驚き、皆取り乱さぬよう心していたにもかかわらず、会場は大混乱になってしまった…。そして混乱に陥ってしまったのは会場だけではなかった…。
ブレイブフォンの所有者の発表を待ちわびていたのは会場だけではなかった。テレビの前では会場以上に多くの視聴者が校長の言葉を聞き、真剣な表情でテレビを見ていた。そして意外にも校長の口から所有者と発表されるブブの両親であるアランとレイアも心落ち着かせてテレビを見ていた。
レイア「…あなた、誰が選ばれたのかしら…、私、なんだか不安になってきっちゃった…」
アラン「なに言ってるんだ。さっき校長も誰が選ばれえても取り乱すなって言ってただろう。それにこの町の住民は皆立派な人達じゃないか。誰が選ばれることになっても不安がることなんてないさ」
校長の様子に不安がっていたレイアをなだめたアランだったが、この後すぐにレイアと一緒に自分も取り乱してしまうのだった。
校長「選ばれたのは…、ブルー・レイブンです!」
アラン・レイア「えーーーーーーーーーっ!」
校長の発表を聞いてアランとレイアは大声で叫んでしまった。なんと自分達の息子であるブブが所有者に選ばれてしまったのだ。普通なら大変喜ばしいことのはずだが二人の反応は全く違うものだった…。
アラン・レイア「………」
レイア「……はっ!、驚いてる場合じゃないわ!、これが本当なら早く町の人達に挨拶周りにいかなくちゃ!早く準備しないと。あなたも早く支度して!
アラン「あ、ああ、まさか本当にブブが選ばれるなんて…、今朝あんなこと言わなきゃよかった…」
レイア「そんなこと気にしても仕方ないですよ…、それより折角選ばれたんだから、気持ちよく旅立てるよう私達も頑張りましょう!、あの子ならきっと大丈夫ですよ」
アラン「お、お前…、そ、そうだな、大事な我が子が選ばれたんだ。気持ちよく迎えてやるか。…て早速電話がなってるぞ」
レイア「取り敢えず私が出るわ。あなたは先にスーツに着替えといて。」
先程まで度量のある態度を取っていたアランだったが、いざ結果が発表されると動揺してしまって唖然していた。しかし母親であるレイアは毅然とした態度でその状況を受け入れ、すぐに対応策に走った。やはりこういうことは決断の速い女性に任せたほうがいいのかも知れない…」
レイア「はい、もしもしこちらレイブンです。あ、奥さん!、……そうなんですよ〜、私達も驚いちゃってどうしようかと…。え、ブブが選ばれて良かった…そんな、そう言って貰えると助かります。後でまた挨拶に伺いますので、その時はよろしくお願いします」
この後レイアはしばらく電話の対応に追われることになるのだった。だが保健室にいるブブはこの結果に一番驚いていたのだった…。
校長「選ばれたのは……、ブルー・レイブンです!」
ブブ・ミル・リリィ「えーーーーーーーーーーーっ!」
ブブ「ぼ、僕が選ばれたの!、う、嘘だー!何かの間違いだよ…、そんなことあるわけないよ」
リリィ「いや、校長がそんな嘘つくわけないし、データを間違えることなんてありえない…、お前が選ばれたんだよ…、こうしちゃいられない!早く会場に行かないと大パニックになるぞ、ブブ、ミル!」
ミル「ほ、本当にブブが選ばれるなんて…、信じられない…、ど、どうしよう…」
リリィ「お前が心配してどうするんだ!いいから早くブブを会場に連れて行くぞ。ほら、ブブのそっち側を支えてやれ」
リリィはなんとかブブを会場まで連れて行こうとしたがブブとミルは衝撃の結果に唖然としてしまい、呆然と立ち尽くしていた…。リリィは保健室で困り果てていた。そんな時廊下の方から誰かが猛スピードで走ってくる音が聞こえてきた。
リリィ「そ、そうだ。とにかく会場の先生達にブブが保健室にいることを知らせないと、は、早く電話を…んっ、何の音だ」
ライナ「ブブーーーっ!何やってる!早く会場にこんかーーーーっ!」
リリィが会場に電話しようとしたその時ライナが保健室に駆け込んできた。テレビを見ると司会者台からライナの姿が消えていた。どうやら会場から急いで走ってきたようだ。所有者が発表されてから30秒ほどしか経っていない…。どうやらライナはこうなることなんとなく予期していたようだ。
リリィ「ラ、ライナ先生!どうしてここに…、司会役がいなくなったら会場は…」
ライナ「そんなことはどうでもいい!、とにかくブブを会場に来ないとさらに大混乱になる!」
リリィ「そ、それがブブの奴まだちゃんと動けないみたいで…、誰かが肩を貸してやらないと…」
ライナ「ええい!、仕方がない、リリィ、お前ブブのそっちの肩持て、私がこっち持つ」
ブブの怪我まだ治っていないことを知ってライナは仕方なくリリィとともに肩を抱えて連れて行くことにした。だがそれだと会場まで5分以上は掛かりそうだった。その時ミルが急に口を開いたのだった…。
ミル「わ、私が悪いんだ…、ブブに怪我させちゃったから」
リリィ「分かったライナ。おい、ブブ、さあ腕を先生の肩にかけろ。急いで会場まで行くぞ。…ってミル?」
ブブ「え〜、僕ブレイブフォンなんて要らないよ。確かに凄い携帯だけど、旅になんて出たくな…って、うわぁ!」
ラインとリリィがブブを会場に連れて行こうとブブの腕を肩へかけようとした。しかしブレイブピックを目指す旅になど出たくなかったブブはそれを拒否しようとした。だが次の瞬間ブブの肩はまたもやある少女の背中に乗せられていた。先程保健室にくるまでと同じ光景だった。
ミル「ちょっとあんた!、選ばれちゃったもんは仕方ないんだからいい加減観念なさい!、それに私のせいで会場が混乱しちゃったみたいで後味悪いから意地でも会場まで連れて行くからね。じゃあ、しっかり捕まってるのよ」
ミルはそう言うと再びブブをおんぶしたまま会場である体育館まで走りだした。そのスピードは先程保健室まできたライナと同じぐらいのスピードで、しかもブブを背中に抱えているにもかかわらず30秒ほどで会場までつきそうだった。あっという間に保健室からいなくなったミルを見て、今度はライナとリリィが呆然と立ち尽くしていた。
ライナ「……相変わらず凄いな、あいつら。もしかしたら優勝しちゃうんじゃないのか」
リリィ「ああ、そうだな。私もそんな気がする…。それよりライナ、お前すぐに保健室まで駆けつけてきたけど、もしかしてブブが選ばれること知ってたのか」
ライナ「知ってたら最初から会場に連れて行ってるよ。…実は教頭から今回のブレイブピックについての妙な話を聞いたんだ。それでもしかしたら考えてたら、本当にそうなったってわけさ」
リリィ「妙な話?」
ライナ「ああ………」
ライナとリリィが話している間にミルはもう体育館のすぐ前の廊下まで来ていた。だがブブはここまで来て未だに泣き言を言っていた。
ブブ「ど、どうしよう。あと少しで会場についちゃう…、ブレイブピックなんて別に出たくないよ〜」
ミル「何メソメソ言ってんの!、もう覚悟を決めなさい。それより舞台の上で恥ずかしくないようにちゃんと何て言うか考えておくのよ。そ、それに、もし本当に旅にでることになったら、わ、私のブレイブナンバー………」
ブブ「うん?それにの後急に声が小さくなって何言ってるか分からなかったよ。もう一回言って」
ミル「も、もういいのよ、それは。私が決めることじゃなくて、あんたが決めることなんだから…。さぁ、体育館のドアが見えたわよ。このまま入っちゃうからね」
ブブ「う、うわ〜」
“バァーーーーーーン”体育館のドアを思いっきり開く大きな音ともに、二人は会場へと入っていった。ミルはブブに言おうとしたこと心の中にしまって舞台の上へと登っていった…。
所有者の発表が終わったあと会場である体育館は大混乱に陥ろうとしていた。ライナから少しの間司会を任されたルーシーだったが、事態を収拾することができず、ただうろたえているだけだった。
男生徒「ブブってあの学校サボりまくってるあのブブかぁ!、あいつだったら俺は大歓迎だぜ。意外と根性あるし、それに結 構いい奴だしな。俺が学校抜け出そうしてる時も、見つけても何も言わなかったし」
女生徒「そうね…、私ブブだったら別にいいかなって感じ、なにしでかすか分かんないし、きっとブレイブピックを盛り上げてくれるわよ」
どうやらブブと同学年の生徒達はブブが選ばれたことを喜んでいたようだ。ブブは成績は悪かったがそんなこと全く気にせず学校でも元気に振舞っていたため皆からの評判は良かったのだ。しかしブブより下の学年、いや、正確に言うと一部女子生徒達だけだが、この結果にかなり不満だったようだ。彼女らは校内成績ナンバー1のレイスに酔心しており、それ以外の人物が選ばれるなど考えられらなかったのだ。
女生徒「ちょっとどういうことなの!、ブルー・レイブンって誰よ!、どうしてレイス先輩じゃないのよ」
女生徒「全くよ!、レイス先輩を差し置いて選ばれるなんて、ブルー・レイブンって奴、絶対許さないわ!」
女生徒「そ、そんな…、何かの冗談よね…。レイス先輩が選ばれないなんて…。私…、死にたい」
レイス「………」
女生徒達はレイスに代わって選ばれてしまったブブの悪口ばかり言っていた。それに対してブブを慕っていた生徒達が激怒し、生徒達の喧嘩が始まった。
男生徒「てめーらぁ!、黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって。ブブ先輩に対して偉そうな口聞くんじゃねぇ!」
男生徒「そうだ、そうだ。ブブ先輩はなぁ、“ジャッジメント・オブ・カレッジ”の世界大会でベスト16に入った超凄腕プレイヤーなんだぞ。舐めんなこのクソアマ共!」
男生徒「そうそう、そんなに死にたきゃ勝手に死ね!」
生徒達の喧嘩はどんどんエスカレートしていき、会場に来ていた住民達も不安に煽られてしまい混乱し始めてしまった。静粛に行われていた発表会は開演前の教頭の不安通り大混乱に陥ってしまった。
住民「お、おい、なんだか生徒達が騒がしくなってきたぞ。大丈夫なのか、この会場は」
住民「ブルー君て…、あのよく学校サボってゲームばっかりしてる子でしょ…、そんな子が選ばれて大丈夫なのかしら」
ルーシー「皆、落ち着いて!、住民の方々も冷静になってください。もともとブレイブフォンの候補者はこの町の住民全ての人々です。そして誰が選ばれたとしても、我々は結果に意見することはできません。選ばれた人物を受け入れ、ブレイブフォンの所有者となったことを祝福してあげてください」
ルーシーは懸命に会場の人々を説得し、事態を収拾しようとしたが、肝心のブブが会場に来ないため何を言っても効果がなかった。ルーシーはブブが早く会場に現れてくれること必死に願っていた。
住民「そんなこと言ったって肝心のブルー・レイブンって奴が来てないじゃないか!、どんな奴かも分からないのに祝福なんかできるわけないだろうが!」
住民「そうだそうだ!、いいから早く選ばれた奴を連れてこいよ。話はそれからだ」
ルーシー「くぅ〜…、ブブ君…お願い…、早く来て!」
“バァーーーーーーーーン”
ルーシー「…!」
会場「…!」
いきなり会場内に大砲が発射されたかのような大きな音が鳴り響いた。会場にいた者達は皆驚き、一気に静かになった。音がした方を見てみると、体育館の舞台側のドアが開いており、そこにはブレイブフォンの所有者であるブブを背負ったミルが堂々と立ち塞がっていた…。
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いきなり体育館のドアの前に現れたブブとミルに、会場の皆は不意をつかれて驚いたのか一瞬にして静かになった。会場が静寂に包まれる中、ブブを背負って立ち尽くしているミルにルーシーが駆け足で近づいていった。
ルーシー「ミルさん、ブブ君を連れてきてくれたのね、。ありがとう。さぁ、早く舞台に上がって」
ミル「………はい」
ミルはルーシーに言われゆっくりと舞台に上がっていった。ミルの背中に背負われているブブは、体育館に入ってから急に真剣な面持ちになり、黙々舞台に上がっていくミルに緊張を感じて何も言えなかった。本当ならこんな大勢の前で女の子おんぶされいる姿など見せたくなかったが、背中からかすかに見えるミルの横顔が、ブレイブフォンの所有者を怪我させてしまったことを非常に責任を感じているように見え、話しかけることができなかったのだ。
ルーシー「皆様、大変お待たせ致しました。今少女に背負われて舞台に上がっていく赤いポニーテールの少年が、ブルー・レイブンです。皆様盛大な拍手で迎えてあげてください」
ブブが来たことで会場に落ち着きが取り戻せると思ったルーシーは、すぐに司会者台に戻り、ブレイブフォンの授与を始めようとした。しかしルーシーの期待もむなしく会場の人々はなんと盛大に笑い始めてしまった。
男生徒「ははははははっ!、なにが盛大な拍手だよ。あんな女におぶられてる姿なんて見せられたら笑うしかねぇよ」
女生徒「きぃー!、何よ、あの男女!、男のくせにあんなに髪伸ばしちゃって、気持ち悪いのよ。あーあ、なんであんな奴のせいでレイス先輩がーーー」
レド「……我が親友ながらなんとなさけない、こらー!、お前はブレイブフォンに選ばれたんだぞー、しっかりしろー」
ミルおぶられたブブの姿を見た会場の者達の反応は様々だった。笑い飛ばしたり、罵ったり、心配したり、だがなぜか皆先程まであった不安は消え去っていたようだった。あんな情けない姿を見せられながらも心の奥では“あっ、こいつなら大丈夫だ”とどことなくホッとしていたのかもしれない。
住民「ははっ、あんな可愛い子におぶられてくるなんてなかなか隅に置けない子じゃないか。この分だと人望の方は問題ないかな。ブレイブピックは本人の実力以上に番号交換をした仲間の存在が重要になってくるからな」
住民「そうそう、いくら本人が強くても仲間が集められなかったら意味ないもんね。私もあの子にだったらブレイブナンバー教えちゃおうかしら」
ミル「えー皆さん、少しお静かにお願いします」
会場の皆がブブについて色々話していると、舞台にあがったミルが演台からなにか話しだした。ブレイブフォンの所有者をおぶって連れてきた少女の言葉に、皆妙味心身に耳を傾けた。
ミル「…実は今日ブレイブフォンに選ばれた彼がこんな姿をしているのは、………私のせいなんです」
会場「………!」
ミルの突然の告白に会場は騒然とした。?あれほどの怪我だ、きっと大きい事故があったのに違いない?と、いったい何があったのかと皆考え始めた。だが何人かの生徒達はブブとミルの仲を知っていたため、また喧嘩になってミルがボコボコにしてしまったのだろうと察して、クスクスと声が漏れないよう笑っていた。
ミル「…今朝学校に来る途中、些細なことで彼と喧嘩になってしまい、怒りで我を忘れた私は彼を地面に叩きつけてしまったんです。この町の大事なブレイブフォンに選ばれた彼を傷づけてしまい、本当に申し訳ございません!」
会場「えーーーっ!」
予想を裏切るミルの言葉に会場の人は皆声を大きくして驚いた。あんな可愛らしい女の子が男の子をあんなになるまで乱暴するとは思ってものみなかったらしい。
住民「じゃああの可愛らしい子があの女の子みたいな子をあんなにしたっていうの!、全く信じられないわ!」
住民「確かに…、うん、でもちょっと待てよ…、あの子この町で一番の拳法の使い手として有名な子で…、名前は確かミレイちゃんじゃなかったか」
住民「あ、本当だわ!、わずか12歳でブレイブナンバーを取得したっていう凄腕の女の子じゃない!、すごいわ、もうあんな子を仲間してるなんて…、ますますブルー君に期待しちゃうわ」
ブレイブナンバーの取得は12歳から可能であったが、幼少の時から拳法の修行をしてきたミルはその年になってすぐに取得したのだった。
ミル「それであの…、今は私のせいでこんな姿をしていますが、意外と度胸があって、決して強かったり、頭脳が優れているという訳ではありませんが、いつでも元気で明るくて、どんな逆境にもめげずに突き進んでいけると思うので、どうかブレイブフォンの所有者として受け入れてあげてください。よろしくお願いします」
ブブ「ミル……」
“……パチッパチッパチッパチッ”ミルの言葉で会場の雰囲気は一気に変わった。今まであったブブへの不信感はすっかり拭い去れたようで、皆ブブを受け入れて拍手をし始めた。拍手はあっという間に会場全てに広がり、館内は手を叩く音でいっぱいになった。そしてその様子を見ていた校長がブブ達に歩み寄ってきた。
校長「えー、ミレイさんだったね。予想外の出来事に混乱していた我々を正気に戻してくれてありがとう。君はまったく悪くないよ。悪いのはブレイブフォンの画面のブルー君の名前を見てつい取り乱してしまった私だよ。誰が選ばれようとこの町の住民であることに変わりはないのに…。すまなかったね、ブルー君」
ブブ「い、いえ。そんなことは…、僕自身もすごく驚いてたので」
校長「いや、謙遜することはないよ。今の君達を見れば、なぜブルー君が選ばれたかは一目瞭然だ。ブレイブピックでもっとも重要なのはいい成績を残すことでなく、人々に希望、愛、そしてなにより絆の大切さを伝えることだ。君達なら、立派にその任務を果たしてくれるだろう」
ルーシー「校長……」
校長「ではブルー君、改めてブレイブピックにかける意気込みを話してくれるかね」
ブブ「えっ、ああ……はい」
ブブが校長に促されるとミルは演台の前にブブを降ろした。ブブはまだ一人で立っていることができなかったため、ミルはぶブブの横で体を支えてあげていた。傷ついた所有者をいたわって、仲間が隣で支えている光景は、まさにブレイブピックが人々に伝えるべきことそのままだった。実際傷つけたのは仲間自身だったが…。
演台の前で自分に大きな期待を寄せる会場の人達を見たブブは、これはもう覚悟を決めるしかないと思い、一度深く深呼吸をして、皆の前で喋り始めた。
ブブ「え〜僕が今回ブレイブフォンの所有者に選ばれましたブルー・レイブンです。このような名誉あるものに選んでいただき、大変感謝しています。いい結果が残せるかわかりませんが、全力でブレイブピックに向けて努力していきたいと思います。応援よろしくお願いします」
“パチパチパチパチパチッ”緊張していたブブだったがなんとか恥ずかしくない程度に挨拶はできた。会場からはまたも拍手が鳴り響き、一時はどうなることかと思われた発表会は無事に終わろうとしていた。
ルーシー「ありがとうございました。ブルー君。あと最後に会場の皆様からブルー君に対して質問を受け付けようと思いますので、もう少しお付き合いください」
ブブ「は、はぁ」
司会を務めているので当然といえば当然だがいつもと違うルーシーの口調にブブは少し困惑した。もともとお堅い会話が苦手だったブブは心の中で早く終わってくれと呟いていた。そんなブブの心をよそに会場からは質問を求める大勢の人々の手が上がっていた。
ルーシー「うわぁ〜たくさんいらっしゃいますね〜。申し訳ありませんが全員の質問に答えていただくわけにはいきませんのでこちらの方で3名ほど指名させていただきます。はい、じゃあまずは…」
ブブに対する質問が始まり、生徒から一人、住民から一人と、すぐに2名までの質問が終わった。内容はブレイブフォンを手に入れてみてどんあ気持ちですかなどありきたりなものだった。そして最後の一人の質問者が選ばれようとしていた。
ルーシー「はい、では最後の質問者さんは〜……、あっ、そこの女の子しようかな。まだ小さいの偉いね。じゃあ質問をお願いします」
子供「はい、あのさっきから隣で支えてくれてる人は彼女さんですか?。やっぱりその人と初めに番号交換するんですか」
ミル「…!。ちょっとぉ…なんて質問してんのよ。ませた子供ね…。でも…」
最後に質問者に選ばれたのはまだ小学生に上がったばかりの子供だった。子供らしい無垢な質問に会場の人達はつい笑いをこらえていた。ミルは恥ずかしい質問をされて困っていたが、それよりブブがなんて答えるのか気になっていた。
ブブ「えっ、何言ってるんだよー、こんな凶暴女彼女になんて出来るわけないよ〜」
会場「…!」
ミル「………」
“………”またしても出たブブの無神経な回答に、会場は一気に凍りついた。先程保健室で言葉には気を付けようと反省していたブブだったが、そんなことはもう頭の中から消え去っていたようだ。
ブブ「大体さっきも言ってたけどこの怪我だってこいつにやられたんだよ〜。それもボコボコにされるのは今日だけじゃなくてほぼ毎日だからね〜。君はこんな乱暴な女の子になっちゃいけないよ。ブレイブナンバーだってもっとお淑やかで可愛らしい子と交換したいな。できれば隣のクラスの美少女のアーシアさんとか。あっ、アーシアさ〜ん、聞いてたら後で番号交換してくださ〜い」
アーシア「………恥ずかしい」
突然ブブに舞台の上からアプローチされ、アーシアは恥ずかしさのあまり顔を隠していた。そしてブブの回答はもっとエスカレートしていった。
ブブ「う〜ん、できれば折角だからアーシアさん以外にももっと可愛い子と交換したいなぁ〜。テレビ出てる有名人とか。頑張って旅をしてればきっとそんなこともありえるよね。夢のある質問ありがとう。君も将来頑張ってブレイブナンバー手に入れてね〜」
子供「う、うん…、ありがとう…、お兄ちゃん…」
質問が終わった女の子はなにかに怖がるように席に座った。そして恐怖を感じているのはその女の子だけではなかった。会場の者全てがブブの隣から溢れてくる不吉なまでの禍々しいオーラに言葉を発することができずただ怯えていた。
ブブ「うん?なんか皆少し表情が暗くない。いやぁ〜でもさっきの女の子可愛かったね。ミルの小さい頃もあれぐらい可愛かった…、んっ?」
ブブは会場の雰囲気を不思議に思い、隣で体を支えてくれいるミルに話しかけようとしたが、目がなくなったんじゃないと思うくらい暗い表情をし、ただ静かに下を向いて不気味な雰囲気を漂わせているミルを見て、ようやく自らの過ちに気付くかと思われたがそうではなかった。
ブブ「あれ、ミル?表情が凄く暗いよ。もしかしてお腹でも痛くなっちゃった。ごめん、僕をおぶって体育館まで走ったせいだよね。よく運動した後ってお腹の具合悪くなっちゃうもんね」
ミル「………この…」
ブブ「んっ?」
ミル「こぉんの無神経野郎がーーー!!!!!、私の顔も今度までよーーーー!!!!」
ブブ「ひぃーーーーっ!」
その後ブブがどうなったは言うまでもなかった…。会場の者達はその凄まじさにただ呆然とするしかなかった。さっき質問をした女の子は母親のお腹に顔を埋めて泣いていた。そして誰一人としてブブがブレイブフォンに選ばれたことに文句を言うものはいなくなった………。