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獅子は芍薬を手に  作者: ゆき
2. 覚悟
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10. 初めての朝 ピアン

ーわたくしは王によって摘み取られたー


朝、目が覚めて、自身を抱く腕に驚いて。目をあげると王の顔があった。



ーー昨日、夜も更けかけて来た頃


彼女は美しく着飾った自身を写す鏡の前で必死に微笑みを作っていた。

侍女たちをーマリアを心配させない為に。 そう。マリアは侯爵令嬢でありながら、異国の地まで彼女に付いて来てくれたのだ。それは、彼女をそれに値する、従うべき主と信じているから。


ー主として、仕える者を心配させてはならないー


これは、主としての務め。

彼女からマリアへの感謝の気持ちがあるのなら尚更のこと。




王は身体つきこそ武骨だが、その少ない言葉の端々、身のこなし、全てに王族にしかあり得ない典雅さ、教養高さが滲み出ている。それに、武骨な身体つきは、つまりは鍛えられた体躯と言うこと。優れた王として、男として不可欠なものだ。


容貌もとても端正で、さらに気品が匂い立っている。彼女には分かる。

なぜならー彼女も王女、女王だからーーだったから。



ー良い夫君ではないの



ーーでも。王のその、秀でた武勇で、教養に裏打ちされた頭の良さで、威厳でー私の祖国は滅ぼされた。


ーそして、私はその男によって、否、祖国の滅亡と引き換えに東の大国、ミリオーテの王妃となった。

いや、違うわ。私の選択は必ずや祖国に幸をもたらすー


王妃として、よく夫君を支え、世継ぎを産むことが彼女の務めであることはわかっている。それが、祖国の為になることでもありーそして、女王の務めでもあることも。

でも、それだけでは拭えない思いもあった。


ー恨み、なのかしら。分からないわ。





彼女が恨んでいないはずはない。それにも関わらず何故恨みだと断言できないのかー?


それは、きっと、彼女の中に自分でも気づかぬうちにー他の強い感情が芽生えているから、だろう。





恨み、なの?その答えをさがして顔をあげると王の目があった。



ーあ、いつの間に?



彼女が驚いていると王の手が優しく彼女の髪を梳きはじめた。


それでふと、昨夜のことを思い出した。


ーあ。



そう、彼女は昨夜、王によって圧倒的に、また、優しく典雅にー摘み取られたのだ。そして、彼女はその王の身体の下で、腕の中で、しどけなく乱れた。


ーあ、


一気に羞恥で頰が染まった。慌てて目を伏せようとすると、見透かしたように王の両手がそっと彼女の顔を包み、あげさせた。彼女は、何か強い力を感じてーそして、少しも抵抗しようともせずにー素直に顔をあげた。


王の目がまっすぐに彼女の目を捉えている。


彼女は、その目から逃れることができない。否、逃げようとも思わなかった。





「そちは、余を恨むか?」


「.........」


ーー分からない。恨んではいる、と思う。でもー


「よい。恨むなら恨みなさいー」


彼女に王に誤解されたくない、きちんと理解されたい、という気持ちが洪水のようにどっと溢れた。

そこには、女王もー何もない。

そして気づいたら口を開いていた。



「陛下。私は、陛下をお恨み申しあげているのやもしれません。いいえ、きっと、しています。でも、しかしながら、私はーわたくしは、わたくしの心は陛下のもの。あ、そうではなくてーそう、なりとうございます。あ、」


ーえ?私は何を


呆然としてしまった。


ーー王も、驚きに目を見開いている。



「それは、女王としてー祖国の為のことなのか?」



それを聞いて、彼女は再び無我夢中になっていた。


「そ、そうではなくてー今は、祖国も女王も、何も、ございませぬ。わたくしはただー」


理由もなく、突然涙がどっと溢れた。とめどもなく、一気に。


王は、いよいよ驚いて彼女をじっと見ていた。





ーそして、しばらく経ってから、王は口を開いた。






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