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第2話 属性は闇

死神は全裸の俺に簡素だが衣服を用意してくれた。

初期装備といったところか。

さすがに異世界でも真っ裸はマズイだろう。

シャツと上着に腕を通し、ズボンを履き靴を履く。

正直俺はワクワクしていた。

後悔だらけで濁り切った底辺人生から勇者に選ばれたというゲームのような展開。


「よーしじゃあ勇者の剣を授けよう!」


勇者の剣とは勇者専用武器のようだ。

女神の加護がかかった武器神手製の聖剣の一振り。

武器神というのは女神さまに仕えている、戦と鍛冶の神様とのこと。

死神の手から黒い煙が出てきた。

やがてそれは収束し、黒い地面に突き刺さる一振りの剣が現れる。


「勇者の剣~!」


どこぞのロボットのようなことを言っておられる。

想像していたよりシンプルなロングソードだ。

見た目はゲームの序盤の武器としか思えないが、剣に詳しくない自分でも力強さと得体のしれない神々しさを感じられた。

俺は剣に近づき引き抜く。

すると剣が柄から切っ先まで墨に漬けたように真っ黒になった。

もはや聖剣っていうより魔剣になってしまったんじゃないか、これ。


「ありゃりゃ、闇属性の勇者なんて珍しいねえ!ギャハハハハハ!」

「おい属性ってなんだよ。大体想像つくが」


ギャハギャハ笑う骸骨野郎に問う。


「マナの話はしたよね?マナには四大元素と呼ばれる地、水、火、風の4つの属性に分けられるのよ。

実はその他に女神様の象徴である光と世界が生まれる前から存在した闇の属性があるんだ。

ヒトもまたマナで形成されていて魔力を内包する。そして個人によって大抵得意な属性が存在するってわけ」

「ふーん、属性だの魔力だのってことは俺は闇の魔法が使えたりするのか?」


魔法がどういう仕組みか知らないけど、マナと言えば魔法だろう。

勇者の剣は俺の魔力に合わせて闇属性になったようだ。

最初に説明してくれても良かったんじゃないかと思ったが、おそらく勇者の剣を与えてからするつもりだったんだろう。


「そうそう!話が早いじゃん。んで勇者ってのは大概女神さまの加護で光属性なんだが、アスタのあんさんの場合属性は闇ってこと。

あ、加護はちゃんとついてるから安心して!ギャハハハハ!」


闇の勇者という異例が余程愉快なのか爆笑している。

俺が光か闇かって言われたら、そりゃ俺でも闇の方が似合うと思うような人生歩んできたけどそりゃないんじゃないかなあ。

さしずめ、暗黒勇者といったところか。



ついでに簡単な魔法の使い方を教わる。

この狭間の世界ではマナが満ちていないらしいので実践はできないが、イメージは身体に流れる気に集中させ収束、自分が起こしたい現象を想像し開放する。

頭で考えたことを具現化できるってかなりチートじゃないか魔法、と思ったが精密さや規模の大きさにより必要とされる魔力量や技量が跳ね上がるとのこと。


「まあ勇者の剣があれば大抵なんとかなるさ、んじゃ向こう目指せば世界に繋がる門があるからいってらっしゃーい!」

「送ってくれるんじゃないのか」

「そうしてあげたいのはやまやまだけど、ここじゃ俺が出来るのはこの程度さ。

向こうだと更にこの姿とってられないから使い魔通して伝言しか出来なくなるからそのつもりで。

ま、精霊が色々サポートしてくれるから余程のことじゃなきゃ遣わさないだろうし」


神様も万能ではないようだ。門という場所のある方向を骨の指が指し示す。

それよりもまた新しい用語がさりげなく紛れていた。


「精霊もいるのか?」

「そうそう、言い忘れてたけど各属性ごとに精霊がいて、1種類のうちの1人が具現化して魔王退治までサポートしてくれるから。

んじゃそろそろ行かなきゃならないからがんばってねー!」


今度は言い忘れていたらしい、なんか色々と不安になってきた。

死神の体が黒く染まり、煤のように崩れ消えていく。

嵐のように現れ嵐のように去っていったな。

まあ何か分からないことがあれば精霊に聞けばいいだろう。




灰色の大地を進んでいく。

一歩ずつ踏みしめるたび、言いようのない不安が心に迷いをもたらす。

請け負ってしまって本当によかったのだろうか、と。

いかに補助がつくとはいえ、これから自分は戦に行くのだ。

平和な日本で育った自分には戦争は遠い地の出来事であった。

命の削り合いに身を投じなければいけない。

自分の命だけではない。世界の人々の命運も自分が握っている。

そんな後ろ向きな感情が心の隙間に入り込もうとするが断固拒否。

見た目は禍々しい勇者の剣からまるで「ファイト!」と応援するかのように暖かい何かが流れ込んでくる。

おそらくこれが魔力だろう。勇者の剣を初めて見たとき感じた神々しさも魔力によるものに違いない。

勇者の剣の暖かい魔力に支えられながら、この世の終わりを体現したかのような世界の狭間を踏みしめる。




やがて遺跡のような人工物が見えてくる。おそらく死神が言っていた門だろう。

宙を貫きそびえ立つ柱や、地面を征服するがごとく覆う石畳も沼のように黒一色に染まっていた。

苗字にしろ、生前勤めた会社にしろ、この世界の狭間にしろ、勇者の剣を染めた闇属性にしろ俺は黒にでも縁があるのだろうか。

などと半分どうでもいいことを考えながら、発見した正方形の建物の入口をくぐった。




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