6.女王ピアン ピアン
ーーあれから、たった3ヵ月
父を最後に見てから、たったの3ヵ月しか経っていないのに、父も兄も亡くなってしまった。
ピアンは、泣き疲れてぼんやりとした頭で一生懸命に父との最後の会話を思い出そうとしていた。
ーー頼もしいー ーやはり、我が娘よー
父の言葉が蘇る。
ーそうよ。私はお父様の娘。この国の女王。ならば、父や兄のように、この国のためにつとめなくては。
ピアンは、必死に考えた。今までは王女として、王の娘としての品位を保っていなさい、としか言われていなかった。
ー王としての品位とは?
父の姿を思い出す。つい溢れてくる涙をこらえて。分からない。でもー
ーーとにかく、国のため、民のために、最善の行動をすることよ
王にしかできないことー国と民のために女王にしかできないことー
彼女は、今までて得た知識を総動員して考えをまとめた。
ーこれが、最善。
そして、侍女たちに命じた。シャスアーネの女王に相応しい装いを凝らしなさい、と。最も大切にしてほしいのは、威厳と自分の美しさが最大限に引き出されるようにすること、とも命じた。
湯浴みを終えると、身支度を始めた。ドレスは、17の誕生日の宴の際に拵えてもらったもの。髪は、すべての技巧を凝らして精緻に、美しく結い上げさせ、真珠とガーネット、ダイヤモンドを豪奢にたっぷりと飾る。首筋も耳も腕もどっしりと重いほどの宝石で飾る。但し、胸元は隠れないように。
彼女の乳房は、あまり豊かな方ではない。しかし、その代わり、腰や手首はどこまでも細い。だから、ドレスの紐をしっかりと念入りに締めさせて細腰を目立たせる。
化粧も丁寧に施させる。白粉をむらなくぬらせ、唇には彼女の地の色を引き立てる紅を。眉も丁寧に引かせる。目尻にも薄く紅を刷く。
最後に爪を磨かせ
ー王冠を飾る
ーー完璧ね。
侍女たちに礼を述べると、一斉に跪き、頭を垂れた。
もう、夜も更けている。ミリオーテの王ーレオーネは、夜になると王家の礼拝堂である尊雪殿に現れるらしい。
ーー先回りしなくては
ミリオーテの兵に荒らされた王宮の廊下や庭を通って、尊雪殿に着くと幸いにミリオーテの王はいなかった。
ピアンは、尊雪殿の最奥、王が祈りを捧げる場所に跪いた。ピアンの長いドレスの裾は、玉座に登る階段の下まで届き、妖しい芳香を放っている。裾にまでたっぷりと香水を染み込ませておいたのだ。
ーー神様。私をどうかお助けくださいますようー
しばらく祈りを捧げていると宮の扉が開く音がした。