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第3話 初戦闘

構造物の中は黒い外観とは違い、茶色い長方形の石が壁として組まれ、床に敷き詰められていた。

天井だけは一枚岩から作られたようだ。

ピラミッドの中もきっとこんな感じだろうか。

それだけなら特に大した驚きもなかったのだが、先ほどの世界のようにここでも不思議な空間が広がっていた。

建物は正方形の小さなものだったにも関わらず、中に入ると奥に通路が延々と続いているのだ。

死神だっているし魔法だってあるのだから、外部と内部の空間が釣り合わないなど異世界では些事なことかもしれない。

好奇心寄りの疑問を霧散させ通路を進むと見た目は何の変哲もないドアが現れた。

といっても21世紀の日本で見慣れた物ではなく、中世とかそのくらいの頃のヨーロッパ風のドアだ。

ドアを見ていると不思議な感じがして、直感で異世界への入口だと察する。

俺、こんなふうに直感働くような人間だったか?

なんて思ったが、ここにきて不思議なことが続くから敏感になっているんだろう。と納得して深呼吸をする。

そわそわしていた感情は落ち着き、覚悟と呼ぶほどではない決意をもってドアを開く。




現れたのは先程と似たような石畳みの床と石垣のような壁に一枚岩の天井だったが空気が違った。

まず体に活力のようなものが沸き上がる、なんとなくこれがマナなんだろうなと分かった。

しかし俺は顔を顰める、もちろんマナの感覚が不快という訳ではない。

臭い。

生ごみを放置して腐ったときのような臭いがするのだ。

狭間の世界の空気もなんだかねばついていたがこれはもっと酷い。

臭いが鼻を刺激する。


さっさと出口を探して新鮮な空気を吸おう。

そう思って進んでいると臭いがさらにキツくなる。

臭いの元へ近づいていたからだ。

それは黒と茶色が入り混じったドロドロしたものだった。

買っておいた鶏肉を冷蔵庫で腐らせたことがあった、あれの臭いを数倍酷くした感じ。

激務に慣れていなかった頃とはいえあれはもったいないことをしたな。

それでも多少変色してても形は買ったときのままだった。

目の前のものはもはやドロドロに溶けている。

おそらく肉だったろうそれは、どれだけ放置していればこんな不快な物体が誕生したのだろうか。

歩く速さを上げ、一刻も早くそれから通り過ぎようとしたときそれは起きた。

動いた。

腐った肉の塊が。

こちらにむかって。

まるで理科の授業のとき、実験室で顕微鏡を覗き観察したアメーバのように。

ずるずると。

鳥肌が立った。

腐肉が動くなどあり得ない、しかも俺目がけて。

近づいてきた腐肉を思わず勇者の剣で切ってしまう。

じゅううううううう。

まるで焼肉でもしているかのような音がし、剣で切られた腐肉は白い煙を上げながら塩をかけたナメクジのように小さくなり消えた。

幸いにも剣に腐肉や液体は付いていない。


「あんにゃろう……」


俺はローブ姿の骸骨に僅かな怒りを覚えた。

おそらくさっきのは敵。

ゲームによって魔物、モンスターなどと呼ばれるアレ。

魔法だの魔王だのの時点で推測はしていたが、こんなにも早く遭遇するとは思わなかった。

魔物の説明はそのうち精霊がしてくれるだろうと思って自分も目を背けていたとはいえ、いくらなんでも説明不足じゃないか。

軽い苛立ちを感じながら、足早に進む方針を慎重に進むことに修正。

腐った肉にまとわりつかれたら臭いがつきそうだし、発狂しそうだ。




臭いがまた強くなったと思い腐肉との遭遇を覚悟したが、それとは異なる姿が現れた。

動く死体(ゾンビ)

そうとしか言いようのない、腐りかけて目が垂れ落ち、ところどころ骨が顔を覗き、変色した肌の人間の死体。

ゾンビは両腕を前に出し、「あー」だの「うー」だの唸りながらゆっくり迫ってくる。

人間の死体など初めて見る俺は吐き気を覚えるが、空っぽの胃から出せるものなどなかった。

そういえば食べ物必要だよな……。

食料問題は先延ばしにするとしてまずは目の前のゾンビだ。

さっきはただ肉塊に剣を突き立てるだけでよかった。

しかし俺の知ってる限りゾンビというのは頭を潰すか胴体から切り離さなければ止まらないことが有名だ。

そうした法則はいかに幻想から生まれたものであっても、この幻想的な光景には当てはまる気がした。

問題は俺が剣などろくに振るったことがなく、首を切り飛ばせるかということ。

そう考えている間にもゾンビは距離を詰めてくる。

このままではヤバいと思い、剣を横に振るう。

ゾンビの首が飛んだ。

「たまたま上手くいった。」「俺ってもしかして剣士の才能がある?!」

なんて感想は生まれなかった。

だって何かに操られたように体が動いたんだもの、あすた。



そしてその何かはすぐに姿を現した。

自分の影がまるで紙を折ったように立ち上がった。




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