2.宴の支度 ピアン
各話毎に視点が変わります。どうぞ、お楽しみください。
「それでは、支度をさせていただきます。」そう言ったのは、最も親しい侍女のマリアだ。彼女は、侯爵家の令嬢で幼い頃から彼女に仕えている。こげ茶の髪に茶色い瞳の、主ほどではなくとも美しい娘だ。
「ええ。お願いね。」ピアンの言葉に他の侍女たちも頷いてくれる。本当に頼もしいことだと思う。
「今日、お召しいただくドレスはこちらでございます。」
見せられたドレスは、純白の滑らかな絹に金糸を惜しげもなく使って大輪の芍薬が刺繍され、薄桃色の美しいビーズや細かな宝石が散りばめられた一品だった。
「まあ。綺麗だこと。それに、芍薬。」
そう、彼女の名は芍薬、という意味だ。うっとりとしていうと、ドレスを差し出した侍女は微笑んでくれた。だから、ピアンは思わず溢れた微笑みを彼女にも向けた。
「それでは、着付けを致しますわ。」
彼女が先ほどまで着ていた鮮やかでありながら高貴な青色の、光沢のある絹に金糸と銀糸で細かな刺繍が施された、これも美しいドレスが侍女たちによって脱がされていく。ピアンは絹が肌を滑る心地よさに目を閉じた。
「次は、御髪でございます。髪型は、これでよろしゅうございますか?」
髪はナレに会う前、試しに結ったのだった。
「ええ。これでいいわ。」
「承知いたしました。では、この通りに結い直させていただきますわ。」
一度結い上げた精緻な髪型をほどくと、ピンが一つ一つ外されるごとに頭が解放されていく気がする。全てのピンが外されると、ピアンの絹のように滑らかな黒髪が一気に溢れ落ち、ほっそりとした背を覆った。
「本当に美しい御髪でいらっしゃいますこと。」
彼女の髪をほどいたマリアの声だ。
改めて髪が結い上げられ、宝石で飾られた。最後に、彼女が王女である証のティアラがーいつも身につけているものだが が着けられた。彼女のティアラは、ダイヤモンドで全体が覆われ、さらに、美しいガーネットー彼女の印の石だ を中心にして青いサファイアや真珠を飾った豪奢なものだ。すでに化粧も直され、耳も、後れ毛が散る白鳥のような首筋も、大粒の真珠で装飾されている。
「こんなに綺麗にしてもらうと、このティアラもいつもと違ってみえるわ。」
彼女がいうと侍女たちが嬉しそうにうつむいたのを見て、ピアンは微笑んだ。私は幸福だわ、心からそう思った。