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int.3 神託

「我らが創造主、女神ルナティミスよ。我らが生まれし世界をお創りしたことに感謝を捧げます」


極彩のステンドグラスから差し込む光を浴びて、白い祭服を身に纏った老婆は祈りを捧げる。

ここは中央大陸西のイルグランド連合王国に属する聖都オリンピュネス。

世界を創った女神ルナティミスを信仰する女神教の総本山である。

そんな聖都の最重要施設、大聖堂の祈りの間。




祈りを捧げし老婆こそ、自治がある程度認められているこの都のトップ、カリスタ教皇である。

創造主ルナティミスが女性ということで女神教では女性の方が立場が上だ。

ただし、重役の席に座れるのは清純・・な女性だけである。



まるで三角形を描くかのように、老婆の斜め後ろ左右に女性が二人跪いている。


斜め後ろ左の女性は身長が高く、切れ長の目の美人、褐色の肌、髪は燃えるような赤毛である。

そして特徴的なのは着こんだ白い鎧。

腕は篭手のみをはめている為、肩から二の腕までむき出しである。

胸元は大きく開けられ、男の視線を吸い込む大きな谷間を覗かせている。

腰鎧はまるで短いスカートのようで、グリーブとの間の腿も露わだ。

それに彼女の見せる腕と脚は筋肉質である。


彼女はヒューマンの一部族、女狩人アマゾネスの女傑。

女神教聖騎士団長にして、女性だけで構成される戦乙女ワルキューレ部隊を率いるジノーヴィア・ペンテリーである。

聖職者の中では露出度の高い恰好だが、アマゾネスである彼女からすればビキニアーマーに比べれば重装備な恰好だそうだ。



反対方向、斜め後ろ右の女性も白い鎧に身を包んだ美人。

ジノーヴィアとは違い、鎧に露出度はない。

朝太あすたがいた世界では女性というよりは18歳ぐらいの少女なのだが、この世界では立派な成人である。

後ろ髪を人房の三つ編みにしている金髪はまるで麦穂を思わせ、瞳は澄んだ海のような水色。

肌はナチュラルな色合いで――白すぎでも黒すぎでもなく――身長も一般女性ぐらいか。

ジノーヴィアがセクシーで野性的な美しさだとしたら、彼女は凛々しく可憐な花のような美しさという表現がぴったりだろう。



彼女こそは女神に選ばれし聖女ジェーン。

魔王を倒す勇者に同行する使命を帯びた者。



しかし歴代の聖女に鎧を着こむものなどいなかった。


十字架の聖女マルゲリータ。

天馬牽きし聖女カテリナ。

妖精従えし聖女アンニエーゼ。

鉄壁の聖女チェチーリア。

大地の聖女アガット

稲妻の聖女バルバラ。


聖女としての役目を果たし、賜った洗礼名が伝わる彼女らはそれぞれ特徴的な力を発揮した。

しかし描かれる姿は祭服であるし、そう聖書にも記載されている。


ジェーンは鎧を着こむだけでなくも修めていた。

異例の聖女だが、それには理由があった。

ただでさえ前回の魔王を倒してから千年経っていないというのに、聖女は見つかっても勇者として生まれてきた(・・・・・・)者が見つからないのだ。

ジェーンは6歳の頃に神からの言葉を聞いた、それ故に聖女誕生に伴う新たな魔王誕生の兆しを王国は把握していたのだ。

帝国にも知らせたが、まだ千年経っていないことから「攻撃の手をやめさせる狂言だ」と言われ二国間は更に険悪になったものだ。

無論、一つの国を二分したほどなのだから最初から最悪の仲だが。


勇者は独特な魔力を持ち、力のある魔術師や聖職者ならば見抜くことができる。

しかし一向に目撃例はなかった。


ジェーンに求められ、彼女もまた望んだのは勇者無しでも魔王と戦える技を鍛えるという修羅の道。

聖女ゆえの女神の加護により、見た目の筋肉は最低限しかないが筋力は高い。

彼女は戦乙女ワルキューレ部隊の元で武を磨き、また魔物やゴブリンのような亜人を屠ってきた。




教皇、聖騎士団長、聖女と女神教のトップ3が集い、女神に祈りを捧げる。


彼女らは3人とも祈る夢を見た。

リアルな祈りの夢はお告げの予兆であった。

起きてすぐさま三人とも連絡をとりあい、同じ内容の夢を見たことを確認し祈りの間に急いだ。

そして祈りながら神託を待っているのである。



と、どこから入り込んだのか白い鳥がいた、大きさは鳩ほどか。


「おお……使役神ミカエラ様」


老婆が感嘆の声をあげる。

彼女らの目の前に現れた白い鳥こそは使役神ミカエラの化身。

使役神ミカエラはその名の通り、女神の使いであり創造主の代弁者。

6歳のジェーンに聖女であると告げたのも彼女だ。


「我らが信奉せしミカエラ様、我らが創造主のお言葉を伝えに来てくださり光栄にございます」


ジノーヴィアが更に深々と頭を下げる。

使役神ミカエラは天使を率いる軍神の一面を持ち、規律を尊ぶ騎士や軍人たちからの信仰が篤い。

戦乙女ワルキューレ部隊はそんな使役神をモチーフに設立された集団。

創造主である女神は当然だが、特に使役神に対しても彼女は絶大の信仰心を持ち合わせているのだ。

無論、聖騎士団所属の男性からの信仰も篤い。



『告げる』


魔すら祓いそうな、響き渡る凛とした声。

三人は緊張する、使役神は只事では現れない。

今回のお告げの内容は――



『東の地に勇者が現れた』



思わず聞いていたジェーンは顔を上げてしまう。


「ジェーン!」


使役神のお告げ中に無礼だと教皇カリスタは叱責する。

ところがその使役神は意に介さずといった風で言葉を続ける。


『魔王が現れる兆しあり。勇者と合流すべし』


そう告げ、羽ばたき飛び立つ。

飛ぶ際に抜け落ちた羽根は光となって消えてゆく。




それを見届けてからジェーンは呟く。


「ようやく勇者様が現れた……」


そう聖女である彼女は仕えるべき勇者を誰よりも待ち続けていたのだ。



――独りで周りのプレッシャーを受けながら。




「ジノーヴィアよ分かっておるな」

「ガルニアとの交渉決裂時における戦闘準備、ですね」

「そうだ。王都への伝令と、陛下に謁見せねばなるまい私の護衛の選抜も迅速にな」


教皇と騎士団長は話し合う。

東の地に勇者がいるなら帝国との交渉は必須、しかし只ならぬ因縁がある二国間で円滑に進まないのは自明の理。

ゆえに、魔王が現れるというのに人同士の戦争に発展してしまう可能性もありうる。

聖騎士団への指示にジノーヴィアは頷く。




祈りの間を出て聖女と騎士団長は教皇と別れる。


「ようやく王子様のご登場だな、ジェーン」


とからかうのは先ほどまでカリスタの前では敬語だったジノーヴィアだ。

にやにやと目と口を歪めながら、愉快そうに聖女を見やる。


「ジノーヴィア、からかわないで」


むすっとしながらジェーンは答える。

戦乙女ワルキューレ部隊の元で鍛えられた彼女にとってジノーヴィアは姉のような存在だ。

もちろん教皇カリスタの前で、聖女と聖騎士団長がこのような口調で話し合えば眉をひそめるだろう。


「照れちゃって、可愛い聖女さんだねえ。『勇者様ぁ、会いたかったあ!』って泣きながら抱きつくんだろ?そうだろ?」

「もうやめてったら!勇者を待ち続けたのはそんなのじゃないから!聖女としての使命を果たすためだから!」


ギャーギャーという反論とそれを聞きゲラゲラと笑う声。

二人の姿は長く続く白亜の廊下の奥へと消えていった。



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