第41話 誘惑の魔女
脳からインスピレーションが逆流する……ウワアアアアアアアアアアア!!!
早く書き上がったので投稿します。
今後も3日間隔であげられるかは分かりません。
茨がそこら中に蔓延る様は、有刺鉄線がめちゃくちゃに張り巡らされた立ち入り禁止の場所を思わせた。
身のこなしが軽いアンナが先導し、俺がトゲで服を破かないようエリザをエスコートする。
どさくさに紛れてスケベタッチしたら思いっきり手首をつねられた、痛い。
シャーリーは気にせず進むせいでところどころ服が破けてる、そんな彼女をじろじろ見てたらメリーにジト目で見られた。
アルヴィナは鉄球メイスで叩き潰しながら進んでる。ワイルドだ。
「魔物はともかく、生き物が一切いないわ」
アンナが半眼になりながら遠くを見通し、呟く。
それに対し答えるのはシャーリーだ。
「確かに匂いも気配もしない」
裏では仲が悪いというが、この二人は斥候で組ませると中々いい仕事するんだよな。
エリザに二人の仲を相談したら俺が不甲斐ないせいだと怒られてしまった、正妻を早く決めろというが俺は等しく愛したいんだよなあ……。
彼女らは自分が一番になりたいと思っているだろうし、今後王国の貴族と交流するならきちんと決めておいた方がいいのは分かるけどさ。
「でも森妖精の力を感じるね」
メリーがぽつりと言葉を零す。
彼女は闇の精霊であるシェイドだ。
エルフは媒体で姿をとってない精霊とも交流することができ、友として扱う。
ゆえに精霊であるメリーも彼らの力を感じることが出来るのだろう。
尤もエルフたちはシェイドとは必要以上に接触しないらしいが。
と、警戒しながら歩いているとアルヴィナが俯き加減の顔をがばっと急にあげた。
そこら中に這っている茨が蛇のように動きながらこちらに迫ってくるではないか!!
「接敵!!正体不明、茨すべてが敵の可能性有り!!」
俺の号令を聞き、各自撃破に走る。
俺の勇者の剣、シャーリーの双剣、アンナの鉈がバッサバサと切り落としていく。
メリーとエリザは影の魔法と氷の魔術で動きを鈍らせてくれている。
アルヴィナは液が巻き散るほど茨を叩き潰して応戦。
襲い掛かってくる茨がようやくいなくなる。
しかしキノコと違ってシャーリーが気づかない以上、魔物の可能性は低そうだ。
「この茨……」
「エリザ、何か分かったのか?」
エリザは神妙な顔で茨を観察しながら「いやまさか……」などと呟いている。
冷静沈着な彼女が動揺するのは割と俺関連や魔獣なんかで見られるが、それ以外では初めてだ。
「これは――ドルイド魔法かもしれません」
その一言で全員が固まる。
魔法。
現在、ヒューマンを始めとする人々は精霊に魔法を代行してもらう魔術しか使えない。
かつての人々が使えたという超常は現在勇者である俺ととある種族にしか使えない。
――高貴なる森精霊。
木々をこよなく愛するエルフたちの安息地オッドミームの森の中心にそびえ立つという巨大な樹木、世界樹と呼ばれる霊木を守護することで彼らはドルイド魔法と呼ばれる、特定の植物を自在に動かす魔法が使えるという。
かの森の木々はハイエルフのドルイド魔法によりまるで根が足のように動き出すため、一時期は樹人という魔物だと思われていたことすらある。
茨の森に封印されている〈誘惑の魔女〉。
彼女は茨を操るハイエルフに封印された可能性が高いということだ。
「〈誘惑の魔女〉は私が生まれる前の存在ですし、王国と帝国と魔王での三つ巴の戦いで世間は混乱していましたから詳しいことは分かりませんが……」
「じゃあ俺らは封印されし魔女を呼び覚ます悪者ってことか」
侵入者を排除せんと伸びる茨はそういうことなのだろう。
しかし茨のみの森を作るほどの魔法など尋常ではないな。
奥に進む。おそらく中心地と思われる場所に異様な光景が広がっていた。
それは一言でいうなら緑色のバリアーだった。
「結界系の魔術……水と地の二重属性……」
メリーが手を当てながらマナの構成を読み取る。
「二重属性魔術……〈地水の結界〉」
メリーの言葉にエリザが魔術の名前を口にする。
二重属性とはある程度の法則がある。
火と水、風と地の二重属性持ちは存在しない、これは互いの属性が相反するからだと言われている。
闇と光の二重属性持ちのジャスティン先生とハイド師匠に関しては二重人格もあるし、闇と光属性がイマイチよく分かっていない上に彼ら――いや歴史上彼だけが闇と光持ちだったため異端者とも呼ばれたらしい。
さてそんな中で水と地の二重属性を操り、恐らくこの結界で魔女を封印したハイエルフ。
よっぽど稀有な存在だったに違いない。
俺らは畏敬の念を感じながらも結界の解除の仕方を模索する。
シャーリーがとりあえずぶん殴ったけど拳を痛めただけだった、涙目の彼女の頭を撫でながらどうするべきか考える。
ふと思い出すはあの狂戦士と化した熊人族長すら貫いた勇者の剣。
この剣ならばいけるのではないだろうか。
周りに勇者の剣で斬ってみることを伝え、両手で女神と武器神の祝福を受けた――ようには見えない漆黒の剣を振り下ろす。
ガギィン!!
……駄目か、勇者の剣ですら弾くなんて。
「パパ、ちょっと結界が揺らいだよ!!」
別の手を思案しようと思った矢先にメリーにそう教えられる。
只勇者の剣で叩き斬ろうにも、結界を揺るがすだけ。
ならば――
「全員離れてろ」
「……何するつもりなの?」
「クロウさん、お願いですから大事にはさせないでくださいね?」
「パパーやっちゃえー!」
「そうだそうだ! クロウやっちまえ!」
三者三様――四人だけど――の反応を受けながら俺は自身の内に語り掛ける。
――力を貸せ、と。
そう念じた途端、右の肩口からあの黒い腕が生えてきた。
「クロウ!?」
「クロウさんいけません!!」
「おいクロウ、聞いてねーぞ!?」
そりゃ話したら絶対止めただろうからな。
この力を貸すアイツの正体を明かすために来たのに力を借りていては本末転倒な気もするが、かといって帝国や蹄人と事を構える前に三種族と話し合うのに試行錯誤している暇はない。
俺としても使いたくない代物だが今は時間が惜しい。
黒い右手はやすやすと結界を突き破った。
まるでガラスのように右手を中心にヒビ割れていき崩壊。
右腕はまるでカタツムリのように縮んで俺の右肩へ戻っていき、再び肩から先は無い状態に。
ああ、痛くて冷や汗が出てきた。
「おう、なんとか破――」
「クロウの馬鹿!!」
アンナがぽろぽろと涙を流しながら怒る。
エリザも眉を潜めて説教を始める。
「クロウさん、その黒い腕や泥が危険なものか分からないから此処に来たのでしょう?
もし何かあったら私たちを置いていく気ですか?」
……そうだった。
俺は勇者軍の頭領だし、未来の妻が――愛する女が三人に娘同然の存在までいる。
シャーリーに無茶するなと言っておいて自分はこれだ。
人の事を言えないじゃないか。
「悪い、軽率だった」
そう俺が謝るとアンナが抱き着いてきた。
「ホント私馬鹿よね……こんな危険を顧みずに惚れるなんて。
……そこがいいのかもしれないって思うあたり私も賊妖精の女だわ」
アンナが顔を真っ赤にしながら想いを告げてくる。
俺も気恥ずかしくなって僅かに赤面するのを感じた。
「あっ、アンナずるい!! メリーも!!」
「あー!! アタシもアタシも!!」
メリーとシャーリーまで抱き着いてくる。
エリザはそれを見やってクスクスと笑った後、彼女も俺に抱きついてくる。
「心配させた分、血を沢山吸わせて下さいね」
耳元で蠱惑的な声色囁かれる。
彼女曰く、俺のことを好きになればなるほど俺の血が美味しく感じられるらしい。
吸血鬼の愛情の確かめ合いは吸血だとか。……ホントなのかな。
アルヴィナは少し離れて俺らを見守っている。
俺としては彼女が気になって仕方ないのだが――もちろん日本人顔だからですよ?顔が美人だからじゃないですよ?
と、白い人形の彼女がピクリと動いた気がした。
「では私も♪」
五人目が俺の背中に抱き着いてくる。
しかも伝わってくる柔らかな二つの感触は山脈を思わせる巨大さだった。
デカい。
俺の知らない胸が俺の背中に押し付けられている。
「あ、アンタっ!!」
「い、いつの間にいたんだよ!?」
アンナとシャーリーが俺から離れ身構える。
俺はそっと後ろを振り向いた。
彼女は浅黒い肌をしており、それと対照的に髪は白銀でポニーテールに束ねている。
瞳は吸い込まれそうな赤紫色で、唇が艶やかに濡れている。
吊目とまではいかない目が細めの美人だ、耳は先が尖っていてボギーなどより長い。
プロポーションはセクシー女優を思わせる、いわゆるぼんきゅっぼん。
着ている紫色の服はそんな身体のラインをくっきり浮かばせ、胸元や太ももが露わで扇情的だ。丈の短いミニスカローブとでも呼ぶべきか。
しかも胸の谷間に黒子があってエロい。歩く十八禁とでも言うべき美人だ。
野郎共が幻想してやまないダークエルフの理想像が俺に抱きついている。
エリザはそっと俺から離れて静かに呟く。
「あなたが〈誘惑の魔女〉ですね?」
エリザの剣呑な目とは対照的に、愉快そうに目を輝かせて彼女は答える。
「そうね、そう呼ばれているわ。でもちゃんと名前で呼んでほしいかな、グ・レ・ー・スって♪」
「おぅわ!?」
何故か俺の耳に自分の名前を囁いた、しかもふーって息吹くし。ぞわぞわした。
「ふふっ、可愛い人♪」
そんな様子を見ていたエリザが一瞬無表情になった――最近反応がアンナさんと逆転してないっすかね。
「クロウから離れなさい!!」
「そーだそーだ!!」
アンナとシャーリーが魔女グレースを批難する。
そりゃ婚約者である俺に初対面の女が抱き着いていたら、三人ともムカつくわな。
背中の感触が惜しいが俺から離れるよう頼もう。
「さて、私の封印を解いた貴方は何が目的かしら?」
と思ったら彼女の方から離れ――たけど背中を人差し指でついーっとなぞってきた。
やべえ、三人の怒りのボルテージがどんどん上がっていくぅ!!
「森妖精の民に生まれし闇の堕とし子よ、〈深淵の怪物〉について我が主は聞きたがっている」
凛とした、無機質な声が足元からして俺やアンナ、エリザ、シャーリー、そしてグレースと名乗った魔女まで固まる。
声の主はあの天真爛漫なメリーだった。
さっきから一言も喋っていないと思ってたら、突如として普段の雰囲気を一切振り払い言葉を口にしたのである。
「……闇の精霊シェイドね。分かったわ、でもその前に」
その前に何だ?
何を要求するつもりなんだ!?
「あなたたちが何者かを教えてくれないかしら」
拍子抜けする要求を受け、俺が勇者であることや帝国に対抗する勇者軍、そして婚約者三人のことを話した。
婚約者の話をしたらグレースは「じゃあ私は四人目に立候補するわ♪」と言いながら腕に絡みついてきた。
エリザから冷たい空気が漂って来て怖い、どうやら彼女を良く思っていないようだ。
「闇の勇者に闇の堕とし子、運命だと思わない? クロウ様」
胸板を撫でまわされて思わず背筋を伸ばしてしまう。
そんな俺を見た女たちからの評価がどんどん下がっているのを感じる。
「さっさと本題に入りましょう」
「あら嫉妬?
鬼嫁さんが怖いから話しましょうか、〈深淵の怪物〉を」
エリザの無機質な声色に対し挑発するグレース。
やめてくれ、後で俺が愚痴を聞くはめになるんだぞ。
「と言ってもエルフにも詳しくは伝わってはないわ。
深淵には怪物がいる、だから深淵を見てはならない。怪物に狙われるから。
だからエルフは闇に必要以上の接触はしないわ、例え精霊でもね。
ゆえに闇の堕とし子たる私はオッドミームの森を追放されたの」
グレースはメリーをチラ見しながら短くも説明してくれた。
……それよりも気になるのは――
「“深淵を覗く時、深淵もまた等しくお前を見返すのだ”」
「あらよく知ってるわねクロウ様。大体そんな風に語り継がれてきたわ」
……知らないはずがないんだよなあ。
「俺の故郷の哲学者の有名な言葉だ、誰でも――とまでは言わないけど認知度は高いぞ」
グレースがいるので、違う世界のことをボカして俺はそう言う。
「あら、やっぱり運命を感じるわ。
私を追放したあんなところは大っ嫌いだけど、クロウ様と共通点が持てたのは感謝しなきゃね♪」
いやだからひっつくのはやめてください、特にエリザからの冷気がヤバいんです。
……胸の感触が惜しいけど。
「私たちはお暇しましょう。情報のお礼にあなたを再び封印などはしません。
ではさようなら」
エリザはそう告げると要件は済んだとばかり、俺の手を引っ張ってスタスタ歩き始めた。
すると魔女はニヤリと笑って口を開いた。
「あら、私もクロウ様についていくわよ」
――その一言を聞いたエリザの顔はものすごく怖かった。
エ ロ イ ン 登 場




