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ブレイブフォン ~勇者の電話帳~  作者: はちわれ猫
第一章 ミルのブレイブナンバーをGETせよ!
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ブレイブフォン 第2話

ブブがミルに担がれて保健室に向かっている時、ブブ達のクラス、3年B組ではクラスメイト達が朝のホームルームが始まるのを待っていた。皆それぞれ友達同士で会話したり、ひとり黙々と本を読んだりと、朝のわずかな自由時間を楽しんでいた。その中にはブブの親友であるレイテッド・マウアー、通称レドの姿があった。


 レド「あ〜、ブブの奴またサボりかよー、しかもミルもまだ来てないし、まーたどこかで夫婦喧嘩でもしてんのかなぁ〜」

 男生徒「おいレド、あれ見てみろよ。ブブの奴、ミルにおんぶされて学校来てやがるぜ」

 レド「あっ、なんだって」


3年B組の生徒の一人が窓からブブ達が学校へ入ってくるのを見つけた。ブブとミルはよく騒動を起こしていたためクラスの中で人気者だった。そのため二人の姿はすぐクラス中の注目を集めた。


 女生徒「あ〜、ホントだ〜、相変わらず熱いわね〜、あの二人。早く結婚しちゃえばいいのに」

 男生徒「だよな〜、でもそうなったらきっと今みたいにブブの奴、ミルに一生世話されて暮らすんだろうな〜、あいつまったく甲斐性なさそうだし」

 女生徒「そうね〜、そう考えるとミルの奴可愛そうよね〜、でも私はブブみたいにだらしない男って、可愛くて好きだから少し羨ましかなぁ〜」

 レド「おいおい、さっきから聞いてれば俺の親友に対して好き放題いいやがってー、あいつはな、ああ見えても根はしっかりしてて、周りに対しても気遣いのできるいい奴なんだよ。本当このクラス連中は見る目がないぜー」

 レイス「………」


 クラスの生徒達がブブ達の話題でもりあっがている中、窓の片隅から二人の姿をじっと眺めてる一人の男子生徒の姿があった。少し切なそうな表情し、とても透き通った綺麗な瞳を細めていた。


 レイス「………、ミレイさん…」


 彼は寂しそうに独り言を呟くと、自分の席に戻っていった。


 ルーシー「みんなー、おはようー、今日は先生達忙しいから急いでホームルーム始めるよ〜」


 生徒達が騒いでると、バンッ!、と少し強い勢いで、急に教室のドアが開いた。すると、このクラスの担任のルーシー・マルシアンが入ってきた。ライナと同じく女性教員で、担当科目は数学。髪の色は茶色で、少しパーマーのかかった少し長めのヘアスタイルをしている。パッチリしているが、少しタレ目気味の目に丸ぶちのメガネをしていて、その見た目通りおっとりしていて、少し天然っぽいところがある。一見生徒達から舐められてしまいそうだが、他人思いの優しい性格と、その見た目がマッチして、生徒達からの人望が厚く、教師としての仕事はうまくいってる。


 ルーシー「は〜い、まずは出欠確認ね〜、まだ来てない人いますか〜?」

 レド「先生、ブブとミルがまだ来てません」


 ルーシー「あっ、ブブ君とミルさんなら遅刻した罰があるから今日は放っといていいみたい。遅刻したからって二人のことからかったりしちゃだめよ」

 女生徒「げぇっ、今日の門番ってライナ先生だったわよねー、ついてないわね〜あいつら」

 男生徒「本当本当、ブブのやつなんてまた靴磨きでもやらされてるんじゃね、きっとしまいには先生の家の掃除とかやらされちゃうぜ、あいつ」

 ルーシー「はーい、二人のことはもういいから静かにしない。さっきも言ったけど、今日はブレイブフォンの発表会の準備で忙しいの。だから今からささっと今日の説明をして、すぐにまた準備に行くからちゃんと聞いといてね」


 ブブとミルの話題が出て、このままでは生徒達がまた騒ぎ出してしまうと察知したルーシーは、すぐに生徒達の会話をシャットダウンした。


 ルーシー「じゃあ説明するわよー、今日はブレイブフォンの発表会があるから、午前中は授業なし。このあと9時から発表会で、それまでは自習ね」

 レド「自習!、やったぁー」

 ルーシー「レド君、自習で喜ぶのはいいけど、騒いだり教室の外に出たりしちゃダメよ。それと、課題のプリントを配ります からちゃんと提出してね」

 レド「はーい」

 ルーシー「で、発表会が終わった後、午後からブレイブナンバーについて説明するから、持ってない人がほとんどだろうけど帰っちゃったりしないでね。それじゃあ、もう先生行くね。9時になったら体育館に来るのよ」


 そう言ってルーシーは急くように教室を出て行った。先生がいなくなって騒がしくなるかと思われたが、流石ルーシーの人望があって、生徒達は皆静かに課題のプリントをやり始めた。といってもここは世界トップ10に入る高校、他のクラスの生徒達も静かにしているのか、自習にも関わらず学校内は静けさで包まれていた。


 レド「あ〜、このプリント難しい〜、おいレイス、ここ教えてくれよ」


 あまりの静けさと、課題の難しさに、レドは思わず声を上げてしまった。いくら世界トップ10の学校といっても、当然落第生もいる。レドはこの学校に入ったはいいが、勉強についていけず、落第するギリギリのところだった。


 女生徒「こら、レド!分かんないからって学内成績No.1のルイス君に聞くんじゃないの。ルイス君迷惑してるじゃない」

 レイス「ははっ、別に迷惑なんかじゃないよ。ここはこうやって、こうなって、こうだよ」

 レド「おっ、流石学内トップだぜ〜。そう言えば今日発表されるブレイブフォンの所有者もレイスで決まりって皆言ってるけど本当なのか?」

 レイス「そんな…、まだ決まったわけじゃないよ。皆が勝手に噂しているだけさ。ブレイブフォンの所有者のデーターは、ブレイブウェーブっていう特殊な電波を通じて、今学校に届いているブレイブフォンに直接インストールされるから、発表時間になるまでは、校長先生でも分からないよ」


 ブレイブウェーブ、それはブレイブ協会のみが使用できる超特殊な電波のことで、速度・強度ともに、普通の回線とは比べもにならないものだった。ブレイブ協会によってすべては謎に包まれており、一般の組織になどにが利用するための知識や技術がまったく足りてなかった。実はこの世界のネットワーク技術は、ブレイブ協会がブレイブフォンをもたらしたことにより開発・発展されており、他の分野と比べて文明レベルが違うと言われるほど秀でていた。そのため、この世界のネットワーク以外の技術、というかブレイブ協会がもたらした技術以外は、まったく発展しておらず、飛行機や車はおろか、船ですら、木造のものしかなかった。ブレイブ協会がもたらした技術は、他にはテレビ、冷蔵庫などの電気機器。先程ブレイブ協会だけ文明レベル違うと言ったが、もはやこの世界の文明は、ブレイブ協会によって作られているものだった。

 ブレイブ協会の人達は、皆天使で、電話、テレビ、建築など、多くの技術は発展させているのに、車や電車といった交通機関、それどころか道路の整備すらまともにしていなかったのは、「ネットワークによって、世界中の人々の声、映像は繋いだ。後は自らの足で歩くことによって、世界中の人々と触れ合い、真の絆を手に入れるのだ」とのメッセージだと信じられていた。そのため、文明や技術などがブレイブ協会に独占されていても、誰も文句を言わなかった。


 女生徒「へぇ〜、そんあ電波あるんだぁ〜、でもこの町からは毎回この学校の成績トップが所有者に選ばれてるから、今回もきっとレイス君よ。あと実は私も回復魔法の試験受かってブレイブナンバー持ってるんだ。だからもしブレイブフォンの所有者に選ばれたら、番号交換してくれない?レイス君についてけるんだったら、私凄く幸せ」


 ブレイブナンバーの取得には試験に合格することが必要だったが、試験の種類は何種類かに分かれており、その中から志望者は自分の希望する試験を受けることができる。大きく分けて、前衛、後衛、補助、情報、事務、未知、の6種類あり、その中からさらに、前衛なら剣士、武闘家の試験、後衛なら弓兵、銃兵、攻撃魔術師の試験など、自分の得意とする職を選ぶことができる。未知についてはそういった分別はされておらず、ブレイブ協会が自らスカウトした場合にのみ得られる資格である。どういう人物に与えられるかというと、現代に置いては絶滅したはずの吸血鬼の血が覚醒した者や、特別な家系の血を引き、その家系の者しか扱えぬ能力を持つものなど、一般の人々にはない特別な能力を持つものにのみ与えられている。


 レイス「ごめん、もし所有者に選ばれたときのために、母さんがもう番号交換してくれる人を探してくれているんだ。うちの両親も僕が選ばれるものと思い込んでるから、困ってるんだけどね。それにブレイブフォンに選ばれたものはブレイブピックを目指さして旅立たなければならない。そんな危険な度にクラスの友達を連れて行けないよ」

レド「へぇー、それってこの辺りの人達から特に優秀な奴を探しってくるってことだろ。やっぱ名門の一家は違うよな〜、確かレイスの家系のほとんどがブレイブフォンの所有者だったんだろ」

 レイス「ああ…、僕の父さんも所有者に選ばれていてね、当然僕にも期待してるみたいで、選ばれなかったときのことを考えるとすごく不安になるよ…。あっ、ゴメン、ちょっとトイレに行ってくるよ」

 レド「はいよー、いってらっしゃーい」

   






 各クラスのホームルームが終わった頃、ブブとミルはようやく保健室に着こうとしていた。ブブをおぶって歩いてきたミルは流石に少し疲れた様子だった。


 ミル「はぁ〜、やっと着いた〜。やっぱり男一人おぶって歩くのは疲れるわ〜」

 ブブ「またまたー、ミルみたいな馬鹿力女がこれぐらいで疲れるはずないでしょ〜、謙遜しちゃってまぁ〜」

 ミル「…ええ、普段だったらこれぐらいなんともないんだけど、誰かさんのおかげで朝から走ったり怒鳴ったり、先生に怒ら    れちゃったりで肉体的にも精神的にも疲れてるの…。いいから保健室入るわよ。私もちょっと休もうっと」

 ミルが保健室のドアに手をかけ、開けようとしたとき、教室への階段の方から男子生徒が歩いてきた。

 ブブ「あっ、あれレイスじゃない?」

 ミル「えっ」

 レイス「あ、おはよう、ミレイさん、ブルー」


 今ブブとミルに話しかけてきたのはレイス・カーメイス、先程クラスの会話にも出てきたが、彼もブブとミルのクラスメイトで、このブレイブ高校の成績No.1の生徒である。髪の毛と瞳の色は金色、耳にかからないていどの長髪で、いかにも優等生っぽい感じの髪型をしている。今回ブレイブフォンの所有者になるのは彼で決まりだと皆思っている。


 ミル「おはよう、こんなところで何してんの?もうホームルーム終わったの?」

 レイス「ああぁ、うん、今日は先生達忙しいらしくて発表会が始めるまで自習なんだ。それでさっき窓からブルーがミレイさんに運ばれてるのが見えたから何かあったのかなって」

 ブブ「僕の心配してくれたの!実はミルにひどいことされてさ〜、なんとこのポニーテ…!ぐふっ」

 ミルに叩きつけられたこと話そうとしたブブを、ミルは軽く脇腹に肘打ちをすることによって、話を遮った。

 ミル「それにしてもあんたって本当律儀な性格よね〜、私のことはミルって呼んでいいっていつもいってるのに」

 ブブ「げほっ、げほっ…、そうそう、僕のこともブルーじゃなくてブブって呼べばいいのに」


 レイスは凄く律儀な性格で、人のことをニックネームや愛称で呼ぶのが苦手だった。そのせいでクラスの生徒達と若干距離が空いていた。ただ、確かに特別仲良くなれる生徒はいなかったが、どの生徒とも平等な距離感が保てていたので、クラスや学年どころか、学校全ての人達とそれなりに良好な関係を作れていた。


 レイス「いやぁ、僕の性格上あまりそういう呼び方はできなくて…、なんていうかそのちゃんとした名前で呼ばないと落ち着かないんだよ。あっ、それと実はミレイさんにお願いあって来たんだけど…」

 ミル「えっ、何何?、私にできることならなんでも言って」

 レイス「…今日のブレイブフォンの発表会で、もし僕が選ばれたらその…、ミレイさんのブレイブナンバーを教えて欲しいんだ…」

 ミル「え…!」


 レイスの願いが意外だったのかミルは困ったようで、しばらく口を閉ざしてしまった。急に気まずい雰囲気になってしまい胸が重苦しくなってしまったブブは、なんとか場を和ませようと会話を続かせようとした。


 ブブ「いっ、いいんじゃないの?教えて上げて。レイスはこの学校の成績ナンバー1だし、みんなで協力し…!、ぐふっ!」


 なんとか場を慰めようと明るく喋っていたブブの脇腹に、またしてもミルの肘打ちが炸裂した。今度はさっきよりもかなり強めだった。


 ミル「あんたは余計なこと言わなくていいのよ!。ブレイブナンバーを交換するってことは、普通の携帯の番号を交換するのとはわけが違うんだから…、何も知らないあんたは黙ってりゃいいの!」


 少し怒ったような口調でミルは言った。その怒りはいつもブブに当り散らすように荒々しいものではなく、なにか自分の大事な物を守るためのような、それ以上ブブを踏み込めさせない芯の強いものであった。事実ブレイブナンバーと言うのは一度誰かと交換してしうと、その回のブレイブピックが終了するまで、他のブレイブフォンの所有者とは交換できなくなり、番号交換を取り消すにも多くの手続きを必要とし、ブレイブ協会に承認してもらうことは簡単なことではない。


 レイス「ゴメン…、やっぱりダメかな…」

 ミル「い、いや別にダメっていうかその…、そんなこと急に言われても困るっていうか…。そ、その、レイスにはきっと私なんかより頼りになる仲間が見つかるわよ。だいだいブレイブフォンの電話帳って普通の携帯と違って登録できる数がかなり制限されてるんでしょ。そんな大事なメンバーに私なんかを入れちゃダメよ」

 レイス「大事なメンバーだからこそ、ミレイさんに入って欲しいんだ!」

 ミル「うぅ…」


 なんとか断ろうと自分などふさわしくないと謙遜した言い訳をしたミルだったが、必死に食い下がるレイスの言葉に気圧されてしまい、はっきり断ることができないでいた。そんな時第一学年の教室の方から複数の女生徒達が走って近づいてきた。


 女生徒「きゃー!、やっぱりあれレイス先輩よー、みんな見てー」

 女生徒「きゃー、本当だわ!こんなところでレイス先輩に会えるなんて感激!せんぱ〜い、おはようございまーす」


 大きな声と共に5、6人の女生徒達がこちらに近づいてきた、あっという間にレイスの周りを取り囲んだ。女生徒達は自分こそ我先にレイスと会話しようと次々に話しかけてきた。


 女生徒「先輩、今日学校が終わった後空いてますか、よかったらお茶いきませんか」

 女生徒「馬鹿ねー、今日はブレイブフォンの発表会よ。当然先輩が選ばれるんだから、今日は忙しいに決まってるでしょ。あっ、先輩、今日は先輩がブレイブフォンに選べれることを心から願っています。まぁ願わなくても先輩で決まりでしょうけど、ふっふっふ」


 レイスは学校のほとんどの生徒達と適度な距離の関係を築けていたが、学内どころか世界でもトップクラスの成績と、その容姿のおかげで、一部の熱狂的な生徒達に勝手にファン倶楽部などを作られ、本人が望む以上に慕われすぎていた。特に今年の一年生達はミーハーな生徒が多く、顔を合わせる度にサインしてくれだの、握手してくれだの色々なことをせがまれていた。自分の言葉ばかり話してきて、こちらの言うことを全く聞かないこの生徒達がレイスは大の苦手で、一種に嫌悪感さえ覚えるほどだった。

 このレイスの様子を見てしめたと思ったミルは、今のうちに保健室に入ることにした。


 ミル「そ、それじゃあレイス、私ブブを先生に見せなきゃいけないから、保健室入るね。じゃあ…」

 レイス「あっ、ちょっと待ってミレイさん…、まだ返事を聞いて……!」

 女生徒「もう、先輩、あんな人達放っておいて私達と話してください!…あっ、そうだ先輩ブレイブフォンに選ばれたら私達とブレイブナンバー交換してくだい。一生先輩に着いて行きます!」

 レイス「えっ、な、何を言って…、君達の中にブレイブナンバーを持ってる人なんて一人もいないじゃないか!、…あ、ミレイさん、ま、待って」


 レイスは必死でミルを呼び止めようとしたが、ミルは全く気づかぬふりをして、急いで保健室へと入っていった。保健室の中に入りドアを閉めたミルは、急いでドアに鍵を掛けた…。


 ミル「はぁ〜、助かった〜…、レイスには気の毒だけど…、仕方ないわよね」


 なんとか保健室に逃げることができて安心したミルだったが、レイスにちゃんと断りの返事を返せなかったことを、少し気に病んでいた。


 リリィ「お、ブブにミルじゃないか〜、おはよう。今日はどうした?またブブがミルに怪我させられたのか?」


 保健室に入ってきたブブとミルにここの先生であるリリィ・アシリスが話しかけてきた。ライナやルーシーと同じく女性教員で、この世界の女性にしては珍しい綺麗な黒髪をしている。割と長めの髪で、ブブと同じくポニーテールにしている。性格はさっぱりしているが、生徒の面倒見がよく、体調を崩して保健室来た生徒達の悩みなどを聞いてあげている。人生経験が豊富で、生徒からしてみれば頼りになるお姉さんという感じなのかもしれない。


挿絵(By みてみん)


 ブブ「おはよう、先生。そうなんだよ〜、今日は飛び切り酷くてさー、体全体が動かないんだよ」

 ミル「あんたが悪いんでしょうが、あんたが…。あっ、おはようございますリリィ先生。そういう訳でまた申し訳ないんですけど、ブブのやつ見てもらっていいですか」


 ブブとミルは保健室の常連だったらしくリリィとは特に仲が良かった。いつものように気軽に診察を頼んだが、ミルは流石に今回はやり過ぎだと感じていたため、仲がいいとはいえ怒られるのではないかと心配していた。


 リリィ「ああ、分かってるから早くベットに寝しな」

 ミル「は〜い、…よいしょっと。ふぅ〜、やっと背中が解放された〜」


 ブブを背中から降ろしたことこで体が軽くなったミルは、ブブを寝かしたベットの足元の方に座り込み、背伸びをしながら肩をグルグル回し、筋肉の疲れを取った。


 リリィ「さぁ、ブブ。全身が動かないといったがどんな感じなんだ。ちょっとここ動かしてみるぞ」

 ブブ「痛たたたっ!、先生痛い痛い!」

 リリィ「そうか?じゃあこれはどうだ」

 ブブ「痛ったー!、それも痛い、それも痛い!」


 リリィはブブの足を上に持ち上げ、その後背中の辺りを押して刺激した。ブブは悲鳴を上げて痛がった。どうやら体中の筋肉が痙攣しているという程ではないが、つったようになっているみたいだ。


 リリィ「う〜ん、どうやら叩きつけられた衝撃で体全体が軽い痙攣状態になっているらしい。しばらくは少し動いただけで体に痛みが走るだろう。まぁ一時間も横になってれば動けるようにはなるだろう。先生も回復魔法かけてやるしな」


 リリィもブレイブナンバーの試験に合格しており、補助の回復魔法の資格と、事務の錬金術の資格を持っていた。事務というのは主にブレイブフォンに選ばれた勇者を生活面から補佐する仕事のここで、リリィのように錬金術を習得して、勇者に特別な効果の付与したアイテムを提供したり、歴史や地理などの知識があるものが、勇者の旅の進路や方針について進言したりする役職である。勇者の旅の基盤そのものを支えるため、かなり重要な役職であると言われてる。

 リリィの回復魔法の精度は高く、生徒達の間でも評判だった。ブブもリリィの回復魔法には何度も助けられていて、今回もリリィに任せておけば大丈夫だろうと、安心していた。


 ブブ「良かった〜、やっぱり先生に任せておけば安心だな」

 ミル「いつもありがとうございます、先生。私のせいでご迷惑ばかりおかけして、申し訳ありません」

 リリィ「おいおい、そんなに畏まらくていいよ。いつもお前がブブに大怪我おわせてくれるおかげで、先生としては回復魔法の練習ができて助かってんだ。さて…、それじゃ治療に映るかな」


 リリィはブブにかける回復魔法のための準備にはいった。今回ブブにかける回復魔法は治癒系統の魔法で、主に打撲や怪我などの外傷による肉体の損傷からの回復を早める効果がある。他にはウイルスによる感染症や毒物による中毒症状、さらには他者の魔法よる状態異常を回復する解呪の魔法などがある。リリィはそれらの魔法のほとんどを使いこなすことができ、実は8年前のブレイブピックに従者として出場したこともある実力の持ち主だった。

 ちなみに、4年毎にブレイブピックが行われる度にブレイブナンバーの番号交換は自動でリセットされ、次の年からは別のブレイブフォンの所有者と番号を交換することができる。ただブレイブフォンについてはその回のブレイブピックが終わると機能が大幅に制約され、そのまま所有することはできるが次のブレイブピックに勇者として出場することはできない。一度ブレイブフォンに選ばれた者が、他の回のブレイブフォンの所有者に選ばれたことは二百年続くブレイブピックの歴史において一度もない。ただしブレイブナンバーを取得して従者となることはできる。


 リリィ「さぁ、ブブ。魔法を掛けていくから落ち着いて動かないでいるんだぞ」

 ブブ「ふぁ〜い、なんだか眠くなってきっちゃたから寝てることにするよ」

 ミル「ちょっと、怪我人だからって調子に乗りすぎなんじゃない。こうなったのにはあんたにだって……!」

 怪我人であることをいいことにリリィの魔法で気持ちよく寝てしまおうとしていたブブに、ミルは図に乗りすぎだと注意しようとした。その時、保健室の入口からドアを開こうとする音とともにライナの声が聞こえてきた」

 ライナ「…?、おーい、リリィ、なんで鍵かかってんだ。ブブとミルの奴が来てるはずなんだかいるかー」

 ミル「やっば!、ライナ先生が来るのに鍵かけちゃった。すぐ開けなきゃ。あ〜、でもブブがこの調子じゃ私一人でグラウンドの整備か〜、嫌だな〜…」

 リリィ「………」

 ミルは渋々ドアを開けに行った。

 ミル「あっ、すみません先生、今開けます」

 ミルはドア開け先生に謝り、周りを見渡してレイスがまだいないか確認していた。どうやら女生徒に追い回されて教室に帰って行ったようだ。

 ライナ「おい、何をそんなに周りキョロキョロ見渡しているんだ。それに鍵なんか掛けて、何かあったのか?」

 ミル「い、いえ、何ってほどじゃ…。ちょっとレイスの奴にせまられまして……、あっ、それよりどうぞ先生、入ってくださ    い」

 ライナ「……、なんだか変な奴だな。まぁいいか。それよりブブの奴はどんな感じだ、リリィ」


 ライナはミルのことを少し不審に思ったが気にせずブブの容態を見にリリィの方へ歩いて行った。ブブの怪我は割と重症だったが、リリィの回復魔法があれば午前中には完全に動けるようになる程度のものだった。


 リリィ「ああ、割と重い怪我で驚いていたんだけど、こいつの?回復力?でも午前中には治りそうだよ。だけど少し治療の回復魔法を掛けるのが大変で、できればミルに少し手伝わせたんだけど…。こうなったのもミルが原因らしいし」

 ミル「……!」

 ライナ「ああ…、まぁしょうがないか。よしミル、ブブの容態が良くなるまでリリィの手伝いをしろ。グラウンド整備はそれからでいい」

 ミル「はい!よろしくお願いします、リリィ先生」


 リリィの計らいにミルは心の中で喜んだ。リリィは別に手伝いなど必要なかったが、学校を何回もサボっているブブが保健室で寝ていて、ミルだけが罰則を受けるのは理不尽だと思い、このような嘘を着いたのだ。それにブブとミルのコンビは学校でも有名で、これがきっかけで仲が悪くなるのを見たくなかったのだ。


 ライナ「それじゃあ私は発表会の準備に行くから、後は頼んだぞリリィ」

 リリィ「はいはい、任せといて」


 ライナはリリィにブブ達のことをリリィに任せるとせっせと保健室に出て行った。ライナがいなくなるとミルは隠していた喜びを開放してリリィに何回も感謝した。


 ミル「本当にありがとうございます、リリィ先生!、あの広いグラウンドを一人で整備なんて、途中で気が狂っちゃうところでした」

 リリィ「おいおい、もういいよ。本来なら感謝されていいことなんかじゃないんだから。私はこのサボリ魔のブブが保健室で楽して、頑張り屋のミルが酷い目に遭うのを見たくなかっただけだよ。ほら、お前も少しは反省しろ」


 リリィは右手をブブの頭の上にのせ、そこから全身に回復魔法を掛けながらブブを叱った。回復魔法を全身に行き渡らせるには頭から浸透させていくのが一番効率が良かった。部分的に治療する場合は当然怪我の部分に直接掛けるのがいいが。


 ブブ「ええ〜、さっきからもう何度も謝ってるよ〜。それにサボるのは学校が楽しくないのが悪いんだよ〜」

 リリィ「お前な〜…」

 ミル「あっ、もういいんです先生。謝ってくれたの本当ですから。それに学校サボっても将来ブブが困るだけなんで、私は別にいいんです」

 ブブ「酷い…」


 ミルの突き放すような言葉にブブは少し落ち込んだようだったが、これはブブのことを思ってのミルの言葉だった。もうすぐ卒業だと言うのに進路もろくに決まっておらず、学校もサボりまくって落第しそうになっているブブに、少しは現実に目を向けて自分の将来のことを考えて欲しかったのである。


 リリィ「ははっ、ブブー、ミルはお前のことを心配して厳しく言ってくれてるんだぞ。ちょっとは真面目になって、卒業ぐらいはちゃんとしろよ。ところで、ミル。さっきレイスがどうのって言ってたけど、何かあったのか?保健室の前で何やら話してたみたいだったけど」

 ミル「えっ、い、いや、それはちょっと世間話をしていたでけで……」


 ミルはどうやらレイスにブレイブナンバーの交換を迫られたことを隠したかったようだ。もしバレたら周りの人達から当然学内No.1のレイスと交換したほうがいいと促されるに決まっている。だがミルはどうしてもレイスとは交換したくないようだった。


 ブブ「ブレイブナンバー交換してくれって言われてたよ。もし今日ブレイブフォンに選ばれたらだけど」

 ミル「ちょっ!」

 リリィ「へぇー、あのレイスがミルのブレイブナンバーをねぇー、こりゃ意外だな。まぁミルの実力は折り紙付きだから、当然といえば当然か」


 ブレイブナンバーのことを隠したかったミルだったが、そのことを何も知らないブブはしれっとリリィに話してしまった。ミルは自分の気持ちを全く悟ってくれないブブにイライラしていた。


 ミル「ちょっとブブぅ!あんまり余計なこと言わないでよ!、先生だったから良かったものの、もしここの生徒に知られでもしたら一瞬で学校全体に広まっちゃうわよ!もしそうなったらクラスの連中から冷やかされまくるにきまってるでしょう。いいから、これからはこの事は誰にも言わないでよね!あっ…、先生にもお願いできますか?」

 リリィ「ああ、別にいいけど…。ところで返事はなんて返したんだ?」

 ミル「…、実はその…、まだはっきりとした返事は返してなくて、一応断ったつもりなんですけど…、ちゃんと伝わってるかどうか…」

 リリィ「なんだ、断るつもりなのか。レイスだったら交換するのに不足のない相手なのに」

 ブブ「そうそう、僕も交換したらいいのにって言おうとしたんだけど、そうしたら脇腹を殴られて黙らされちゃった」

 リリィ「ふーん…」

 ブブ「……」

 ミル「な、何よ!なにか言いたいことでもあるっていうの!」


 ブブとリリィはなんで交換しなかったんだと言わんばかりの雰囲気をだして、無言でミルの方を見つめていた。それに耐え切れなくなったミルは思わず本音を喋りだした。


 ブブ・リリィ「………」

 ミル「もう分かったわよ!ちゃんと理由言うからそんな目で見つめないでよ」

 リリィ「よし、じゃあ言ってみろ」


 無言の圧力作戦が成功してしめしめと思ったリリィはなんの負い目もなく理由を聞いた。


 ミル「実は私…、レイスみたいな奴って、なんだか苦手なのよね…。やけにきっちりしてて遅刻も欠席もしたことないし、旅に出ても一々スケジュールとか決めてその通りに行動しそうだし、戦闘に関しても多分作戦とかたててその通りに戦わされそうだし、そんな奴の従者になんてなったら毎日息苦しくて仕方ないと思うのよ」

 リリィ「まぁ、確かにそうだわな。あいつの家古くからある名門だし、一般人が思う以上に規律正しいだろうからなぁ」

 ミル「でしょー!おまけにあの真面目で律儀な性格!自分勝手に行動しようにも意見しようにも、気が引けちゃって結局何もできないと思うのよ。さっきだってはっきり断ろうにも凄い真剣な表情で迫ってくるから保健室に逃げちゃったし……、あの性格と学内ナンバー1ていう成績が物凄い圧力になっちゃってるのよね」

 ブブ「ふーん、言われてみれば納得だな〜。レイスってなんか近寄り難いし、いまだに僕のことブルーって呼んでるし」

 ミル「私なんてミレイさんよ、ミレイさん。大体ブレイブナンバー教えてほしいならもっとフレンドリーに会話してきなさいよ。硬すぎるのよ、あいつは。私はもっと自由にさせてくれそうな器の大きい人がいいの」

 リリィ「はははっ、分かった分かった。確かにミルの言う通りだ。もう交換したほうがいいなんて言わないよ」

 ミル「ありがとうございます。はぁ〜、喋ってたら喉渇いちゃった。先生、水貰っていいですか」

 リリィ「ああ、いいよ、好きなだけ飲みな」


 喋り疲れたミルは机の引き出しから取り出した紙コップに、冷蔵庫の中のペットボトルに入った水を注ぎ、ゴクっ、ゴクっと、喉を鳴らしながら勢いよく水飲みだした。その時急にリリィがミルの不意を突くかのように喋りだした。


 リリィ「しかしさっきのミルの話を聞くと、ブブなんて交換するのに丁度いいんじゃないか」

 ミル「ブゥッーーーーー!。げほっ、げほっ、な、なんで私がこいつなんかと」


 ミルはリリィの言葉にかなり焦ったようで飲みかけていた水を一気に吹き出し、恥ずかしかったのか頬を赤く染めて、リリィの言ったことを必死に否定した。


 リリィ「だってお前達だったら小さい時からの付き合いで気心も知れてるだろうし、こいつだったらレイスみたいに頭良くないから一々指示なんてできないだろうから、ミルの好き勝手にできるじゃないか。お前の能力だって存分に発揮できるし、これ以上ない相手だと思うぞ」

 ミル「えっ、ま、まぁそのブブが本当にブレイブフォンに選ばれたんなら…そのぉ、考えないこともないかもしれないけど…、私みたいな我が儘な女迷惑じゃないかなって、だからその…多分ブブも嫌なんじゃないかなって…」


 ミルは急にしおらしくなり、手を前でモジモジしながら少し高くて小さめのいかにも女の子らしい声で喋りだした。頬をさらに真っ赤に染め顔を少し俯けて、上目遣いで治療を受けているブブの顔の方を見ていた。


 リリィ「お、なんだぁ〜、こいつも可愛いところあるじゃないか〜、あんなにいじらしい態度みせやがって〜。この様子だとブブの奴も満更でもない態度を取るんじゃあ…」

 ブブ「そうそう、流石ミル。よく分かってるじゃない。いくら僕でもミルの我が儘さは面倒見切れないよ」

 リリィ「えぇ!」

 ミル「……」

 ブブ「よく考えたらレイスも断られてよかったんじゃないかな。だってミルみたいな凶暴女連れてたら、一日とたたずにボコボコされちゃうよ。きっと旅どころじゃないよね」

 リリィ「こ、こいつ何て無神経なことを…。ミ、ミル気にするなよ、悪気あって言ってるわけじゃな……」


 リリィはミルのことが気になって後ろを振り向いた。すると先程まで頬を可愛く染めていたミルの姿はなく、顔全体を真っ赤にしてまるで鬼神が乗り移ったかのような恐ろしい表情をして、禍々しいまでのオーラを放ってるミルの姿があった。紙コップを握りしめている右手は、中の紙コップが蒸発してしまうほどエネルギーが蓄えられていて、右手全体から何百度も熱が放っているかのように、細く薄い煙が吹出ていた。


 ミル「ねぇ…、ブブ」

 ブブ「えっ、あ、な、何だい?ミル」


 ミルの凄まじい怒りを感じだブブは今更焦ったように答えた。毎度毎度ボコボコにされているにも関わらず、つい無神経な言葉を発してしまい、ミルを怒られてしまう自分をこれほど愚かと思ったことはなかった。


 ミル「さっきも言ったけど、やっぱりせっかく保健室に来たんだからいっそのこと死んじゃうくらいの大怪我をすればいいと思うの。先生だって練習になって嬉しいって言ってたし…、殴っていいわよね」

 ブブ「ひえぇ〜、せ、先生〜」

 リリィ「ミ、ミル!確かに先生は練習になるとは言ったがこれ以上大怪我をされたらいくら私でも治療しきれん!。それでもし本当に死んじまったら練習にならないどころか責任取らされて最悪刑務所に入れられてしまうかもしれん。だから馬鹿なこと言ってないでその拳を下ろせ」

 ミル「…先生だったら例え死んでたって生き返らせるぐらいできますよ。折角の機会だから先生に蘇生術の手本見せてもらおうっと」


 ミルは精神が病んでしまったかのような不気味な声で喋りながら、ゆっくりとブブの方に近づいてきた。このままではまずいと思いリリィはブブの治療をやめ、ミルの前に立ち塞がってなんとか説得しようとした。


 リリィ「なぁミル、あいつが無神経なのはいつものことじゃないかぁ。こんなことでそんなに怒るなんてお前らしくないぞ。いつものお前なら適当にボコボコにしておいて保健室に放り込んで終わりだろう。そんな本当に命まで奪ってしまうぐらい拳に力を込めるのはやめろ。先生でも怖いぐらいのオーラを放ってるぞ」


 リリィの説得を受け入れたのかミルは少し間立ち止まっていた。説得が成功したかに思いホッとしていたブブとリリィだったが、しばらくするとミルはリリィの横を通り過ぎて、再び無言のままブブの方へ近づいていった。


 リリィ「ミ、ミル?」

 ミル「ごめんなさい先生、今回ばっかりはちょっと自分を抑えることができなさそうです。もしもの時は私を警察に差し出してください。ご迷惑をお掛けして、本当にすみません」

 リリィ「ミ、ミルゥ〜」


 ミルはリリィにあらかじめ謝罪の言葉を述べるとそのままブブの目の前まで行った。ブブの頭の前まで来たミルは、殺意以外の感情を失ってしまったようなホラー映画などにでてくる女の幽霊の表情をし、凍りつくような鋭い目でベットに横たわるブブを見下すように睨みつけていた。


 ブブ「こ、これはヤバイ…、流石に朝から怒らせすぎてしまった…。な、なんとかしないと」


 ミルがブブを思いっきり殴ろうと思ったのは今日3回目だった。仏の顔も三度までいうが、ミルの表情に本気で命が危ないと感じたブブは全神経を集中して謝罪の言葉を述べだした。


 ブブ「ミル…、本当にゴメン。僕が悪かったよ…。いつもミルには色々と助けてもらって本当に感謝してる。だけど幼い時から付き合ってるせいかなんだか素直に感謝するのが恥ずかしくて…。それでつい悪態ばっかりついてたけど本当はミルのことが大好きなんだ………。だから許してぇ〜〜〜〜え」


 途中までいい感じで謝罪できていたブブだったが、最後に本音が出て、ただ自分が助かりたいがための命乞いをしてしまい、それまでの謝罪を台無しにしてしまった。もっとも最後まで真剣に謝れていたとしてもミルを説得できたかどうかあやしいが…。とうとうブブに年貢の納め時が来たのかもしれない…。


 ブブ「……ミ、ミル?」

 ミル「……今回ばっかりはもう許さ〜〜〜ん!」

 ブブ「ひえぇ〜!」

 リリィ「やめろー、ミルゥ!」


 ブブの悲鳴と共にミルの渾身の拳がブブの顔面に振り下ろされた。その勢い・威圧感は凄まじく、まるで巨大な観音像が天から落ちてくるようだった。その感覚もあってブブにはこの拳が振り下ろされるわずなな時間が一分にも一時間にも感じられた。

その間ブブは心の中で「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も呟きながら、皆の前でミルのスカートをめくったことや、躓いて転んだ勢いでミルに抱きついてしまったことや、先程無神経なことを言ってしまったことなど、今まで自分がミルにしてきたことを思い出しながら反省していた。

 その永遠とも思える時間も終わる時がやって来た。ブブの心のなかでの反省がもう思い出せないぐらい終わった時、大きな鉄球が壁をぶち破るような音とともに、ミルの拳が…、ベットを貫いていた…。


挿絵(By みてみん)


 リリィ「……ブ、ブブ?」


 リリィはミルの拳が振り下ろされる瞬間、見るのが恐ろしくて目を瞑って顔を手で隠していた。大きな音と共に振り下ろされてしまったことを悟ったリリィは、少し指の間をあけ、恐る恐る目を開けて、隙間からブブの方を見た。


 リリィ「ひぃっ、ひぃーー!」


 リリィはブブの顔ごとベットを貫いているミルの拳を見て腰が抜けるほど驚いた。しかしその拍子に手を顔からどけ、目を完全に見開いてしまうと、意外な光景が目に入ってきた。


 ブブ「ふぅー、ふぅー」

 リリィ「あ、あれ?」


 なんとブブは生きているどころか全くの無事だった。そのことについてブブ自身も驚いていた。


 ブブ「い、いったいどうなったんだ…」


 不思議に思ったブブはミルの拳が振り下ろされている自分の顔の横の方を見て再び驚いた。なんとミルの拳はブブの顔を僅かに横にそれ、ベットの奥側の方を貫いていたのだった。しかもベット自体は壊さずに、ミルに殴られたところだけ、綺麗に穴が空いていた。ミルの拳の威力を目の当たりにしてブブは助かった安堵感ともし自分の顔に振り下ろさていたらという恐怖感で何とも言えず呆然としていた。そんなブブにミルが自身の拳を抜き、いつもの調子で怒ったようにブブに言い放ってきた。


 ミル「いーい!今回はこれで許してあげるけど、もしもう一回今日私を怒らせたら本当に今のを食らわせるからね。さっき心の中で反省してたことをちゃんと忘れないようにするのよ。」

 ブブ「は、はい」

 ミル「よし、じゃあさっさと先生に怪我を治してもらいなさい。私一人グラウンドの整備させちゃいやよ」

 ブブ「う、うん。任せといて」

 どうやらブブは許してもらえたらしく笑い合いながらしばらく見つめ合っていた。その二人の様子を見てよろこんだリリィが笑いながら近づいてきた。

 リリィ「ハハハッ、いや〜よかったよかった〜、流石に先生もヒヤヒヤしたよ〜。それにしてもミル、迫真の演技だったなぁ〜。これでこいつもしばらく大人しくなるだろう。でも演技なら先生には教えといてほしかったな〜」

 ミル「い、いえ、最初は本当に殴るつもりだったんですけど、ブブが謝ってる時そ、その、最後の方にだ、大好きって言ってくれたからその…」

 ブブ「うん?最後の方…、あー!あの必死の許して〜〜っていう命乞いかぁ〜。いやぁ〜あれは自分でも驚くくらい迫真の演技でしたよ〜。人間命の危機を感じるとあそこまでできるもんだなってハハっ、自分で感心しちゃいました〜」

 ミル「…!」

 リリィ「お、おいブブ」


 ブブはその後結局ボコボコにされてしまった…。だが最後の謝罪の中にあったあの言葉がなかったら命はなかったかもしれない。そしてブブのこの悪運の強さが後に世界を救うことになるかもしれなかった…。


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