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獅子は芍薬を手に  作者: ゆき
幸福の王女
5/18

5.宴の後で ピアン

ーはあ


長い宴が終えて部屋に戻った。すでに、ドレスも寝衣に着替え、化粧も落とした。

ーあとは、寝台に倒れこむだけ

ぼんやりと豪奢な天蓋のついた自身の寝台を眺めていると


「失礼いたします。ピアン様。陛下がおみえに成られるそうでございます。直ぐにお支度なさらねば。入ってもよろしゅうございましょうか?」


マリアの声だ。ーお父様がいらっしゃる? ぼんやりとした頭を叩き起こして言われたことを整理する。ー急がなくては


「ええ」


「まずは、お着替え召されませ」


差し出されたのは若草色と濃緑の絹が重ねられ、一面に刺繍とダイヤモンドがちりばめられた豪奢なドレスーー何と言っても彼女の父は王なのだ

着替えが済むと、次は髪だ。横は捻って、後髪と合わせて緩く編んで纏める。更に宝石で飾り、ティアラを着ける。

そして化粧を施し、ドレスに合わせて耳と首筋には厳かに大粒のダイヤモンド、手首には小粒のダイヤモンドの腕飾りで華やかに飾る。

そこまで済ますとピアンは姿見の前に立ち、自身の姿を眺めた。雪のように白く滑らかな肌に、細い腰ー

ーー抜かりはないわね。

何とか主を王が来る前に着飾らせ、安堵の表情を浮かべている侍女たちに向き直る


「何とか間に合ったわ。ありがとう」

侍女たちがピアンの言葉に答える前に、扉の外から王の到着を知らせる侍女の声が上がった。


「ー陛下の御成でございますー」


扉が開き父が入って来ると侍女たちが一斉に跪き、ピアンも父が彼女の目の前まで来たところで優雅に跪いた。


「お父様。御成にあられますか。呼びつけてくだされば、私が参りましたのにー」

言い終わらないうちに、王が口を開いた。


「愛しい娘、誇り高き王女ピアンよ。今、東の大国ミリオーテが我が国を攻めんと迫り来る。余と王太子は戦にゆく。もし、万にひとつのことあらば、そちが女王として即位せよ。ここに王が命ず」


ーお父様とお兄様が戦に⁉︎ミリオーテが攻めてくる?お父様は?お兄様は?シャスアーネは?どうなってしまうの?


上目を使って父の顔色を伺うと、堂々とした姿の父の目にはっきりと不安の色が浮かんできている。


ーー早く、お答えしなくては。私がお父様を勇気づけなくてはー

覚悟を決めて、王女としての品位を保ち凛として頼もしく聞こえるように、見えるように答える。


「お父様ー陛下。私は、ここに謹んでご下命をお受けいたします。しかしながら、誇り高きこのシャスアーネを汚すことの出来るものなど断じてございません。また、雪の神がお選びになった陛下と王太子殿下にまします。必ずや勝してお帰りになられましょう」


「当然だ。美しき姫よ。我が娘、ピアン。やはり、そなたは我が娘だ。頼もしく思うぞ」


厳かな口調とは裏腹に父の優しい手が彼女の頰にそっと触れた。

ーお父様とお兄様がもしお帰りにならなかったら?ー

そのあたたかさに思わず涙が頰を伝う。

ーーお父様!

顔を上げると父の背はもう見えず、分厚い扉だけが彼女の目に映った。



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