3.宴の前に クノーレ公爵
各話毎に視点が変わります。どうぞ、お楽しみください。
今日は、ピアン王女の誕生日だ。ピアン王女は彼の姪にあたる。息子一人の彼にとって彼女は可愛い姪だが、王妃が10年前に逝去されたために彼女はこの国で最も高貴な女人である。王はー彼の兄は、最愛の王妃を亡くしてから10年経っても新しい王妃陛下を、という話に見向きもしない。兄は、亡き妻の分までーそれでも余るほど娘を溺愛し、甘やかしている。まあ、これは彼に言えたことではない。彼も、老臣たちー例えば、忠誠心があつく、少し厳しいルミール伯爵 も皆、王女を存分に甘やかしている。それでも王女には、たちの悪い傲慢さは一切なく、優しくすぎるほどに育ったから、それで良いと思う。そもそも、高貴な人には自然の傲慢さというのはあるが、たちの悪い傲慢さは生じないだろう。だから、王女もきっとそうなのだろう。それに王女は、賢い。東西南の大国、つまり3つの外国語を流暢にあやつり、文学の造詣も相当に深い、さらに刺繍の腕も一流だ。あの、おっとりとした人柄からは想像もできない。これが、王女の徳、なのだろうか。彼は、どこまでも美しく愛らしく、賢く、素直でおっとりとした優雅な姪を今日も大いに甘やかそう、と決心した。
そんなことを考えている間に時間が過ぎていた。今日は、彼もピアン王女の誕生日の宴に招かれている。それに、今年は、ただの誕生日の宴ではない。大切なことを発表する日なのだ。幼い頃から王女と親しく、彼の息子であるナレも共に招かれている。今日もすでに王女に会ったという息子は、今日の発表を聞いてどんな顔をするであろう、あの様子では、まだ知らぬのであろう。そう思いながら、王宮へ参内すべく支度を急がせた。