11.もうひとつの朝と レオーネ
目覚めると腕の中に小さな温もりを感じた。その温もりを見ると妻がいた。妻はー俯いて何か思い悩んでいるようだった。
ーー何を考えているのやら
妻は彼がこれまでに経験した如何なる女とも異なっていた。どこまでもか弱く、同時に力強くもある。
そして、妻を抱いて、初めて、激しく思ったのだ。
ー愛しい、と。
妻は、彼を恨んでいるのだろう。分かっている。それでも彼は妻を愛してしまった。それは、確実に愛、なのだ。そこには理屈も何もない。自然のことだ。つまり、神の導きということ。彼も人ならば、これに逆らってはならない。
導きを守り通すことこそ、妻の為にも、彼の為にも、延いてはミリオーテとシャスアーネ、両国の民の為ともなる。
ーだから
愛しくなった妻をこれ以上傷つけたくはない。彼に愛されることは、妻を傷つけ、彼への憎悪を増させることになってしまうのかもしれない。
それでも、そうと分かっていても、妻を愛すことこそ、彼の罪滅ぼし。になるはずだ。
ふと、困ったような顔で妻は顔をあげた。彼は、妻の髪を優しく梳いた。昨夜、疲れて眠ってしまった妻のきつく結われた髪を彼は手ずから解いてやった。ひとつひとつピンを抜いて、リボンを解いて。
ーー髪が解かれていることに妻は多分、気づいていない。
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彼は、初め驚き、思い直し、また驚いていた。妻は、無我夢中になり、呆然として、また無我夢中になって、ー今は涙を流している。
ー私の心を陛下のものにしとうございますー
妻は、彼を恨んでいる、とも言ったが、確かに、その様にも言ったのだ。
おそらく、妻の言葉は彼女の本心だと思う。それは、見ていれば分かった。
やがて、不審を押しのけてじわじわと喜びが湧いてきた。それが、全身に広がってー彼は興奮してぼうっとしつつ涙を流し続けている妻の目をしっかりと捉えた。
「そちが愛しい」
自然とその言葉が出た。心は、澄み切っている。
「陛下...」
妻は、小さくそう呟くと、改めて涙を流した。しっかりとした理由を持った涙を。
「王妃」
彼は静かに身を起こし、妻を抱き起こした。そして、抱き寄せ、しっかりと抱いた。
妻の白魚のようなふっくらとしているのに、どこかすらりとした指が彼の肩を掴んだ。
ーー朝陽が彼らの豪奢な天蓋の隙間からさしこんでいた。




