第63話 タウロス前線基地戦
数日が過ぎた。
俺は蹄人戦に備えて資材の確保、ならびに訓練に追われた。
竜人が加わったことで新たな戦術も多数考案される。
もっとも、アルフォンス師匠は相変わらず直感による戦闘をやめようとはしない。
シャーリーでさえ戦術の組み込みを試すぐらいはしてるというのに……。
巨人達は賊妖精たちにしごかれたおかげで動きが良くなっていた。
魔物もいくらか討伐したというので次の戦には出てもらおうと考えている。
人狼、海豹人、熊人達も気候に完全に慣れたため、活発さが増している。
俺やエリザたち、更に種族の長などの幹部たちは訓練や調達に加え、頻繁に会議を行っていた。
そもそも人員の状態や資材の在庫の報告を得て、訓練や調達の方向性を決めるため最も大事でもあった。
俺のいた世界では色々な事が会議ばっかりで現実を見ないでグダグダになっていたため、館に来た当初は会議の重要性を疎かにして行き当たりばったりにしようとしたらエリザに滅茶苦茶怒られたよなあ。
もちろん現場を見ての判断は大事だが方向性を決めると物事がスムーズに進むため、会議の重要性はよく理解してるつもりだ。
その会議といえばエリザとグレースの衝突が絶えないのが悩みの種だった。
グレースの思惑が分かった以上、少しは和解するのかなと思ってたら本当に相性が悪いみたいで意見が正反対なのだ。
俺は頭領として議長のはずなのに、彼女らの仲裁に入る緩衝材と化していた。
なんとか議題の方向性がまとまっても二人の毒舌合戦が続くのは非常にやめてほしい。
そしてレリーチェがエリザ派で彼女に肩入れに回り、グレースと深い仲なのが俺しか居ないから俺が必然的にグレースのフォローに入るしかなくなる。
するとエリザが嫉妬の炎を燃やして争いがヒートアップする。会議が終わると他のメンバーそそくさと逃げ出すし、助けてくれよ……。
俺が一度貴重な時間を無駄にしていると怒ったら、二人して俺がハッキリ正妻を決めないのが悪いと一致団結された。しかもアンナまでそれに同意するから俺が謝る他ない状態である。
訓練でじゃれついてくるシャーリーや、目を輝かせながら魔物相手の呪歌の結果を話してくるイリュリアに癒されてなかったらどうなってたことやら。
そうして二人を可愛すぎると三人が嫉妬する……。
どうすりゃいいんだ。
忙しい日々を繰り返しているうちにタウロス族から使者がやってきた。馬人だ。
テンプレ通りの姿で馬の首の部分から上半身が生えている。
タウロス族は野蛮人だと言われるが、貴族階級の山羊人が支配しているためこのくらいの常識は弁えているという。
ボギーたちが警戒をもって包囲している中、俺は使者に向かって突き進む。
「簡潔に告げる、タウロス族の軍門に下れ」
ほんとに簡潔だな、オイ!
そしてボギー達が一斉に殺意を露にした。ただでさえ降伏なぞしないが、条件も無けりゃそらそうだ。
「断る」
俺も簡潔に答えてやると、そこらじゅうから声援が上がる。
ボギーたちよ、お前達の気持ちを代弁したぞ!
「後悔するんだな」
そう言い捨ててケンタウロスは元来た道を帰っていく。
追撃するかと聞かれたが止めさせておく。どのみち帰らなければ向こうも気づくだろうが、宣戦布告を届けさせてやろう。
三日後。
こちらから仕掛けるべく、奴らへの館へ出発することにする。
婚約者ズ以外にはボギーにライカンやベルン、伝令役にハーピーを連れて行く。
他は訓練と魔物との実戦を続けさせる。特にドラゴニュートたちは一緒に竜の島まで戻って色々と連れて帰ってきたしな。
今回はアルフォンス師匠にレリーチェも一緒だ。
「久々の戦であるなあ」
嬉しそうに槍をぶんぶん振り回すのはやめてほしい、危ない。
レリーチェはほぼつきっきりでエリザの世話をしている。
グレースに近づこうともしないので俺の悩みが増えていく一方だ。
「アンナ、メリー、危ない役柄を押し付けてスマン」
アンナとメリーのコンビには斥候役をしてもらうので先に謝っておく。
俺だってやらせたい訳じゃないが、一流の斥候技術を使わせず負けたら後悔するだろう。
「大丈夫パパ、メリーがんばるから!!」
「いつも危ない目に遭わせられてるから今更よ……でもそうね」
アンナが急に考え込み、なんだか嫌な汗が流れる。
「か、勝った後に逢引してくれたら許してあげるわ」
アンナの交換条件を聞きつけ他四人の視線が一気に俺を射抜く。
「メリーも!」
「クロウあたしも二人っきりで特訓したいぞ!!」
「クロウさん、夜での逢引期待してます」
「クロウ様は私を除け者にしないわよね?」
「……私はきちんと留守番するから帰ってきたら歌聞いて」
一人が何か言うとこうなるのだ。パズルゲームの連鎖のごとく、じゃあ私も! となる。
頭を抱えながらスケジュールを考える。戦後処理とか迅速にやらないと時間がとれないぞ。
「分かったから喧嘩はやめてくれ」
俺が考え込んでるうちにわーわーぎゃーぎゃー騒いでる婚約者を宥める。
「クロウ様、エリザ様を最優先に」
「レリーチェも火に油注ぐのやめて」
騒ぎを収め出発となる。今生の別れのごとくイリュリアがハグしてきたから婚約者ズの機嫌が悪い。
そのせいか場車内でエリザとグレースがそれぞれの片腕にひっついてて狭い。
エリザは大胆に接してくるし、グレースはまだ男慣れしてないから緊張が伝わってきて心臓の鼓動が早くなる。
シャーリーはお馬鹿なので周りの偵察を快く引き受けてくれたが、御者で俺とくっつけれないアンナの機嫌がやばい。
最優先でデートしてあげないとそのうちキレそうだ。
「あー、折角広い車内なんだからもうちょっと離れようか」
「だそうですよ魔女」
「あなたが離れなさいよ、鬼女」
アンナのイライラゲージが溜まらないうちに引き離そうと思ったら恒例の喧嘩が始まってしまった。
アルヴィナみたく大人しくしてられないのだろうか。
「あら、あなたの緊張が伝わってクロウさんは不快なはずだわ」
「そ、そんなことないわ! クロウ様は私を受け入れてくれるって言ったもの!!」
ここ数日、グレースを迎えてからか婚約者同士の争いが増えたよなあ。
「クロウさん!」「クロウ様!」
「……二人とも一旦離れようか」
おとなしく引き下がってくれたけど、これはこれで二人の機嫌が悪くなるのだ。
結局道中はエリザとグレースのご機嫌取りで終わってしまった。
タウロスたちの集落付近の森に前線基地を作る。
鉱妖精たちに任せるともったいない出来なので彼らは留守番、ベルンたちが簡素なものを建てていく。
撤退は考えてないが、それでも退き際があるかもしれないため経路は念のため確保しておく。
前線基地の準備を進める中、アンナとメリーが斥候から帰ってきた。
難しそうな顔をしてるあたり、面白くないことがあったことを物語っている。
「何があった?」
「向こうも前線基地を築き上げてるわ。落とすのめんどくさいわよ」
なるほど、アンナとしては今の内に速攻たたみかけて沈めときたいのだろう。
「敵の数は」
「牛人が三十ほど」
ミノタウロスは頭に牛の角を生やし、下半身が牛の種族。
戦士にぴったりな筋肉を持っており、前衛での破壊力と耐久力は凄まじいと聞いている。
ベルンとライカン一人ずつ相手してようやく五分と考えると分が悪い。
が、人数は揃っているため何とかなりそうでもある。
「シンフィー、どう思う」
「無理なく行くには厄介な数かと」
今回アンガートゥールと共に来ている種族隊長シンフィーに問いかけるとやはり懸念があるとのこと。
「ボギーたちに破壊工作させるか」
「久々に腕が鳴るわね」
俺の一言にアンナが嬉しそうに返す。マックスは館残留、アンナとジャックの兄妹にはボギーを率いてもらう。
調伏したオルトロスも一緒だ。
という訳で敵の前線基地が完成する前に占領を目指すことになった。
俺は指揮官として後方にいろと言われたので、エリザとグレースと共に控えている。
敵の集落を眺めていると煙があがった。ボギーたちが火を点けたのだ。
「現在ボギー数名がミノタウロスと戦闘中。負傷者無し」
ハーピーの伝令を聞く限り上手くいってるようだ。
ベルンとライカンも押し寄せているだろうし、思ったより上手くいきそうだ――
「伝令! 強力なミノタウロスに阻まれていて占領不可!」
と思ったらなにやら強い奴が現れたらしい。俺は立ち上がる。
「クロウさん!」
「俺が行かなくてどうする、エリザはグレースとここで指示を」
そう言って向かおうとするとグレースが両手で手を握ってきた。
「クロウ様、必ず無事に戻ってきて下さい」
「お、おう」
目に涙を溜めてうるうると懇願される。こりゃ何が何でもノーダメ目指さなきゃな。
日に日に可愛くなるグレースに癒されたのもつかの間、俺が離れるとエリザとの喧嘩が聞こえてくる。
うん、グレースも強かで尻に敷かれる未来しか見えねえわ。
何人かのミノタウロスは息の根を止められていたが、俺の指示通り降伏者は縛られて隅に寄せられていた。
帝国に攻め入るのに人数が足りないからな、ここでも数人は確保しておきたいところだ。
問題のミノタウロスはすぐにどいつか分かった。他より一回り大きく、囲んだライカンたちが手出しできてないのだ。
「あぁ!? 攻め入っておいて終わりか貴様ら!!」
巨大な両斧を振り回し、回避に専念せざるを得ない味方たち。
あれじゃあ体力の続く限り睨み合いになる、そうしたら恐らく館へ向かった伝令の言付けにより向こうに防衛線が築かれてしまうだろう。
時間との勝負なのだ、これは。
「俺が相手になってやる」
〈竜鱗の鎧殻〉を展開した俺に目を見張るミノタウロス。
だがそれも一瞬。どうやら見た目だけと判断されたらしい。
「お笑い種だなあ! ヒューマンが俺の相手とは!!」
その発言、後悔させてやろう。
俺は踏み込んだ足から力を解放し、一気に接近する。
相手が再び目を見張っている内に峰打ちを狙い、勇者の剣を振るう。
ミノタウロスの首に思いっきり当てて気絶させた。
一撃で崩れ去ったミノタウロスを見て皆がぽかーんとしていたが、喝采が起こる。
未だ抵抗を続けていたミノタウロスたちも、味方の中で強い者が倒れたと知り降伏者が続出した。
しかし俺が出ないと決着が決まらないというのも考え物である。
帝国との戦いはもっと厳しくなるだろう、この戦いが終わったら彼らを直接指導するのも悪くないかもしれない。
タウロスの前線基地を占領させながら俺は伝令の報告を待つことにした。




