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int.6 生命神と精霊の集い

短いです。


あと、とても今更なのですがコメントでの感想、誤字脱字や設定の矛盾の指摘など大歓迎です。


ブラドの館で祝賀会が開かれている夜、森の中で事は密かに進行していた。




クロウがいつの日か返り血を洗うために寄った泉。

彼とマックスにより河狸アーヴァンクが倒されてから未だに新たな主が住み着いていなかったのは、これから来る者にとって好都合だった。


水底からこぽこぽと舞い上がる気泡。

湧き水によりゆらゆら揺らぐ水面。


クロウ――黒森朝太の世界なら観光名所になっていそうな、清涼な場所だ。




そんな泉にひらひらと飛んでくるものがいた。



蝶だ。

エメラルドグリーンの美しい蝶。

まさしく宝石の輝きを纏いながらメリーの前に現れたのだった。

そして蝶が飛来して変化が起きた。




音が消えた。



水面の揺らぎが止まった。



気泡が出てこなくなった。




まるで世界から切り取られたかのように、時間が止まったかのように、泉の周辺が静まり返っていた。

蝶の来訪により、泉の周辺は聖域と化していた。



やがて緑の蝶は光に包まれ姿を変えていく。

蝶の翅はそのまま、胴体は人型へ。

やがて蝶の翅も背中へ消え、身体は美しい曲線を描く。

光が消え、現れたのは簡素な服に身を包み、頭部には木の枝を編んだ冠が鎮座していた。




命と自然を司る神、生命神プシューケである。




『やっぱり化身と違ってそのままの姿を具現化するのは肩が凝るわね』



プシューケは伸びをする。

伸ばされた彼女の身体は無駄がなく、まるで猫のようにしなやかで美しい。

彼女の揺れる淡い金色の髪は艶やかで、まるで絹のように美しい。

彼女の声は明るく元気そうで、まるで小鳥の囀りのように美しい。



『さて精霊の子らよ、私に世界の様子を教えてちょうだい』



プシューケの声が歌のように響くと静止していた泉の水が動き始めた。

そして、それはいくつもの小さな裸の少女のような形になる。



「ウンディーネたちが一番乗りね。まあ場所が場所なのもあるでしょうけど」


水の精霊ウンディーネ。

水のマナを司る彼女たちは水を媒介とすることで強い意思を持つことが出来、また具現化とまではいかないが仮の姿をとることが出来る。

そして各々がごぼごぼと音を立て始めた。


「――あら、勇者様は元気そうで何よりだわ」


プシューケはウンディーネたちから話を聞いて微笑む。

クロウがアーヴァンクを倒した様子を聞いたのだ。



プシューケがウンディーネと他愛無い話を始めてしばらくして、辺りの土が盛り上がり始める。

いくつもの小さな土の山はまるで子供が作った人形の形となった。


「ノームたちはすぐ近くに居たのに、ウンディーネより遅く相変わらずのんびり屋さんね」


地の精霊ノーム。

地のマナを司る彼らは土を媒介とする。

自らの仮の身体を形成する土をぼとぼとと音を立てて落とす。


「辺りの鬼たちが減っているのね、魔王が動かしたのかしら」


ノームの話を聞き、プシューケは美しい眉をひそめた。




突如、人魂のごとくオレンジの炎が現れる。

それはやがてトカゲの姿になった。


『サラマンダー、得意でない場所にわざわざご苦労様』


火の精霊サラマンダーは労いの言葉を聞き、嬉しそうに炎を燃え上がらせた。

そしてぱちぱちと火が爆ぜる音を立てた。


『ふうん、相変わらず帝国(ガルニア)山羊人(サテュロス)たちを攻めあぐねているのね』


サラマンダーは火を媒介としないと強く意思を持たないため、他の精霊に比べて情報収集をしづらい。

しかしその分、火の手が上がりやすいため戦場で強い意志を持ちやすい。



そして最後に穏やかな風が舞い込む。

風はうっすらと緑の光を纏って少女たちとなる。

風の精霊シルフだ。


『シルフもわざわざ遠くからありがとう』


シルフは嬉しそうに舞い跳び、ひゅうひゅうと風音を立てる。


王国(イルグランド)は戦いに備えている訳ね。魔王とも帝国とも』



大方の報告は神々の予想通りの情報であったため、注目するものはなかった。

神々が一番欲しがっていた情報、それは。



『ガルニア帝国の帝都、カルナリス内の情報は一切ないのね?』



精霊たちが一斉に頷く。

そもそも精霊が人前に強い意思を持って現れること自体滅多にないのだが、神々の命令とあらば従わないという選択肢はあり得ない。

女神ルナティミスは彼らの創造主にして、5柱の神々はその配下。

しかも精霊は自然を司る生命神の眷属でもある。

精霊たちはプシューケを大層慕っており、むしろ進んでカルナリスを偵察しようとしたのだが――



『相変わらず、カルナリスに行った子は消息が分からないと』



何故だか行方が分からなくなる。

恐らくカリスタ教皇から聞いている帝国の技術、魔石と何か関係があると神々は睨んでいるのだが――



各々に収集を頼んでいた情報を聞き終わり、プシューケは精霊たちと雑談しながら一番重要な情報を持つであろう彼女(・・)を待つ。

やがてサラマンダーの火が弱まり始め、どうしたものかと思案している中彼女はやってきた。



「ごめーん!巡回という体面で周りは誤魔化せたけど、気づかれないよう念のためパパが酔うまで待ってたら遅くなっちゃった!」



現れた少女はゴスロリ服を着た白黒モノクロの少女だった。




「構わないわ、私とメリーの仲(・・・・・・・)じゃない。

あ、でもサラマンダーが弱弱しくなっているわ」

「サラマンダー、ごめーん!」




月明りに照らされた泉の中、生命神と闇の精霊が向かい合う姿は絵画のごとく幻想的であった。




プシューケの元ネタの一人であるプシュケーはギリシャ語で心、魂、蝶。

日本でも蝶は霊だとか、そういった伝承があるそうですね。

動かない蛹を死体、そこから羽化した蝶を魂や霊だと昔の人は考えた、もしくは連想したんでしょうかね。

ちなみに元ネタのもう一人は本編中にもプシューケの別名として出てきた「妖精の女王」です。

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