7. シャスアーネの女王 レオーネ
ーん
いつも通り、 ー確か、尊雪殿といったかーの扉を開くと匂いやかな芳香がふわりと彼と彼の側近たちの鼻先をかすめた。
ーーー?
顔をあげた。長いドレスの裾が最奥の席への階段を覆っている。
ーーつまり、女人かー
ならば、この香りは大方ドレスの裾にでもたっぷりと香水を染み込ませておいたのであろう。
豪奢な影が優雅に立ちあがった。
ーーあ
王女だな。
彼には分かる。このような優雅さは王族特有のものだ。他を跪かせるような圧倒的な優雅ー気品とでも言おうかー がある。いや、正にその極たるものと言えようか。
「お初にお目にかかります。レオーネ陛下。私、この度、即位致しましたピアンでございます。今日は、シャスアーネ国女王として、貴国に誓いを立てるべく参りました。
ーここに、シャスアーネ国は女王の名をもってミリオーネ国に従うことを誓います。そして、我が国をミリオーネ王の名をもって保護なさってくださいますようー
ご承認くださいますね?」
彼は、突然話しだした王女にー女王だったかー に多少戸惑ったが、女の言うことに異議はないので
「承認しよう」
と、答えた。
ーと、女王の美しいーーこの女王はとてつもなく美しいー唇が弧を描き、冷たい優雅な微笑をつくった。
ー何なのだ。嬉しいなら、もっと素直に表せばいいのに。
ーそれとも、何かーー!?
「感謝致します。また、今日はもう一つ提案がございますの。私を貴方の妃になさいませ」
ーああ、やはり。何か突飛なことを言い出すと思ったー 幼稚な誇らしさと大人な呆れが同時に彼のなかにわいた。が、
ーいや、それどころではない。 この女王は何をいっているのだー何か言わなくてはー
しかし、女王は彼の発言を許さなかった
「失礼ながら、陛下には、有力な外戚がいらっしゃらずーしかも、貴国内には丞相の座を狙う有力貴族があるとか。このままでは、その者の娘を王妃に据えられてしまうのでは?いや、必ずやそうなりますわ。そして、それを企てるのは一人ではない。よって、王妃の座ー丞相の座をめぐって、内乱となるは必至。それを思えば、私を妃としさえなされば、シャスアーネ国と言う強大な外戚を得られると共に、国が乱れるのを防げるー安いものではございませんか」
「そなたにとれば、易いことかも知れぬ。だがー」
「早うにお決めなされ」
ー何と乱暴な女子だ。自身にとっても大事であろうに。
しかし、 悪くない話だ。
女王の言うことは正しい。一点の曇りもなくーー
ならばー渋る理由などない。
「うむ。そちの申す通りだ。よってーー
余ーミリオーネ王は、シャスアーネの降伏を受け入れ、これを保護しすると共に、その女王を我が王妃とすることを誓う!」
その瞬間、女王の芙蓉の顔に、蕾がほころぶように、華やかな微笑みがこぼれた。