ブレイブフォン 第1話
登場人物
勇気の町ブレイブタウン、中央に大きな川があり、町の東には大きな大樹がある。中央の川はマーシー川といい、川幅150メートルあるにも関わらず、水深は最大で80センチほどしかない。とても綺麗な川で、中央でも水底が見えるほど好きとをっている。名前のマーシーの由来は、この革で誰も溺れたことがないことからきている。東の大樹は、高さが30mほどあり、とても甘い木の実がなることから、キャンディーツリーと呼ばれている。
現在の時刻、朝6時。周りを草原にかこまれ、緑豊かなこの町で、勇者の目覚めを感じさせる小鳥達のさえずりが、静かに鳴り響いいていた。
レイア「ブブー、もう朝よ、起きなさーい」
ブブ「う〜ん、もう少し寝かせてよ〜」
今自分の母親に起こされようとしているのがこの物語の主人公、ブルー・レイブン、通称ブブである。男のなのに髪の毛を腰まで伸ばし、ポニーテールにしている。少し変わった少年である。容姿も少し変わっていて、真っ赤な髪と瞳をしている。と言っても、この町の住人は皆髪の毛と瞳の色が同じであり、これはこの地域の人々の特徴と言える。
レイア「今日は学校で大事な行事がある日でしょ、遅刻しちゃいけないから早く起きなさい」
彼女がブブの母、レイア・レイブンである。ブブと同じく髪の毛と瞳の色が同じで、綺麗な黄色をしている。ポニーテールではないが、ブブ以上に長い髪をしている。性格はしっかりしていて、ブブへの教育も少し厳しめである。
レイア「さぁ、分かったら早く降りてきて、ご飯食べなさい。今日はサンドイッチ作っといたから」
ブブ「サンドイッチ!、やった。すぐ行くよ」
ブブはそう言うとすぐに洗面所に行き、顔を洗い、歯磨きを済ませ、パジャマを着替えた。実はブブはサンドイッチが大好きで、朝ご飯がサンドイッチの時だけ早起きし、ゆっくり朝食を取るのである。特に炒り卵とトマトを挟んだものがお気に入りで、それが出てきた時は一日中元気なのである。
ブブ「母さん、おりてきたよ。僕のサンドイッチどこ?」
レイア「テーブルの上に置いてあるでしょ、母さん分まで食べちゃダメよ」
ブブ「は〜い、分かってるよ」
本当は全部食べてしまいたかったが、流石に怒られるのは分かっているので、ブブは大人しく自分の分だけ食べていた。ただ自分のお気にりの炒り卵とトマトのサンドイッチだけを他のと入れ替えて全て自分で食べていた。これは朝食サンドイッチの時はいつものことで、レイアはこの事に関してなにも言わなかった。
アラン「おはよう〜、おっ、今日はサンドイッチか」
ブブの父親のアラン・レイブンが降りてきた。温厚な性格で、誰に対しても優しかったので、ブブやレイアだけでなく隣人からも親しまれていた。
ブブ「おはよう、父さん」
レイア「おはようございます、あなた」
レイアがコーヒーを入れて席に着き、家族揃っての朝食が始まった。いつもはブブが起きてくるのが遅いため、今日は家族にとって貴重な時間だった。
アラン「そういえば今日だったか、この町でブレイブフォンを渡される人の発表は」
レイア「ええ、そうね。多分いつもどおり高校生の中から選ばられるから、今日ブブの学校で発表されるみたいよ、行事予定にも書いてあったし。」
アラン「そうかー、もしかしたらブブが選ばれるかもしれないな。ハハッ」
レイア「それはないわよ〜、この子学校の成績全然良くないし、それに今年に入ってもう12回も学校サボってるのよ。そんな子が選ばれでもしたら、町の人に申し訳なくて、私達この町にいられなくなっちゃうわよー」
ブブ「もう〜、うるさいな〜、せっかくのサンドイッチが美味しくなくなっちゃうじゃないかー。それに、そんな変な携帯電話なんて要らないよ。僕にはこのトランプフォンのアリア王女特製クイーン限定バージョンがあるんだから。」
この惑星ブレイブの世界では四年に一度、限られたもの達にブレイブフォンという謎の技術で作られた携帯電話が渡されていた。この携帯は番号交換した者を瞬時に自分の所に転送させる機能がついている。大体一つの町に一人、大きな町では最大で十人程度まで渡されていた。渡される者の選定基準は様々であるが、スポーツや格闘技の大会で優勝したり、偉大な発明をしたり、学校で優秀な成績を修めたりと、一般の人々より優秀とされる人達に渡されていた。この町では世界でトップ10に入るといわれている、ブブの通っているブレイブ高校から毎回選ばれていた。ブレイブフォンを渡されたものは皆、四年後に開かれるブレイブピックへの出場し、その大会で優勝し選ばれし勇者として、魔王を倒すことを目指すのである。魔王といっても歴代の優勝者が演じた物であり、別に負けたからといって、世界が征服されるわけではない。ブレイブピックへの出場には資格が必要であり、その資格を得るために、ブレイブフォンを渡された勇者達は皆すぐにブレイブピックを目指すために旅立つのだった。
ちなみにブブの持っているトランプフォンとは、世界中のあらゆるカードゲームがオンラインで遊べる携帯で、携帯ゲーム機のような形をしている。アリア王女特製クイーン限定バージョンとは、この世界の王女であるアリア王女が、トランプのクイーンに扮した写真が画面左上と右下に貼ってあり、携帯の裏には王女の家系である、アストレア家の家紋が入っている限定仕様のことである。
レイア「そうね〜、どうせアンタにブレイブナンバー教えてくれる子なんていないもんね〜。ちなみに母さんもブレイブナンバー持ってるけど、ブブには絶対教えないもんね〜、フフッ」
ブブ「…!、フンッ、なんだよ。こっちだってこんなオバサンの番号なんて知りたくないよ」
レイア「な・ん・で・すってー、母さんに向かってそんなこと言って良いと思ってんの!」
ブレイブナンバー、それはブレイブフォンと唯一番号交換できる番号のことで、手に入れるにはブレイブ協会が年に四回行っている、ブレイブ検定に合格する必要がある。合格すれば自分の携帯の電話帳に、ブレイブナンバーが登録され、同時に?ブレイブトランスポート?というアプリも、インストールされる。当然、本人しか知らない暗証番号が設定されており、その番号がないと、番号を確認することも、アプリを起動することもできない。
アラン「おいおい二人共、せっかく家族揃っての朝食なんだから、喧嘩はやめなさい」
ブブ「だって母さんが〜」
レイア「なによ!、大体あんたが全然勉強しないどころじゃなく、学校までサボったりするからでしょ!、そりゃ母さんも悪態付きたくなるわよ!」
アラン「こらこらこらこら、母さんも気持ちはわかるが感情的になるのは抑えて。ブブも勉強をしないのはともかく、学校をサボるのはいけないことなんだから、ちゃんと母さんに謝りなさい」
ブブ「え〜、なんで僕だけ〜」
レイア「・・・、分かったわよ、私もちゃんと謝るから、仲直りしましょ。言い過ぎてゴメンね、ブブ」
ブブ「えっ、あぁ、そ、そのー、こっちこそゴメン。流石にちょっとサボり過ぎたよ」
いつもなら一度怒り出したら止まらないはずの母の謝罪に言葉に、ブブは一瞬戸惑ったあと、自らも謝った。レイアもせっかくの家族の貴重な時間を大事にしたかったのだろう。
レイア「数の問題じゃないんだけど、まぁいいわ。それよりあんた、そろそろ行かないと学校遅刻するんじゃないの」
ブブ「えっ、ああっ、もうこんな時間だ。ムシャモシャムシャシャ!」
時間をみて慌てたブブは、急いでサンドイッチ頬張った。
レイア「ちょっと、いくら時間がないからって、そんなに慌てて食べちゃダメよ。残りラップして置いといてあげるから」
ブブ「ば〜い、ムシャムシャムシャ」
ブブは聞いてなかった…。
ブブ「ムシャムシャ、ばへ、ぼういえばぼーさんはびごとびかなくてびーの?」
ブブは「あれ、そういえば父さんは仕事行かなくて良いの?」と聞いた。
レイア「父さんは今日仕事お休みよ、分かったら早く行きなさい」
ブブ「ムシャムシャ、うんっ…、ゴクッ、は〜い。よっと。びってぎば〜す」
ブブは一度サンドイッチを飲み込んだあと、最後の一つを口にはさみ、「行ってきま〜す」といって、カバンを持って家を出て行った。こうして貴重な家族の朝食は終わりを迎えたのだった。
レイア「はぁ〜、あの子、あんな感じで大丈夫なのかしら。私の教育、間違ってました?」
救いを求めるように、レイアがアランに聞いた。
アラン「いやっ、何言ってるんだ、全然そんなことないよ。確かに勉強は出来ないけど、凄く元気な子に育ってるじゃないかー。母さんは知らないかもしらんが、明るくて楽しい子って、近所でも評判らしいぞ」
レイア「そうぉ〜、だったらいいんだけど。やっぱり母として社会に誇れる子になって欲しいのよねぇ〜」
アラン「ハハッ、まぁまだ高校生なんだし、これから立派な大人になってくれるよ」
ちなみにブブは高校三年生で、今は二月。つまりあと一ヶ月で卒業なのである。当然進路などはなにも決まっていない…。
レイア「あらっ、あの子ったらお弁当忘れていってるわ」
息子の将来について夫婦の会話を楽しんでいたレイアに、ブブの忘れ物が目に入った。
レイア「もうっ、やっぱりあの子こと心配だわ〜」
レイアそう言うと、急いでブブの後を追った。しかし玄関をでて学校への道を見渡したがブブの姿はなかった。
レイア「はぁ〜、もう私がお昼に食べちゃおうかしら」
ブブの学校には学食があるのでお弁当を忘れても別に問題はなかった。
???「あぁ〜、遅刻遅刻遅刻ぅ〜、このままじゃあまた遅刻しちゃうわ」
お弁当のことを諦めかけていたレイアの後ろから、すごい勢いで砂煙を起こしながら走ってくる少女の姿があった。いかにも切羽詰まったような表情で、目は三白眼になり、口は左下がりに歪んでいて、人によっては恐怖を感じるような表情だった。恐らく相当急いでるのであろう。
そんな少女にレイアはなんの遠慮もなく声をかけた。
レイア「あっ、???ちゃん、ちょうどいいわ、このお弁当ブブに届けてくれな〜い」
???「ええっ!」
ライナ「さぁー、早くしないと遅刻だよ、走った走った」
午前7時25分、ブレイブ高校では今日の門番担当の先生が遅刻ギリギリのところで走ってくる生徒達に拍車を掛けている。ブレイブタウンの学校は、この地域の人達に朝の時間を大事にする習慣があったため、ほかの地域より登校時間が早かった。その代わり下校時間も早く、生徒達にとっては自由の時間が多く、喜ばしいことだった。
ライナ「あー、そこ、なに止まってんだ。あと3分で朝の予鈴がなっちまうよ。そしたら遅刻確定だからな」
今日の門番担当はライナ・レスティー。美人教師と評判の女性教員で、髪の毛と瞳は透き通るのような水色をしている。髪型はショートヘアーで、前髪の右側を少しあけて、額が見えるようになっている。担当科目は、これからの教師は文理両道でなければならないとの本人希望から、国語・科学となっている。
ブブ「あ〜、やっと学校が見えてきた。なんとか遅刻せずに済みそうだ。」
ブレイブ高校の前を流れるマーシー川。そしてその川に架かっているチャリティー橋。美しいマーシー川を汚さないよう渡るために、町の人達が寄付を寄せ合って作ったことからこの名前がついた。実はブレイブ高校はこの橋を渡った目の前にあった。そしてブブは今ちょうどチャリティー橋の真ん中あたりにいた。
ブブ「はぁ〜、相変わらずマーシー川は綺麗だな〜。本当ならゆくっり眺めたいけど、今は学校に急がなくちゃ」
???「こらー、ブブー!、ちょっと待ちなさーい」
ブブ「うん、なんだ。・・・!?」
もう少しで学校に着こうとしていたブブに、後ろから獲物に逃げられた鬼が追いかけてくるような声が聞こえてきた。何だと気になって、後ろを振り返ったブブに、本当に鬼のような顔をして迫ってくる少女の姿があった。
ブブ「なっ、何だぁ!、よ、よく分からないけど、とりあえず逃げよう」
少女の表情に驚いたブブは、このまま捕まったら何されるか分からないと思い、残った力を振り絞り懸命に逃げた。そして逃げながら自分があの少女になにか怒られるようなことをしたかと考えていた。
???「あっ、ちょっとなんで逃げるのよ!、待てって言ってるでしょ、ゴラァ!」
少女はブブがスピードを上げるとさらに怒り出し、もともとバッファローが突進する
くらい速かったスピードをさらに上げた。そのスピードはブブの比ではなく、一瞬ですぐ後ろまで迫っていった。
???「ちょっとあんたぁ!待てって言ってるのが分からないの、止まりなさいよ」
ブブ「や、やだよ!止まったらきっとまたボコボコにされるんだろう、わざわざ自分から捕まりたくないよ」
どうやらブブは普段からこの少女に乱暴を受けていたらしく、さらに彼女の鬼気迫る表情も相まって、すっかり自分が彼女を怒らして、また殴りたくられるものと思い込んでいた。
???「なっ、そんなことしないわよ。私はあんたに渡すものがあるだけ。大体いつもボコボコにしてるのはあんたが悪さばっかりするからでしょうが。いいから止まりなさいよ」
ブブ「じゃあなんでいつも見たいに鬼のような顔してんだよ」
???「これはただでさえ三日連続遅刻しそうで必死で走ってたのに、あんたの母さんになんの遠慮もなくお弁当届けるのを頼まれたせいでこうなってんの。つまりはアンタのせいなの。だから止まりなさーい!」
ブブ「やっぱり怒ってるんじゃないかー」
???「…ええ、怒ってるわよ、そんなにお望みならいつもみたいにボコボコにしてあげるから、喜んで止まりさない」
ブブ「いっ、いやだ〜」
少女は本当にお弁当を届けるだけのつもりだったのだが、ブブのあまりのしつこさに怒りが心頭し、思いっきり殴ってやろうと、走りながら拳を震わせていた。
ブブ「よ、よし。あと少しで橋をわたるぞ、そうすれば後は学校に飛び込むだけだ。学校に入って先生に助けを求めればこいつも手をだせまい」
全力で走ったかいあって、ブブはあと少しで学校に着くというところまで逃げていた。学校の門を目の前にしたブブの心は、あと少しでこの恐怖から開放されるという安堵感で満ちていた。
ブブ「あぁ〜、ついにこの恐怖から解放されるぞ。いつもなら退屈なタコ部屋に見える学校も、今日は天国にみえる」
???「あっ、まーい!」
勝利を確信したブブに、背後から少女の希望を打ち砕く声が聞こえてきた。
ブブ「えっ…、う、うわー」
少女の言葉と同時に、ブブは急に後ろに引っ張られ、気がついたら体は宙に浮き、目の前には綺麗な青空が広がっていた。なんと少女にお気に入りのポニーテールを掴まれ、宙に引っ張り上げられてしまったのだ。
ブブ「うわ〜ん、助けて〜」
???「ふっふっふー、覚悟しなさい!うぉ〜りゃぁー…!」
ブブ「ひぃ〜」
ブブはそのまま地面に叩きつけられた。ブブの体はハリセンで机を叩くかのように水平に地面を叩き、体の背面すべてを使って、バンっ!、と日頃の鬱憤が吹き飛んでしまうような、とても気持ちのスッキリする音を叩き出した。
ブブ「いっ、痛ったぁー、ど、どうなったんだ?」
ブブは叩きつけられた痛みと衝撃で動けなくなり、地面に大の字で寝っ転がっていた。衝撃に頭にまで響いたのか、目の前がグルグル回って見え、意識は朦朧としていた。
???「はい、お弁当。落とすわよ」
ブブ「えっ、あ、あ、ああぁ、…うぉおおおお、…よっと」
横になっていたブブの頭に少女が近づき、すこし悲しそうな目でブブを見たあと、お弁当をブブの胸のあたりに落とした。意識が朦朧としていたブブはなんとか腕を胸の前に持っていき、お弁当をキャッチした。
???「これでちゃんと届けたからね、感謝してよ、もう」
ブブ「…うん、ありがとう、ミル」
先程からブブを追いかけていた少女は、ミレイ・アルレイド。ブブや周りからはミルと呼ばれ、親しまれている。ブブとは小さい時からの幼なじみで、小学生までは毎日遊ぶくらい仲が良かったが、中学生からよく喧嘩をするようになり、高校に入ってからは顔を合わせる度喧嘩をしている。茶色で綺麗なロングヘアーが特徴で、少し気は強いが、見た目は割と可愛らしい。
ミル「はあぁ〜、なんでお弁当届けるだけでこんな疲れさせるのよ〜。ほんっとに世話が焼けるんだから」
ブブ「ゴメン…、僕が悪かったよ、だから起こして」
ミル「あぁ〜、なんだか走りすぎて目眩がしてきたわ。保健室行こうかしら」
ブブ「だからもう謝ってるじゃないか〜、自分のことより僕を保健室に連れて行けよ」
ミル「あんっ、なんだって」 ?グイッ、グイッ?
ミルはブブの顔の上に靴をのせ、こねくり回すように足を回しながら、高圧的にブブに言った。
ブブ「うぅ〜、ごめんなさい、反省してます。だから保健室に連れて行ってください」
ミル「う〜ん、聞こえないなぁ〜、もう少しハッキリ言ってくれないとなぁ〜」
ブブ「クッ、もう分かったよー、“ご・め・ん・な・さい”、反省してるので保健室につれて……、うん!」
ミル「なによ、どうしたの?」
なんとか保健室に連れって行ってもらおうと、懸命に謝ろうとしていたブブに、足を頭に置くことによってめくり上がっている、ミルのスカートの中身が目に入ってきた。
ブブ「おっ、綺麗なシルクのパンツ、今日は勝負下着だな」
カチンっ!、ブブの無神経な言葉にミルの収まりかけていた怒りがまた沸騰しだした。
ミル「あぁ、そうねー、けが人は保健室に連れて行かないとねー、ただー、どうせ連れて行くなら思いっきり怪我させといたほうが保健室の先生も喜ぶわよねー」
ミルはそう言うと再び拳に力を蓄え、いまにもその力を解き放ってしまいそうなくらい、拳を震わせていた。
ブブ「ま、待って、今のは冗談。そう、冗談だよ、ホントはパンツなんてみ、見えてないよ。シルクなんてのも、そうだったらいいな〜って、適当に言っただけ。だからその、も、もう怒らないで」
ミル「ゴメンね〜、もう怒るどころかとっくにキレちゃってるからそのお願いは聞けないわー…、うぉ〜りゃ〜」
ブブ「ひぃ〜」
ミルの拳がブブの顔面目掛けて振り下ろされ、今にもブブの顔に直撃しようとしたその時、“キン〜・コン〜・カン〜・コ〜ン〜、キンー・コンー・カンー・コーンー、キン〜・コン〜・カン〜・コ〜ン〜”朝の予鈴、つまりはブブ達の遅刻決定する鐘の音が、三回、鳴り響いた。ブブの顔に振り下ろされたミルの拳は、顔面に直撃する直前で、止まっていた。
ミル「あぁ〜、また今日も遅刻じゃな〜い、どうしよ〜う、また先生に怒られるよー」
ブブ「ふぅ〜、助かった〜」
遅刻が決まってガッカリしているミルと、あわゆく死にそうなところを助かってホッとしているブブに、今日の門番のライナが近づいてきた。その歩き方は一歩々々がとてもおもく、まるで地獄の門番があるいてくるようだった。
ミル「げぇ!、今日の門番ライナ先生だったの」
ライナは遅刻に対して、教員達のなかで郡を抜いて厳しく、放課後のワックスがけ、朝から校庭20周、しいては教員すべての靴磨きなど、遅刻した生徒達に様々な罰を与えていた。そのためミルは、三日連続遅刻である自分に対してどんな罰が下るのかと、恐怖していた。
ライナ「…、あぁーお前達ぃー、学校の目の前で堂々と遅刻したあげく、大声で怒鳴り散らしたうえ見苦しい夫婦喧嘩を見せ付けてくれるたぁーいい度胸してんなー、しかももうすぐ30になるにも関わらず恋人の一人もいないこの私の目の前でだ」
ミル「や、やだなライナ先生、夫婦喧嘩なんて私とブブはそんな関係じゃないですよ〜、これはブブが私に対して失礼なことをしたから怒ってるだけであって、それに遅刻だってこいつが余計なしなければ間に合ってましたよ〜」
なんとかライナの機嫌を良くしようと必死に言い訳をするミルだったが、ライナには全く通用しなかった。
ライナ「今お前達の出欠表を調べてみたんだが…、ミル、お前は今日で三日連続遅刻しているな。そしてブブ、お前昨日も学校を欠席した上今年に入ってからもう12回も学校を休んでるなー。しかも理由は全てサボり…、ちょっとありえないよな〜」
ブブ「ははは〜、どうもすみません」
ミル「ちょっ、なんでこいつそんなに学校サボってるのよ!、これじゃあ私までこいつと一緒に怒られちゃうじゃない…、まぁ、遅刻したから自業自得なんだけど」
ミルはブブが12回も学校をサボっていると聞いて、「このままでは自分もブブと同じように罰を与えられてしまう、学校12回もサボってる奴と一緒の罰なんてきっととんでもないものに違いない」と思い、なんとかブブと別の罰にしてもらえるよう必死に考えていた。
ミル「あ、あのぉ〜、先生。確かにこいつのサボりは悪質ですけど〜、私の場合こいつと違って故意ではないわけですし〜今日だってこいつが邪魔しな…」
ライナ「お前達二人…、今日一日私の言うこと全て聞くことね。そうねー、午後七時くらいまでなら大丈夫でしょう。それまでこき使ってやるから、覚悟することだ」
ブブ・ミル「えーーー!」
ミルの言い訳を途中で遮って、ライナはブブ達に衝撃の言葉を言い放った。当然ブブとミルはそれはあんまりだとライナに対して抗議した。
ミル「先生!、それってつまり奴隷ってことじゃないですかーーー!、ちょっと酷すぎます!」
ライナ「人聞きの悪いこと言うなよー、当然教師として問題がない程度のことしか頼まないよ」
ブブ「この前僕に靴磨きをさせたことは教師として問題があるんじゃないんですかね〜」
ブブは顔を横に向けて、ライナにギリギリ聞こえるような小さな声で呟いた。
ライナ「あっ!、なんだって!」
ブブ「い、いや、なんでもありません!」
ライナに威圧されてブブはすぐに謝った。ブブはこう見えてなかなか度胸があり、大抵の先生に対して強気にでて、反抗することができていたがライナに対しては大人しく言うことを聞くことしかできなかった。
ライナ「それに、元はといえばお前達が遅刻したり、学校サボったりするからだろ。分かったらさっさと学校に入って下駄箱の所で待ってろ。まずはグラウンドの整備をしてもらうから」
ミル「え〜、先生、授業はどうするのー!」
ライナ「今日は午前中はブレイブフォンの所有者の発表会で、その後は自習だ。まぁ、ブレイブフォンの発表会なんて多分お前達には関係ないだろうから、気にするな」
ミル「は〜い〜…はぁー」
ミルは渋々納得し、ライナと共に学校へと歩き出した。すると、少し進んだところで後ろから二人を呼び止める弱々しい声が聞こえてきた。
ブブ「あのぉ〜、ちょっとすみません」
ミル・ライナ「うん?」
ブブ「…、さっき地面に叩きつけられた衝撃が強すぎて、体が動かないんですけど…」
ミル・ライナ「…、はぁ〜」
どうやらブブは先程ミルに叩きつけられてからずっと動けないでいたようだ。その様子を見てミルとライナはとても面倒くさそうにため息をついた。
ブブ「な、なんだよ、まさかこのまま放っておく気じゃないよね?」
ライナ「…、しょうがない、ミル。お前、こいつを保健室に連れて行って、下駄箱じゃなくてそこで待ってろ」
ミル「えぇー!、なんで私がぁ!」
ライナ「元はといえば、お前のせいでこうなったんだろ。武道を極めるのもいいが、加減ってものを覚えないといつか大きな事故を起こしちまうぞ。それに、旦那の面倒を見るのは女の努めだろう。じゃあな」
そう言うとライナは職員室の方へと歩いて行った。
ミル「もう〜、夫婦なんかじゃないってばー、…はぁ〜、でもしょうがない、確かにこうなったのには私にも原因があるんだし、連れて行ってやるか」
ブブ「うぅ〜…、なんて薄情な奴らなんだ、このまま死んだら化けてでてやる〜」
二人に見捨てられたと思っていたブブは、呪縛霊かと思えるような卑屈な声で、呪いの言葉を必死に連呼していた。
ミル「…、あんたなんか化けて出てきても怖くないわよ。逆に返り討ちにしてあげるから、いつでも出てきていいわよ」
ブブ「言ったなぁ〜、じゃあ今晩早速出て、まずはミルがお風呂に入る時に湯船を水に変えといてやる〜。そしてその後いつもお風呂上がりに食べている大好物のミルミルクプリンを一つ残らず食べといてやる〜。そして最後はミルが寝る時にベットの中に潜んでおいてー、しっしっし〜」
ミル「…馬鹿なこと言ってないで、保健室に連れてってあげるから腕貸しなさい」
ブブ「あっ、はーい」
ミルはブブの腕を自分の肩にまわし、ゆっくりとブブを起き上がらせた。ブブの体は本当にほとんど動けなかったらしく、起き上がったはいいもの、足が思うように動かず本当にゆっくりとしか歩けなかった。肩を貸すことによって、自分の真横にきているブブの険しい顔を見て、ミルは罪悪感を感じ、すこし切なそうな表情でブブを見ていた。
ブブ「う〜ん、やっぱり思うように動けないや、ゴメンね、ミル」
ミル「もうぉ〜、素直に謝られると余計責任感じちゃうじゃない、仕方ないわね〜。よいしょっと」
ミルはそう言うとブブの体を背中に乗せ、そのまま腕にブブの足をかけ持ち上げた。
ブブ「う、うわぁ〜、これじゃあおんぶじゃないかー、恥ずかしいから下ろしてよ〜」
ミル「仕方ないでしょ、あのまま肩かして歩いてるだけじゃあ、いつ保健室に着くか分からないわよ。落ちないようしっかり掴まってるのよ。ああ、それともし変なとこ触ったりしたら本当に命が危なくなるから、気を付けなさいよ」
ブブはとても恥ずかしかったが、確かにミルの言う通りこのままでは保健室に着くために何十分とかかってしまいそうだったので、渋々ミルの背中の上で大人しくしていた。毎日丁寧に手入れされたミルの髪の感触と、いつもミルが使っているミルミルクシャンプーのほのかに甘い匂いのおかげで、ブブはなんだかとても心地よかった。