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第4話 闇の精霊

立ち上がった平面の自分の影を見て呆然とする。

摩訶不思議なことにはもう驚かないつもりだったが、つもりにすぎなかったようだ。

咄嗟に頭をよぎったのは都市伝説にもなったドッペルゲンガー。

数多あるゲームでは自分そっくりだったり、人に変身できたりするモンスターだった。

だがその黒い人影はさらに見た目を変化させた。



色彩は白黒モノクロ

目つきは悪く、失礼な表現をするなら幸薄そうな顔。



うん、俺の顔だ。

俺の影はモノクロな俺そっくりな姿に変わっていた。


「お疲れ様です、勇者様。此度、補助をさせていただく闇の精霊シェイドと申します。お見知りおきを」


死神が言っていたサポート役の精霊がお出ましってことか。


「俺は黒森朝太だ、よろしくな」


手を差し伸べ互いに握手する。

シェイドは朗らかな笑顔を浮かべていた。

自分の影と握手するのってなんか奇妙な感覚だな。

しかし俺と同じ顔が俺らしくない言動をとるとなんだかぞわぞわする。

俺だって漫画読んでて笑ったりはするが、似合わない自分の笑顔を見ているのはなんか嫌だ。


「シェイド、その姿なんとかならないか。影武者を演じるのには丁度良さそうだが普段からはちょっと遠慮してほしい」

「主であるクロモリ・アスタ様が言うなら喜んで。人の姿なら自由にとれますよ、見ての通り白黒ですがね」

「一緒に魔王を倒す仲間なんだから敬語もやめていいよ、めんどくさい」


自分が敬語を使うのはまだしも他人から言われるのはどうにも堅苦しくて慣れない。

あと俺の名前が言いづらいのかぎこちない。

シェイドは頷き形を変える。

モノクロな俺の姿は黒い影に戻り、まるで粘土をこねるように変形していく。

やがてそれは相変わらずモノクロで、しかし見た目はゴスロリ服を着た少女の形に固定された。



髪はセミロングのストレート、


顔はお人形のように可愛らしく、


後頭部にはちょこんと添えられるようにリボンが結ばれている。



「これでいい?パパ」


少女になったシェイドは向日葵ひまわりのような笑顔を浮かべる。

いやいやいやいや。


「どうしてその姿になったのかも聞きたいけど、なんで呼び方がパパなんだ」

「気に入ってもらえるかと思って……」


ダメかな、と上目遣いでこちらを見つめる影の少女。

死ぬ前の世界では怖い人と勘違いされて逃げられ、子供に慣れていない俺は戸惑いを隠せない。

あと可愛らしい仕草にドギマギしてしまった。

特殊な趣味の人ではない、決して。


「いや、いいよそれで……俺の名前も呼びづらそうだったし」


結局折れました。


「パパそれなんだけど、勇者様は転生するとこの世界の名前が必要になるの」


死神ヘルグリムから聞いていない案件がまた出てきた。

きっとこの先ボロボロ出てくるんだろうな、そんな気がしてきた...。


「うーん、新しい人生なんだから新しい名前もいるか。んじゃクロウなんてどうだ」


クロウは俺がゲームの操作キャラにつけていた名前だ。

苗字に音が近いのと、クロウって黒くて共通点があるからつけた安易な発想。


「わたしも勇者様の従者として具現化したからには新しい名前がほしいな」

「具現化?」

「精霊ってみんな司る属性の物で姿をとるの。サラマンダーなら火、ウンディーネなら水、シルフなら風、ノームなら土。

私のようなシェイドたちは影ね。勇者様のお付きとなった精霊は具現化、勇者様の魔力でヒトに近い姿をとれるようになるの」


ああ、だから最初は真っ黒の影だったのがモノクロ人間に変化したのか。


「なるほどねえ、まだまだいっぱい勉強することがありそうだ。んで名前と...」


精霊の名前を考えていると、じっと見つめてくる。

愛らしい少女の顔を見て咄嗟に思いついたのは、


「メリー」


童謡の羊をつれた少女や都市伝説の人形の名前。

安易だが、可愛らしい少女の姿をした闇の精霊にぴったりな可愛らしい名前だと思う。

……ネーミングセンスが欲しい。


メリーは名前を気に入ったのか嬉しそうな笑顔をする。

眩しい、ちょっと前まで生気の抜けた顔の同僚たちに囲まれていた俺には眩しい笑顔だ。


「メリー、早速だけどさっき出会った奴らについて教えてほしい」


ゾンビはたまたま推測が当たったようだが、それが毎回当たるとは限らない。

予想は予想に過ぎず、現実とは異なる場合の方が多いのだ。


不死者アンデッドたちのこと?名前ぐらいしか分からないけど」


アンデッド。

ゲーマーにとって馴染み深い名称だ。

弱点や攻略法は自分で探すか、この世界の住人に聞くしかないな。


「最初にいた腐った肉はレムルスで、さっきのはゾンビだよ」


動く死体はゾンビで合ってたらしいが、腐った肉の名前はレムルスと言うらしい。


「名称が分かっただけでも助かるよ、ありがとう」

「えへへ。あ、さっきは手伝ったけどメリーの補助なしでも戦るようになってねパパ」


どうやら剣に慣れてない俺のためにある程度肉体をコントロールしてくれていたようだ。

そのうち動きを覚えたら勝手にコントロールするのはやめるそうだ。






メリーという心強いアシスタントを得た俺は先へ進む。

ゾンビやレムルスに混じってカサカサの木乃伊みいらが現れた。

ゾンビやレムルスは動きが遅いので反応できるが、メリー曰く木乃伊マミーと呼ばれるそいつは違った。

動きが早いのである。

生きている人間の走る速度といったところだが俺にとっては十分脅威だ。

メリーがコントロールしてくれなかったら今頃首を絞められているだろう。




マミーに慣れたと思ったらもっとやばい奴が現れた。

骸骨兵スケルトン

ゲームだと雑魚キャラにすぎないソレは素早く近づき、手に持った武器でこちらを攻撃してきた。

やはり似通っていてもゲームとこの世界の法則は違う。

参考にするのはやめたほうがいい。

俺にとって非現実的な光景が広がっていようと、起きていることは現実である。

気持ちを切り替えてメリーが動かす肉体の動きを必死に覚えていく。

剣の振り方、攻撃の受け方、かわし方、重心の位置、etc。

生前でもここまで必死にならなかった、だってこんなにも死が迫ってくるのは鉄骨にペチャンコにされ死んだ時だけだったから。

持ち前のやる気の無さなんて関係なく、生存のため実戦で動きを頭に叩き込む。

スケルトンは個体によって剣、槍、斧、槌と武器が違う他、流派ともいえる武器の扱い方が違うのだ。

槍スケルトンに慣れたと思ったら斧、近接武器全般に慣れたと思ったら盾持ち、挙句の果てに弓兵まで出てきた。

スケルトンを倒すには頭蓋骨を粉々に砕かなければいけなく、また飛んでくる矢を躱すのに戦いの最中でも音に気を付けなければいけなかった。

自分の意思で飛来する矢を避け、目の前のスケルトンの剣をいなし、頭蓋骨に勇者の剣を叩き込む。

剣スケルトンが崩れ倒れるのを見届けることなく、弓スケルトンの下へ駆け頭蓋骨を力を入れて叩く。



通路には頭蓋骨を砕かれたスケルトンの骨が散乱していた。

身体を酷使したせいか非常に疲れたが、動きは様になってきていた。


「誰だよスケルトンが雑魚って言ったやつ」


そう愚痴をこぼした途端、グギュルルルルと腹が鳴った。

先延ばしにしていた問題の警鐘アラートが遂に聞こえてしまった。




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